機動武闘伝Gガンダムヴァンドレッド   作: ノーリ

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おはようございます。

前回の続き、今回は原作第四話の後編編部分ですね。原作ご存じな方にはわかりますが、二体目の登場です。私の二次創作は基本的に原作に沿う書き方で、本作品でも同様ですので原作通りここでの登場に相成りました。

あと、後書きに少しお知らせを。よろしければ目を通してください。

では、どうぞ。


NO.07 黒子の仕事

「あ、おっきい宇宙人さん!」

 

シュバルツの姿をとらえたディータが喜んだ。

 

「ふーん…」

「へぇ…」

 

ジュラとバーネットも自機のドレッド内で声を上げる。この二人はシュバルツの参戦と静観が半々ぐらいだと思っていたので、こうなったことに歓迎とも戸惑いともとれる感想を上げたのだった。

 

『シュバルツだ』

 

それに対し、シュバルツが通信を開く。その内容からするに、宛先はディータだろう。

 

『その呼び方は止めてくれ』

「えー、でも「そんなことはどうでもいい!」」

 

食い下がろうとするディータだったが、そこにメイアが割り込んできた。

 

「何しに出てきた! 下がれ!」

『……』

 

退却命令を出されたシュバルツだったが、それには答えない。が、代わりに、

 

『あたしが呼んだ』

 

答えたのはマグノだった。

 

「お頭!?」

『せっかくの戦力を遊ばせておく手はないからねえ。それに、働いてもらうときには働いてもらわないと』

「し、しかし…」

『これはお頭としての命令だよ』

「! わかり…ました…」

 

マグノに強権を発動され、心中では納得いかないながらも了承するメイア。真面目な彼女らしいと言えば彼女らしい。もっとも、そのために御しやすいとも言えるのだが。しかし、了承の返事を返したときの悔しそうな顔が何よりもメイアの心情を雄弁に物語っていた。

 

(やれやれ…)

 

こりゃ、もう少し時間がかかりそうだねとマグノが苦笑すると、その後を継いでシュバルツが再度通信を開く。

 

『心配するな。別に加勢するわけではない』

「何!?」

 

マグノに諭されて一旦は気持ちを収めたメイアだったが、シュバルツのその通信内容に再び敵意を剥き出しにする。

 

「戦う気がないなら帰れ!」

『極端な奴だな。…さっきの通信の内容は聞かせてもらった。お前たち、フォーメーションを組んであれに仕掛けるのだろう?』

「それが何?」

 

これ以上メイアに任せていると話の進展が遅くなるとでも踏んだのか、メイアに先んじてバーネットが口を挟む。

 

『フォーメーションを組んで仕掛けるのであれば、頭数に入っていない私が加勢しても足を引っ張るか、最悪フレンドリーファイアの的になりかねんからな。攻撃は任せる。私は今回は守備に回ろう。それならば問題あるまい?』

「成る程」

『さて、どうするね、指揮官殿?』

 

シュバルツの意図に納得したジュラを尻目に、シュバルツがメイアに選択を委ねた。

 

「ッ!」

 

試されているようで気に食わない。非常に気に食わない。が、言っていることは至極まともである。それに、確かに今回はフォーメーションアタックを試すためにフォーメーションを崩す可能性のある機体の加勢は邪魔になる。その点、攻撃には加わらずに守備だけに専念するのであればそこに気を使う必要はない。

 

(手の平で弄ばれているようで癪だが…)

 

しかし、お頭であるマグノの命令でもあるのだ。従わないわけにはいかない。それを考えれば、確かにここが落としどころとしては最善とも言えた。

 

「わかった…」

 

そして、メイアが返答を返す。

 

「くれぐれも私たちの邪魔はするなよ」

『承知』

「……」

 

そこでシュバルツからの通信は切れる。言質は取ったので最低限納得できる状況にはなったのだが、自分たちを…自分をまるで歯牙にもかけないようなその態度にメイアが再度ムッとした。だが戦闘直前であること、そして何より、最低限納得できる状況になったことで気分を治めて敵機に相対する。

 

(男の力など借りなくても!)

