空を飛びたいウマ娘と山奥の装蹄師の話   作:小松市古城

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書き散らしでスイマセン。


2:2週間目のセミくらい元気でねえぜ

 

 

 

 

 ゴールドシップは何か物足りないと、常に感じていた。

 

 競走ウマ娘としてレースを戦い、トレセン学園で過ごした日々は刺激に満ち溢れ、それは楽しい日々だった。今思い返すと、本当に宝物のような時間だった。

 

 トレセン学園ではレースを戦い、チームメイトと悩み、時に励まし、学園の中では自由気ままに振舞い、そしてそれに突っ込んだり絡んだりしてくれる友人たちがいた。

 

 学園を卒業し、それぞれの進路に散っていった仲間たちは、ある者は大志を胸に抱き、ある者は自分の夢を実現せんとし、ある者は一族の伝統を引き継ぐべく、それぞれの道を邁進していた。

 

 

 もともとゴールドシップは自分と他人を比較したりはしない性質だが、それでもレースから身を引き、トレセン学園を卒業してしまった今、それぞれの道に進むかつての仲間たちとたまに顔を合わせたりすると、なんとも表現しづらい寂寥感に包まれることがあった。

 

 

 

 自由気ままに振舞ってきた自分には、この先へ続く道も、成すべきこともなにもないと思わされてしまうのだ。

 

 ゴールドシップという空っぽな殻の中に、自分が取り残されているような気がした。

 

「…2週間目のセミくらい元気でねぇぜ…」

 

 夜半、一人きりの部屋の中で膝を抱き、そう呟いてみても、それに対してリアクションしてくれる仲間はいなかった。

 

 

 

 

 満たされない日々が続いたある夜、河原に寝転がったゴールドシップは空を見つめて己の内にある虚無感と向かい合っていた。

 

 こういう時はいつも、賑やかに過ごした学園時代を思い返してしまう。

 

 学園という枠内、あるいはチームスピカという枠があってこそ、彼女の自由さは輝いていたと思う。

 

 そもそも他人からなにかを言われてなにかをしてきた、ということは彼女にはない。

 

 スピカが居心地がよかったのは、トレーナーである沖野が彼女の性格をよく理解していて、彼女になにかを強制することがなかったからだ。

 

 それでいてうまく手のひらで転がすようにG1で勝たせたわけだから、沖野トレーナーは名伯楽だとは思う。そして彼の許でチームメイトたちに遅れること幾星霜、望み続けた自分の時代を手に入れた。   

 

 しかしいつかは引退の日が来てしまう。

 

 その日が到来して、彼女が失ったのは自らが熱くなれる「レース」という彼女自身を剥き出しにできる舞台だった。

 

 そして舞台から降りた自分が、チームに居続けることもまた、できない。

 

 そうか、アタシはアタシらしく居られる舞台も、場所も喪ったんだ。

 

 彼女はそう結論付けた。

 

 

 

 

 フラストレーションを溜め込んだ末に、自らの内部に答えを見出したゴールドシップだったが、理由がわかったところで、その解決策を見出すのは容易ではなかった。

 

 それからというもの、持ち前の行動力を無理やりに発揮し、熱くなれるモノ、自らの舞台、そして居場所を求めて、改めて漁師に弟子入りをした。

 

 しかし彼女は天才だった。

 

 そしてウマ娘としても突出した身体能力、天からの授かりものであるゴルシちゃんレーダーと能力をフルに発揮した結果、出る漁はことごとく爆釣大漁、瞬く間に師匠と崇めた漁師から免許皆伝を申し伝えられてしまった。

 

 そのあとも思いつくままに温泉掘削に挑んでは掘り当て、石油も掘ってみたが掘り当て、無人島ではさすがに何も出ないだろうと掘ってみたら、何らかの遺跡のようなものを発掘してしまった。

 

 全て、ゴールドシップが熱くなる前に結果に至り、ケリがついていた。

 

 

 

 結局彼女は、自らの虚無感と向き合った河原に戻ってきてしまった。

 

 様々なことを試したが、結果はゴールドシップの銀行口座、その残高の桁がひとつふたつ上がっただけのこと。

 

 元々カネを稼ぐことは好きではあるが、カネが好きなわけではない、稼ぐという行為が好きなだけである彼女にとっては、その数字は空虚ですらあった。

 

   

       

 寂しさに耐え兼ねたとき、また気が向いた時にゴールドシップには訪れる場所があった。

 

 それは関東平野の端の山奥にある蹄鉄工房である。

 

 この世の不条理にものの見事に嵌り込み、学園から去った装蹄師が開業したそこは、彼女の現役時代の脚元を支えた工房でもあった。

 

 装蹄師の男は学園を去っていたがゆえに、彼女が現役から退いても、関係性は変わらなかったのだ。

 

 いつ工房を訪れても装蹄師の男は変わらずなんらかの手仕事をしていて、ゴールドシップはそれにちょっかいをかけたりして雑にあしらわれたりと、それは装蹄師の男が学園に工房を構えていた時と何も変わらない。

 

 それはゴールドシップにとって数少ない、だたの剥き出しの彼女自身で居られる場所だった。

 

「なぁおっちゃん100年後ヒマ?ヒマだったら宇宙行こうぜ!」

 

 そんな軽口も自然に自然に出てくる。

 

「100年…100年後なぁ…100年後には気楽に宇宙に行ける時代になってるといいなぁ…生きてたらなぁ…」

 

 相変わらず彼女の問いかけに対する返しは雑だ。

 だがゴールドシップはその雑さに心地よさを感じる。

 

 刹那、ゴールドシップの中で閃きが舞い降りる。

 

 彼女は駆け出した。

 

 空には、調布から上がったと思しき単発のプロペラ機がのんびりと飛行していた。

 

 

 

 

 

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