ランヴァルトからの手紙で、ようやく元気を取り戻したアドリアンではあったが、オヅマのあの言葉に対しては、簡単に怒りを解かなかった。翌日になって、声をかけようとしてきたオヅマに冷たい一瞥をくれて黙らせ、それからかれこれ十日近く、まさしく絶交状態になっている。
「あぁ~! もう勘弁してくれ。アイツがあんなに根に持つ性格と思わなかった」
バタンと机に突っ伏して愚痴をこぼすオヅマに、マッケネンは容赦なかった。
「馬鹿が。当然の報いだ。そもそも今までがよく許されてたくらいなんだ。ここらでしっかり灸を据えてもらえ」
「ひでぇッ! ちょっとは慰めようとか思わないの?」
「思うか! お前のせいで、俺はトーマスとまた問題を作る羽目になったんだぞ!」
前回、トーマスに与えられていた問題をオヅマが途中で投げ出したため、あれについては当然ながら破棄されてしまった。オヅマとしてはそのままで良かったのだが、なぜかトーマスはあれからマッケネンも巻き込んで、新たな問題を作成してきた。
「僕とリュ……マッケネン卿の力作だから、気合い入れて解いてね!」
とウィンクなんかして問題を渡してきたあとに、どこで捕まえたのかそのマッケネンまで学習室に放り込んで、自分は用事があると出て行ってしまった。まったくもって、相変わらず自由な人間である。
「俺だって用事があるってのに、お目付役だとか抜かして、試験監督みたいな真似させられるし……ほら、いつまでもグチグチ言ってないで、とっとと終わらせろ」
マッケネンはレーゲンブルト騎士団において、次期副官候補でもある優秀な騎士であるのだが、それは元々アカデミーの試験資格を得るほどに頭脳明晰であるというのも理由の一つだった。残念ながら試験の結果は不合格であったが、そこから騎士になるという選択をする人間は珍しく、その変わった経歴も含めて、すっかりトーマスに目をつけられているようだ。
「なんだかんだ言ってるけどさぁ、マッケネンさん、トーマス先生に甘いよね」
「やめてくれ。こっちは嫌々なんだよ」
「そんなこと言って、ちゃんと言うこと聞いてるじゃんか。なんか弱みでも握られてるの?」
「…………」
マッケネンは答えなかった。それが答えだった。オヅマは深く聞かなかったが、あのトーマスに弱みを握られるなんて、マッケネンもツイてないなとちょっと同情した。
他人のことなんてまるで興味ないようでいて、トーマスの観察眼は鋭い。アドルとの絶交状態に陥ったあの日、問題ができなかったことを謝りに行ったときも、思わぬ着眼点をついてきた。
***
「ちょっと、トーマス先生。マリーに妙なこと吹き込まないでくれよ」
謝ったあとに、オヅマは思い出してトーマスに文句を言った。案の定、トーマスはキョトンとわからぬ様子であったので、オヅマは例の近侍の
「僕は一つの可能性として言っただけなんだけどねー。まだまだ純真なマリー嬢は、そのまま伝えちゃったんだなー。気にしなくっても、マリー嬢の中の恋人の定義なんて、せいぜいお手々繋いで一緒に出かけて帰り際にチューするぐらいなものだと思うよ」
「なに言ってんだ、アンタは! そういうのも含めてないんだよ、一切!」
「あーやしーいィー。なんかー、すごくー、否定するじゃなーい」
ニヤニヤ笑って、冷めた紅茶を飲むトーマスにオヅマは舌打ちした。
本当に話の通じない人間の相手をするのは大変だ。ロビンが怒り出すのもよくわかる。こんなのと家族だったら、それは気苦労が絶えないだろう。
「そんなだからロビン先生にだって嫌われるんだぜ」
いつだったかの兄弟ゲンカを思い出してオヅマが言っても、トーマスは余裕の笑みだった。
「嫌う? まさか。ロビンは僕のことがだーい好きだよ」
