空を飛びたいウマ娘と山奥の装蹄師の話   作:小松市古城

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なんとなく閃いたので見切り発車です。


1:100年後ヒマだったら宇宙行こうぜ

 

 

 

 

 

「なぁおっちゃん100年後ヒマ?ヒマだったら宇宙行こうぜ!」

 

 夕暮れの工房、オレンジ色の光が差し込む空間の隅にある休憩用の畳の間。

 そこで、ヒマにあかせてゴールドシップは寝転びながらそんなことを言ってきた。

 艶やかな肢体をあられもなく放り出して寝転んでいる彼女の視線は近くの作業机に向かっている一人の男、この工房の主に据えられている。

 

「100年…100年後なぁ…100年後には気楽に宇宙に行ける時代になってるといいなぁ…生きてたらなぁ…」

 

 作業机で蹄鉄の試作品を弄り回している男は、半分上の空でゴールドシップの問いかけに生返事をした。

 

「よっしゃ!約束だからな!」

 

 そういうとゴールドシップはやおら起き上がり、勢いよく工房の外へ駆け出していく。

 

「おーい…もうこの時間イノシシとか出るからな、気を付けるんだぞー…」

 

 おそらくもう聞こえる距離に彼女はいないだろうが、男の精神衛生上、そう呟かざるをえなかった。

 

 

 

 

 

 

 装蹄師の男が関東平野を見下ろす山の中に蹄鉄の工房を開いたのは5年ほど前のことである。

 

 もともとは中央トレセン学園内にある蹄鉄工房に装蹄師として勤務していたのだが、ちょっとしたトラブルに巻き込まれて退職を余儀なくされた。

 

 しかし捨てる神あれば拾う神ありというやつで、周囲の協力や取り成しもあり、彼の装蹄師廃業はまぬがれた。

 

 今はそのときのトラブルに介入した商社を通じて大手蹄鉄メーカーからの仕事を請け負い、装蹄師としての仕事を続けている。

 

 

 装蹄師の男が現在仕事を続ける蹄鉄工房は山奥にあり、もともとは林業に付帯する製材所かなにかであったという。

 

 トレセン学園の工房よりも相当に広く、内部空間は小学校の体育館ほどの広さがある。街からも遠く離れ、通勤するにも一苦労ともなれば、職住合体とばかりに装蹄師の男の生活も工房の中で完結させるようになった。

 

 仕方のないことではあるが、そうなると装蹄師の男の仕事と趣味の垣根はなくなり、雑然としている工房内は、蹄鉄を打つための一連の設備は揃っているものの、それ以外の空き部分は装蹄師の男の趣味にまつわるモノで埋まりつつある。

 

 早い話が装蹄師の男の秘密基地のようになっているわけだが、周囲に何もなく人目につかないという特性や、装蹄師の男が趣味で工房の周囲に切り拓いた林道がトレーニングにもってこいだという話が旧知のウマ娘やトレーナーたちに伝わってしまった結果、今や秘密基地ではなくトレセン学園外でのウマ娘たちの溜まり場といった様相を呈し始めていた。

 

 尤も装蹄師の男自身もそれを別段気にしてはいない。

 

 もとよりウマ娘たちの脚元を安全に支えるための蹄鉄を造ることが彼の仕事であったし、彼女たちの活躍があってこそ、彼の暢気な生活も続けられるというものであるからだ。

 

 装蹄師の男は愛想のない主人だったが、そのかわりにレースへの情熱と装蹄師としての技術については折り紙付きという評判がじわりじわりとトレセン学園内にも浸透した結果が溜まり場と化してしまったのであるならば、そしてそれが生業と繋がっているのであれば、否応もない。彼はその現実を渋々ながらも認めざるを得なかった。

 

 

 そして今日も今日とて、悩んだウマ娘やトレーナーが噂を聞きつけてこの工房にやってくる。

 

 ウマ娘レース界とのゆるやかな持ちつ持たれつの平穏な日々。

 

 装蹄師の男はそれに満ち足りたものを感じつつ、日々を過ごしていた。

 

 

 

 

 

「おぅおっちゃん!こないだの話おぼえてっか!」

 

「…あぁん?なんだ藪から棒に」

 

 今日も今日とて工房に飛び込んでくるゴールドシップ。

 神出鬼没かつ珍言奇行で名を馳せる、気まぐれにG1を6勝も搔っ攫ったウマ娘である。

 

 今はトゥインクルシリーズからは引退し、トレセン学園も卒業したのだが、普段何処で何をしているかは装蹄師の男も良くは知らない。

 