 

鋭く敵機を睨みながら、メイアはその考えに囚われていた。一方で、

 

 

 

「お頭」

「あんなこと言ってますけど、いいんですか?」

 

ブリッジ。アマローネとベルデウェールの二人がマグノを返り見る。二人が指している内容は勿論、今の一連の通信の内容だろう。

 

「そうさねえ…」

 

困った表情になってマグノがどうしたもんかと考えていると、

 

「あら?」

 

何かに気付いたエズラが急に首を傾げた。

 

「どうした? エズラ」

「いえ、そのシュバルツさんから通信が入ってます」

「おや」

「秘匿回線ということか?」

「はい。繋ぎますね」

 

直後、ブリッジにシュバルツからのウインドウ画面が開く。

 

「どうかしたのかい?」

 

マグノが尋ねた。

 

『ああ。許可をもらいたい』

「許可?」

 

何のだろうと訝しんだブザムが眉根を顰めた。

 

『ああ。先ほど、今回私は守備に回ると言ったな』

「ああ。聞いてたよ」

『あれをあいつらで対処しきれるのであればそれでいいのだが、問題は対処できなかった場合だ。いくら守備に回ると言っても、流石に見殺しにするわけにはいかん。だからもし、あいつらであの敵に対処できないようであれば攻撃に加わる。その許可をもらいたい』

「おやおや…」

 

こちらで頭を悩ませていた事項に対し、まさか向こうが解決策を提示してくれるとは思わなかったマグノが思わず驚いていた。そして、らしい返答をする。

 

「いいだろう。ただし、こいつは貸しだ」

『貸しだと?』

「ああ。そっちの提案を飲んでやるんだ。いざというときにはその貸し、返してもらうよ」

『…わかった』

 

言質を取ったマグノがニヤリと笑う。

 

「言ったね? だったら好きにしな」

『承知』

 

そこで通信が切れた。直後、

 

「ふふ、お頭も人が悪い」

 

ブザムがマグノを揶揄する。

 

「ん?」

「元々そのつもりだったはず。いやそれどころか、どうにかしてシュバルツを攻撃に参加させようと思っていたのではありませんか? それを貸しにするとは」

「BC、あたしらは海賊だよ? 相手が何も知らずに弱みを見せたんなら、徹底的に利用させてもらうのが筋ってもんだろ?」

「はい」

 

お互い顔を見合わせると悪い顔で微笑むマグノとブザム。その二人の邪笑を見たアマローネ、ベルデウェール、エズラは表情を凍らせて苦笑しながら背筋を震わせた。そして、

 

「おっかねぇ…」

 

システムと絶賛融合中のバートもアマローネたちと同じように表情を凍らせながら冷や汗を掻いていたのだった。一方で、

 

 

 

『バーネット』

「? ジュラ?」

 

戦闘直前、ジュラからの秘匿回線が届いたバーネットが怪訝な表情になる。

 

「どうしたのよ?」

『ちょっと頼まれてほしいんだけど』

「何?」

 

バーネットが首を傾げると、直後にガンダムシュピーゲルがコックピットのスクリーンに表示された。

 

「これって…」

『今回の戦闘の戦闘記録、録っといてくれない?』

「? どういうこと?」

 

ジュラのその頼みに、バーネットが首を捻る。

 

『格納庫でメイアとあのタラークの男が言い争ってたこと、覚えてる?』

「勿論」

『だったら、その一件が終わった直後に私たちとこの男がやり取りした会話の内容も覚えてるわよね?』

「ええ」

『この男はあのタラークの男とは違うから、ああは言ってもただの警告だと思うけど、もし本当に私たちに妙な真似してきたら堪らないからね。動向を確認しておきたいのよ』

「成る程。…まあ、さっきの今ですぐ何かしてくるとは思わないけど」

『わかってる。でも、用心に越したことはないでしょ?』

「オッケー、パルフェにでもお願いしておくわ」

『お願い』

「ええ」

 

そこでジュラからの通信が切れ、ジュラからの頼まれごとを果たすため、バーネットはパルフェに通信を入れたのだった。

 

 

 

「おや、出てくれるのかい」

 

一方でレジ。当然、こちらでも状況は確認できる。モニターは自分たちの戦闘兵器であるドレッドとは全く異質の人型兵器、ガンダムシュピーゲルを捉えていた。

 

「あれが出てくれるんなら、あんたの出番はいらないかね?」

「んだと!?」

 

ガスコーニュの揶揄にヒビキが噛みつく。まあ実際、椅子に拘束されている状態のヒビキでは何もできやしないので間違ってはいないが。

 

「吠えるんじゃないよ。うちの子たちが怖がるだろ? ま、いい機会さ。他人の戦いを見るのも勉強だ。この際、じっくりと見学しなよ」

「ちっくしょお…! 離せってんだよ!」

 

冷静に判断されたことで力不足の烙印を押されたような気分になり、ヒビキがもがく。しかし、ガスコーニュはそれ以上反応することなく、レジクルーと共にモニターの向こうのガンダムシュピーゲルに視線を向けたのであった。

 

 

 

