空を飛びたいウマ娘と山奥の装蹄師の話   作:小松市古城

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15:夜間飛行

 

 

 

 

 装蹄師の男は見知らぬウマ娘に手を引かれ、飛行場の格納庫に連れ込まれる。

 

 仄暗くなりつつある外から水銀灯に照らし出された空間に入ってみれば、そこには磨き上げられて光を照らし返す軽飛行機が堂々と鎮座していた。

 

 装蹄師の男はその機体を一目見て、普段無表情な自らの顔にはっきりと驚きの色が浮かぶことを自覚する。

 

「なんだ、そんな驚いた顔して。そんなに珍しい…か。思ってた飛行機とは違うだろうな」

 

 男の手を引いてきたウマ娘は、手を離して機体を背に男に向き直り、男に愛機を紹介しようと口を開きかけたところで、装蹄師の男が声を発した。

 

「ジャイロフルーク…SC01 スピード・カナード…によく似てるが、なんだこれは。SC01はタンデムの2座だろ?」

 

 装蹄師の男の言葉に、今度はウマ娘の方が形の良い瞳を見開いて驚いた表情を浮かべた。 

 

 目の前にある機体は前衛的な見かけと言えた。卵型のキャビンを中心に、前方にエンテ型の特徴である小さな翼、そしてキャビンのやや後方から伸びやかな主翼を備えており翼端は上へ向けて反り、垂直に天を向いている。後部には控えめなエンジンと、推進式に6翅プロペラを備えていた。一般的な飛行機とは前後が逆のような見かけである。

 

 その姿は一般的な常識を打ち破るような、ある種前衛的ともいえるものだ。

 

 そしてそれは装蹄師の男がゴールドシップ用に設計した、足漕ぎ飛行機の参考にした機体によく似ている。

 

 しかし目の前の機体は、男が参考にしたものよりもキャビンが横方向に楕円でやや太く、並列座席が2列の4人乗りになっている。

 

「ジャイロフルークを知っているのか。これはSC01のあとに計画されたE-401というタイプさ」

 

 得意げに語りだした彼女の顔を改めて見つめる。

 彼女の顔は端正に凛々しく整っており、勝気につり上がった瞳が意志の力を感じさせる。正直、美形揃いのウマ娘の中でもとびぬけて整った顔立ちと言えた。

 栗色の、中央に白い流星のある艶やかな髪はどこかで見覚えがある。

 

「この機体は、SC01をベースにして4座にした、開発中止になった計画の試作機だ。長期の海外遠征時に手に入れて、日本に持ち帰った。免許も遠征中に取ってな。向こうはトレセン学園ほど煩くなかったんだ」

 

 とてつもなく顔の良いウマ娘は誇らしげに愛機を撫でる。勝気につり上がり気味の瞳がその瞬間は優し気に緩むのを見て、装蹄師の男は意外な印象を受けた。

 

「なるほど…いや、鳥ニンゲンカーニバル用の機体を設計するとき、SC01をモチーフにしたんだ。まさかこんなところでお目にかかれるとはな…」

 

 装蹄師の男はうっとりと機体を眺める。

 

「ハハっ…こんな奇抜な機体をモチーフにするなんて。やっぱりおもしれ―オッサンだな。気に入った」

 

 ウマ娘は装蹄師の男に歩み寄り、機体に視線を釘付けにしている男の顎に手を添えて自らに視線を向けさせる。

 

「私はシリウスシンボリ。アンタの名は?」

 

 彼女の名乗りに、装蹄師の男ははっとする。

 そして髪色の既視感に納得した。

 

 装蹄師の男の、至近距離にも関わらず動揺のない名乗りを聞いて、シリウスの表情が何かに考え込むような色が浮かび、じっと男の顔を見つめる。

 

 そして何かに気づいた明るさを灯し、興味深げに笑みを深めた表情をつくった。

 

「…アンタ、まさかルドルフがお熱って話の装蹄師か?」

 

 知られていたか、と装蹄師の男は瞑目した。

 

 男は彼女の名前を聞いて思い出していた。

 ルドルフのひとつ下、名家であるシンボリ家出身のウマ娘、シリウスシンボリ。

 デビューから駆け抜けるように日本ダービーを掻っ攫い、そのままクラシック級を放り出し、海外遠征に出たのが彼女だ。

 装蹄師の男はシリウスが学園にいた頃には何度か遠目に見たことはあったが、直接絡んだことはなかった。ルドルフとは犬猿の仲であることは人づてに聞いた覚えはある。

 

