機動武闘伝Gガンダムヴァンドレッド   作: ノーリ

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おはようございます。

前回の続き、今回は原作第四話の前編編部分となります。これまでこの作品を書いていて思ったのですが、全体的にどうも場面転換が激しくなりそうです。今後もコロコロと場面が二転三転することになるとは思いますが、読まれる際はそちらご了承の上お読みになってください。

では、どうぞ。


NO.06 問題山積

妙な成り行きで航海を共にすることになったマグノ一家+男三人+一人。一団は一路、目的地である彼ら彼女らの故郷、タラーク、メジェール宙域へ向かっている。そんな中、やはり女性陣の話題に上がるのは男性陣のことが多かった。

 

「ねえねえ知ってる? 男ってさ、お股になんか変な管だがついてんだって!」

「ウソ!? 触覚か何かじゃないの!?」

「歩きづらかったりしないのかな?」

「ヤダぁ~」

「ね~、変な感じだよね!?」

 

化粧室にてそんな話をするブリッジクルーたち。彼女たちにしてみればただの好奇心なのであろうが、男女の性差を知る者、性教育を受けた者からしてみれば中々に年頃の女性が口に出すのは憚られるような内容である。そしてそこには、その話題に聞き耳を立てるディータの姿があった。

 

「……」

 

かがんでいた彼女はどういうわけか自分の股間に目をやる。そして少し後、腰に手を当てて何故か満足そうな表情で胸を張った。

 

「だあああああああああっ!」

 

その後、場面変わって男に宛がわれた専用のトイレにて。ヒビキの絶叫がその中で響き渡った。だが、それも当然だと言える。用を足すために個室に入ったというのに、いつの間に紛れ込んだのかそこにディータがいたのだ。そして、興味津々といった表情でヒビキを見上げている。

 

「で、で、出てけーーーっ!」

 

慌ててズボンを上げ直すと、怒号と共にヒビキはディータを追い出した。

 

「何で何で何で!?」

「出るもん出なくなるだろうが!」

 

そんなヒビキの返答に、ディータが心底ガッカリした表情でふぅ…と溜め息をついた。

 

「知りたいだけなのに…」

 

ディータとしてみればその言葉通りの純粋な知的好奇心かもしれないが、それに付き合わされる身としてはたまったものではない。ここはヒビキの反応が正しいと言えた。

 

 

 

「ピョローン、ピョローン、ピョローン…」

 

どこかの廊下にて。完全復調したナビロボが楽しそうに飛び跳ねている。

 

「えー、『イカヅチ』というダッサダサな名前をやめて、私たちの艦にふさわしい名前を大募集中で~す!」

 

そんなナビロボを従えているのはパルフェだった。拡声器を手にしてクルーに呼び掛けている。

 

「でもって、名付け親になった方にはもれなく、トラぺザの食券一年分を差し上げま~す」

 

そしてパルフェがその食券をずずいと差し出した。ちなみにトラぺザというのはこの艦の食堂のことである。

 

「食券一年分!?」

「何これ? ニル・ヴァーナ? ダサくない!?」

 

驚くジュラに候補名の一つを見て文句を言うバーネット。ちなみに候補名はナビロボのスクリーンに表示されており、バーネットはナビロボを覗き込む形になっていた。そしてパルフェは大々的に今回の活動に対して宣伝をしているようだが悲しいかな、この場にはジュラとバーネットしかいなかった。

 

「副長が考えたの」

 

パルフェが心なしか声を潜めてバーネットを諭す。

 

「どうやって名前つけるの?」

 

だがバーネットは気にしていないのか、そんなことを聞いてきた。

 

「ピョロ君に入力すればオッケー」

「ピョロ君?」

「パルフェさんが付けたピョロ! いい名前だピョロー!」

 

怪訝な表情を浮かべたジュラにナビロボがそう返した。どうやら融合艦より一足先にこのナビロボの固有名詞が命名されたようだ。ナビロボ…ピョロが胸を張ってスクリーンにこれまで入力された名前の一覧を流していく。

 