「動き出しました!」

 

各所でそれぞれの思惑が交錯した後、まるでそれを待っていたかのように敵機が融合艦に向かって動き始めた。

 

(妙な形状の機体だな)

 

シュバルツが敵機をモニターしながら率直な感想を頭に浮かべる。例えるなら球体の表面にフジツボのような突起物が隙間なくびっしりと生えている形状だった。

 

(だが、一機で襲撃してくるのであればあれで終わりとは思えん。まだ二つ、三つほど奥の手はありそうだ)

 

構えて観察する。そして、その懸念は直後に的中することになった。その、突起物から触手のようなものが一斉に生え、ウネウネと動いたのである。そして直後、その触手は稲妻を具象化したかのようなジグザグ状の形になって硬質化したのだった。

 

「ヒイッ!」

「う、ウニ…?」

 

その姿に、嫌悪感タップリにディータが悲鳴を上げ、ジュラが身を竦ませる。

 

『ちょっと、あんなのと戦うの!?』

「落ち着け、ジュラ。チームリーダーはフォーメーションをチェック。全チーム攻撃開始!」

『ラジャー!』

 

ジュラを静めてからメイアが攻撃命令を下した。その号令で、ドレッドの部隊は一斉にウニ状の敵機へと攻撃を開始したのだった。

 

(ウニ…か。言いえて妙だが、こんなところで『ウニ』という単語を聞くとは思わなかったな。…しかしまあ、返す返すも実に妙な形状の敵だ)

 

的確に敵機の形状を表現したジュラに感心しながら、シュバルツは改めて敵機に対してそんな感想を抱いていた。敵機は表面の突起物が規則正しく並んでおり、各列の突起物をダイヤルロック式の鍵のようにグルグル周回回転させながら突っ込んでくる。先手必勝とばかりにドレッド数機がミサイルを撃ち込んだが、効果はほぼなかった。

 

「ダメだ、メイア。あの針邪魔」

 

ジュラのボヤキにメイアは返答しないが、同様の感想を抱いていた。

 

「やっぱし悪い宇宙人だ!」

 

ディータが半泣きになっている。開戦直後だが、状況が芳しくないことを肌で感じ取ったのだろう。何より、嫌悪感が先立っているのかもしれないが。

 

「今までの我々を監視し、分析してきて、いよいよ始末にかかってきているのかもしれん」

 

ブザムがオペレーター席に座って状況を分析する。と、

 

「! 接触します!」

 

敵機の動きから軌道を算出したエズラが報告した。

 

「兄ちゃん!」

「わ、わかってます!」

 

マグノが指示を出し、バートが急速回避しようとする。だが、敵機のスピードが思った以上に速かったため、避けきれずに被弾する…はずだった。が、

 

「何をするつもりだ?」

 

それをシュバルツが防ぐ。突っ込んできた敵の硬質化した触手の一つをこともなく握って突進を受け止めたのだった。そして素早くその触手を両手で掴み直すと、

 

「はああああああっ!」

 

ハンマー投げの要領で敵機をぶん投げる。ぶん投げられた敵機は姿勢制御を繰り返し、何とか彼方に消える前に止まることができたのだった。

 

「おやまあ…」

 

またも見せたシュバルツの離れ業にマグノが唖然としている。が、それは何もマグノだけに限ったことではない。

 

「うっそ…」

「どうやったら、あんな真似できるのよ…」

「ホント、凄いわぁ」

 

アマローネ、ベルデウェール、エズラの三人がそれぞれ感想を述べる。が、当のシュバルツはと言うと、

 

(宙間戦闘はあまり経験はないからな。せっかくだから宙間戦闘のための練習台にでもなってもらおうか)

 

彼女たちが聞いたら更に唖然となりそうな、全く違う次元のことを考えていたりしたのだった。

 

「敵、180℃反転」

「ドレッド隊、残存85%」

 

ブリッジにて状況報告が読み上げられる中、ドレッド隊の必死の攻撃は続く。だが、今のところ有効打を与えるには至っていない。

 

「あいつ、速すぎる!」

 

バーネットが舌打ちする。その言葉通り、形状のわりに動きが速くて捉えきれないのだ。それが有効打を与えられない理由だった。と、

 

『リーダー、宇宙人さんを呼びましょう!』

 

ディータがメイアにそう提案する。

 

『宇宙人!?』

 

ジュラとバーネットがその提案で怪訝な表情になっていた。相手が男だからというのもあるだろうが、ヒビキ一人呼んでどうなるのかというところもあるのだろう。勿論ディータは合体しての殲滅が目当てなのだろうが。が、

