トーナメントAブロック1
「僕と神田くんとエクスくんを同じブロックにしてきたか……彼らも、止める事に必死みたいだな。けど、僕と神田くん……どちらかが辿りつけばいい。そういう意味では、同じブロックの方が都合がいい」
叶はそう言うと、愛銃であるM24を持って立ち上がる。
「頼むよ相棒。敵を撃ち、全てを変える。悪魔に魂を売るんじゃなく、悪魔を屈服させてやろう」
叶の進む先に、トーナメントのバトルフィールドが広がっていた。
その舞台に立った叶の口元は、僅かに緩んでいる。
戦いを楽しみにしているかの様に……
「勝者、叶!」
M24の銃口からは、まだ硝煙が立ち上っている。
硝煙の匂いが会場を包む間もなく、勝敗は決していた。
仲間への躊躇いのない銃撃……銃弾を受けた御枷原江良は、血を流しながら倒れている。
大量の出血……この大会が、何でもアリと言う事を再認識させられた。
「おい……叶さん、やり過ぎだ! いくらなんでも、いきなり銃をぶっ放すなんて! 本当に死人が出るぞ!」
怒りの形相でフィールドに入ろうとする加賀美ハヤトは、屈強な警備員達に取り押さえられてしまう……が、その歩みを止めようとはしない。
こんな危険な大会に、葉加瀬と夜見は参加している。
もうエントリーしてしまっている以上、命に関わるような危険行動は止めさせなければならない。
仲間を危険に晒す訳にはいかない……自分の命に代えてでも、守らなければならない大切な仲間達……
そんな加賀美の肩に、小さな手が……しかし大いなる意思を持った手が、その動きを止める為に触れてきた。
「リオンさん、何故止めるんです? いくらなんでも、こんな事を許していてはいけない!」
「社長、かなかなはレギュレーション違反をしていないわ。今、社長がフィールドに入ったら、大会から追い出されてしまう。気持ちは分かるけど、一度引いて」
「しかしっ……ライバーが命を懸けるような大会ではないでしょう!」
引こうとしない加賀美の腕を、鷹宮リオンはか弱い力ながらも力一杯に引っ張る。
「いいから! ちょっとコッチ来て!」
リオンは加賀美を連れて、大会の喧騒から離れていった……
「そんな……なんで?」
魔界ノりりむ対神田笑一の一戦。
サキュバス対人間という確実にサキュバスに分があるであろう対決は、その予想を覆し人間である神田がりりむを圧していた。
神田の素早い動きと両手に持った包丁の変則な動きに、りりむの身体は斬り刻まれていく。
サキュバスとしての能力は使っている。
普通の人間なら、魅力(チャーム)の能力でりりむの虜になる筈……誰も傷つけず、勝つ事が出来る……そう、思っていたのに……
斬られる度に、鋭い痛みが身体を駆け巡る。
「くそっ! りりむさん、もう倒れてくれ!」
魅力の力を弾き返す程の意思の強さと、優しさの感情が入り乱れていく。
その感情は、りりむも感じていた。
「なんで……そんな辛そうに……」
「すまんな……これで終いだ!」
りりむの背後をとった神田は、素早い動きで包丁の柄を小さな頭の後頭部に叩きつけた。
鈍い音と共に、りりむの小さな身体は軽く宙を彷徨う。
「勝者、神田!」
りりむの身体が地面に倒れた瞬間、勝利者のコールが響く。
神田は、そのコールが終わる前にフィールドを降り始めた。
「神田……あんた、何があったの? それに、その顔……」
何かに葛藤しているのか……辛そうな表情を浮かべる神田に郡道美玲は近付こうとしたが……生々しい血液の付いた顔から表出される冷たい視線に足を止める。
何か言いたそうに口元を動かした神田だったが、視線を郡道から外すと何も言わずに参加者ゲートから外に出て行く。
「本当に、何があったの? 神田のあんな表情、始めて見た……」
呟く郡道の次の相手は、その神田笑一……
「先生、ちょっといいですか? 話しておきたい事があるんです」
「鷹宮さん……鷹宮さんは、今回の大会……どう見てます?」
郡道の言葉に、リオンは瞳を閉じた。
静かな風が二人の間を流れ、リオンの綺麗な金髪がフワッと揺れる。
柔らかな笑顔の中の確固たる信念……そして、リオンは口を開く。
「私達……にじさんじライバーの未来を決める戦い……だよ」
その言葉は、静かな風に吸い込まれて流れていった……