脳依紫那は天才である   作:緑川翼

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【お詫び】
・散々遅れて申し訳ありませんでした!
・難産だっただけあり、展開がちょっと急です。違和感、不可解な点がございましたら、ご報告頂ければありがたいです。
賛否分かれそうなオリキャラが登場します。ご注意下さい!

・原作キャラクターとの兼ね合いからオリキャラの名前を変更しました。(2023.1/16)


思いがけぬ出会い

「っ、ハッ…!」

 

 勢いに肺が潰れ、息が漏れる。紫那は今、シナプス・トーチャラー(天才の万能器具)で出せる最速でセントラル広場に向かっていた。

 

「ハッ、フフ…」

 

 トーチャラーの最大速度は自動車以上。後1分も掛からないで広場に到着するだろう。紫那の胸は期待で膨らみ、鼓動は高まって身体(からだ)に紫電が走る。

 

 

「フフ…ハハハッ!」

 

 ついに、抑えてきれなくなった笑いが口から零れた。思わぬ事件(サプライズ)のせいか、又は数日寝てないせいか。紫那のテンションは異様に高い。

 

 

「嗚呼…所期で期待で待望ね」

 

 高速で飛行する紫那の口から、言葉が漏れる。今の紫那は、まるで遊園地を目の前にした子どもの如く焦燥と期待に(はや)っていた。

 

 

──対オールマイト用改人、脳無

 

 火災ゾーンのリーダー格曰く、()()()()()()()()()した、バケモノ。

 

 何て素晴らしい! 紫那は高揚した気分の中で、素直にそう賞賛した。

 

 オールマイトの《ワン・フォー・オール》は一種の頂点。世代を越えて受け継ぎ、更に強化して次に引き継ぐあの超パワーには、たった一代の間で鍛錬を積み“個性”を鍛えても勝率は低い。

 

 故に紫那はサイボーグ技術により、“個性(人類)”を超越する事を目指した。だが、“個性”を多数持たせる……、そんな方法があるだなんて!

 

 悔しいが、紫那はその方法を思い付かなかった。発想とは発明家にとって最も重要な要素(ファクター)である。もしかしたら、ヴィラン連合を名乗る連中には()()()()()()()天才が所属しているのかもしれない。

 

 その期待で、紫那の胸は膨らんでいだ。

 

 

 また複数の“個性”持ちとは、一体どんな方法で造ったのか。()()()()()()()()()()()()“個性”でもあるのか、よもや紫那の知らない技術があるのか。

 

 紫那の予想では、脳無は恐らく、人造人間である。

 

 火災ゾーンにワープさせられる前、ヴィラン連合のリーダーらしい男の傍らに()()()()()()()()脳波をしているヴィランが一体、いた事が紫那には気になっていたが、それが作り物の人間だとすれば釈然とする。

 

 

「あァ…、()()()()…」

 

  分からないモノは、分解して観察して理解するに限る。なに、どうせヴィランだ。1人2人()()()()()()()()()()、別に構わないだろう。眠気と興奮で、紫那は本気でそう考えていた。

 

 

 

「──っ!」

 

 セントラル広場の少し先。水難エリアの入り口に、彼らはいた。

 

 偉そうに立っている手だらけの(ヴィラン)と、それを取り囲む雑魚ヴィラン。水難ゾーンの、池を模したプールの中から見守る事しかできない生徒(緑谷)たち。

 

 そして…脳を丸出しにした黒い怪物に腕を握り潰された先生。

 

 

 ──≪テスラ・ブレイサー(技術者の電撃手甲)≫!!!

 

「──ッ!! へぇ…!」

「……あ? 何だこのガキ」

 

 脳を丸出しにした怪物──脳無に、紫那は電気を纏った(パンチ)を放つ。脳無はとても興味深いが、一応人命優先である。

 

 死角から腹部を狙い打ち、強化された身体と高速飛行の勢いを乗せてスタンガン以上の電力を打ち込んだが、脳無にダメージが通った様子はない。少しだけ、予想を上回る強度だ。

 

 紫那はパンチを弾かれた反動で横に跳びつつ、鋼鉄の翼で倒れている相澤先生を回収する。

 

「やめろ脳依… お前でも……」

「へぇ…。こんな状態でも私の心配だなんて、流石で立派で感心ですね先生。でも、その心配は不要だわ」

 

