「あっ、シーちゃん!!」
「心配したんだよー!? 昨日の夜まで連絡取れなかったし!!」
登校した紫那の元へ駆けてきたのは、芦戸と葉隠、耳朗の紫那が学校で最近仲良くなったメンバーだった。
一昨日は
透明故か、特に動きの激しい葉隠を落ち着かせながら紫那は詰め寄る友達の質問に答える。
「一昨日は大丈夫だったの? USJじゃいきなり気絶しちゃったし、返信もこなかったからさ」
「えぇ、倒れたのはただの…、寝不足だったわ。メールに関してはごめんなさいね。色々と忙しくて」
「そういえばバスの中でも4徹中とか言ってたよね! そりゃ倒れるか!もう大丈夫なの?」
「体調の面で言えば、概ね問題ないわ。そっちは…、あの後どうなったの?」
自身が気絶した後の事を紫那は大まかにはリカバリーガールから聞いているが、詳しい事は知らなかった。芦戸が考えを纏めるためか唇に人差し指を添えながら、答える。
「
「ホントにね…。ウチの短慮のせいで上鳴殺しかけちゃったし…」
何があったのかは気になるが、耳朗はあまり言いたくない様だった。無闇に聞き出す事でも無いので、紫那は黙って芦戸達の話を聞き続ける。
「その後警察の人が来て、教室で事情聴取を受けたよ。取り調べってあんなカンジなんだね!」
「違う気もするけど…。事情聴取の後はミッドナイトに明日は休校にするって言われて、解散したかな」
「何でミッドナイトが…。……あぁ、そう言えばそうだったわね…」
相澤先生は《抹消》の効かない脳無にやられ、病院に搬送されたと、リカバリーガールから聞いていた事を思い出す。
トドメを刺される寸前に紫那が助け出したが、あの時点で相澤先生は両腕を粉砕骨折していた。復帰にはしばらく時間が掛かるだろう。
「先生…、早く治るといいんだけど…」
「あっそう言えばさ、あの最後に出て来たヴィラン──」
「君達!! 朝の
「あっ…」
耳朗が何かを言いかけたタイミングで、融通の効かない飯田に遮られた。紫那は耳朗の質問を予想して、何と答えようかと悩みながら着席した。
■
さて、1年A組の担任である相澤先生は負傷によって療養中。では誰がクラス指導を行うのだろうか? 副担任のオールマイトか、もしくはミッドナイトか。
紫那がそんな風に考えていると──
「おはよう」
「「「相澤先生復帰早えええ!!!」」」
「えぇ… 」
両腕をギプスで固定した相澤先生が、ス…と教室に入ってきた。クラスメイトはプロすぎる!! だの無事で良かっただのと言っているが、怪我の度合いを良く理解している紫那はドン引きしていた。
さすがにヒーロー業は腕が治るまで休止だろうが、よく教師の業務をするものだと、紫那は呆れもこめながら感心した。
「怪我は大丈夫なんですか?!」
「1ヶ月もありゃ治る。ありがたい事に、
そう言いつつも相澤先生は歩くたびに痛むのか、ヨロヨロと牛歩で教壇まで歩んでから、話し始める。
「俺の安否はどうでもいい。何よりまだ戦いはおわってねぇ」
「戦い…?」
「まさか…」
「まだヴィランが──!!」
「雄英体育祭がせまっている!」
「「「──クソ学校っぽいの来たあああ!!」」」
相澤先生の言葉に、クラス中が湧いた。
■
「体育祭って…! ヴィランに侵入されたばっかなのに大丈夫なんですか!?」
ヴィランの襲撃により、延期か中止まで案じられていた雄英体育祭の開催を宣言され、生徒たちは沸き立つ。
しかし中にはビッグイベントに乗じたヴィランの再来を恐れる声もやはりあったが、問題ないと相澤先生は答える。
「逆に開催することで雄英の危機管理体制が
その8倍という数字には、紫那も関わっていた。昨日のUSJ襲撃事件に関する会議の後、紫那が
紫那には断る理由もなく、近々
些かドヤ顔の紫那を傍目に、相澤先生は説明を続ける。
「何より
個性社会の成立と反比例する様に規模も競技人口も廃れていったオリンピック。日本において、雄英体育祭はかつてのオリンピックに代わるビッグイベントである。
