「いよいよ明日かぁ……他のライバーさん達と戦うなんて、私に出来るのかなぁ?」
夕露に濡れる花に手を伸ばしながら、エリー・コニファーは大会に出る意味を自問自答していた。
大切な仲間達を傷付けるかもしれない戦い……ゲームなんかじゃない、本当の戦い……
事務所からの出場依頼を断れなかったエリーは、少しの後悔を感じていた。
一瞬……花から目を離したのだろうか?
エリーの手に、花ではない軟らかい感触を伝えてくる。
「え? なに?」
視線を上げて、自らの腕の先を見て……
「はわわわわっ! ごめんなさいっ!」
勢いよく引いた腕の反動で、エリーは後ろに転がってしまう。
「大丈夫ですか? そんなに慌てなくても宜しいのに……」
白い髪、透き通るように綺麗な肌、青空のように清々しい瞳、包み込まれるような安心出来る声……
長く細く……流れる様に差し出された手に、エリーは掴まり起き上がった。
「あの……ごめんなさいっ! お花を触ろうと思って……でも、考え事をしていたから、あまり見ていなくて……」
「大丈夫ですよ。私の方こそ……お花に見惚れてしまって、見ていませんでした。ごめんなさいね……綺麗なお召し物が、汚れてしまいましたわね……」
エリー自身には見えないが、転がった時に背中を地面に付けたのだろう……微かに濡れている感じが皮膚に伝えてくる。
「ありゃー、直ぐに洗濯すれば落ちるかなぁ……」
「私の責任なのですから、任せてもらえませんか? 少し動かないで……」
白い髪の女性の汚れの無い手の中に、光が集まっていく。
その光を、エリーの背中……メイド服の汚れた部分に押し当てる。
光が汚れを吸い取り、光から流れ出る蘭の香りが微かにエリーの鼻に触れた。
「この香り……蘭の香りだぁ……上品で、少し甘い匂い……」
「あら……凄いわね。蘭の香りなんて、殆どの人が分からない筈なのに……お花、好きなのね」
邪気の無い純真な笑顔を向けられて、エリーの顔もほころぶ。
「あはは! 私、お花の妖精なんですよ! だから……お花も、お花を愛してくれている人も、大好きなんです!」
「そっか、妖精さんなんですね。お花の妖精さんなら、匂いが分かるのも納得です。それでは妖精さん、失礼しますね。申し訳ありませんでした」
ゆっくりと……上品に頭を下げた白い髪の女性は、ほんの少しだけ影を帯びた表情のままエリーの横を通り過ぎた。
「はわわわわっ! ちょっと待って下さい! 私、まだお礼も言えてません! 私、エリー・コニファーって言います! お名前だけでも、教えてもらえませんか?」
「エリーさん……素敵なお名前ですね。私は、ホワイト・ベルベットと申します。お礼なんて……私のせいで汚れてしまったお召し物を綺麗にしただけ……エリーさんが気にする事は何もありませんよ」
ホワイト・ベルベット……白雪姫……
「お姫……様?」
「えっ?」
突然のエリーの言葉に、白い髪の女性は足を止める。
「そっか……お姫様か……エヘヘ」
「あの……エリーさん、どうかしましたか?」
困惑した表情のホワイト・ベルベットに、満面の笑みを向けるエリー。
「姫、困っている事や悩んでいる事はありませんか? お花の妖精兼メイドのエリー・コニファーは、姫に仕えたいと思います! 今日だけですけど……」
「ふふっ! ありがとう、エリーさん。そうね……でしたら、女2人でお茶会でもしませんか? なんだか、エリーさんには何でも話せてしまいそうです」
「でしたら、私が美味しいお紅茶を淹れますね! 行きましょう、姫様!」
エリーは、ホワイト・ベルベットの手をとり歩き出した。
そしてホワイト・ベルベットの話が、エリー・コニファーをトーナメントに向かわせる理由となる。
修羅になる覚悟を決めたエリーは、内に秘めた炎の力を解放した。
大切なお盆に、紫の花の紋章を携えて……