 相澤先生は痛みに耐えかねたのか、言い返す事なくそのまま気絶した。対峙する脳無を観察しつつ、紫那は水辺に潜んでいる緑谷に翼を伸ばして相澤先生を渡す。

 

「意識を失っているわ。先生を連れて、入り口付近まで逃げなさい」

「──ッ!! 僕もッ!!」

 

 紫那1人に押し付けられないと、緑谷が拳を握り締める。全く、彼といい尾白クンといい、皆ヒーローの素質が有りすぎると紫那は呆れた。

 

「貴方は()()ヒーローではないわ。大人しく…避難しておきなさい」

「なら! それは君もだろう…!!」

「ええ、でも何ら問題はないわ。私を誰だと思っているの? 貴方たち(人類)の百年先を行く天才よ」

 

 紫那の傲慢な説得モドキに渋々応じ、ようやく緑谷は一緒に隠れていた蛙雨、峰田と共に相澤先生を担いで逃げ始めた。

 

 

「問題ない? おいおいおい現実見えてない系か? お前ら。そこの女に現実見せてやれ」

 

 しかし今まで静観していたリーダー格のヴィランが、周囲のモブヴィラン共に追撃の指示を出した。それに従い、雑多な格好をしたヴィラン共が各々動き出す。

 

 

 ──だが…

 

「ええ、やっぱり何の問題もないわね」

 

「「「──ッ!!!」」」

 

 紫那の鋼鉄の翼が、ヴィラン共には認識出来ないスピードで脳を揺らし、素早く気絶させる。ついでに脳無にも打ったが、やはり効果はなかった。

 

 しかし、翼の動きを目で追いながらも避ける動作を見せなかったのは興味深い。

 

「あァ面白いわね…。最低限以上の自立思考能力は持たせていないのかしら?」

「ッ…!! 今の一瞬で…?!」

 

 頭領をやるだけあるのか、危機を察知して翼の範囲外から素早く離脱した手だらけのリーダーは紫那によって何が行われたのかを把握できたらしい。

 

 

「脳無ッ!!」

 

 黙ってリーダーの傍に立っていた脳無が、リーダーの指示で俊敏に動き出す。

 

「脳の電気活動が活発化した…! あァなるほど! ()()ではなく()()として運用するのね! でも…」

 

 声にならない咆吼を上げ、脳無は拳を振りかざして紫那の元へ突撃する。対オールマイトを(うた)うだけあり、確かに素早い。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 だが、そのオールマイトの動きすら見切る自信のある紫那の頭脳(動体視力)よりは、遅い。

 

「貴方は後でじっくり…観察して(バラバラにして)あげる」

 

 確かにオールマイト並のパワーを秘めた脳無の拳を、紫那はさも当然の様に躱し、回し蹴りの要領で足の裏を脳無に当てる。

 

Mr.Device(浮遊デバイス)──≪ジェットパック≫!!」

 

「──ッ!!?」

 

 脚に埋め込んだMRデバイス…電磁浮遊装置を応用して、紫那は脳無を弾き飛ばす。この技には相手の筋肉量も体積も関係ない。脳無は手足をバタバタと動かし抵抗しなが、吹き飛んでいった。

 

「水難ゾーンに飛ばしたわ。あれほどの力でも暫くは戻って来ないでしょうね」

「──ッ!! この…チート野郎が!!!」

 

 雑魚ヴィランは全て倒し、黒モヤのヴィランは13号を倒しながらもUSJから脱出しようとする飯田を妨害するのに忙しい。リーダーを捕らえるのは、今が好機。

 

 紫那が電気を纏いつつ攻め寄れば、リーダーは苛立ちけに両手を開いて立ち向かう。故にリーダーの“個性”は接触が条件に発動するタイプだと、紫那は推測した。

 

「──ッ!! グァッ…! テメェ!」

 

 紫那とリーダーがぶつかる直前、突如、リーダーが転倒した。迫る紫那に視線が集中した所で、死角から忍ばせておいた翼でリーダーの足を掴んだのだ。

 

 足を掴んだ鋼鉄の翼は続けて、数度バウンドする程に強く、リーダーを地面に叩き付ける。

 

 衝撃で白目を剝き肺の空気を洩らすリーダーにトドメを刺そうと、倒れたリーダーの腕を翼で拘束しつつ引き寄せ、紫那は腕を振りかぶる。

 

 