「じゃあ、あたしはラグジュアリー・ナイト。入力よろしく、ピョロ君」

「下着な夜? それはランジェリー…」

 

一人乗りツッコミを試みようとするピョロだったが、そのときにはもうジュラはバーネットと共にその場を後にしていたのだった。

 

 

 

「こんな器官は、男には備わってない」

 

救護室。ドゥエロが患者を診ていた。その患者とはもちろん、エズラである。

 

「子宮って言うの」

「複製機能か、面白い」

「赤ちゃん、欲しかったのね。だから、種もらったの」

 

エズラが膨らみ始めているお腹を愛おし気に擦りながら幸せそうに答えた。

 

「種?」

「オーマになってくれる人から卵子をもらって、そこに、ファーマの遺伝子を組み込んで子宮に植え付けるの。希望すれば、誰でもファーマになれるのよ」

「ふむ…それ、私もなれるか?」

「え?」

 

エズラが呆気にとられた表情で呟いた。この会話が先ほどから噛み合っているようで微妙に嚙み合っていない会話であることを、二人はこの先も知ることはないだろう。

 

 

 

何処かの一室にて。ブザムが先日妙な動きをして手に入れたディスクを円柱状の何かの中にセットした。そして、それに対してキー操作を実施する。と、

 

『BC』

 

マグノから通信が入ってきた。

 

「通信ポッド、射出準備完了」

 

ブザムが立ち上がるとそう回答する。どうやら今操作していたこれは通信ポッドのようだった。と、

 

『何でもう一個あるんだい?』

 

マグノがその光景を見て尋ねた。その言葉通り、ブザムが用意した通信ポッドは二つある。普通なら一つで十分事足りるはずだ。

 

「これは…タラークの分です」

 

二機ある通信ポッドの一つに目を向けてブザムが答える。

 

「タラークにも危機を伝えなければ。掃除をしないと」

『ふ~ん…。まいいや、やっとくれ』

 

引っかかりを感じるマグノではあったが許可を出す。

 

「はい、射出します」

 

マグノからの許可が下りたブザムが二機の通信ポッドを射出した。が、射出直後にその通信ポッドが爆発炎上してしまう。

 

「!」

 

その爆炎の中からは彼女たちの敵、【カリトリ】の恐らく最下級の兵器であるキューブ状の小型の敵が無数姿を現したのだった。

 

「! 全艦、戦闘配備!」

 

マグノが指令を出した直後融合艦が攻撃を受ける。

 

「!? 敵襲か!?」

 

カフェでお茶中のメイアがジュラと連れ立って格納庫に走り込んだ。そこには既にディータの姿があったが、なぜかディータは出撃準備をするでもなくその場で立ち尽くしている。

 

「ディータ、何をしている。早くドレッドに「もう宇宙人さんがドーンと出て行っちゃいました! 早いですよ、ピューって」」

「出た? もう?」

 

ディータの説明にジュラは半ば呆れ顔である。

 

「オラオラオラオラ!」

 

一方でそのヒビキはブレードを抜いて勇ましくキューブ型の敵へ突っ込んでいく。そして一機、また一機と両断していった。キューブ型の敵も攻撃を仕掛けるのだが、その攻撃がヒビキのヴァンガードを捉えることはない。と、攻撃のアプローチを変えたのか、キューブ型の敵二機がヴァンガードを左右から挟み込み、同時に突進した。直後、ヒビキのヴァンガードのいた地点が爆発炎上する。

 

「ん…あ!」

 

どうなったのかとブリッジでマグノが身を乗り出したが、爆炎が晴れたそこには無傷のヒビキのヴァンガードがあった。

 

『見たか女ども』

 

得意満面といった感じで親指を立ててヒビキがブリッジに通信を入れた。

 

『結局テメエらは俺がいなきゃダメなんだよ! ダッハッハハハ…』

(やれやれ…)

 

増長するヒビキに少しだけムッとした表情を見せたマグノだったが、それもすぐに呆れたものに変わったのだった。

 

 

 

 

 

「へっ」

 