「…お熱かどうかはわからんが、世話にはなってるな」

 

 つとめて事も無げにそう告げる装蹄師の男は、シリウスから視線を外して機体を仔細に観察する。

 

「…なるほど。ルドルフの想い人を乗せてのフライトは爽快感にたっぷりと優越感を加えてくれそうだな」

 

 シリウスの言葉を聞こえぬふりをして機体を見て回る装蹄師の男に、彼女はヘッドセットを投げて寄越し、自らの横の席に着くように促す。

 

 装蹄師の男は頭の包帯を避けつつそれを装着すると、促されるまま機体に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 薄暮の飛行場はすでに今日の着陸機を迎え終えつつあり、暖気の終わったシリウスシンボリの機体はすぐに離陸許可を得た。

 

 シリウスシンボリは左の機長席、装蹄師の男は右の操縦席に座っている。男もヘッドセットを通信機につないでいるため、シリウスと管制との交信はすべて聞こえていた。

 

 機体はスポーツ機とあって狭く、シリウスシンボリと装蹄師の男は肩が触れ合うほどに近い。男は不用意に操縦系統に触れぬように注意しながら、4点式のシートベルトをきつく締めあげて座席に自らを縛り付けてある。

 

 真剣な表情でスイッチ類を操作しているシリウスから漂う香りが直に装蹄師の男に伝わる。柑橘類のようなどこか冴える感触がありながらも、ほのかに甘さが混じり、思わず理性が揺らぎそうになる香りだ。

 

 彼女の方を見れば、姿勢よく座り、シートベルトに締め上げられたシリウスの胸は窮屈そうにしている。

 

 彼女の香りとその有様を感知した男は図らずも心拍数が上がったが、それはおそらくこれから始まる未知のフライトのせいだろう、と思うことにした。

 

 

 格納庫から引き出され、暖気を終えた機体は、本来の居場所ではない地上を不自由によちよちと運び、やがて二人の眼前には滑走路の灯火が美しく映えている場所へ到達した。

 

 

「before takeoff checklist」

 

 シリウスがチェックリストの読み上げを男に求めた。

 

「ふ…フラップ」

 

「10、セット」

 

「キャブレターヒート」

 

「オフ、コールド」

 

「ミクスチャ」

 

「リッチ」

 

「エクスターナルライト」

 

「オールオン」

 

 慣れないながらも、先ほど持たされたチェックリストを装蹄師の男はたどたどしく読み上げる。シリウスは真剣な眼差しでひとつひとつ操作を確認し、応える。

 

 シリウスの勝気な、しかし真剣な眼差しが滑走路を見つめ、そしてチェックリストの先を促すように装蹄師の男にちらりと視線を寄越した。

 

「…スロットル」

 

「フル、オープン」

 

 背後のエンジンが回転数を上げ、唸りを高める。

 

「ブレーキ」

 

「リリース」

 

 機体がゴトゴトと滑走路上を駆け始め、目の前の速度計がじりじりと針を動かし出す。

 

 少しの緊張を感じながら、速度計の針が機首上げ速度に達するのを待つ。

 

「65ノット、ローテ―ト」

 

 シリウスにチェックリストに記されている速度に達したことを告げ、機首上げを促す。

 

 真剣な表情のまま、シリウスシンボリは操縦桿を少しだけ引く。

 その繊細な操作で、二人を乗せた機体はその居場所を本来あるべき場所へとふわりと押し上げた。

 

「…ふおぉ……」

 

 ちょっとしたGを感じながら、陸地がみるみると遠ざかり、地上の灯火を容赦なく後ろへと流していく。

 その様は、過去に旅客機に乗ったときでも小さな窓から見たことはあった。しかし薄い泡のように二人を覆うキャノピーから見るそれはライブ感が全く別物で、新鮮な感動を装蹄師の男に与えた。

 

 エンジンと推進式のプロペラによって生み出される運動エネルギーを位置エネルギーに変換しつつ、機体はぐんぐんと空を昇っていく。

 高度を上げていくと、地平線へ沈んだはずの夕陽が再び顔を見せた。

 