 

「ダメだ!」

 

当然、今のメイアがそれに了承するわけはない。

 

「ヤツは男だ! 敵なんだぞ! 忘れたのか!?」

『でもいい宇宙人さんです!』

「人の力を当てにするなと言っている! 危機は自力で乗り越えるんだ!」

 

直後、メイアがミサイルを乱射した。が、それも硬質化した触手に阻まれて決定打にはならない。

 

(難しい問題だな…)

 

離れた場所で交戦中の彼女たちのそんな通信の内容を聞きながらシュバルツは思っていた。

 

(加勢を要請したいというのもわかるし、他人を当てにするなというのも間違っていない。どちらも理に適っているだけに、どちらを採るかはまさに状況次第か。もっとも、メイア…だったか? あの女が私情を挟んでいなければ…の話だがな)

 

先だっての格納庫での喧嘩、そして男と女の対立図式という下地を考えれば、その可能性は高いとシュバルツは思っていた。であれば、ここは加勢を頼むのが最善手のように思える。

 

(指揮官殿がそれを判断できるか、ヒビキ…あの男がそれを受け入れるか、あの機体を戦線に投入できるか、そして投入して効果があるか。…問題は山積だな)

 

さて、どうするかな? シュバルツは半ば観客のように、意地悪く前線の状況を見つめていたのだった。その前線では、早くも各ドレッドの弾薬やエネルギーが底をつき始める。

 

「チッ、ガスコさん、デリお願い!」

 

自機の状況を確認したバーネットからガスコーニュに『デリ』の依頼が入った。

 

「デリオーダー入りました! ホーミングミサイルタイプB50、近接型15、スラッグ弾750!」

 

レジクルーが依頼されたオーダーを読み上げ、その依頼通りの武装と弾薬が迅速に用意されていく。

 

「何やってんだ、ああもう、そうじゃねえ! くっそぉ、これ外せ! テメエらじゃ敵うわけがねえ!」

 

レジにて拘束されているヒビキがモニターに映る戦闘状況に歯噛みしてじたばた動いている。もっとも、言うは易し行うは難し。部外者の立場で外から見ているから好き勝手出来ているとも言えるのだが。

 

「店長、リストです」

 

同じく戦況を見つめていたガスコーニュの許に、レジクルーの一人が注文のリストをもって駆けつけてきた。ガスコーニュがそれを受け取って内容を見分する。その間も、外では目まぐるしく戦況が変わっているが状況は芳しくない。

 

「あの男の力など、借りるものか!」

 

コックピットにてメイアが表情をこわばらせる。既に戦場に出ていて、マグノのお墨付きもあるシュバルツは仕方ないにしてもせめてもう一人、ヒビキには頼りたくないのだろう。その気持ちはわかるのだが、状況が芳しくない状態ではジリ貧に陥りかねなくもない。

 

(いざとなれば…出るか)

 

今回の己の職分をこなしながらも戦況を見つめていたシュバルツがそう判断した。ドレッド隊が頑張っているが、決め手にかけている状況なのもまた事実である。

 

「ちっきしょぉ! これ外せぇ!」

 

レジでは相変わらずヒビキがジタバタしている。メイアには断固として参戦を拒否されているのだが、そんなことはわかるわけもなく、また、参戦したところで一人で戦況を覆せるような実力もないのだが、それでも自分が参戦すればどうにかなると思っているのは若さか、無謀ゆえか。ヒビキの参戦自体はディータも望んでいるが、ヒビキとディータが違うのは初手から合体を当てにしているかしていないかだろう。と、いきなりお望み通り拘束が解除された。

 

「お?」

 

『外せ』と叫んでいたが、まさか本当に外されると思わなかったヒビキが戸惑っていると、

 

「来な。黒子の仕事っての、見せてやるよ」

 

その拘束を解除した本人、ガスコーニュが手を差し出したのだった。

 

 

 

「行くよ」

「お、おう!」

 

ヒビキの返答直後、ガスコーニュが小型の輸送機を発進させる。輸送機はハイスピードで目的地へと向かった。

 

(ん?)