格納庫。帰還したヒビキがヴァンガードのコックピットを開けてその縁に足をかけた。と、眼下に自分を厳しい目で見上げるメイアの姿とその横でビクビクしているディータの姿があった。

 

「何だ? わざわざ礼を言いにきたのか?」

 

呷るようなヒビキの口調と態度。だが無論、そんなわけはない。

 

「思い上がるな。お前のスタンドプレーは危険すぎる。次からは私の指示で動け」

「へっ、笑わせんな。危険を恐れてあの敵に勝てるわけねーだろうが。ま、心配すんなって。俺のこの凄腕で面倒見てやんぜ」

「ふん、弱い犬ほど良く吠えるな」

「…確かに、怯えて震えてりゃあ声も出ねえ」

「凄いのはお前ではない。あの兵器だ!」

「! 何だとテメェ!」

 

元々敵同士で争っているタラークとメジェール。そして性格的にもこの二人は犬猿の仲、水と油と言っていい。遅かれ早かれこうなるのは必定だった。

 

「本当のことを言ったまでだ」

「お高くとまりやがって! 何様のつもりだ!」

「貴様は捕虜だぞ!」

「そいつに助けられたのは何処の何方様だよ!」

 

視線の間で火花を散らすヒビキとメイアにアワアワしながら頭を抱えるディータ。と、火花を散らす二人の視線の間を物凄いスピードで何かが貫いた。

 

「!?」

「な、何だぁ!?」

 

ビックリした二人が顔を向けると、そこには壁に突き刺さっている一本の苦無があった。直後、

 

「その辺にしておけ」

 

後ろから第三者の声が聞こえてヒビキとメイアが振り返る。そこには少し呆れた表情のシュバルツの姿があった。

 

「邪魔すんな!」

「そうだ、部外者は引っ込んでいてもらおう」

 

諭されたのが気に入らないのか、口出しをされたのが気に入らないのかはわからないがヒビキとメイアがキッとシュバルツを睨みつける。

 

「そうは言うがな」

 

だがシュバルツは一向に意に介する様子はなかった。少し離れて、ジュラとバーネットが興味深そうに三人のやり取りを様子見している。

 

「こんなところで喧嘩をするな、みっともない。お前たちの仲が良いことは十分わかったことだしな」

『誰がこんな奴と!』

 

ヒビキとメイアの怒号がシンクロする。それに少し驚いたシュバルツだったが、すぐにクククと含み笑いをした。

 

「本当に仲の良いことだ」

『そんなこと』「ない!」「ねえ!」

 

顔を真っ赤にしてシュバルツに噛みつくヒビキとメイア。だがそれも、再び怒号がシンクロしてしまっては何の説得力もない。

 

「クックックッ…」

『ーっ!』

 

ギリギリ歯ぎしりしながらお互いの顔に一瞬だけ視線を走らせるヒビキとメイア。だが直後、

 

『フン!』

 

あからさまに不機嫌そうな表情でお互いそっぽを向く。

 

「全く、気分が悪い!」

「そりゃこっちのセリフだ!」

 

そうしてヒビキとメイアはお互い反対方向に背を向けて格納庫を後にしたのだった。

 

「あ、宇宙人さん! 待ってよー!」

 

そんなヒビキの後を、ディータが慌てて追っていく。

 

「やれやれ…」

 

ヒビキ、メイア、ディータの三人がいなくなって静かになった格納庫で、シュバルツは困ったものだと苦笑いしたのだった。と、

 

「へぇ…やるじゃない」

 

少し離れたところで様子を見ていたジュラとバーネットがシュバルツに近づいてきたのだった。

 

「上手く収めたわね」

「あれでか?」

 

皮肉か本音かわからないジュラの言葉にシュバルツが再び苦笑する。

 

「ま、あれが最善かどうかはわからないけど、悪くはないんじゃないの? 現に口喧嘩は収まったわけだしね」

「一時的にはな」

 

バーネットの指摘にシュバルツがそう答えた。

 

「所詮は一時しのぎ、小手先の仲裁だ。あれで全て丸く収まるとはお前たちも思っていないだろう?」

「そりゃね」

「当然」

 

