まさか赤バーが見れるとは思いもしませんでした
軍事とかミリタリー系の知識は皆無なので、あんまり話を広げられないと思うけど、評価ありがとうございます!
ちなみ、こちらアレイダさんの簡単な似顔絵になります。
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笑顔が素敵なアレイダ=サン。
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おはよございま~す。
初陣でまったく活躍出来ず意識がブっ飛んでたアレイダです。
今私は医務室のベッドで絶賛ニート生活を謳歌中です。
ふぁ~極楽極楽、全く御国の脛を齧って受ける点滴は最高ですね。
そうでした、なんだかんだあの鉱山地帯の戦いには勝ったそうです。
何故過去形、ですか?いえ…私、何が起きたのか全く理解出来てないんですよ。
極限状態になると、なんだか色々飛でしまうというか。
あの後、無事意識が戻ったんですが、周りには誰もおらずポツンと私だけが取り残されていました。
――ぐちゃぁ
よく見れば支給された緑一色に統一された服は血でグッチョリ、ブーツの中まで血が染み渡っていて、あれは気持ち悪くて堪りませんでした。
一体私は…何をしてたんでしょうか?
意識が吹き飛んだ後は並大抵のことは解決されてる筈なんだけど…やはり記憶まで完全に飛んじゃうのは問題ですね。
しかも、場所が採掘施設からめちゃくちゃ離れた場所でしたし。
えぇ、勿論全速力で帰りましたよ、いくら全力疾走しても疲れないこの身体は最高ですね。
それにしても全身血まみれ…こんな離れた場所。
これは、やはり…私もなろう系主人公が如く一騎当千の活躍を見せたのでは、と淡い期待を胸していました…採掘地につくまでは。
英雄のご帰還ですよ~、なんてドヤ顔で帰ってきた私を待っていたのは。
味方からの熱烈な銃口、それも大量の。
――ファッ!?待って!ステイ!
こんな一般人にそんな凶器を向けないで下さい!美少女の死は世界の損失ですよ!粗末に扱うんじゃありません!
銃口なんて向けてきてるのに一切殺意は無し、あれは死にます。
殺意か敵意をビンビンに向けてくれないと秘めたるフィジカルパワーを開放出来ない欠陥筋肉持ちの私なんて普通に蜂の巣です。
表情差分が数枚程度しかないであろう表情筋をフルパワーで動員させます。
私の凝り固まった満面フェイスから放たれる声は、何故か必死さの欠片も無い間の抜けたモノになってしまいますが、そんなこと気にしていられませんでした。
出来うる最大の感情を込めて訴えました。
その甲斐あってか、我らが指揮官様の鶴の一声により皆さん銃口を下ろしてくれました。
ふッ、さしもの強面少佐殿も美少女の命乞いの前では一匹の雄と言ったところですか。
これで一安心。
かと思ったら、指揮官様から告げられる独断専行やら命令違反やらの身に覚えのない罪状を突き付けられてしまいました。
心なしか強面具合いが二三割増してましたね。
私の内心舐め腐った態度が見抜かれていたのでしょうか?
そこからは怒涛の勢いで拘束され牢にブチ込まれました。
かと思えばドナドナトラックに詰め込まれ移送…行き先はライデンシャフトリヒ陸軍省だとか。
正直、指揮官様が言って半分も理解出来ていませんでした。
私って、ほら、簡単な日常会話程度しか処理できない学無しな訳で。
そんな私に、軍の専門用語みたいなことペラペラ早口で言われましても、困ると言うか…。
脳がパンクして、どうしていいか分からず、気づいた時にはグルグル巻にされていまいました。
ですが、まぁ…あの状況から察するに。
防衛拠点からめちゃくちゃ離れた場所で目覚め
皆さんの、お前何帰ってきてんだよ、と言わんばかりの視線。
ドン引きだわ、て感じに頬をピクピクさせてましたね。
加えて命令違反だとか。
あ~これは
意識の飛ぶ前に、無駄死にだけしたくありません、なんて考えてまいたし。
まず全身返り血で血まみれなんて、普通スプラッター映画でも無い限りありえませんよね。
大方死体の山にでも潜り込んで身を潜めていたんでしょう。
私の魂の盟友であるチンピラさん達の姿もありませでしたし。