「≪テスラ(技術者の)──…」

「させませんよ!」

「ッ!! 《ワープ》の…!」

 

 電気を纏った紫那の拳がリーダーに直撃する瞬前。黒モヤが紫那の腕を包み、あらぬ場所に腕をワープさせ攻撃をそらす。

 

 黒モヤのヴィランは全身を“個性”のモヤで覆っているせいか、紫那の瞳でも外見以上の情報が得られない。それ故に紫那も黒モヤヴィランが何処にいるのかを把握できず、まんまと奇襲を受けてしまったのだ。

 

 

 そしてその黒モヤヴィランが、勝ち誇るのでもなく冷酷に言う。

 

「私の中に血や肉が溢れるので嫌なのですが…あなた程の天才の物ならば喜んで受け入れる」

「ッ!? しまっ…!」

 

 何をやろうとしているのかを察した紫那が黒モヤから腕を引き抜く──よりも早く、()()()()()()()()()

 

 

 

「──ッ!!? 脳依さん!?」

 

 出入り口まで退避していた緑谷の絶叫がUSJ中に響き渡り、それに答えるが如く…千切れた左腕が宙を舞った。

 

 

 

 

 

 

 腕が千切れた痛みに紫那が悶え束縛が緩んだその隙に、(ヴィラン)連合のリーダー、死柄木(しがらき)が己を拘束していた鋼鉄の翼を《崩壊》させ、抜け出した。

 

「危ない所でしたね。死柄木(しがらき) (とむら)

黒霧(くろぎり)…、脳無がやられた! 何なんだこのバグ女は?! 」

「話に聞いていた、百年先を行くと噂される天才少女でしょう」

「っ!! こいつが例の…」

 

 切断面を押さえ(うずくま)る紫那に苛立ちを込めた視線と共に、死柄木は五指を向ける。

 

(──ッ!? ヤバイヤバイヤバイ!!)

「緑谷ちゃん!?」

「緑谷ァ!?」

 

 ──緑谷が飛び出した時、彼は何か策を持って飛び出したのではなかった。

 

 報復とばかりに死柄木が全てを崩壊させるその手を未だ動けぬ紫那に向けたのを見た、その瞬間…()()()()()()()()、緑谷の体は動いていたのだ。

 

 

「手っ…退()かせえっ!!」

「……脳無」

「──SMASH!!!

 

 死柄木の手が苦痛の表情で切断面を抑える紫那に触れかけたその直前…緑谷は《OFA(ワン・フォー・オール)》によるスマッシュを炸裂させた。

 

 

(──!? 腕が折れてない?! “力の調整”がこんな時に!!)

 

 スマッシュによって舞った土煙の中で、確かな手応えを感じながら、覚悟していた激痛がなかった事に緑谷は驚いた。しかし──

 

「え…」

「いい動きするなぁ…。スマッシュって…、オールマイトのフォロアーかい? ムカつくぜ」

 

 そのスマッシュは死柄木に届いていなかった。緑谷と死柄木の間に脳無が立ち、壁の様に攻撃を受け止めたからだ。

 

「しまっ…!」

 

 紫那によって水難ゾーンに飛ばされた脳無が、もう戻って来ていた。振りかぶられた黒く太い腕を眺めながら、緑谷はそれを理解した。

 

(違うそんな事考えてる場合じゃ…早く避けなきゃッ!)

 

 しかし、思考が空回って身体(からだ)が動かない。緑谷は反射的に目をつぶる。

 

 

「──まったく。貴方、(たす)けに来たの? それとも救けられに来たの?」

「ッ! 脳依さん!?」

 

 目を開いた時、紫那が自分を抱えて脳無の攻撃から救ってくれた事を、緑谷は理解した。

 

 しかしその紫那は片腕を失い、もう片方の腕だけで緑谷を抱えている為にバランスを崩している。それに気が付いた緑谷はすぐに紫那の腕から降りた。

 

「の、脳依さん! 左腕が…」

「……問題ないわ。私の身体には修復機能があるから、既に出血は止まっている」

「そういう問題じゃ…!」

 

 左腕の有った場所を押さえ、冷静沈着な表情をしているが、その額から一滴の汗が流れている事に、緑谷は気付いていた。緑谷がそれに言及しようとした、その時。

 

 

──バアアッン!!