 エンジンのトーンがいくらか落ち着き、機体が水平飛行に移る。

 操縦桿を握るシリウスシンボリはいくらか肩の力を抜いて一息つくと、いくつかのボタンとノブを操作して、APと書かれたランプが緑点灯したことを確認すると、操縦桿から手を離した。

 

「いい眺めだろう。地べたを駆けずり回ってるのがバカらしくなる」

 

 シリウスシンボリは眼下に広がる、間もなく夜に移ろおうとする街の灯りを睥睨するように眺めながら、それでも口にした言葉のニュアンスとは反対の優し気な声で呟いた。

 

「この眺めの前じゃ、そのしょぼくれた顔もいくらか生気を取り戻すみたいだな。ルドルフに見せてやりたいよ。私はお前をこんな顔にさせることが出来るんだ、ってな」

 

 男の表情を眺めながら、知れた素性にからかいを入れてくるシリウスシンボリ。

 ルドルフへの対抗心をあからさまにしているその様に、装蹄師の男はどこか微笑ましいものを感じてしまう。 

 

「別にルドルフが原因でしょぼくれてたわけじゃねーぞ」

 

 装蹄師の男は下界に目をやったまま呟く。

 

 与圧のかかっていない機内で、装蹄師の男は地上との気圧差で頭の傷がズキズキと痛みで存在を主張を展開していることを感じていた。

 

「ほう。ならこのままどこかに攫ってやろうか」

 

 なにが「なら」なのかはよくわからないが、装蹄師の男個人をダシに、ルドルフに張り合いたくて仕方ないらしい。

 

「それは困るなぁ。ゴールドシップに頼まれた飛行機が造れなくなる」

 

 都心方面の夜景を眺めながら、装蹄師の男は冗談とも本気ともつかぬシリウスの言葉を受け流す。

 

 二人を乗せた機体は自動操縦によって徐々に高度を稼ぎ、東京湾を眼前に見渡す。

 

 前方には羽田空港へアプローチする旅客機の灯火が行儀よく並んでおり、下方にはレインボーブリッジや昼間に会議した汐留のテレビ局のビルがひときわ高く聳えているのが見える。

 

「…何で一度飛んだら壊れちまうようなモン、精魂傾けて造る気になったんだ?」

 

 シリウスは装蹄師の男に問う。

 

「特別な理由はない。頼まれたからでもあるし、楽しそうだから、かな」

 

 装蹄師の男はひどく平らな、当たり前の事実を述べるような調子で応じた。

 

「もっと楽しそうなことが、他にもあるんじゃないのか?」

 

 シリウスはそれに確信があるような挑発的な声音で、シートベルトをいくらか緩めると身体を男に寄せて、密着させてくる。

 

「おお、助かるな。さすがにこの高度だと寒いと思っていたところだ」

 

 装蹄師の男はシリウスの体温を感じ、出来得る限り動揺を感じさせぬように無味乾燥な言葉を口にする。

 

 しかし仮にも、イイ匂いのする飛びぬけて美形の彼女が相手である。ルドルフへの対抗心がそうさせているにしても、一人のオスとしては血圧が上がってしまう状況には違いない。

 

 自分の心拍数が悟られなければ良いが、と思いながら、意識を機体の観察に振り向けた。 

 

 

 

 

 

 

 翼端の航空灯が緑に煌めく様を見つつ、小刻みに揺れ、時折しなる翼を観察する。

 

「パワーがあるから速度も出るし、この翼面積でもいけるんだよなぁ…」

 

 ふむふむ、と装蹄師の男がひとりごちる。

 

 ゴールドシップの足漕ぎ飛行機はこの機体をモチーフにしているが、全体の構成を参考にしているに過ぎず、すべてはウマ娘が漕ぐことを前提に再設計している。

 

 さすがのウマ娘であっても、この機体のエンジンほどにパワーがあるわけではない。

 限られたパワーを有効に効率よく使い、スピードと飛行距離をバランスさせて飛行するために、翼長はこの機体の2倍程度はある設計になっており、主翼への考え方は根本的に異なる。

 

 もちろん翼長が伸びれば空気抵抗は増え、それは漕いでいるウマ娘の消耗を激しくさせることにつながるから、抵抗と揚力、そして生み出せるパワーの最適解の見定めが難しい。

 