 

今回の己の仕事をしながらも融合艦から発進した輸送機を確認できたシュバルツだったが、何の目的でそれが発進したかわからないため、とりあえず見送って自身は引き続き今回の己の仕事に従事する。

 

「ぐぐぐ…」

 

その輸送機では、あまりのスピードで身体にかかるGに涙目になるヒビキ。しかしその甲斐もあり、輸送機は程なく目的地へ到着するとガスコーニュが通信を開いた。

 

『あんたたち、いっぺんにいくよ。50秒でやる。デリ開始!』

 

そして黒子の仕事…デリを開始した。目的地にはディータ以下主要四名のドレッドが既に揃っており、各自がオーダーした内容が次々に各機に供じられていく…そう、この場面での黒子の仕事は補給である。入ったオーダー通りの武器弾薬を内容通りにオーダー主へと補給していくのだ。だがその時間は当然無防備と言っていい時間帯。敵がそれを見逃すはずもない。

 

「残り15%」

「前!」

 

敵機が突っ込んでくるがガスコーニュが輸送機を操り、身を挺してドレッドの盾になる。その後も敵機から執拗に攻撃されるが、その都度輸送機が盾になりドレッド自体への攻撃は許さない。

 

「これが黒子の仕事かよ!」

「言ったろ? パイロットは一人で飛んでるわけじゃないってさ」

 

ヒビキは表情を引きつらせているが、ガスコーニュは涼しい顔である。そうこうしているうちに50秒が過ぎてデリは終了した。

 

「デリ完了! みんな、行っといで!」

「お腹いっぱ~い!」

 

ある意味ディータらしい表現と共にデリが完了したドレッド四機が輸送機から離れる。が、コンソールには残を示すメーターが点滅していた。

 

「おい、まだ一個残ってんぞ!」

「おーや、そうかい。せっかく持ってきたんだ、使わにゃ損だね」

「あん?」

 

首を捻るヒビキの横で涼しげな表情のガスコーニュ。直後、輸送機を再度敵機が襲って吹き飛ばされたが、その残存コンテナが開くとそこにはヒビキのヴァンガードの姿があった。そして輸送機から発進すると、戦場宙域へ突っ込む。

 

『! あれは!』

 

闖入者に最初に気付いたのはジュラとバーネットだった。

 

「おらー! 漢ヒビキ参上!」

「宇宙人さん!」

「!」

 

出迎える四者は四者四様の形でヒビキを出迎える。直後、敵機が硬質化した触手をミサイルのように発射してヒビキもそれの餌食になりかけたが、シールドを犠牲にしてすんでのところで回避した。

 

「やりやがったなー!」

 

怒りそのまま、反撃に出ようとするものの無理な急制動がたたったのか、それともかわした際にどこかを掠めていたのかヴァンガードの動きが停止してしまう。

 

「何だぁ!? う・ご・けーっ!!!!!」

 

操縦桿をガチャガチャとやるもののヴァンガードは一向に再起動する様子がない。

 

「カッコ悪…」

 

その醜態に、思わずジュラが呟いていた。それとは対照的に、

 

「宇宙人さ~ん♪ 合体しましょ♪」

 

ディータがノリノリでヒビキに近づく。が、直後にメイアから、

 

『ディータ、よせ!』

 

と通信が入った。敵機がそれを妨げるかのように攻撃してきたのだ。ヒビキとの合体に気を取られていたディータはその攻撃を察知することができず、喰らってしまって叩き落されてしまう。そして、通信を入れたメイアも同様に敵機の体当たりを食らっていた。

 

「こんなことで!」

「負けてたまるかーっ!」

 

偶然にも、攻撃を食らったメイアとヒビキの咆哮が重なり、その思いが通じたかのようにヒビキのヴァンガードが再起動する。そして、

 

「何だ?」

「ま、まさか…」

 

再起動を果たした直後のヴァンガードの進行方向にメイアのドレッドがあり、距離を詰める形となった二機は白い光に包まれた。メイアは初めての経験故に戸惑うが、ヒビキは肌で感じ取っていたのだ。“アレ”がくると。そしてその予想通り、ヒビキのヴァンガードはメイアのドレッドに吸い込まれ、ヒビキのヴァンガードを取り込んだメイアのドレッドはその形を変えていく。従来の一般的なドレッドの姿からフォルムを変えたその形は、白銀のカラーリングのプテラノドンのような翼竜、鳥のような姿だった。

 

「ああっ!?」

「うっそぉ!?」

「カッコいい…」

 

上から順にディータ、バーネット、ジュラの感想である。驚く二人とは違い、ジュラは見とれていた。その様子は当然ブリッジでも確認しており、二体目の合体に驚きの声が上がる中、

 

「あいつ…色んな芸持ってんな…」

 

バートだけは驚きというより呆れながら、彼女たちとは全く違う感想を抱いていたのであった。そして、

 

「ほぉ…」

 

同様にそれを見ることとなったシュバルツが興味深い様子で溜め息を漏らす。シュバルツとしては初めてちゃんと目の当たりにしたヴァンガードとドレッドの合体であった。科学者の一家であるカッシュ家の血を引く身としては当然の反応とも言えた。

 

(珍しい特徴の機体だな。この世界では通常運用のものなのか?)