ジュラとバーネットがうんうんと頷く。

 

「まあ、今回に関して言えば非はヒビキにあると思うが」

「あら意外。男なのに男の肩持たないんだ」

 

シュバルツの発言にジュラが驚いた。

 

「何度か伝えてはいるが、同じ男でも私はあの三人とは別物だからな。スタンドプレーは百歩譲るとしても、その後のあの増長した態度はいただけん。お前たちの関係性がどういうものかはわかっているだけに尚のことな。あんなあからさまに煽るような通信を入れて何がしたいのか。己の力を誇示するだけの考えなしではないと思いたいが…」

 

そのときのことを思い出したのだろうか、ふぅ…と、シュバルツが疲れた様子で息を吐いた。

 

「だったら、あんたが行けばよかったのに」

 

バーネットが怪訝な表情をしたが、シュバルツは軽く首を左右に振る。

 

「せっかく若人がやる気になっているのだから、その熱意に水を差すような真似はな。勝手に働いてくれるのだから、口を挟むこともないだろう」

「やだ、年寄臭い」

「そう言ってくれるな」

 

発言内容に対してクスッと笑ったジュラに、シュバルツも苦笑して返す。

 

「それに、上からの命令で我々もクルー扱いになったとはいえ、心情的に納得していない従来のクルーもまだ多数いよう。そのような立ち位置なのに、勝手に出撃をするわけにもいくまい」

「それって、少なくとも戦闘中は私らの指示には従ってくれるってこと?」

「基本はな」

 

ジュラの質問にシュバルツが頷いた。

 

「基本って?」

「独自判断で動くこともあるということだ。とは言え、少なくともお前たちの不利になるような真似はせん、そこは安心してもらいたい。ただし…」

「? 何よ?」

 

急に言い淀んだシュバルツにジュラが怪訝な表情を見せる。

 

「…それは、お前たちがこちらを見捨てたり捨て駒にしようとしたりしなければ…の話だ。信用のない相手に従うほど私はお人よしではない。そこは履き違えないでもらおうか」

『!』

 

シュバルツの纏っていた空気が少し変わったことに気づいたジュラとバーネットが表情を凍り付かせてゴクリと生唾を飲み込んだ。

 

「な、何それ…」

「脅し?」

「如何様にも解釈すればいい。心配せずとも不当な真似をしなければこちらとしても事を構えるつもりはない。その気がなければ案じるまでもないことだ」

『……』

 

シュバルツの回答を聞いたジュラとバーネットが表情を凍りつかせる。

 

「では失礼」

 

固まった二人を放置してシュバルツが格納庫を後にした。それを見送った直後、二人は全身の力が抜けたかのように両膝に手を置き、大量の酸素を求めて大きな呼吸を繰り返したのだった。

 

 

 

 

 

「だから! 助けてやったんだから、俺の言うことを聞くのが浮世の義理ってもんだろうが!」

 

相変わらずパルフェが各所で命名募集中の宣伝に勤しむ中、ヒビキはブリッジでマグノに直談判していた。アマローネとベルデウェールが遠巻きにその様子を観察している。さっきの通信のこともあって、ムッとしている様子だが。

 

「浮世の義理ねぇ…。で、どうしてほしいんだい?」

 

マグノが尋ねた。

 

「まず、あの女をどっかやってくれ! 宇宙人、宇宙人ってやかましいヤツ」

「ああ、ディータね」

「それと、あの変なの付けた暗ぇ女だ。あいつに文句言わせんな! 男の戦いに口出しはいらねえんだよ」

「下手だねぇ、説得すんの…」

 

ブリッジということで当然のごとく姿のあったバートが一団から離れながらも聞き耳を立てて聞いていたが、ヒビキの直談判の様子に呆れていた。タラークでは大企業の三代目ということがあって恐らくそれなりの場数を踏んでいるのだろう。そんなバートにしてみれば駆け引きも何もないヒビキの感情的で直情的な直談判は呆れる他なかった。