きっと呆れて帰ってしまったんですね。
シャイなチンピラさん達が人伝にくれる特性ドリンクが恋しいです。
あれを飲んだ後、動機が激しくなって活力が湧き、最後にはドっと疲れが押し寄せてくるんですよ。
まさに前世で言うエナジードリンク、全身がピリつく癖になるアノ感覚が堪りません。
こんなコトならレシピを教わって置くんでした。
養豚場から出荷される家畜の様な面持ちで故郷の味に思いを馳せていた私ですが、初陣を経て疲れていたのか瞼は徐々に重くなり、いつの間にか眠っていました。
全力スニーキング逃亡が余程過酷だったのでしょう。
次に目覚めた時、私は地面に打ち捨てられる衝撃と共に目覚めました。
罪人は普通に起こしてすら貰えないみたいです。
テンションは落ちに落ち込んで最悪の一言。
まだ寝足りないうえに、産まれて初めての筋肉痛で全身はぐったりしているのに、兵隊さんが手枷に結ばれた紐を引っ張り私を急かして来ます。
子鹿みたいにプルプル震える脚が見えないんですかね。
兵隊さん達に先導されるがまま、靴底をズルズル刷らしながら気怠げに歩いて行きます。
人間眠気には勝てません。
そこは分かってくれるのか、周りも人達もとやかく言ってきませんでした。
だったらもう少し寝かせてくれても、と思うものの、言葉にはせず遠慮なくご好意に甘えさせて頂き、ゆっく~り歩いて差し上げましたよ、えぇ。
にしても凄かったです、私の住む廃墟とはまさしく天地の差。
定職に就くのなら、こういった清潔感のある場所が良いですよね。
勢いに任せてつい飛びついてしまいましたが、この仕事はダメですね、私の理想の安定した定職とは程遠いです。
次の仕事が見つかるまでのツナギ程度が関の山でしょう。
のんびり眠気に任せて、先導されるがままに歩いていたら…また独房に案内され、40代位の威厳のあるおじさんの前に跪かされました。
眠すぎて記憶が朧気ですが、どうやらかなり偉い人のようでした…階級に対する知識なんて、ありませんでしたしたし、礼儀も弁えず普通に半分寝てましたが。
何か色々聞かれましたけど、何でしたっけ?
射撃演習について聞かれたような…。
一応素直に答えましたけど、打つ瞬間に飛んできた虫に驚いて、全弾明後日の方向に打ち尽くしちゃったんですよね…アレは顔から火が出るほど恥ずかしかったです。
将官さん…人の黒歴史を無理矢理聞き出しておいて顔を歪めるのなら初めから聞かないで下さいよ。
その後、途中なんどか眠気で意識飛んでましたけどセーフだったようです。
続いて二、三質問されましたが良い感じに受け答えできたと思います。
どうして志願したの=ここしか働き先がなかったからです!我定職求ム!
これからも戦ってくれる?=(衣食住とお金の為なら)はい、喜んで!
なんか色々許してくれそうな雰囲気に思わず全肯定でお返事をしてしまいましたが、お金も生活基盤もありませんし渡りに船でしたね。
先日の一件でこの仕事の危険性は身に沁みて理解していますが、戦争なんてそうそう起こるものでもないでしょうし、暫く御世話になっても大丈でしょう。
この辺りから記憶が途切れています、どうやら完璧に寝落ちしてしまったようです。
ぐっすり眠り気分爽快、次に目覚めた時にはこの医務室のベッドの上でした。
牢獄行きでない所を見るに、なんとか罪人RTAは回避出来たようです、人生意外となんとかなるものですね。
☆☆☆
「エックハルト中将、報告します。」
ここはライデンシャフトリヒ陸軍省、陸軍中将を務めるエックハルト・ミュンターの執務室。
規律正しいキビキビとした敬礼と共に今回、ライデンシャフトリヒ北東部を狙ったガルダリク帝国との間に起こった詳細を記した報告書がエックハルトの元に提出されていた。
「ご苦労、少佐」
省略気味な労いの言葉を掛けるエックハルトは少佐から目を逸らすと、落ち着きのない様子で報告書に目を通す。
なにせこの日起こった出来事は、大陸全土を巻き込む火種になりかねない最も注視しなければならない案件だ。
今後のガルダリ帝国の動向を掴むためにも、手に入れられる情報には全て迅速に念入りに目を通す必要があった。
ペラペラと早い速度で紙を捲る音が執務室に静かに鳴り響く。