 こうして日をあけずに現れるときもあれば、数週間、ぱったりと顔を見せないときもある。

 

 もっとも現役時代にG1を6勝もしていれば、獲得賞金で既に一生分を稼ぎ終えており、何もしなくても生きていくことはできる。もちろん彼女の場合は持ち前のタレント性から、仮にそれがなかったとしても食うに困ることはないだろうが。

 

 ゴールドシップとは装蹄師がトレセン学園お抱えであったころからの付き合いで、トレセン学園を去ってから一番最初に男の居場所を見つけたのも彼女だった。

 

「おいこれ見てくれよこれ!ほらほらはやく!」

 

 ゴールドシップはチラシのような光沢のある紙をこちらに見せてくる。その真ん中にはでかでかとQRコードのみが印刷されていた。

 

「さすがに俺でもQRコードを解読する機能はついてないなぁ…」

 

「あんだと!QRコード解読は義務教育で習うだろ!ったく仕方ねぇなぁ…」

 

 一体どこの義務教育で習うんだ、と呟きながら、騒ぎ立てるゴールドシップを尻目にスマートフォンを持ってきて、QRコードを読み込む。

 

「…あぁん…?」

 

 表示されたサイトは、あるテレビ局の特設サイトだった。

 

 題字には

「鳥ニンゲンカーニバル!参加者募集!」

とある。

 

「えぇ…?」

 

 男は頭上にはてなマークを浮かべる。

 

 ゴールドシップが駆け込んできたときの「こないだの話おぼえてっか!」からの「鳥ニンゲンカーニバル」である。全くつながらない。

 

「ったくよ~おっちゃんちょっと薄情じゃねえか?こないだ約束したじゃねーかよー」

 

 なにか生返事をして空手形でも切ってしまっただろうか。

 装蹄師の男は申し訳なさそうな表情をしながらゴールドシップを見つめつつ、沈思黙考する。

 

 まったく、ゴールドシップという奴は怒った顔も綺麗である。

 

 トレセン学園で学生服を着ていた頃から美人は美人であったがどこか幼さが残る顔つきであった。

 

 しかし卒業後しばらくしてからの彼女は、黙ってさえいれば芦毛の長いストレートの髪も麗しく、持ち前の長身とスタイルの良さでもって妖艶な雰囲気を纏った美女であり、噂ではパリコレモデルの依頼もあったがあっさりと断ったとか。

 

 そしてとにかく発想が突飛であり、論理的なつながりというよりも閃きの天才型の頭脳を備える。それは理知的というよりどこまでも拡散する宇宙のような、ある種の現代アート並みの思考回路をであった。

 

 そんなゴールドシップの思考を頭脳的には凡人と言える装蹄師の男が想像で辿れるわけもなく、あっさりと降参する。

 

「ごめん。わかんねぇ。鳥ニンゲンカーニバルがどうしたって…?」

 

 装蹄師の男は両手をあげると、伏し目がちに首を振った。

 

「ったくよー100年後に宇宙行くっていったろ?宇宙に行くならまず空からだろ!飛ぶんだよ!空を!」

 

 ゴールドシップの表情は真剣である。

 

 真剣に、無茶苦茶なことを言っている。

 

 ゴールドシップは真剣な瞳で、装蹄師の男は困惑の表情で、お互いを見つめ合う。

 

「人力で…いや、ウマ娘のチカラで…?」

 

 ゴールドシップはこくりと頷く。

 

「…造るの…?足漕ぎの…」

 

「造るんだよ!」

 

「誰が?」

 

「おっちゃんが!」

 

「どこで?」

 

 ゴールドシップはだんっ!と1度、足を踏み鳴らす。

  

「………」

 

 装蹄師の男は考え込む。

 

 確かにこの工房でならば、そういうものも作るスペースがないではない、が…。

 

 改めてゴールドシップを見る。

 相変わらず真剣にこちらを見つめている。

 

 どうやらいつものハッタリや冗談の類ではなさそうだ。

 

「わかったよ……けど、仕事が優先だ。納期は保証できんぞ…」

 

 ゴールドシップの表情がくるりと変わる。

 

「さすが!話がわかるぜおっちゃん!」

 

「ばっかやろ。お前も手伝うんだぞ」

 

 ゴールドシップは先ほどの怒り顔もどこへやら、一転してニコニコ上機嫌だ。

 

 装蹄師の男は渋った手前、表情には出さないが、正直この手の話は嫌いではない。頭の中では早速構造を検討し始めている。 

  

 

 ゴールドシップとの不思議な飛行機製作は、こうして軽率に始まった。

 




次話は未定…
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