 

「そうさねぇ…。だったら、レジ係の仕事はどうかね?」

「レジ係?」

 

聞いたことのない単語に、ヒビキが怪訝な表情になる。

 

「凄い仕事さ。別の親分が仕切ってるからね」

「別の親分か。上等じゃねえか!」

 

マグノに提示された内容に、ヒビキが満足げに破顔してその場を後にした。

 

「これでいいのかい?」

 

ブリッジからヒビキが出ていったのを確認した直後、マグノが通信を開く。

 

『はい、ありがとうございます』

 

通信の先にいたのはメイアだった。

 

「後はガスコーニュが上手くやってくれるさ」

『はい。男の勝手は、パイロットの士気に大きな影響を与える危険がありますから』

「勝手…ねえ。それじゃ、勝手をしなかった方の手綱は握れていると思っていいのかい?」

『!』

 

マグノの指摘に、通信の向こうでメイアが厳しい表情をした。

 

「あの坊やは単純だから動かそうと思えば簡単に動かせるさ。だがあんたも重々承知してると思うが、本当に厄介なのはあっちの方だよ。それも、あの坊やなんかより何万倍もね」

『……』

「ま、簡単にどうにかできるとは思っていないさ。上手く動かせるように頑張ってみな」

『はい。では』

「ふん、固いねぇ、相変わらず」

 

相変わらずのメイアの態度に、通信を切断後、苦笑するマグノ。

 

「イヤなヤツだねぇ…」

 

図らずもそのやり取りを聞くことになってしまったバートがげんなりとした表情で呟いた。バートが言及したイヤなヤツというのがマグノを指すのかメイアを指すのかはわからないが。と、

 

「あんたいつまで聞いてんだ!」

 

そのバートの呟きを聞いていたわけでもないだろうが、マグノがタイミング良く(悪く?)バートに釘を刺した。

 

「ひえっ! 只今!」

 

雷を落とされ、慌ててシステムに入ったバートがコンソールを操作していく。

 

「ちっ、とんだとばっちりだぜ」

 

システム内でぶつくさ文句を言うが、当然それは表に出さない。やがて設定を終えたバートがシステムから出てきた。

 

「自動操縦に切り替えました! お休みいただきま~す」

 

敬礼と笑顔でブリッジを颯爽と走っていくバート。成る程、これだけ即座に切り替えができるのであればヒビキの対応がお粗末に見えて仕方ないのも頷ける話だった。

 

 

 

 

 

「ここかぁ、レジって言うのは!」

 

一方でそのヒビキ。マグノが紹介したレジに意気揚々と現れる。そんなヒビキを出迎えたのは、

 

『いらっしゃいませー』

 

レジの制服に身を包み、声を揃えてカウンター越しに折り目正しく深々と礼をするレジ係のクルーだった。

 

(何…だぁ…?)

 

どういう状況なのか、ここでは何をすることになるのかさっぱりわからず、ヒビキは顔をヒク付かせた。が、すぐにその内容を理解することになる。

 

 

 

「い、いらっしゃいませ…こちらは見やすいメニューで…あります。おすすめはカミカゼセット…レギュラーメニューは…」

 

たどたどしいトークスクリプトながらも頑張っていたヒビキだがそこで舌を噛み、顔から脂汗を噴き出しながら涙を流した。そして直後に予定調和のように噴火する。

 

「やってられっか、こんなもん!」

『やってたくせに』

 

ある意味予想通り癇癪を起こしたヒビキにレジクルーたちが突っ込んだ。まあ実は突っ込まれても仕方なかったりするのだが。何せ今のヒビキは、ご丁寧に他のレジクルーと同じ制服に身を包み、これまたご丁寧に胸の部分に詰め物まで入れていたのだ。それなのに“やってられっか!”と癇癪を起こしても、説得力がないにもほどがある。が、そんなことはヒビキには全くどうでもいいのだろう。

 

「何なんだ、カミカゼセットってのはよぉ! わけわかんねえぞ!」

 

怯えるレジクルーたちを威嚇して凄むヒビキ。

 