しかしヒーロー科の生徒にとっては意味が異なり、観戦に来る大衆の前で活躍して、プロヒーローやメディアへ自身をアピールするための、正しく“最大のチャンス”。
「プロに見込まれればその場で将来が拓けるわけだ。年に1回…、計3回だけの機会。ヒーローを志すなら絶対に外せないイベントだ!」
No.1ヒーローを目指す紫那も当然、優勝を目指している。それに加え…
(順当に進めば、
一瞬何か悪い予感を感じたかの様に背筋を震わせた緑谷を見ながら、紫那は静かに微笑んだ。
■
4限目、セメントス先生の現代文の授業が終わり、昼休みに入った。
「体育祭…、なんだかんだテンション上がるな、オイ!!」
「活躍して目立てりゃプロへのどでけぇ一歩を踏み出せる!」
教室の後ろの方に集まって騒いでいるのは、切島や瀬呂、砂籐といった男子達だ。
しかしその他の生徒たちもヒーロー志望として、そしてテレビで雄英体育祭を見て育った子供として、体育祭の場に立てる喜びを感じているらしく、皆多かれ少なかれ浮かれている。
「シーちゃんは違うの?」
「私ももちろん、優勝を狙うわ。でも私はほら、大きな舞台にも慣れているから」
「あっ、そっか。シーちゃんはノーベル賞とかも取ってるもんね!」
同じクラスで授業を受けていると、あまり実感は湧かないらしい。そんな他愛もない雑談をしている最中に、耳朗は聞きずらそうに話を切り出した。
「それで、さ。あの紫那似のヴィランのこと…、聞いてもいい?」
「あっ…」
「……えぇ、構わないわ」
当然知りたいだろうし、被害者である彼女達には知る権利がある。クラスメイトも皆興味があるらしく、いつの間にか騒がしかった教室は静かになっていた。
「自称
紫那はそう切り出し、クレオは自身の複製体である事、誕生経緯や
そして紫那は話してもいい事をすべて語り、クラスメイトの反応を待つ。不本意とはいえ、ヴィランを造ってしまったのだ。罵倒程度は、覚悟していた。
──最初に口を開いたのは、意外な事に後ろの方で話を聞いていた瀬呂だった。
「まーなんつうの? 自分のコピー造ろうとしたのにはぶっちゃけ少しひいたけどさ。ノーベルさんのダイナマイト的な? 造った事に罪はないっしょ」
「あっ、元は鉱山用に開発したってヤツ? 確かにそんな感じ!」
「そうそう! 悪いのはマキナを盗んで悪用した人でしょ? シーちゃんは悪くないって!」
「みんな…」
この場にいたクラスメイトが口々に、紫那を庇う。それは想定外の反応で、紫那は戸惑った。そんな紫那を見て、耳朗が笑った。
「まだ出会って一ヶ月くらいだけどさ、これでもみんな紫那の事を信頼してるんだよ。わざとヴィランを造ったりなんかしない、ってさ」
「信頼…」
紫那は少し、戸惑う。
──紫那が公安に求められたのは、天才的な頭脳だった。学会やメディアに讃えられたのは、画期的な発明品だった。
だが、
「意外!! シーちゃんも困ったーってカンジの顔するんだね!」
「……? 困った顔…? 私が?」
「そーだね。怒られると思ってたら怒られなくて、ビックリした、って顔してる」
次いでその特徴的な耳たぶを指先で弄くる耳朗にそう指摘され、紫那はつい惚けた様子で己の頬に触れた。
──そして自分が正に指摘された通りである事を自覚し、紫那は自嘲する。
「ふ…、ふふ…」
「シーちゃん?」
いきなり小さく笑い出した紫那に、芦戸が驚いて問い掛ける。紫那はごめんなさいねと前置きをして、答える。
「ただ…、そうただ、私は思いのほか大した人間ではないと、実感しただけよ」
そう言って紫那は笑みを浮かべる。それは普段の冷酷な笑みとは違い、何処か無念そうな、それでいて、何処か解放された様な、年相応の笑顔であった。
■
──放課後
「うおおお…。何ごとだあ!!?」
帰宅しようとリュックサックを背負った
「他組のヤツらか? 出れねーじゃん!何しに来たんだよ」
「敵情視察だろザコ。ヴィランの襲撃を耐え抜いた連中だもんな。
帰宅の邪魔をする生徒たちに文句を言った峰田をナチュラルに罵倒した爆豪が、出入り口を塞ぐ生徒たちの前に立つ。