 

 

 突如USJの扉が乱雑に開かれる。そして現れたのは…

 

 

「もう大丈夫。──私が来た

「オッ、オールマイトーー!!」

「あー…、コンティニューだ」

 

 

 憤怒の表情を浮かべたオールマイトであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「来る途中で飯田少年とすれ違って…何が起こっているのかあらまし聞いた。もう大丈夫。私が来た!」

「……脳無ッ!」

 

 怒り顔でネクタイを緩めるオールマイトに、死柄木は憎悪に目の色を変えながら脳無に命令する。

 

「──ッ!!」

「ソレは貴方と同じだけの能力(ステータス)を持った人造人間! 《ショック吸収》の“個性”も持っている。気をつけて!!」

「素晴らしいアドバイスだ! サンキュー脳依少女!!」

 

 片腕を無くした紫那に気付き、一瞬だけ憤怒の色を濃くしたオールマイトは上着を脱ぎ捨て、傍の生徒達を巻き込まないように脳無へ突撃した。

 

「──CAROLINA(カロライナ)SMASH(スマッシュ)!!!」

「あの…社会のゴミがッ…!」

「貴方の相手は私でしょう!」

「──ッ!! グァア…、クソがァ!」

 

 オールマイトのクロスチョップは脳無にダメージこそ与えなかったが、勢いは止めた。それに目を奪われていた死柄木に、紫那は強烈なパンチを喰らわせる。

 

 電気を纏わせずとも、人間離れした筋力を持つ紫那のパンチは死柄木の腹に突き刺さり、ボキボキボキと肋骨をへし折りながら死柄木を吹き飛ばす。

 

「おっと、させないわ」

「クッ…!」

 

 その隙に緑谷を他の生徒のいる出入り口付近まで退避させつつ、オールマイトを妨害しようとしていた黒霧を残っている腕から生やしたレーザーで足止めする。

 

 

「これで!!」

 

 ズドンと鈍い音が響き、オールマイトのバックドロップにより脳無がコンクリートに突き刺さった。上半身丸ごと埋まった為、脳無のパワーでももう抜け出せないだろう。

 

「く、くそ… クソクソ!! こっちにはオールマイトと渡り合える脳無がいたんだぞ! 全然弱って無いじゃないか!! 何処でバグった!?」

 

 ようやく立ち上がった死柄木が首を勢いよく掻き毟りながら喚く。

 

「クソクソクソッ…黒霧ィ!!」

 

 自棄(やけ)になった様に死柄木は叫び、意図を汲み取った黒霧がワープゲートを展開した。

 

 

(──逃走準備…、違うこれは!!)

 

 魂胆を察した紫那が振り返れば、入り口周辺…生徒達が集まっている近隣に、多数のワープゲートが展開されていた。

 

「何人か…アンタの目の前で殺してやるよオールマイト(平和の象徴)ォ!!!」

 

 巻き添え…いや、オールマイト殺害を諦め、生徒を殺してすぐに逃げる算段か。オールマイトは既に走り出しているが、彼の位置は生徒からも死柄木からも遠い。

 

 もうワープゲートに手が入れられる。オールマイトは間に合わない。──仕方ない、か。紫那は少し考え、飛び出した。

 

 

「──MR・Device(浮遊デバイス)…、≪ジェットパック≫!!」

 

 一瞬のみの、爆発的加速によって紫那は死柄木の元へ飛び出し…死柄木による生徒達の虐殺を阻止した。……残っていた、右腕を犠牲にして。

 

「脳依さん!!」

「……問題、ないわ…」

「カッコイイなぁ!! だが…見栄を張るなよ天才サンよ!」

 

 右肩から死柄木の掌に触れ、紫那の右腕は崩壊した。痛そうに、紫那は顔を落とした。揚々と、死柄木は紫那にトドメを刺そうとする。

 

 

「──ええでも、本当に問題ないわ。だって…()()()()()2()()()()()()()()

 

 再び紫那が顔を上げた時、彼女は平然と…笑っていた。

 

 

「……は?」

「何っ!?」

 

 紫那は巧妙に隠していた()()に電力を送り、拳を握る。

 

≪──テスラ・ブレイサー≫!!