時折悲痛な感情を顕にするも読み進める速度は一切変わらない。
エックハルトという男は良識を重んじる軍人である、いくら決定された命令であっても良心の呵責には苛まれずにはいられない。
報告書を読み進める内に出た民間人、上層部が比喩するところの肉壁の死傷者の膨大な数に思わず眉間揉む。
しかし、その成果はしっかりと出ていた。
採掘施設への損害は軽微、兵士達の死傷者も少ない。
報告書にある通り、帝国側の奇襲で被害にあったのは肉壁として集められた彼等だ。
予定されていたシナリオ通り、彼等は目先の的としての役割を十全に果たしていた。
エックハルトは今後の戦況が一方的な不利に陥ることがない軍人としての安堵する気持ちと、良識ある大人としての考えに板挟みになり苦悩する。
(しかし、こんなものが通用するのは今回限りだ、本格的に戦争が始まれば足を引っ張るだけのお荷物でしかない。統率のとれた軍としての強さは、長期的な体系的教育と実践的訓練を通して磨かれるものだ、今後は彼等が望まぬ限り無儀な犠牲を強いられることはないだろう)
しかし、そんなエックハルトの鬱屈とした感情を吹き飛ばす意味不明な報告が先には記されていた。
一定のペースで紙を捲っていた手が完全に止まる。
「少佐…一体これは」
「全て事実です」
予め聞かれることを予想でもしていたかのように、一呼吸も挟まず叩き返された言葉にエックハルトは口を噤み再度報告書に目を通す。
エックハルトの前で微動だにしない厳つい顔つきの男は、重要拠点の防衛指揮を任される程忠義に熱い模範的な軍人だ。
報告書の捏造など四肢を切り落とされても犯しはしないだろう。
エックハルトもそれはしっかりと理解していた。
しかし、それでも余りに常識外れの内容である。
「アレイダ…人種、国籍共に不明か、一体何者だ?」
「現状、判明していることはライデンの貧民街で育ち、歳は推定16~18、出自は一切不明、経歴だけ見れば取止めもなく、他の志願者達に共通するモノばかりです」
エックハルトは考え込む様に再度報告書をアレイダに関する報告を確認する。
「……ふむ」
なにやら考え込む上官を前に直立不動の男、アレイダの直接の上司にして此度の防衛戦の指揮を務めた男は此処に来るまで出来事を思い起こす。
アレイダの手により帝国軍側の指揮官である男が戦死した結果、指揮系統は無惨に崩れ、帝国軍は烏合の衆と化していた。
戦況は最早一方的蹂躙と化し、一人また一人と帝国軍が降伏し、そして程なくして北東部での戦火はあっけなく終決した。
戦後処理の指揮を遂行するため戦場の前線跡地に出向いた男が見たものは、帝国兵の血と死体で舗装された死骸の道だった。
その少し先には地面に出来た血溜まりを見つめニヤニヤと笑みを浮かべる女の姿。
少なくない修羅場を潜り抜けてきた男は本能的に理解した。
アレには近づいてはいけない。
幽鬼のように夕日に照らされ輝く白髪の頭。
部下である兵士から上がってきた報告の特徴と一致する。
ここまで戦場を一方的な蹂躙の場を作り変えたのはあの女だ。
聞くべきことは山ほどある、しかし生物としての直感が女に接触することを拒む。
男は一先ず目先の問題を棚上げすることに決め、数人の監視を残し拠点へと戻ることにした。
しかし、その数十分後、女は車両を使い移動するような距離を二本の足で、それも短時間で戻ってきたのだ。
戦場での女の所業を目の当たりにしていた兵士達は一様に化け物を見るような目で女を見る。
敵、味方、判別なく殺し尽くしてしまいそうな鬼気迫る姿で知っている。
頭では味方だとわかっていても身体が…生存本能が女に銃口を向けさせる。
敵意は無くあるのは畏怖と恐怖。
この場の指揮を執るべき男は、どう場を納めるべきか素早く頭を回転させる。
元々女は一般人、しかし自身の意思で志願した以上、兵士同様その処遇と権限は男が握っていた。
しかし状況は悠長に待ってはくれない。
銃口を向けられた女の口が開く。
あまり…命を粗末にするものではありませんよ――
その場にいた全員の背筋に悪寒が走る。
銃口を向けていた兵士達の口からはガチガチと震える歯の音が漏れ出し。
彼等の脳内に、明確なリアリティを伴た死の実感が強引に焼け付けられる。