「うーん…」

 

 しかしこの間のシミュレーターで取得できたデータをもとにして考えれば、装蹄師の男の考えていた最適解とは乖離が生まれているのも確かだった。

 

 やはり主翼はゴールドシップの脚質に合わせてもう一度効率を再検討し、再設計するべきか。

 

 

 

 装蹄師の男は主翼を見つめて思考の沼にハマりつつある。

 

 やはり現物で実際のものを眺めながら考えるというのは、想像以上に得られるものやインスピレーションを与えてくれるものだな、と頭脳の冷静な部分で思考する。

 

 気が付けば夜景の雰囲気と相まって、シミュレータの爆砕以降、燻り気味だったやる気が戻り、またワクワクしだしている自分を感じていた。

 

 シリウスシンボリの気まぐれな誘いは、彼女が思っている以上の影響を装蹄師の男にもたらしていた。

 

 

 

 

 

 

 これだけ肌を寄せて体温を感じさせているというのに、翼を観察しつつ時折唸り声をあげ、頭脳を働かせているらしい装蹄師の男。

 

 その状況にさしものシリウスシンボリも焦りのようなものを感じる。

 

「オイお前、女にここまでさせて恥かかせる気か?」

 

 装蹄師の男はシリウスの言葉にびくりと反応し、ゆっくりと身をこちらに向けようと蠢く。

 

 シリウスはそのまま男に身を寄せ、肩に頭を預け続けている。

 

 

 

 

 

 男が振り向くと、肩にしなだれかかるようにあるシリウスの頭頂部。ウマ娘用のヘッドセットを装着したまま、耳をひくりと蠢かせる。

 

「…ルドルフへの対抗心だけで気安くオッサンに身を預けちゃいけねえな。暖かいのは助かるけど」

 

 そう言葉をかけると、シリウスの頬が少し赤らんだ気がした。

 

「…なんかお前、落ち着く匂いがするな…」

 

 シリウスが俯いたまま呟く。

 耳は安心しきったようにしなだれたままだ。

 

 しばらくそのままの姿勢でシリウスの体温で暖まりつつ、装蹄師の男は夜景を眺める。

 

 エンジンの音は全く快調そのものの様子で安定したピッチを刻んでおり、キャノピーから見える景色は東京湾の夜景と、高い雲間からのぞく星空。

 

 男は今日の日中の喧騒も忘れ、空に魅入られていた。

 

 これは隣にいる美しいウマ娘に感謝しなければなるまいな、と男は思った。

 

「…お前が海外遠征で持ち帰った宝物のおかげで、もうひと頑張りできそうだ。ありがとな」

 

 装蹄師の男は特段何も考えず、飾らずに思ったままに礼を告げ、シリウスの耳の後ろあたりを優しく撫でる。

 

 シリウスはビクリと一度、耳を反応させたが姿勢は変えず、やがてされるがままになるように耳をぺたりとさせた。

 

 しばらくそうしていると突如、グスリ、と鼻を啜るような音がし、ヒクヒクとシリウスが肩を震わせだした。

 

「…シリウス…?」

 

 装蹄師の男は、体調でも悪いのかと心配し声をかける。

 

 彼女は俯いたまま肩を震わせ、男から身を離した。

 

 顔は前髪で覆われ、男から表情を伺うことはできない。 

 

 照らすものは計器類の照明のみという暗いコクピットで、太腿の上でぎゅっと握られたシリウスの手だけが妙に浮き上がって見えた。

 

「大丈夫か?」

 

 装蹄師の男が彼女の手にそっと手を添えると、ぽとりと雫が男の手の甲を濡らした。

 

「…海外で善戦はしたが、ついぞ一着を取れなかった私を、誰も認めてはくれなかった…」

 

 先ほどの勝気な声音は鳴りを潜め、ぐずついた様子でシリウスは語る。

 

「…そんなところで稼いだ賞金を持ち帰るのは腹立たしくて…コイツに変えて持ち帰ったんだ…」

 

 装蹄師の男はシリウスの内心を慮りながら、掌を重ねていた。

 

「…そうだったのか…それは、つらかったな…」

 

 彼女が言葉にしにくそうな部分を男は敢えて、口にする。

 

「…あぁ…そうだな。そうだったんだろう。今思えば」

 

