レナトゥス!~にじさんじ妄想トーナメント~   作:くろぷり

1 / 13
プロローグ
未来からの来訪者


 その日、私は絶望の淵にいた。

 

 悪魔をその身に宿したかと思わせる程の力で襲い掛かって来る一人の少女……

 

 肩まで伸びる綺麗な茶色の髪……その髪を彩るピンクのリボン……

 

 可愛らしい見た目とは程遠い、血塗られた身体……

 

 肩から左腕は無く、瞳は赤く光っている。

 

「きゃああああ!」

 

 悪魔の力を宿した少女に、銀色の髪の少女が飛び込み……弾き飛ばされた。

 

 私の近くまで飛ばされた銀髪の少女は、可憐な口から流れ出る血を拭うと、大剣を構え直す。

 

「リゼ! ヘルエスタセイバーじゃないと無理だ! 私の錬金術で生み出した剣じゃ……」

 

「ヘルエスタセイバーが来るのを、待ってなんていられない! 私が……私が、ルルちゃんを止めるんだ! ルルちゃんが正気に戻った時……これ以上の悲しみを背負わせる訳にはいかないんだ!」

 

 リゼと呼ばれた少女は、大地を蹴って絶望を生み出す少女に再び接近する。

 

 が……敵意を剥き出しにして攻撃してくるルルと呼ばれた少女相手に、リゼの剣は優し過ぎた。

 

 刃が当たらないように剣の腹で攻撃しようとしたリゼの真横から、突然鋭い刃が飛び出してくる。

 

「リゼはん、危ない!」

 

 リゼと刃の間に飛び込んだ犬の様な少女は、両腕をクロスして刃の攻撃を受け止めた。

 

 刃を受けた部分の給仕服が斬り裂かれ、綺麗な白い肌が赤く染まる。

 

「とこちゃん! そんな……」

 

「るるはんを止められるのは、リゼはんだけや! 戌亥の事は、気にせんでいいから!」

 

 傷ついた仲間に後ろ髪を引かれながらも、リゼは足を前に出す。

 

 大切な友を救いたい……ただ、それだけの為に……

 

 しかし、どれだけ足を前に出しても辿り着かない。

 

「時空が……歪んでいる? ゆうたの力を完全に使いこなしてる! リゼ、戻って! このままじゃ、ヤバイ!」

 

 赤髪の少女……アンジュの声は、リゼに届かない。

 

 ルルと呼ばれた少女を中心に時空の歪みが拡大し、空間が擦れていく。

 

 歪みが竜巻の様に……嵐の様に、周囲の人や物を巻き込み消し去り始めた。

 

 逃げ惑う人々……そんな観客達を守ろうとする大会の参加者達……

 

 私は足が震え、動けなかった。

 

 なんで……こんな事に……

 

「おい、動けんのか? 早く逃げないと、飲み込まれるぞ!」

 

 銀色のポニーテール……スタイルの良いカッコイイ女性は、日本刀の様な剣を構える。

 

 一瞬の静寂……そして放たれる一閃の抜刀……

 

 剣圧が時空の歪みにすら影響を与え、嵐の動きを一瞬止めた。

 

「あんた、名前は?」

 

「私……夕陽リリ……」

 

「リリちゃんな……ここは危険だ。あそこに、ツインテールの魔法使いがおる……あそこまで走れるな?」

 

 優しくも力強い声に頷くと、黒髪と銀髪のツインテールの女の子に向けて走り出す。

 

「れなちゃん、後は任せた。後は……少し時間を稼ぐぐらいしか出来ないか……」

 

 時空の歪み拡大のスピードが増していく……観客の殆どが飲み込まれ、会場に残された人は少なくなっていた。

 

 それでも、ルルちゃんと呼ばれた少女は唸り声を上げ、力を解放し続ける。

 

「シェリンさん、もう一回飛ぶわ! 掴まって! 貴女も……早く!」

 

 伸ばされた手を握った瞬間、景色が変わる……いや、会場から外には出れていない。

 

 しかし、台風の目というべきなのだろうか……時空の歪みのスポットに入ったかのように、穏やかな空気に包まれる。

 

「社長、冬雪、どう? いけそう?」

 

「夜見さん、なんとか1人は飛ばせそうだ!  シェリンさん、行ってくれ!」

 

 小型の乗り物のパーツを持って作業をしていた男の人……気品の漂う男性が、コチラを向いて叫ぶ。

 

「いや、観客だった人がいるんだ……助けるなら、彼女からだ。我々の戦いに巻き込んだ様なモノだからね」

 

「そうだね……あなた、コレに乗って! 必ず助けるから!」 

 

 私は何かを言う事も許されず、オシャレな白衣を着た少女に小型の乗り物に押し込まれた。

 

「ロクな説明も出来なくてゴメンだけど、とりあえず聞いて! これは加賀美インダストリアル社製の簡易タイムマシンなの! これに乗ってタイムスリップすれば、あなたは助かるわ!」

 

 タイムマシン……て? 

 

「時空の歪みを超えて行くから、大会の前日が精一杯か……今会ったばかりの人に言うのもなんだけど、この大会……止めてくれないかな? こんな世界、誰も望んでいない……お願い、私の仲間達を救って欲しい。お願い……」

 

 綺麗な赤い瞳に、真剣な表情……細い指には無数の傷がある……自分じゃない誰かを救う為に、自らを犠牲にしてこの乗り物を作ったのだろう……

 

 そう思うと、私は首を縦に振っていた。

 

 彼女だけじゃない……皆、自分を犠牲にしながら、誰かの為に戦っていた。

 

 短い間だったけど、短い触れ合いだったけど、こんな素敵な人達を救いたいと思った。

 

「葉加瀬さん、ここも危ない! 早くしないと、彼女の命も救えなくなる! 急いで下さい!」

 

「冬雪、これシェリンさんから! この大会の顛末を記録したって! 手書きだから、読み辛いかもしれないけど……」

 

 夜見からシェリンのメモを受けとった葉加瀬は、そのメモをタイムマシンの内側にマスキングテープで固定する。

 

「時空の歪みを抜けるから、記憶の混濁が起きると思う。このメモを見ても思い出せないかもしれない……でも、私はあなたを信じるわ。あなたも私達の仲間の1人……何故だか、そんな気がするから……お願いします、リリ先輩……」

 

 え? 

 

 先輩? 

 

 会った事もないのに……なんで? 

 

 名前も……言ってないのに……

 

 でも、何故だかしっくりくる……

 

 守りたい……守らなくちゃいけない……

 

 掛け違えたボタンを見つけて、正しい未来へ……

 

 光に包まれた私の身体は、時間を逆流する。

 

 素敵な仲間達を救う為の旅立ち……悲しみの未来を変え、楽しめる日常を取り戻す為に……

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。