「片道分の燃料と爆弾のセット。男を参考に作ったんだ」

 

するとそのレジクルーたちの背後から声が聞こえた。レジクルーたちが怯えながらどいた向こうには、腕を組んで壁に寄りかかっているガスコーニュの姿があった。

 

「おめえがここの親分か! 何だここは!? ニタニタ笑ってるだけじゃねえか!」

 

尚も威嚇するヒビキ。だが流石に役者が違い、ガスコーニュは気にも留める様子はなかった。

 

「仲間の出撃をスマイルで見送る。レジで一番大事な仕事さ」

「スマイルぅ? これのどこが凄えってんだ! あったまくんなぁ!」

「凄い仕事だよ」

 

ガスコーニュがヒビキに詰め寄るとそう断言する。自分の仕事を貶されているのだから怒っても当然のはずなのだが、ガスコーニュの様子に変わったところはない。少なくとも表面上は。そして淡々と続ける。

 

「パイロットってのはねぇ、一人で飛んでるわけじゃないんだよ。多くの助けがあって、初めて戦えるんだ。言わば、あたしたちは黒子だよ」

「黒子…」

「あんたにレジは無理だね。裏へおいで」

「裏?」

 

自分の言いたいことだけ言ってさっさと引っ込んだガスコーニュの後をヒビキが追った。そしてガスコーニュの言った、“裏”へと足を踏み入れる。そこは文字通り裏…倉庫であった。

 

「あんたには在庫整理を頼もっかね」

 

そして案内する。ガスコーニュがヒビキに案内した倉庫はドレッドの武器弾薬を保管している武器庫であった。他にも日用品なども管理しているのか、それともこの手のものだけ専任管理なのかはわからないが、とにかく今ガスコーニュが案内したのは武器庫である。

 

「どうだい? 危険な兵器を管理するんだ、凄い仕事だろう?」

「悪くはねえが…これじゃまた穴倉に逆戻りだぜ…」

 

その言葉通り先ほどよりは全然マシなようだったが、ガッカリとした表情になってヒビキが落ち込む。

 

「ん?」

「俺はなぁ、暗い穴倉がイヤで飛び出してきたんだ! その俺に、また穴倉に戻れってのかよ!?」

 

以前の、タラークでの三等民のときの暮らしを思い出したのか、あるいはこの雰囲気がイヤでも思い出させるのか、ヒビキがまたも噛みつく。が、

 

「何だ、あんたも同類かい」

 

ヒビキの訴えを聞いたガスコーニュは微笑むとそう返したのだった。

 

「?」

 

その言葉の意味がわからず、ヒビキは首を傾げた。

 

 

 

「うわ、何よこれ!?」

 

一方でこちらはパルフェ。宣伝ついでに艦内の各所を確認していたが、とある一室を開けた瞬間に中から溢れ出てきたものに飲み込まれていた。

 

「タラークの食糧だピョロ」

 

そしてこれもまた、一時的なものかどうかはわからないが相棒になっているピョロが答える。

 

「食べ物? 男の?」

「一粒三百時間の労働時間を保証します」

 

ピョロが説明した。今の一連の会話内容でわかる通り、パルフェとピョロが飲み込まれたのは大量のペレットの山だった。

 

「へー…」

 

興味あるのか、パルフェがペレットを手に取ってしげしげと見ている。と、

 

「宇宙人さん知らない?」

 

ヒビキを探していたのだろう、通りがかったディータがパルフェに声をかけた。

 

「レジ係になったってさ」

「レジ…? あ、それ何?」

 

ディータがパルフェが手に持ち、何ならパルフェとピョロが埋まっているペレットについて尋ねた。

 

「これ、宇宙人のエサだって」

「本当!? んー?」

「食べんの!?」

 

ペレットを口にしたディータをパルフェは慌てて制止するが、時すでに遅くペレットはディータの口の中に入っていた。そして、

 

「うえっ!?」

 

そのあまりの不味さにディータが顔を歪めた。

 

「どう?」

「こんなの食べてたんだ、可哀相…」

 