夕日を背に薄く開かれた女の目は赤く輝き、口は三日月に裂け、悪魔と見紛う恐ろしい笑みを浮かべていた。
女の口から出た言葉には確かな、それも強靭な意思が宿っていた。
一人また一人と兵士達を瞳に移し、獲物を物色する肉食獣のように目を光らせる。
最早男に猶予など残っていない、このままでは間違いなく皆殺しにされる。
それが容易く想像出来た。
そして男はどうにか、死者を出さず場を納めることに成功する。
兵士達の銃を降ろさせ、言いがかりに等しい罪状を女に告げた。
碌に命令など受けていないであろう女に対し命令違反として拘束したのだ。
しかし、男にとってこれは賭け同然の行いであった、女が人間としてのモラルも道徳も持ち合わせない獣であったのならば真っ先に自分が殺されていただろうから。
実際はどうあれ、男はそう信じて疑わなかった。
厳重な拘束が施される中、女は一言も発さなかった。
兵士達は緊張の糸が解け眠りについたが、男にとっては問題が山積みである。
部下からの報告をまとめ上部への報告書を作成するも、余りにも荒唐無稽な内容に男の口からは溜息が漏れる。
女の処遇は、早速男の手に収まる問題ではなかった。
上官へと先触れを出し、女を乗せた軍用車はライデンシャフトリヒ陸軍省へと向かった。
そして現在、周りの緊張などお構いなしアレイダはトラックの中で爆睡していた。
「論より証拠か…少佐、一度彼女と会わせて貰っても構わないか?」
「ハッ、直ちに離れにある牢へと運び込みます」
「それと…自白剤の投与も頼む、重要な決断だ、彼女が本当に我々の味方なのかのな、そうでないのか…」
フラフラと覚束ない足取りで歩みを進めるアレイダ。
周りにいる誰もが就寝中に打ち込んだ自白剤の影響と思い込み、そのダルさ満載の寝惚けた動きに疑問を持たない。
真実はただの寝不足と筋肉痛が原因でしかない。
そもそも幼少期から猛毒を盛られてなお順応する巫山戯た免疫力を持つアレイダに致死量にも満たない自白剤など効くはずがなかった。
牢の中へと跪かせる様に座らせ、兵士が鍵を閉める。
それと同時にエックハルトとアレイダの上官である男が牢の前に立つ。
「こちらです、中将」
エックハルトはアレイダを見て納得がいったと浅く頷く。
アレイダが着ているものは軍の人間ならばもよく見覚えのある国防色の軍服だ。
しかし、エックハルトが軽く一瞥した瞬間、自身の知っているものと同じだとは到底思えなかった。
隅々に至る所まで布地を赤黒く染め上げた乾いた血の軍服を纏う女。
その全身からは悍ましいまでの濃密なまでの死臭が漂っていた。
「……」
怨念、恐れ、憎悪、帝国兵の負の感情が宿った血に全身を浸しながら穏やかな笑みを浮かべており。
女は、下を向き死んでいるかのように微動だにしない。
「…時間は多くありません、自白剤は許容量の限界まで打ち込みました。今も意識の混濁が起きている筈です、後数分もしない内に意識を失うでしょう」
「わかった…では、端的聞かせて貰おう」
エックハルトは出来る限り答えやすく直接的な表現で質問を開始する
「アレイダ、君に聞きたいことがある、君は我々の味方か」
――コクン
アレイダは肯定を示すように首をゆっくり縦に振る。
「肯定…と、受け取ってよろしいかと」
「では、君が射撃訓練の際に仕出かした事は君の意思か」
この質問は捕虜となったガルダリク帝国の兵士の供述を元に考え出されたものだ。
捕虜の話によれば、本来であれば作戦の遂行時期はもう少し先であったという事実。
そして、そのライデンシャフトリヒ側が想定するよりも、遥かに早く帝国側に作戦決行を迫らせた要因が存在した。
日夜送り込まれる過剰とも思える兵士、兵装というメッキを纏ったハリボテとは知らない帝国側にすれば異常事態である。
当初の想定よりも敵の数が多い、それも現在進行系で増え続けている。
これだけでも帝国の指揮官の頭を悩ますのには十分過ぎる程であった。
しかし、ここに追い打ちを掛けるように採掘施設、及びライデンシャフトリヒの兵士達の動向を監視する数人で構成された斥候部隊が、伝達兵を除き全滅したのだ。
山頂を跨ぎ、風速、飛翔高度からの落下、着弾地点まで全て計算されつくした銃弾が降り注ぎ部隊員の命を瞬く間に刈り取った。
