「葛葉、後は任せていいか?」
「そんな話を聞いちまったら、やるしかねぇだろ。確かに、ABOは優し過ぎるからな。多少は怒らせてやらねぇと、本来の力は出せねぇだろう。けどよ、ABOの役……俺じゃダメなのかねぇ。ちょっと拗ねちゃうよ」
「無駄口たたいてないで、もう行けよ。試合、始まるぞ。凛月さんも難敵だ……だが、出来るだけ傷つけずに勝って来いよ」
無茶いいやがって……そう言いながら、葛葉は歩きながら手をヒラヒラさせて歩き始める。
「お前より、エクスの方が単純だからな……それに優しさで言ったら、お前も変わらねぇだろ……だから、エクスが適任なんだ……」
ポケットに両手を突っ込んだまま、剣持刀也は葛葉の後ろ姿を見ながら呟いた。
「みんな~いくよー! 輝く一番星! 星川サラでーす!」
「星川……結構ヤバイ試合が続いてるってのに、それやるかね?」
呆れた表情で言う夢追翔を睨み、星川サラは頬を膨らます。
「そういう試合が続いていて、会場がシーンとしちゃってるからやってるんでしょ! パパはエンターテイメント、分かってないなぁ~」
「確かに、会場全体暗くなっちまってんな。星川、俺達の歌で会場に活気を取り戻すぞ!」
「オッケー! ミュージック・スタート! パパ、本気で歌ってよ!」
今までの殺伐とした会場の雰囲気が、2人の歌で変わった。
会場全体を巻き込みながら、セットリストは続いていく。
「こんなに素敵な歌を唄う人達が、あんな未来を導いてしまうの? ダメ……迷っちゃダメ……私だけならいい。でも、皆が不幸になる未来を正す為に私は来たんでしょ? しっかりして、私の心……」
聴いてるだけで、元気や勇気が湧いてくる素敵な歌声を否定するように首を振ると、白い髪の女性は耳を塞ぐ。
「勝者、夢追翔!」
「えー! なんでよー! 訳が分からん!」
ステージの上ではしゃぐ2人……そんな2人を見ない様に、白い髪の女性はその瞳も閉じた……
「これ……どーすりゃいいんだ?」
矢車りねと対峙? している葉加瀬冬雪は、顔を天空に向けていた。
それでも、矢車りねの胸辺りまでしか見えない。
「本当に、これ使わないと……使ったところでって、気もするケド」
加賀美社長から託されたアマード・モジュール……キミア・ロギオス。
15M以上あるキミア・ロギオスだが、それでも矢車の股関節程度にしか達しない。
「まぁ……やるしかないよね! 社長、信じるよ!」
葉加瀬の声に応える様にキミア・ロギオスは膝をつき、胸のコクピット・ユニットが開く。
軽快な動きでキミア・ロギオスに乗り込んだ葉加瀬は、シートに深くもたれ掛かかると両手を開きコントロール・スティックを握る。
「と言っても、勝つビジョンが全く見えないんだよなー。矢車先輩を傷付ける訳にもいかないし……」
飛び上がったキミア・ロギオスだったが、矢車に近付くと計器が狂い始めモニターの映像も乱れ始めた。
「機体が不調……の訳ないよね。社長が、そんな適当な仕事をする筈ない。だとしたら……」
葉加瀬がコンソール・パネルを凄まじいスピードで叩と、モニターに数式が次々と浮かび上がる。
「これ……そんな事……ある?」
矢車の顔の正面まで飛び上がったキミア・ロギオスだったが、その瞬間に胴体の辺りまで移動していた。
いや……移動なんて生易しいモノじゃない。
瞬間移動したといっても過言ではない……目の前の景色が一瞬で変わる。
為す術なく矢車の巨大な手に捕まれたキミア・ロギオスは、そのまま巨大な口に誘われていく。
「ちょ……先輩……マジ?」
葉加瀬の言葉は矢車に届く事は無く、キミア・ロギオスは矢車の口の中に放り込まれた……