その一言と表情で全てを悟ったパルフェはそれ以上何も言わない。が、

 

「! そうだ!」

 

逆に何かを閃いたディータが立ち上がるとその場を後にしようとする。

 

「ああー、名前付けてって!」

 

そんなディータにパルフェが慌ててお願いすると、

 

「ラズウェル!」

 

と、一言言い残してその場を去ったのだった。

 

 

 

「これが、女の国…? なんだぁ? 無駄に派手だな…」

 

変わって格納庫。ガスコーニュに見せられたメジェールの全体像の映像に対するヒビキの第一印象がこれだった。

 

「ああ」

 

それに対し、ガスコーニュは怒るでもなくその通りだとばかりに同意して頷く。

 

「派手で綺麗で清潔で…でもね、そんな上っ面だけがイヤでね」

「ん?」

「メジェールって国はね、皆仲良し、皆で楽しくって世界。ただそれも表向きだけ。…女ってのは見栄っ張りなとこがあってね。隣の庭より、自分ちの庭を立派に飾りたがる。おかげで無駄なエネルギーばかり使って、あげくにユニットの一つを閉鎖しなきゃなんなくなった。行き場のなくなったお頭が、あたしらのために海賊を旗揚げしたんだ」

 

思わずヒビキが知ることになったメジェールの内情だが、気にすることもなくガスコーニュの話は続く。

 

「海賊に男も女もない。あんたら、命拾いしたんだよ。これがメジェールの正規軍だったら、吠える間もなくおっ死んでいたさ」

「ッ!」

 

その映像を見せられたヒビキが冷や汗を掻きながら生唾をゴクリと飲み込んだ。

 

(まあもっとも、メジェールの正規軍でもあの御仁を相手にしたらどうなるか…)

 

先日見た、小惑星規模の氷塊を単機で難無く破壊したガンダムシュピーゲルの姿を思い出し、ガスコーニュは内心で頭を捻っていた。

 

「ほら」

 

が、そんなことは表面には出さず、ヒビキの背中をどんと押す。レジ係の衣装に身を包んだまま、たたらを踏んだヒビキの姿は何ともマヌケだった。

 

「ま、行き場のない身の上ってとこじゃ、同類だろ? ここのルールは『働かざる者食うべからず』だ。吠えるのもいいがその前に、ま、せいぜい働いてくれよ」

「だからってなんで俺が…」

 

直前のガスコーニュの言葉をもう忘れたのか、ヒビキが早速吠えようとする。その目の前に、ガスコーニュがモップを突き出した。

 

「スマイル、スマイル」

「…わかったよ」

 

ガスコーニュに諭され、ヒビキは渋々ながらモップを受け取ったのだった。

 

 

 

 

 

「敵機接近! 距離3000GR! 凄いスピードです!」

 

ブリッジ。警報が鳴り響く。向かってくる新たな機体反応をキャッチしたのだ。

 

「えらく忙しない奴だね。数は?」

「一機のみです」

「距離2500GR!」

「兄ちゃん、出番だよ」

 

マグノが通信を開いてバートを呼びつけた。

 

「っ! 人使い荒いな、もぅ…」

 

ボヤくバートだが立場を考えれば否が言えるわけもない。自室にて寝台から腰を上げたバートがブリッジへと向かった。

 

「距離1800!」

「かーっ、何てだだっ広いんだよ、この艦は!」

 

敵機が接近する中、ようやくバートがブリッジに走り込んできた。

 

「いいところ見せとくれ」

「逃げんのは、得意っす!」

「だろうね」

 

システムと融合前にそう言い残したバートに、マグノは含み笑いをしながら頷いていた。

 

「へへ、宇宙の果てまでも、逃げてやるぜ!」

 

システム内にてその宣言通りバートが急速転回するものの、敵機も同様に急速転回し、融合艦を上回るスピードでその進路に先回りした。

 

「! 何だってんだい!」

 