 

そう思ったシュバルツだったが、すぐに首を左右に振った。

 

(いや…この世界では男と女が対立している図式だ。であれば、男の機体と女の機体が合体するような構造になっているはずがない。であれば…あれはイレギュラーか?)

 

そう、当たりをつける。が、何にしても手持ちの情報が少ないため断定出来はしない。

 

(詳細はこの戦闘が終わってからか)

 

気にはなるが戦闘中であればこれ以上は余計なことを考えるわけにもいかず、シュバルツは思考を一時中断した。そして、

 

「う…」

「く…」

 

合体した機体の中で。どういう構造になっているのかは知らないが、ヴァンガードとドレッドが合体するとコックピットも一つになるらしく、ヒビキとメイアは共にその一つになったコックピットの中にいた。シートに身を打ち付けられた形のメイアと、つんのめってコンソール前方に身を投げ出している形のヒビキ。二人はまだ己の状態が良くわかっていないらしく、体勢を立て直すためメイアは身を起こそうと、ヒビキはシートに腰掛けようとする。すると当然、

 

『!』

 

ヒビキの背中にメイアの胸がムニュっと押し付けられる形になり、ヒビキがその柔らかさに、メイアがその固さに気付いてようやく己の置かれた状況を認識することになったのだった。

 

「な、なんだこりゃ!」

「こんなところで何してる! お前の助けはいらない、降りろ!」

「出来りゃとっくにやってるって!」

 

コックピット内でくんずほぐれつの痴話喧嘩を始めるヒビキとメイア。まあ好きにすればいいのだが、それも平時であればこそ出来るもの。二人は今が戦闘中ということを忘れているようだった。直後に機体を衝撃が襲い、二人がコックピット内でバランスを崩す。

 

「チッ、今は揉めてる場合じゃねえ!」

 

現状を再認識したヒビキが合体機で敵を追う。そのスピードは外見が表しているかのように凄まじく、あっという間に距離を詰めていた。

 

「何よ、あの加速!」

「いいなぁ、メイア」

 

その動きに驚くバーネットと羨ましがるジュラ。が、その分操縦者にかかるGも半端ではない。

 

「ッ! 身体が…もたねえ…」

「口数の多い奴だ…」

「ウルセェ、生きてる証拠だよ…」

「その口、いつまでもつかな…っ!」

 

メイアがペダルを踏みこんでさらに加速を上げた。敵機が触手を硬質化させてミサイルのように無数に発射するが、合体機のスピードで全て回避してその進行方向に回り込む。全ての触手を放出した敵機はフジツボのような突起がびっしりと生えただけのただの球体に戻っていた。

 

「このときを!」

「待っていたんだ!」

 

期せず、ヒビキとメイアの二人の想いが一致し、合体機が光のエネルギー奔流に包まれて敵機に特攻する。そして、そのまま一条の光の矢となってその身を貫いた。敵機は鼓動を繰り返すかのように二・三度全身を収縮させ、そして花火のように爆発して果てたのだった。

 

 

 

「お前さんは、黒子には向いてないようだね」

 

輸送機の中でこの一部始終を見ていたガスコーニュが、腕を組んで楽しそうにそう呟く。

 

「見ているだけであれじゃ酔いそうだ」

 

何はともあれ敵機を退けたことにマグノがホッとしながらも皮肉めいて呟いた。と、

 

「あの玉、ゴミにしないで! 使い道あります!」

 

何か用があったのだろうか、ブリッジに来ていたパルフェがそう頼み、その依頼にブザムが首を捻って振り返った。直後、

 

『任務完了。帰投する』

 

戦況を確認したシュバルツから通信が入った。

 

「はい!」

「お疲れ様でした!」

「気をつけてくださいねー」

 

その通信を受けたアマローネ、ベルデウェール、エズラの三人が応答する。今回の戦闘でシュバルツに対して少しだけブリッジクルーの対応が柔らかくなったというか、好感度が上がっているのだが、それはまた後の話。そして、戦いの終わった戦場では

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

「ふぅ…ふぅ…ふぅ…」

 

戦闘を終え、合体機の中で肩で息をしているヒビキとメイア。元々ドレッドの乗り手であったメイアはともかく、三等民で機械工だったヒビキにとっては身体がまだ慣れていないのだろう。目の下にクマができている。

 

「何てこった、よりによって」

「お前と考えが合うとはな」

 

憎まれ口は相変わらずだが今の状態ではやりあう気力もないのだろう。二人はボヤくことしかできなかった。

 