「どういう発想だよ、それ。あそこまで毛嫌いされてて」
「わかってないなぁ、オヅマ氏。ロビンは僕のことが大々々大だーい好きなんだよ。僕のように優秀でありたいし、誰からも認められる存在になりたい。賢者の塔にだって入りたい。でも、できない。だから僕が羨ましい。羨ましいのが
いけしゃあしゃあというトーマスに、オヅマはあきれかえった。
「……嫉妬してるのが、どうして大好きになるんだよ」
「嫉妬というのは、ある意味、その対象への異常な執着さ。いわば、ひとつの『愛』だ。だから、僕に嫉妬する人は、みんな僕のことがだーい好きなんだよ」
もはや何を言う気にもなれなかった。白い目のオヅマに、トーマスは肩をすくめた。
「君にはわからないかなー? そうだな、小公爵様に伺ったほうがわかるかもね。彼はおそらく理解できると思うよ。いろいろと悩みが深そうじゃない? そういや小公爵様にも手紙は来ていたのかな?」
オヅマはすぐに質問には答えず、反対に聞き返した。
「なんで手紙のことなんて聞くのさ」
「いや。別に。さっき手紙の束を乗せたサビエル氏に出くわしたからさ。そこで僕とロビン宛の手紙ももらって、まだお盆の上に手紙がいっぱい乗っていたから」
「だから、ロビン先生宛の手紙を、あんたがとったら駄目だろ?」
「すぐに当人が現れたから、ちゃんとその場で渡したよー。中身を見る前に」
「当たり前だっつの! 人の手紙を勝手に開封すんな」
「なんだよー。いいじゃんか、双子なんだから」
「双子だろうが、兄弟だろうが、していいことと、悪いことがあるだろ!」
「もー。真面目なんだからー」
トーマスは緩く編んだ髪をいじりながら、再びオヅマに尋ねた。
「で。サビエル氏が持っていったお盆の上の手紙は全部、君への恋文だったの? あるいは小公爵様への恋文かな? 小包もあったね。毒入りのお菓子でも入ってた?」
「んな訳ねーだろ。ほとんどが
「サビエル? サビエル氏にも手紙が来てたの?」
「あぁ。誰だったかな? ゾル……とか、なんとか。一通だけ盆の上に置いてあるから、アドル宛かと思ったんだけど」
「ふぅん……」
トーマスがニヤリと笑う。
オヅマはもはや遠慮もせず、不満の鼻息をもらした。
「まったく。なんだよ、その意味ありげな顔は」
「いやいや。ま、そういうことなら、僕は何も言えない。下手に口を出したりなんかしたら、出入り禁止にされかねないしね。この辺りで口を噤むことにするよ」
「なんだよ、気になるなぁ」
オヅマはむくれてみせた。
トーマスの好奇心旺盛で、何にでも首をつっこみたがる性格は、同時に言いたがりも含んでいる。なにかと勿体ぶったことを言うのは、より相手に興味を引かせた上で驚かせたい、楽しませたいというサービス精神の表れでもある。だから、そこのところをくすぐってやれば、案外あっさりヒントはくれるのだ。
「他の従僕のルーティンを観察してみることだね。普通、従僕が手紙を取りに行くときには、自分宛の手紙を先に見つけて、すぐさまポケットにしまうものさ。わざわざ自分宛の手紙をご丁寧にトレイになんか、いつまでも乗せておかないものだ」
***
その後、ロジオーノなんかを見ていると、確かにそのようで、本人にそれとなく聞いても、自分宛の手紙をトレイに乗せるなんてことはしないと言っていた。
サビエルが有能な従僕であるのは間違いない。
あの滅多と人を褒めないルンビックですらも、サビエルの気配りの細やかさは、他の従僕の手本となるべきもの……とまで言っていたくらいだ。だから、そんな初歩的なミスをするとは考えにくかった。
むしろ、サビエルの従僕としての有能さ故に、トレイにその手紙を乗せることに躊躇しなかったのならば……?