峰田がフルフルと震えながら視線で
そんな後ろのやり取りを気にする事なく、爆豪は言葉を続ける。
「敵情視察なんざ意味ねェからどけ、モブ共」
「知らない人の事をとりあえずモブって言うのはやめないか!!」
後ろから飯田に口調を注意されたが、やはり爆豪に気にする様子はない。
「──やめてくれないかなぁ。ヒーロー科の格を落とすのは」
「あ゙ぁ゙?」
ヒーロー科とは思えない爆豪の言葉に視察に来た生徒たちが動揺していると、集団の後方から
「ヴィランと戦ったっつうから話聞こうと思ってたんだけどさァ、A組に在籍する奴はみんなこんななのかい?」
「ああ!?」
堂々と
「俺は隣の
もはや殺気すら放っている爆豪と対峙して尚、紫髪の男は言葉も身体も震わせない。
「敵情視察? 少なくとも
大胆不敵にもそう宣言した男は、返事を聞かず立ち去ろうとしてしかし、思い出したかのように振り返る。
「あーそう、こっちは個人的な用事なんだけどさ。今教室に脳依っている?」
「あら、私?」
話題に登るとは思っていなかった紫那が、席に座って研究用のタブレットを持ったまま、返事をする。紫那を見つけ皮肉げな笑みを浮かべた紫髪の男が、尋ねる。
「久しぶり…っうか、俺の事覚えてる?
「えぇもちろん。貴方の名前は確か…、
「へぇ! 覚えてたんだ。1、2回しか話してないのに」
些か意外そうに紫髪の男…心操が驚く。だがそれなら都合が良いと、心操は紫那を指さして、ハッキリと言った。
「俺はアンタに体育祭で勝つ。それで…アンタに恩を返すよ」
「──!! ふふ…。えェ本当に、楽しみにしておくわ」
「はっ! やっぱ変わんないな、アンタ」
そう言い残し、心操は今度こそ立ち去った。そしてそれに釣られる様に、徐々に群衆も解散していった。
■
「のっ、脳依さん!」
帰宅しようと生徒用駐車場に向かっていた紫那を呼び止めたのは、緑谷であった。
「あら緑谷クン。どうかしたの?」
「えっ、あいや…、えっと…明日…、いや、今日から! のっ、脳依さんの家で特訓をさせて欲しいんだ!!」
「ええ、構わないわよ」
紫那はそんな事かとあっさり許可を出したが、そもそも既にそう言って
勝手に来ればいいのにと、紫那は若干呆れる。ここまで異性が苦手な人間と話すのは、紫那にしても初めての経験であった。
「前にも言った筈だけど、ウチのトレーニングルームを好きに使ってもらって構わないわ。それともカードキー、無くしちゃったのかしら?」
「そっ、そんな事は!!」
慌ててカードキーを取り出してみせる緑谷を見ながら、紫那は少し疑問に思う。苦手な女子に無理を押して頼むほど、何が緑谷を駆り立てたのか、が。
それを尋ねれば、答えは如何にも緑谷らしい理由であった。
「そう…。オールマイトが…」
「うん。“
昼休みに食堂にいないと思えば、オールマイトに発破をかけられていたらしい。
5年前に負った重症、“個性”の移譲。複数の要因により、オールマイトがヒーローでいられる時間は、もう長くない。
「だから、次世代の“平和の象徴”…。僕が来たって事を、世に知らしめろって…」
「なるほどね…」
緑谷は“個性”抜きで身体能力がドベの上に、まだ“
「もちろんトレーニングルームの使用は構わないわ。と言うより、私も《OFA》には興味がある。“個性”の制御、手伝ってあげる」
天才が手伝うのだ。効果が絶大である事は、疑いようもない。もちろん間近で緑谷の成長を観察したいという下心もあるが、それは緑谷の邪魔にはならない。Win-Winな関係と言っていい。
「脳依さん…。ありがとう!よろしくお願いします!」
「じゃあ、早速
「え゙!? あっ、ありがとう…」
震える緑谷を車に押し込んで、紫那は
■
──参加種目の決定。それに伴う個々人の準備。2週間は、あっという間に過ぎ…
「群がれマスメディア! 今年もおまえらが大好きな高校生たちの青春暴れ馬…雄英体育祭が始まディエビバディアァユウレディ!!??」
──雄英体育祭 本番当日!!!
ゴメンよ黒色支配…