 彼女は顔を上げて、天を見上げる。

 

 この機体のまるで戦闘機のようなキャノピーで上を見上げれば、およそ東京の地上では見ることのできない満天の星空が視界を遮ることなく迎えてくれる。

 

 その星々の輝きを反射するように、シリウスの目じりにたまった涙がきらきらと光る。

 

「…この機体を持っていることも、どこか後ろめたく感じていた。認めてくれたのはお前が初めてだ」

 

 シリウスはそう言うと、目じりの涙を指先で拭いながら、先ほどまでの勝気な笑顔とは違う、柔らかな笑顔を浮かべて装蹄師の男に視線を合わせた。

 

 そのとき、コクピットに控えめな電子音が響き、シリウスが走らせた視線の先、APとかかれたランプが橙に点滅して何かを訴えた。

 

「…お楽しみは終わりみたいだな。自動操縦をセットしていたコースはここまでだ」

 

 シリウスが操縦桿を握り直し、スイッチを切ると電子音は止んだ。

 

 

 

 

 

「折角だ、ちょっと寄り道していこう」

 

 地形から見るに、機体は東京湾を抜け三浦半島あたりのようだ。

 

「元々、こいつは安定して飛ぶための機体じゃないんだ」

 

 挑発的な声音を取り戻し、不敵な笑みとともに呟いたシリウスは、装蹄の男を前に向き直らせると男の手を取り、ダッシュボード端にある把手を握らせる。

 

「シートベルトはきちんと締めてるか?よろしい。少し、付き合ってもらおう」

 

 そういうとシリウスは自らの緩めていたシートベルトをきつく締めなおし、操縦桿を握りなおした刹那、大きく右に倒してフットペダルを踏み込んだ。

 

「………!」

 

 急なバンク角を取りながらの緩い旋回下降、シリウスはスロットルを開き、高まるエンジン音とともに速度を増していく。

 

「この空域がこの時間空いてるのは確認済みだ。あとでちょっとお叱りをうけるかもしれないがな」

 

 ダッシュボードを掴まされ、急に襲ってきたジェットコースターのようなGに驚いた表情の装蹄師の男に、シリウスは楽しそうにそう告げる。

 

「ご挨拶といこうか」

 

 シリウスは操縦桿とスロットル、フットペダルを巧みに操って右旋回から左にバンクを切り返し、品川方面へ進路を定める。

 

 左手に横浜ベイブリッジが見えたと思ったら扇島へと折れる首都高速湾岸線を飛び越し、羽田空港とやや距離を取るように内陸に入る。

 

 速度計は190ノットあたりを指しており、眼下の新幹線と思しき光の糸をあっという間に置き去りにする。

 

 シリウスはスロットルを絞るとエアブレーキレバーを一気に押し下げた。

 

 がくん、と衝撃があり、小刻みな振動と共に減速感とふわりと浮き上がるような感覚に襲われ、肩にシートベルトが食い込む。高度計はみるみるうちに下がっている。

 

 シリウスはほんの数秒でエアブレーキを閉じると再びスロットルを開き、今度はフラップを下げた。

 

「暢気に仕事に打ち込んでいる皇帝サマの頭上を優雅に飛び越していってやろう。さすがに窓から覗いてやるって訳にはいかないがな」

 

 眼前にみるみる迫ってくる東京の高層ビル群。

 

 シリウスの操る操縦桿は正確に、その中から真正面にURAの本部ビルを捉えていた。

 

「ちょちょちょっっっ…」

 

 装蹄師の男は把手を握る掌に力がこもる。

 シリウスは素早い操作でフラップを閉じ、機体は急降下爆撃よろしくURA本部ビルに突っ込んでいく。

 

 装蹄師の男が思わず目を閉じかけたその時、シリウスは目いっぱい操縦桿を引いた。

 

「…ぅぐ…」

 

 強烈なGが身体を鉛のように重くする。

 

「…ぁ…」

 

 男の意識は機首が向いた満天の星空に紗がかかるようにぼやけたのち、暗がりに転げ落ちるように途切れた。

 

 

 

 

 




   


…なげぇよ…>俺

シリウスの解像度に不安があります(震え)

いつもお読みいただきありがとうございます。
不定期かつムラのある更新で申し訳ありません。
今後ともよろしくお願いいたします。
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