手紙の
だがオヅマは直接サビエルに尋ねることは控えた。
どうせ訊いたところで、素直に答えないことはわかりきっていたからだ。
こういう口の堅さには、ルーカスですらも手を焼いていて、親子間でもアドリアンの話題については、サビエルはほとんど話さないらしかった。せいぜい笑い話程度のことを漏らす程度で、アドリアンの好物や興味あることすらも、サビエルから口にすることは絶対になかった。
『素晴らしい友達』というのが、どうにも気になりはするが、言ってもアドリアンだって、そう馬鹿ではない。多少お人好しで世間知らずなところがあるにしろ、自分にとって危険かそうでないかくらいの分別はできるだろう。どうやらエーリクとサビエルも一枚噛んでいるようだし、あの二人が知っていて何も言わないのならば、それこそ本当にマティアスの言う通り、皇太子とやらが相手なのかもしれない。
皇太子……。
皇太子…………。
「………………」
その存在について深く考えようとした途端、オヅマは急に息が出来なくなった。
ドッドッ、と心臓の鼓動が奇妙なほどに大きく聞こえてくる。
ザァザァと激しい葉擦れのような音が、間断なく耳の奥から噴き上がってくる。
一瞬、何かから隔絶された世界に覆われそうになって、オヅマは「ウワッ」と声を上げた。
ふと我に返ると、マッケネンがひどく困惑したようにオヅマを見つめている。
「どうした、お前……? 冷や汗なんかかいて ―― 」
「なんでもない!」
オヅマは即座に返事した。
まだ心臓が激しく拍動している。
乱れそうになる息を、必死で落ち着かせつつ、こめかみから伝う汗を袖でぬぐった。だが、まだ手の震えが止まらない。
一体、なんなのか……自分でも自分の状態がよくわからない ――― 。
そんなオヅマをマッケネンは
問題を解きながら、どこか上の空でコツコツと中指で机を打っていた。何か別のことを考えているのであろうことは予想できたが、いきなりその中指が止まったと思ったら、次の瞬間には凝然となって冷や汗を浮かべ、震えていたのだ。
「おい、気分でも悪いのか?」
「大丈夫だって!」
オヅマはまた大きな声で怒鳴るように言って、荒い息を隠すようにハァと一息ついた。
強張った顔のまま再び問題に取りかかる。
そんな様子を見せられて、マッケネンが納得できるわけもなかった。詳しく尋ねようとしたその時に、
「やぁやぁ! お待たせ!! 終わった?」
「…………お前」
マッケネンはいちいち間の悪いトーマスに苛立ったが、オヅマはホッとしたように脱力した。
「終わるわけないだろ。仏頂面のマッケネンさん目の前にして……気になって問題どころじゃないよ」
「あぁ~、試験官が邪魔しちゃいけないよねぇ。リュ……」
あやうく本名を言いかけるトーマスを、マッケネンは気迫のこもった一睨みで黙らせると、ガタンと立ち上がった。
「ったく……じゃあ、俺はもう行くぞ。オヅマ、お前、あとでビョルネ先生に
「うん? 僕が何を診るの?」
トーマスがぐりんと首を傾げて、無理やりマッケネンに視線を合わせてくる。
マッケネンはギリッと歯軋りすると、ぐいーっとトーマスの顔を自分の前から押しのけた。
「お前じゃない! ロビン・ビョルネ先生だ! お前なんぞ、先生と呼ぶ気にもならんわ!」
「ひどーい。これでもアカデミーでちゃんと先生してるのにー。一応、医師免許だってもらってるんだよー」
「アカデミーでだけだ、お前が通用するのは。できれば一生、そこにいろ」
「まー、そんなこと言ってさ。僕がいなくなったら、寂しいでしょおー?」
「誰が! お前なんぞ、永遠に塔の上に籠もっていろ!」
「素直じゃないねー、マッケネン卿は。ねぇ? オヅマ」
トーマスは同意を求めてきたが、オヅマは無視した。トーマスが来たということは、問題の提出は迫っているのだ。のんびりおしゃべりなんぞしていられない。
相手にしてもらえず、トーマスは口をとがらせた。
