「契約者を名乗って呼び出すなんて、失礼な奴だね。お前……」
「デビル様、申し訳ありません。どうしても、力になって欲しい事がありまして……私、こういう者でございます」
黒いハット帽に黒の強いサングラス……高身長ながら物腰は柔らかく、しかし威圧感はある。
なんとも形容しがたい細身の男が、でびでび・でびるの前に立っていた。
その男から差し出された名刺を見て、でびでび・でびるは怪訝そうな表情を浮かべる。
「お前、CZAの人間じゃねーか。なんだ? このタイミングで、スカウトでもしたいわけ?」
「勿論……デビル様が移籍してくださるなら、社員一同大喜びで迎え入れますよ。ですが、今回は違う件でのお願いで参りました。少しだけでも、話を聞いて頂けると助かるのですが……」
でびでび・でびるは少しだけ考え込むが……クルリと後ろを向いて、手をヒラヒラとして立ち去ろうとした。
「お待ち下さい。今、忙しい事は承知しております。しかし、今回お話したい事はトーナメントに関係のある事なのです。具体的に言えば、鈴原るる様の事で……」
女性ライバーの名前を聞いた瞬間、でびでび・でびるの動きが止まる。
「美大生が……どうかしたのか?」
「いえ……ですが、その反応……我々と同じ様に危惧されているご様子ですね」
でびでび・でびるは振り返ると、全身が黒い男を睨みつけた。
「デビル様……私は、敵対する為に来ている訳ではありません。我々は、バーチャルライバーグループ……経営者はバチバチかもしれませんが、ライバー様達は同士だと思っております。今後はコラボして頂くかもしれませんし、一緒に仕事をする可能性だってある。だからこそ、大切なライバー様は守っておきたいのです」
「それが、美大生って事か?」
男は頷くと、タブレットで鈴原るるのデータを表示し、でびでび・でびるに見える様に差し出す。
「我々も当然ながら、優秀なライバー様の動向は気にかけております。そして、今回のトーナメントには鈴原るる様も参加されるとの事……るる様の性格を考えますと、少々危険なのではないか……我々は、そう考えております。そして、我々としても優秀なライバー様を失う事は避けたいと思っております」
「危険なんて無いだろ? 仲間同士で争うだけなんだから……ぼく達は、仲間を本気で傷つけたりはしない」
男はサングラスに軽く手をかけ、首を傾げる。
「デビル様は悪魔と聞いておりましたが、優しいのですね。ですが、人間には悪魔より残忍な者も沢山いる。本気で挑んで来る者に対し、るる様の諦めない心は危険です。デビル様も気付いているのでしょう? 優しく身体的には弱いるる様が、最強クラスの強靭な心を持っている。下手をすれば、命が尽きるまで立ち上がり続ける可能性がある」
「そんな事は分かってる! 貴様に言われなくてもな!」
語気を強めたでびでび・でびるに怯む様子もなく、男は一歩だけ足を踏み出す。
「ならば、何か対策をしなければ……何も無ければ、それに越した事はありません。しかし、何か起きてからでは間に合わない。トーナメント開始までに対策を講じなければ、るる様のお命が……」
「けど……」
男は持っていた黒いバックからピンクのリボンを取り出すと、でびでび・でびるの爪にかける。
「るる様が髪留めに使っている物と同じ物です。そして、回復のエレメントを練り込んでおります。危険な物で無い事は、デビル様なら分かるかと思いますが……」
「確かに、危険は無さそうだね。でも、回復だけって……」
男は頷くと、再びサングラスに手をかけ……そして、上目遣いででびでび・でびるを見た。
「そうです。どんな事があっても立ち上がる人に、自然回復するスキルは地獄の様な物……痛みは感じるのですから……ですが我々の力では、ここまでが精一杯です。それを渡すも、新たなる力を付加させるのも、渡さないのもデビル様にお任せします。るる様の為になる事を一番に考えて動いてくれると、信じておりますよ」
男は黒いハット帽を胸の前に持ってくると、深々と一礼し去って行く。
でびでび・でびるは、爪にかけられたピンクの髪留めを見詰めた。
黒い男の言う通り……美大生は、ボロボロになっても挑み続けるだろう……命と引き換えでも、戦い続けるかもしれない。
そして、今回のトーナメントに乗り気なライバーがいることも事実だ。
どこかで美大生の命が尽きる……
諦めない心があるなら……回復のスキルがあるなら……
でびでび・でびるは、髪留めに悪魔の力を付加した。
相手の攻撃を受ける度に、少しずつ相手の力と同等の力を得られる能力……
この時でびでび・でびるには、髪留めにブースターのエレメントが練り込まれている事に気付けなかった……