「グァアァッ!!?」

 

 紫那の拳は死柄木の胸元に直撃し、大量に流された電気は死柄木の身体を感させる。

 

 

「なんっ…で……、その左腕…さっき切り落としただろうがァっ!?」

 

 痺れながらも、死柄木が絶叫する。紫那は不敵…と言うよりは愉悦に頬を歪ませ、語る。

 

「……私の細胞は全て、特殊な()()()()で構成されている。以前ノーベル賞を受賞した万能血液を発展させた、ね」

「変異細胞だと…?」

「そう! ()()()()()()()()()()()()()()()()!! 特殊な電流で変化を制御すれば…千切れた腕を再生させる程度の事は造作もないわ!」

 

 

 その言葉を証明する様に、紫那は崩壊した右腕を瞬く間に復元させてみせる。肉が盛り上がり腕を形成するその様は、まるで脳無の《超再生》の様で…死柄木は些か言葉を失った。

 

 

「さて…貴方には色々聞きたい事がある。主に、脳無関係でね」

「グッ!!」

「ッ! させませんよ!」

 

 感電して動けない死柄木を紫那が持ち上げたのを見て、少し放心していた黒霧が動き出す。しかし、紫那は動かない。

 

「おおっと。すまないが…、私もかーなーり怒っている!君たち、初犯でこれは覚悟しとけよ!!」

「クッ…」

「この…、社会のゴミ共がァッ!!」

 

 オールマイトが目にも止まらぬスピードで黒霧の後ろに回り込み、彼の胴体を掴んで身動きを封じたのだ。そんな時、オールマイトの後方から3つの人影が現れた。

 

「終わってる?! くっそ、いいとこねー!」

「出遅れたか」

「少しは残しとけやオールマイト!!!」

 

 現れたのは、切島、轟、爆豪の3人だった。何処かしらのゾーンを切り抜けてから援護に来たらしい。

 

 脳無は暴れているが、地中から出てくる気配はない。黒霧も、オールマイトにしっかり抑えられて動けない。それに加えて、今やって来た3人も1年生にしては相当な手練に見える。

 

 

「脳無は埋まり、黒霧も捕らえた。…チェックメイトね、死柄木 弔クン?」

「クソ…、クソクソクソ!!」

 

 紫那に掴まれ敗北を理解した死柄木が、悔しげに、苛立ちげに絶叫した。

 

 

 

「助けろ…()()()()()()!!!

「──ほらね? えェ、やっぱりこうなった」

 

 

 ───パァァッン!

 

「ッ!!? な、にっ…!?」

 

 

 死柄木の叫びとほぼ同時、何処からか、紫那の腕が狙撃された。しかもたったの一撃で、死柄木を掴む()()()()()()()紫那の腕が破壊されたのだ。

 

 

「最初から言ったでしょう? えェ、確かにワタシはこう言ったわ。一緒に出ようか、と」

 

 下手人は、そこらに倒れていたヴィランの1人だった。紫那ではなく、相澤先生の初擊にやられた、覆面の雑魚ヴィラン。

 

「久しぶりね? ()()。えェ、本当に久々だわ。再会が…、こんなギャラリーの沢山いる場所でとは思わなかったけれど」

 

 

 ──否。アレは演技だったのだ。ただ視線を向けられた、それだけで、遠目で見ていたA組の生徒たちは圧倒され、理解した。

 

 アレは、ただ弱者のフリをしていただけだ、と。ただ認識されただけで震え上がった身体が理解した。生徒達は皆、震えを隠せずに、一歩後ずさる。

 

「……ええ。久しぶりね。そのセンスの無い衣装はどうしたの? まさか美的センスも損傷していたのかしら?」

 

 足元で気絶している死柄木も壊れた腕すらも無視して、紫那は女ヴィランを睨む。紫那は常の冷静沈着とした笑顔を浮かべず、寧ろその形相からは、強い怒りと焦りが窺えた。

 

「まさか! 当然変装よ。今日は…、見学だけのつもりだったから」

 

 そう言って、覆面の女ヴィランは覆面を脱ぐ。

 

 

「──え…?脳依さんと…、同じ顔?」

 

 緑谷が呟いた。だが本当に、()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()。違うのは、配色が白黒反転した3つの瞳だけ。動揺が、遠くから見守る生徒達に走る。

 

 

「まさか…ええ。こんな所で再会するとは思わなかったわ。ねぇX6-88?」

「そんなつまらない()()で呼ばないでくれる? えェ、本当に心外だわ。 今はKL-E-O(クレオ)って名乗ってるの」

「クレオ…Kill 'Em All(キル・エム・オール)(皆殺し)? 随分安直な名前ね」

「でもいい名前でしょう? 気に入ってるのよ」

 