「まったく、どの子もつれないんだからなー。僕が一生懸命考えてあげてる、っていうのに」
「俺は考えてもらわんでいい」
マッケネンは素っ気なく言ってから、チラリとトーマスが持っていた包みを
「なんだ、それは。まさかまた、妙な煙草じゃないだろうな?」
「違うよー。これはね、ストゥグリの実とその他諸々ハーブ」
「ストゥグリの実? なんでそんなもの……」
マッケネンは眉を寄せた。だが、トーマスの目が細く笑うのを見て、問うのをやめた。こういうときには、普段おしゃべりな口も、貝のように閉ざされる。かれこれ知り合って二年。つきまとわれて相手するうちに、不本意ながら、そういう機微がわかるようになってしまった。
「妙なことをするなよ」
マッケネンは厳しい顔で一言言ってから、部屋を出て行った。
トーマスはそんなマッケネンのすげない態度にも、まったく懲りない。「はーい」と愛嬌たっぷりに手を振って見送るトーマスに、オヅマはあきれたようにつぶやいた。
「仲のよろしいことで」
「アハッ! そう見える?」
「まぁ、マッケネンさんは嬉しがらないだろうけど」
「そうねー。リュリュってば素直じゃないんだからなー」
「リュリュ?」
オヅマが問い返すと、トーマスはめずらしくあっと口を開けたまま止まった。ゆっくりと目線が逸れていく。
オヅマはじーっとトーマスを見据えた。
「リュリュ……って呼んでるの? マッケネンさんのこと?」
「うーん。どうかなー?」
トーマスの目は落ち着きなく動き、一切合わせない。
オヅマはムゥと眉を寄せた。
リュリュ、というのは多くの場合、可愛い何かに対しての呼びかけのようなものだ。多くは赤ん坊や幼児なんかに対して使われるが、大人同士の場合だと、恋人関係であれば、そんなふうに囁き合うこともあるらしい。
(但し、オヅマが知らないだけで、実際のところはマッケネンの名前がリュリュという、本人曰く『親がどうかしている名前をつけやがった』のであって、彼らの仲の親密度合いとはまた別の話)
「正直、俺、男同士でそういうの好きじゃないんだよ。マッケネンさんが同意してるなら、言うことないけどさ。あんまりフザけて困らせないでやってくれよ」
オヅマがやや嫌悪をこめて言うと、トーマスはフンと鼻白んだ。
「おやまぁ、めずらしく常識めいたことを
「アンタの趣味について文句言ってるんじゃない。例の近侍の昔の習慣だって、アンタにはちょっとした冗談なんだろうけど、言われた方は気分が悪くなることだってあるんだよ。マッケネンさんも、今は嫌々でもアンタの相手をしてやってるんだろうけど、ちゃんとした相手ができたら、妙に突っつき回さないでくれよ」
「
トーマスは少し皮肉げに笑ってから、腕を組んでオヅマを見つめた。
「やれやれ。君は僕がリュリュに大層執心してると思っているようだけど、僕だってそれなりに場数は踏んでいるんでね。まったく脈のない人間に声はかけないし、フラれたらちゃんと相手の幸せを祈って去るさ。そこの引き際については定評があるんだ」
「どんな定評だよ……」
オヅマはもはや話す気もなかった。
トーマスもそれ以上、議論する気はないようで、静かに本を読み始める。
一刻ほどしてから、オヅマはトーマスに解答用紙を提出した。
トーマスはオヅマからの解答を受け取ると、ざっと見てフンと鼻を鳴らした。
「なかなかだね、オヅマ公子。じゃあ、今度は君が僕に問題を作ってきてくれる?」
「はぁ?」
「それで、とりあえず終わり。今までの問題の解答と合わせて、アカデミーに送りつけたら、まぁ……そこそこの評価はもらえるんじゃない?」
「別に俺は評価とか、どうでもいいんだけど」
「君はよくても、小公爵様と同じくらいのレベルじゃないと、高等クラスの授業、受けられないよ?」
「高等クラス? そんなとこ行くわけねぇだろ」
アカデミーでは入試結果によって、クラス選別がされる。(これはあくまでもレベル分けであって、一つの教室で過ごすという意味におけるクラスではない)
