「叶先輩、その話……どこまで本当なんですか?」
「さて、どこまでだろうね? でも、エクスくんが鍵を握っている事は間違いない。僕達にじさんじライバーの未来……その一歩目の鍵をエクスくんが握っている。そして、その鍵を導けるのはアルスさんしかいない。そう言う事です」
叶はそう言うと、タブレットを閉じてアルスの控室から出て行こうとする。
「ぼくは、本気でえびおと戦えばいいんだよね? それだけで……いいんだよね?」
出て行こうとする背中目掛けて問い掛けられたアルスの言葉に、叶は足を止めた。
「ええ……エクスくんには、神田くんが策を弄しています。アルスさんはエクスさんの質問に、ただ肯定して戦ってもらえればいいです。後の事は任せて下さい」
そして、叶は静かに歩き始めた。
その口元に僅かな笑みを浮かべて……
「師匠! CZAと手を組んで、にじさんじを潰そうとしているって……本当なんスか!」
「いや……ん? そういう事になってるのか? って、ちょっと設定が雑過ぎだよ、叶先輩」
「何をブツブツ言っている! 師匠、どっちなんだ? 別に、にじさんじからCZAに移るってんなら止めやしない! けど、にじさんじを潰すってんなら話は別だ!」
エクスの本意気の言葉に、アルスは溜息をついた。
「まったく……真に受け過ぎなんだよなー。馬鹿と言うか純粋と言うか……でも、だからこそ希望になり得るって事なんだろうな……いいよ、叶先輩。ぼくが人柱になる。それで、最悪な未来が換えられるならば……」
アルスはエクスの言葉を無視して、魔法の詠唱に入る。
エクスの頭上……天空からの閃撃。
雷が光と共にエクスを襲う!
ガガガガガァァァァァァァァ!
雷撃と地面が焼けて破壊される激しい音が、決戦会場に響き渡る。
エクスは聖剣を避雷針代わりにして、後方に跳んで雷撃を避けた。
「やってくれたな……師匠! 今のが答え……って事でいいんだよな!」
エクスは怒りで拳を作る。
アルスから貰った聖剣は地面に突き刺したまま、エクスは足に力を入れた。
どんな理由があれ、大切な人を傷つけたくはない。
しかし自分にとって大切な場所を潰そうとしているなら、話は別だ。
考えが変わる程度には……いや、強制的にでも話を分からせる為には……
素早い動きで間合いを詰めたエクスは、アルスの小さな身体目掛けて固く握った拳を叩き込む。
「えび先輩、ぼくが魔法使いって忘れてないか? ぼくの魔法は、防御だって出来る!」
力一杯繰り出されたエクスの拳は、アルスの周りに網状に張られた電流に絡みとられた。
「だあああああぁぁぁぁ!」
周囲の電流が電撃となり、エクスの身体を焼きながら弾き飛ばす。
「くそっ! 師匠、本気なんだな! 本気で俺を倒そうって事でいいんだよな? そう思っていいんだよな!」
「あー、もぅ……本当に単純……でも、先輩達の言っている事が本当で、その先の為に戦う必要があるのなら……えび先輩ゴメンね。これから先の戦いは、ぼくよりズッと辛い戦いになる。でも……頑張れ……」
誰にも聞こえない声で呟いた後、アルスは右手を天空に掲げた。
「英雄さん! 本気でいくよ! ぼくの最大魔力を使った電撃を……くらえっ!」
「ちっ! 俺なんかに最大魔力なんか使うんじゃねぇよ! 絶対にぶん殴って、目ぇ覚まさせてやるよ!」
エクスは意を決して、素手のまま電撃の嵐に飛び込む!
「何やってるの! 剣で電撃を防ぐんだよ! もぅ……世話の焼ける……」
そう言いながら、アルスの顔は笑っていた。
そう……これがエクス・アルビオだ。
頭が悪くて単純で……でも優しい……
どんなに怒っても、どんなに憎らしくても、一度信頼した相手には本当に傷つける様な事はしない。
たとえ、自分がどんなに傷つこうとも……
アルスは魔法で、剣をエクスの前に落とす。
「本気で来なよ! そんな逃げ腰で、ぼくに勝てると思ってるのか? にじさんじを……大切な場所を守りたいなら……本気で来なよ!」
電撃が降り注ぐ嵐の中、エクスはアルスから届けられた聖剣を握り締めた。
「こいつは、師匠を刺す為に貰ったんじゃない!」
そう言いながらも、エクスは聖剣を持って走り出す。
ひょっとしたら、アルスは誰かに操られているのではないだろうか?
若しくは、弱みを握られて引けなくなっているとか……
どちらにしても、本気で戦わないといけない状況なのかもしれない。
ならば、戦いの中で真実を見極めるしかない。
英雄と呼ばれる自分なら出来る!
エクスは心の中で、そう信じながらアルス目掛けて走った。
網状に張られた電流を確認し、エクスはアルスの腹部を狙って聖剣を突き出す!
先程と同じ様に、電流に絡めとられた剣を通して自分は弾き飛ばされる筈……
その瞬間に見極めてやる!
エクスの覚悟を纏った聖剣は、しかし電流に絡めとられる事はなかった。
柔らかい物に突き刺っていく感触を、エクスの両手に聖剣は伝えてくる。
「な……師匠、何やってんだ! さっきは完全に防御しただろ!」
「だって……ぼくは、えび先輩に負けなきゃいけなかったんだ……ぼくは、大切な場所を守りたい……大切な人達も守りたい……その為に、えび先輩の力は必要なんだ……」
「そんなの……師匠がお願いしてくれれば、いくらでも力を貸したさ! なんで師匠が命懸けで……」
腹部を剣で突き刺され、力無く倒れていくアルスの身体を支えながら、エクスは叫んだ。
朦朧とした瞳……力の抜けた身体……
今アルスが口にしているのは、本当は口止めされている事なのではないか?
力無く動く口を見て、エクスは感じた。
「俺と師匠を戦わせて、何をさせたかったんだ!」
アルスが守りたいと思っているモノ……それは、新興勢力のCZAではない筈……
黒幕が必ずいる……手がかりは、師匠を裏切り者扱いした神田か……
「救護班! 早くしてくれ! 師匠が本当に死んじまう!」
エクスは小さく軽いアルスの身体を抱いて、自ら救護室へと急ぐ。
小さな身体から流れる血液を少しでも減らそうと、エクスは剣の刺さった傷口を抑える。
自らの指が剣によって傷つき、血が流れた。
その微かな痛みが、エクスの怒りを増長させていく。
「俺が刺した……その罪は消えない。けど、必ず後悔させてやる。俺を本気で怒らせた……覚悟しておけよ、神田ァ!」
その怒りの咆哮は、まるで野獣のソレの様であった……