艦体を左右に振ってみたが、その都度敵機も同じように移動して行き先を阻む。そして物言わぬその敵機だが、融合艦が敵であることだけはしっかりと認識しているのだろう。内部プログラムが融合艦をターゲティングすると、その映像を表示しているスクリーンが赤く変化したのだった。

 

「飛行物体、一定の距離を保ったままポジションを維持しています」

「バート、進路そのまま! メイア、ドレッド発進、戦闘配備!」

『了解!』

 

矢継ぎ早にマグノが指示を出す。その戦闘配備前のドレッドの中で、ディータが膝の上にある、ある物をポンポンと叩きながら鼻歌を歌っていた。と、

 

『何をしていた』

 

不意にメイアから通信が入る。

 

「? リーダー」

『遊びじゃないんだ。一人の遅れが、死に繋がるかもしれないんだぞ』

「あっ、す、すみませ~ん…」

 

詰問されたディータが表情を引きつらせながら申し訳なさそうに謝罪する。

 

『フォーメーションアタックを試してみる。油断するな』

「ら、ラジャー」

 

そして続いたメイアの指示に、ビシッと敬礼してディータは返したのだった。同時刻、レジにて。

 

「よっしゃー、出撃だー!」

 

レジクルーの格好からいつものタラークの服に着替えたヒビキが勇躍して走り出した。が、その首根っこをガスコーニュが掴んでひょいっと摘み上げる。

 

「黒子は舞台に上がんないもんだよ」

「何だとぉ!?」

 

睨むヒビキ。その横で、レジが従来の仕事を行っている。

 

「Aセットお願い」

「かしこまりました! ご一緒に、ホーミングミサイルはいかがですか?」

「あんまり重くしたくないけど…ま、いいか。付けといて」

「ありがとうございましたー!」

「あれが、黒子の仕事」

 

バーネットとレジクルーの一連のやり取りをガスコーニュが説明する。そして、

 

「つーわけで…ほいっと」

 

摘まみ上げたヒビキをガスコーニュが椅子に座らせた。直後、その椅子から金属製のベルトが出てきてヒビキを拘束する。

 

「何すんだよ!」

 

当然、拘束された形のヒビキが文句を言うが、

 

「今日のところは、あたしらの仕事を見とくんだ。いいね」

 

ガスコーニュは一向に意に介さずにそう伝えたのだった。そしてその間も、レジは慌ただしく己の仕事をこなしていく。

 

『トッピングゲート作動中。危険ですので、ゲート内に立ち入らないでください』

 

注文を受けているレジクルーとは別のレジクルーたちが、その注文通りの武装を各ドレッドに施していく。

 

「Aセット、トッピング入りま~す!」

 

コンソールを操作し、注文通りのトッピング…武装を各ドレッドに装着、追加していく。そして、

 

「バーネット、出ます」

「いってらっしゃ~い」

 

ゲート外からレジクルーの見送りを受け、トッピングの終了したドレッドから次々と外へと出撃していったのだった。

 

 

 

 

 

「……」

 

出撃したドレッドに対し、敵機は今のところ何もしてこない。ただ、その戦力を分析するかのように赤く変化したスクリーンは融合艦からドレッドへと焦点を移動させる。

 

「敵機、未だ停止したままです」

 

アマローネの報告がブリッジに響き渡ったが、それに返す者は誰もいない。皆、眼前の敵機に集中しているからだ。

 

「なんで仕掛けてこねえ」

 

拘束されたままのヒビキが苛立たし気に呟く。その通り、敵機は停止したまま仕掛けてこないのだ。まるで、こちらの様子を窺うかのように。

 

「ドレッドチーム、セットアップ完了」

 

メイアが報告する。それと同時に、敵機の赤いスクリーンの照準はドレッドの中でもヒビキのヴァンガードと共にペークシスに呑まれたディータ、メイア、ジュラの三機へと移っていた。そして、

 

『こちらも用意は整った』

 

何処からともなく通信が入る。融合艦、ドレッド各機が通信元の映像を確認すると、ドレッド各機と融合艦の間にいつの間にかガンダムシュピーゲルが佇んでいた。まるで、融合艦を護る最後の砦のように。

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