「これでわかっただろう? お前のヴァンガードだけでは勝てなかった」

「へっ、おめえのドレッドだけでもな」

「……」

 

ヒビキのその指摘にメイアが顔を背ける。わかってはいるが認めたくはない、男には言われたくないといったところだろうか。

 

「そんなのないよー。宇宙人さん、ディータと合体するのに」

「ふーん。…ってことは、あたしも優雅にカッコよくなっちゃうかもしれないわけね。楽しみ♪」

 

一方で、ディータはヒビキが自分以外と合体したことを不満げに嘆き、ジュラは頬杖ついて呟いていた。

とにもかくにも、今回も何とか危機を乗り切った一行は融合艦へと帰投したのだった。

 

 

 

 

 

「艦の名前?」

 

戦闘後の航行中、パルフェからの通信にマグノが答えた。

 

『はい。クルー全員がアイディアを出しました。お頭が決めてください』

「あたしでいいのかい?」

『カッコいいの選んでくださいね?』

 

そして、通信機の端末状態になっているピョロのスクリーンにその一覧がずらっとスクロールされていく。

 

「ニル・ヴァーナ…これでいいじゃない。誰の案?」

「ニル・ヴァーナは副長だピョロ」

「よし、これに決定。今日からこの艦はニル・ヴァーナだよ」

 

厳正な抽選の結果、融合艦イカヅチは『ニル・ヴァーナ』として生まれ変わった瞬間だった。

 

「はぁ…やっぱしぃ…」

 

そしてその決定に通信の向こうで、パルフェががっくりと肩を落としていたのは内緒である。

 

 

 

「お、戻ったか」

 

男のタコ部屋にて。自分たちのふんどしを室内干ししているバートとドゥエロがヒビキを出迎えた。が、ヒビキはそれに答える余裕もなく、フラフラと自分のスペースへ戻っていく。

 

「なぁ、どうなってんだ、あの蛮型?」

「大丈夫か?」

 

心配するドゥエロに無言で片手を上げて答えると、ベッドに腰掛けて自ら手錠をかけた。クルー扱いではあるようだが、この辺りはまだ難しいところがあるようである。

 

「あいつ、あったまくんなぁ…」

 

ボヤくヒビキ。ヒビキの言うあいつとは、恐らくは今回の一件で色々とあったメイアのことだろう。

 

「よう、元気出せよ」

 

そこにバートがペレットの山を手にして近づいてきた。そして、その山から一粒を摘まんで差し出す。

 

「俺って何なんだ?」

「あぁ?」

 

弱り顔になって尋ねたヒビキの質問の意図がわからずに怪訝な表情になるバート。と、

 

「宇宙人さーん♪」

 

ディータがピョロを引き連れて入ってきた。その手には今回の出撃前に用意しておいたある物を持っている。そして、

 

「ほれ」

 

と、バートが差し出したペレットをひょいッと摘み上げると、

 

「えーい♪」

 

と、楽しそうにそれをピンと弾き飛ばしたのだった。

 

「僕の!」

 

弾かれた、恐らくご実家ご自慢のペレットの行方に愕然とするバート。そんなバートを無視して、ディータはそのある物を自分の膝の上に置いて広げる。それはお弁当だった。

 

「据え膳食わぬは男の恥ピョローっ」

 

ピョロが小刻みにピョンピョン跳ねながらヒビキに近づき、その口を無理やり開けて固定した。そこに、ディータがタコさんウインナーを放り込む。

 

「噛むピョロ」

 

ピョロがヒビキにそれを咀嚼させ、

 

「飲み込むピョロ」

 

そして、それを飲みこませた。

 

「どうピョロ?」

 

そして感想を尋ねる。と、ヒビキは直後に顔を綻ばせた。そして、ディータの弁当箱を覗き込む。

 

「何だこれ!?」

「美味しいでしょ!?」

 

その質問に返答することもなく弁当箱をひったくると、ヒビキはそれに齧り付いて一心不乱に食べ始めた。それに、ドゥエロが彼らしく興味深い反応を示す。

 

「宇宙人さん、ディータとだけ合体して? ね、ね、宇宙人さん」

 

お弁当支給に対する交換条件というわけでもないだろうが、ディータが手を組んで半ば顔を赤らめさせながらヒビキにそうお願いした。が、

 

「俺は宇宙人じゃねえ!」

 

ヒビキは不機嫌そうにそう答え、明確な返答は避けたのだった。

 

 

 

「球体の敵味方識別信号、組み込み完了しました」

 