クラスによって必修の講義数が違っていたり、受講者多数で制限されるような人気の講義も、優先的に履修登録ができたりする。当然ながら高等クラスは狭き門で、合格者中、上位百人だけがそこに入ることができた。
オヅマは最初から興味もなかった。そもそもアカデミーに入ること自体、まったく考えてもいなかったことなのだ。アドリアンの近侍になった関係で、仕方なく行くというだけだ。
まったくやる気のないオヅマに、トーマスは軽く肩をすくめ、首をかしげる。
「そうなの? でも、小公爵様の望みはもっと高いよ。高等クラスの中でも、特に上位の三十人に入りたいみたいだ。試験勉強だけじゃなく、もうアカデミーで習うようなことも予習してる。僕にも何度か教えて欲しいって来たし」
「はぁ?! いつの間に?」
「君たちが寝ている間に、まぁ三日に一度程度かな? 近侍たちにはただでさえ無理させてるから、これ以上は申し訳ないってことで、そこまで自分に合わせる必要はないと思われたんじゃない? 言っておくけど、高等クラスは優秀者がわんさといるから、おっとりした貴族のお坊ちゃんは太刀打ちできないよ。あのクラスの奴って、色々と面倒くさくってさ。君、同じクラスになって頑張って護衛とやら? しておあげなさいよ。他の近侍くんたちじゃ、おそらく無理だよ」
「なんで、俺? テリィさんとか、もっと頭いいだろ」
「あぁ~、あの
「まさか」
オヅマは信じられなかった。
テリィは元々、近侍の中では頭が良いとされている。すべての科目の平均成績も、近侍になった当初はアドリアンよりも上であったくらいだ。
ただ、ここ最近……特にアカデミーの一般試験についての勉強になってからは、確かに以前ほど自分の成績についてひけらかすことはなくなっていた。授業中も注意散漫であると、何度か教師から叱責を受ける姿が目立つ。
「アカデミーの勉強は、単純な暗記問題だけやってればいいんじゃないんでね。正直、あんなものでいい気になってるうちは、幼児レベルだ。ケレナ・ミドヴォアもちょっと頭抱えてたもん。どうやって伝えたらいいのかわかんない、って」
テリィは今回の事前考査に送る小論文について、得意のルティルム語を題材にして書いている。当然、ケレナがその添削や助言を行っていたのだが、あまり
それはテリィがケレナに対して、女教師ということで、多少 ―― というより、分かりやすく下に見ていたからだ。アドリアンに注意されてからは、あまりあからさまな態度をとることはなかったが、根付いた偏見というのは、そう簡単に消えないものだろう。
実はマリーがテリィを嫌っている理由に、こうしたケレナ ―― あるいは自らで生計を立てる女性に対する蔑視もあった。
グレヴィリウス公爵邸においては、故リーディエ公爵夫人の影響もあってか、不条理なまでの男尊女卑はなかったが、それでも帝国内に根強くその傾向は残っていた。
男性側が性差による力を
それこそ女の家庭教師などは、年頃の令嬢を指導する者として必要とされつつも、彼女ら自身の身の上については、馬鹿にする主人や女主人は少なくなかった。
テリィも悪気などはなく、ただ母親や周囲からの教育の中で、当然のように身についた意識であるから、これを直せと言われても難しいのだろう。ただ、レーゲンブルトにおいては、黙っていない女性陣がそこそこいるので、気をつけるようにはなっていたが。
いずれにしろテリィの学力には、案外と問題があるようだった。
だが、今のオヅマにテリィの心配をしてやる余裕はなかった。
あのトーマスに出す問題ともなれば、安易なものだと一瞬で解かれて、突き返されるのは目に見えている。おそらく今までトーマスに課された問題も、おそらくはこの問題作りを最終目的にしていたのだろう。
「ほんっとに……食えない人だよ」
オヅマは嘆息して、さっそく問題作成を始めた。
次回は2024.11.03.更新予定です。