この出来事が、焦った指揮官を万全な準備を期さざずして作戦決行へと踏み切らせる決め手となった。
「この時刻…君が射撃訓練中、いきなり的とは掛け離れた方角に撃ったことの証言は得ているよ」
「それは私も確認しました。突然なにかに気づいたかのように山岳を目掛けて全弾打ち尽くしていましたので」
しかし、アレイダは答えない。
頭をフラつかせ返答に悩んでいるようだ。
「安心してくれ、この件で君を処罰に掛けようなどは考えていない、約束しよう、正直に教えてくれるだけでいい」
答えを引き出す為、努めて優しく労るように声を掛けるエックハルト。
その気持が通じたのか、女はハッと俯かせた顔を上げ目を合わせる。
「お恥ずかしながら…飛び回る虫が苦手で…ついヤッてしまいました」
飛び回る虫、それはつまりあの場所を監視していた斥候部隊を指す言葉なのだろう。
この返答は、すなわち斥候部隊を壊滅させたのは自身だと肯定しているのと同義だ。
エックハルトは戦慄した。
報告書を読んでも意味不明な事故としか思えない凶弾は、目の前の女は人為的に作り出したものだった。
知らず知らずの内に眉間にシワが寄り、表情が引きつる、それは側に控える男も同じだった。
「ありがとう…約束通り、この事私が責任を持ちは不問にしよう」
――コク
その後、数個程の質問を問いかけるも、返事はなく肯定と否定を表すジェスチャーのみで返答が繰り返された。
肯定ならば頷き、否定ならば沈黙。
「そろそろ限界が近いかもしれません、意識が落ちかけています」
「そのようだな…では最後に二つだけ質問しよう」
――君は、一体どうして兵士として志願しようとしたのかね?
エックハルトは思う、孤児であり身元を証明する証を何一つも立てられない、それは確かに大変なことだろう、特に彼女は良くも悪くも特異に映る。
この国に根差す容姿とは大きく掛け離れている、人間とは何時までも変わらない日常を望む生き物だ、異分子である彼女を受け入れようとする人間の方が少ないだろう。
(しかし、それでもだ、女の身で兵士になるよりも楽な生き方など幾らでもあったはずだ。
今回集まった者の多くは金の為、生活の為だろう。
しかし彼女は何か違う気がする…今後処遇を決める為、これだけは聞いておかなければならない)
――ピク
エックハルトの質問に、アレイダは再び顔を上げる。
爛々と輝く血の結晶を埋め込んだ瞼を見開き、力強い決意の籠もった声を上げる。
「居場所…私が、安心出来る、この世界の、居場所、それがないと…私は生きていけません、此処なら、私を受け入れてくれる…だから…それが欲しかったんです…」
その声は薬の副作用かどこか朧気で、拙く要領を得ない。
しかし心から切望する思いと感情が込められていた。
「…そうか」
エックハルトは悲哀の感情をその目に浮かべ数秒瞑目した。
(哀れな獣だ…戦いの中でしか安らぎを感じず、殺し殺される世界にしか居場所を見い出すことが出来んとは…金や名誉の為ではなく居場所の為か)
で、あれば…その居場所を与え続ける限り、この悲しき獣が飼い主の手を噛むことも、裏切ることも無いだろう。
エックハルトそう結論づける。
「これで最後だ…その居場所を守る為にこれからも戦い続ける覚悟はあるかね」
――はい、喜んで。
静かに、覚悟を滲まる返事と共にアレイダは地面へと倒れ込み意識を失った。
「気を失っています、それで…彼女の処遇は」
「医務室に運んでおいてくれ、あぁ…間違えても独房なんかに入れるんじゃないぞ、彼女は罪人ではないんだからな」
(アレイダ…何時か、君が執着するその居場所が広がり、この国を守ることに繋がることを切に願っておくよ…)
こうしてアレイダ晴れて無罪放免となり、生活基盤を得たのであった。
しかし彼女はまだ知らない、戦時中の兵士がブラック企業真っ青の魔境であるなど…彼女は知らなかった。
余談
医務室に運び込まれる際に大人四、五人係でやっと運べたとかなんとか
。
注射の針は全て猛獣様、普通の針はそもそも刺さらないのでバカデカイ針が腕にぶっ刺さってます。
アレイダさん自分では美少女なんて言ってますけど、実際は第三者目線で見るとおっとり美人系。