ブリッジにて、パルフェが報告する。先ほどパルフェがブリッジで言っていた使い道というのはこのことなのだろう。

 

「敵を隠れ蓑にするってわけかい」

「射出します」

 

ブザムがタラークとメジェールに宛てた二機の通信ポッドを射出する。

 

「上手く届くといいですね。でも、届いたとしても受け止めてくれるかどうか…」

「強く、願うんだ。そうすればいつか必ず、願いは届く」

 

通信ポッドを見送ったブザムが、自分自身にも言い聞かせるようにそう呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

「パルフェ」

 

戦闘後、機関室にて。ジュラとバーネットがパルフェを尋ねてきた。

 

「お疲れー」

「ええ」

「そっちもね」

 

二人の姿を目にしたパルフェが軽く手を挙げ、それにジュラとバーネットも応える。

 

「さっき頼まれてた件よね」

「ええ」

 

パルフェの質問に、ジュラが腕を組んで頷いた。

 

「どう? 何か妙な動きしていた?」

「全然! それどころか…」

 

バーネットの問いかけにパルフェは首を左右に振って否定し、コンソールを操作する。

 

「そんなこと考えたのが失礼になるような立ち回りしてたよ」

「え?」

「それって、どういう…?」

「ま、百聞は一見に如かず、ってね。見りゃわかるわよ」

 

そう言うと、パルフェは二人にご所望のものを見せた。それは今回の戦闘が始まる前、ジュラがバーネットに依頼していたシュバルツの戦闘記録である。そこにはまず、今回の敵が融合艦…ニル・ヴァーナに襲ってきた時のガンダムシュピーゲルの見事な立ち回りが表示されていた。

 

「! 速い!」

「凄い動きね。男の機体って意味で比較しても、あっちの男のヴァンガードとは比べ物にならないわ」

「ホント。おかげで今回の戦闘で艦の被害はゼロだったわ。でもねこの戦闘中、このことよりも重要な働きしてたのよ」

「え?」

「待ってて」

 

シュバルツの戦闘技量に驚いていたジュラとバーネットに対し、更にパルフェがコンソールを操作してその場面の記録を二人に見せた。

 

「! これって…」

「そ」

 

振り返ったバーネットにパルフェが少し嬉しそうになって頷く。そこには、今回の戦闘で被弾して大破したドレッドや戦闘不能になったドレッドを素早く回収し、都度融合艦へと搬送するガンダムシュピーゲルの姿があった。

 

「ドレッド乗りの二人なら私よりよくわかるでしょ? 戦場で戦闘不能になったときの恐怖」

「ええ」

「勿論」

「今回、戦闘の合間合間でそこをカバーしてくれたわけ。…って、言葉にすれば簡単だけど、実際どれだけ大変か…。しかも、あの球体に対処しながらこれをやってのけて、尚且つさっき言ったように今回の艦の被害はゼロだったんだから、どれだけ働いてくれたのかって話よ。私がさっき言ったことの意味、これでわかるでしょ?」

「うん…」

「そうね…」

 

ジュラとバーネットが複雑な表情で頷いた。対象が男なだけに素直に感謝できないのか、同じ戦場に立つ者として見せつけられたその技量に嫉妬しているのか、自分たちがシュバルツを疑ったことに対して恥じ入っているのか、たった一戦ではまだ判断を下すには早いと思っているのか、あるいはそれ以外かそれともその複数なり全てか。二人に去来している思いを窺い知ることはできない。が、事実として仲間を助けてくれたたという結果は残り、それが今見せたパルフェの嬉しそうな表情や、戦闘終了後のブリッジクルーたちの反応に繋がっていたのである。

 

「二人が疑うのもわかるよ。クルーに組み込んだとはいえ戦闘中に無理やり捕虜にした相手だし、尚且つ男だからね。更にお頭との取り調べでのやり取りもあるから、疑うなって方が無理かもしれない。だから、これ以上は私からは何も言わないよ。好きに判断して」

 

そう告げると、パルフェは映像を切った。それに対し、ジュラとバーネットは互いに無言でコクリと頷くと、そのまま機関室を後にしたのだった。




読了、ありがとうございました。作者のノーリです。

さて、お知らせというのは他でもなく、本作品始まったばかりで申し訳ありませんが少しお休みさせていただこうと思います。少々、プライベートが忙しくなって時間があまりとれなくなりそうなので。
とは言え、長々休止したり行方不明になるつもりはありません。遅くとも今年中には再開する予定ですので、その際にはまた読んでいただければと思います。

それでは申し訳ありませんが、暫く失礼します。再開後にまたお会いしましょう。
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