 ヒーローとヴィランでありながら、同じ顔をした二人が、お互い貼り付けた微笑みで向き合っている。そんな異様な情景を破壊したのは…、轟と爆豪であった。

 

「脳依との関係は知らねぇが! 言動からヴィランの一味だと暫定する!!」

「ハッ!! そっちの方が手っ取り早ェッ!!」

 

 轟が女ヴィランを拘束する氷を瞬時に生成し、それに次いで女ヴィランに突撃し爆破する。2人ともプロとして成立する程に、素晴らしい判断力だった。

 

 

「ワァオ。良い判断力ね、驚いたわ」

 

 ──しかし、女ヴィランにはまだ足りない。爆煙が晴れた時、氷の獄中に女ヴィランはいなかった。

 

「なに!?」

「ハァ!?」

 

 後ろから聞こえた声に反応して2人が振り返れば、女ヴィランは紫那の目の前、オールマイトのすぐ近くに立っていた。

 

 オールマイトは動けない。今取り押さえている黒霧を逃がせば、紫那の足元に倒れている死柄木ごと逃げられかねないからだ。その傍に立っている切島は連続する事態に動揺して動けそうになかった。

 

 そして、紫那と女ヴィランも、向き合いつつ微笑み動かない。もっともその2人は、お互いの隙を狙っているようであった。

 

()()()()でもワタシたちには必要でね。返してくれるかしら?」

 

 女ヴィランは紫那の足元で気絶している死柄木を指差し、そう言った。その言動には、紫那に似た傲慢さが滲み出ている。

 

「そう言われて、私が返すと思っているの? ()()()()()()()()

「──、アァ?」

 

 紫那の煽りを聞いた、女ヴィランの紫那と同じ顔から微笑みが消えた。

 

「フッ…フフフフ!! 未だにアナタは認められないのね? えェ本当にそうなのね!? 下らない下らない下らない!! 下らないけれども問題ないわ。えェ何の問題もない! この場で証明できないのが残念ね!」

 

 女ヴィランの怒りは紫那にとって明確な隙であったが、彼女は動かなかった。代わりに、とても興味深そうに目を細める。

 

「あら、貴方ァ…」

「ええ! 今日は戦闘の準備をしていないもの! 今日はワタシたちの負け。増援が来る前に…、引かせてもらうわ!!」

「──ッ、煙幕グレネード?!」

 

 突如怒りを静めた女ヴィランが何処からか取り出した円柱状の筒を地面に叩き付けると、その筒は煙を吐き出してセントラル広場全体を包み込んだ。

 

 煙幕は特殊な成分を含んでいるのか、煙の中では紫那の瞳ですら何も見えない。

 

 

「──アナタはいずれ、ワタシが殺す」

「ッ!!?」

 

 フと、紫那の耳元で女ヴィランが(ささや)いた。紫那は咄嗟に腕を振るったが、何にも当たらない。

 

 

 煙が晴れた時。当然の様に紫那と同じ顔をした女ヴィランはおらず、死柄木と黒霧もいなくなっていた。黒霧を捕らえていた筈の自分の手を見ながら困惑するオールマイトに、紫那が問う。

 

「オールマイト先生。黒霧が“個性(ワープ)”を?」

「……いや、発動された気配はなかった。いきなり彼も消えた…と言う感じだった」

「じゃあ、()()が何かしたのね」

「……彼女との関係を、聞いても聞いてもいいかな?」

 

 かなり聞きずらそうに、オールマイトは尋ねた。もしや生き別れの姉妹か何かだと勘違いされてるのか。そう思うと、少しだけ笑えた。

 

「アレは、私の──…ッ?」

「脳依少女!?」

 

 気を抜いた途端、ふらりと視界がぶれ、いきなり紫那は己の意識が遠のくのを感じた。

 

(あァ…そう言えば、私……4徹中だったわね…)

 

 ようやくやって来た増援の教師陣が見えたのを最後に、紫那はオールマイトの腕の中で意識を手放した。

 





【変異細胞】
・常に変異し続ける癌細胞みたいな物であり、紫那は特殊な電気を流す事でコレを制御している。
・自己再生や簡単な変身が可能な模様。
・この細胞を制御するには相当の負担が脳に掛かり、紫那以外に移植すると段々と脳が壊れて死ぬ事になる(今の所は)。要研究。
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