「皆、準備は出来ているか!? もうじき入場だ!!」
雄英体育祭当日の今、紫那たちは1年A組の控え室にて、開会式の時刻まで待機していた。生真面目な飯田がクラスメイトに声をかけるが、時間的にはまだ少し余裕がある。
準備体操等も終え、暇を持て余した葉隠がパイプ椅子に座ったまま部屋を浮遊する球体ロボットを指差して言う。
「シーちゃんのロボットって、こんな所でも飛んでるんだね」
「《アイボット》の事? テレポート対策に配置されているから、会場内の大体の場所を飛んでいるわよ」
紫那が
アイボット自体は戦闘能力を持っていないが、アイボットが異常を検知すれば1分以内に3人以上の警備ヒーローが駆けつけるように、根津校長が《ハイスペック》を駆使して巡回ルートを組んでいた。
その事を軽く説明すれば、透明な葉隠は大げさに驚いた素振りを見せる。
「ビックリ!! 警備ルートとかそーいうの、シーちゃんが全部考えたんだと思ってた」
「私の知性は科学技術に大きく偏っているから、そこまで万能じゃないわ。この手のことは、むしろ根津校長の得意分野ね」
「あのネズミの人?」
「ええ、その人」
個性教育にて偉業を成し遂げ、そもそも人間ではないのに人権を持ち、
「さあ君たち! 開会式が始まるぞ。名前順2列に整列するんだ!」
「相澤先生が順序はバラバラでいいってさ」
「またやってる…」
相変わらず空回っては瀬呂にツッコまれる飯田を尻目に、紫那は会場へと向かった。
……ちなみに、この時緑谷がクラスでも特に優秀な轟に宣戦布告されるという面白そうなイベントが起きていたのだが、残念ながら紫那は見ていなかった。
■
『雄英体育祭!! ヒーローの卵たちが我こそはとシノキを削る年に一度の大バトル!!』
東京ドームを越える面積を持つスタジアムに響き渡る、プレゼント・マイクの実況。しかしその声をかき消す程に、スタジアムを埋め尽くす観客たちの歓声は大きい。
『どうせてめーらアレだろこいつらだろ!!? ヴィランの襲撃を受けたにも関わらず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新生!!!! ヒーロー科!! 1年!!!
──A組だろぉぉ!!?』
派手なプレゼント・マイクのマイクパフォーマンスの中、紫那たちは入場する。ソワソワする者、緊張で顔を強張らせる者はいても、足を竦ませる生徒はいない。
一応、皆舞台に上がるだけの資格は持っているらしい。A組に続いてB組、普通のC組と入場して、順に整列する。
「全クラス揃ったわね! じゃあさっそく選手宣誓!!」
頃合いを見計らい、1年主審を務める18禁ヒーロー『ミッドナイト』が壇上に立つ。……18禁の癖に高校教師をしているのは紫那もどうかと思うが、別に(今のところ)実害は出ていなかった。
「選手代表、1年A組 脳依 紫那!!」
「えっ! シーちゃんなの!?」
「私、ヒーロー科の入試1位通過だったからね」
「チッ!!!」
爆豪の猛烈な舌打ちを聞き流しつつ、紫那は壇上に上がる。様々な式でコメントしてきた紫那には、選手宣誓などお手の物だ。紫那はお手本の様な笑みを浮かべて、口を開く。
「選手宣誓。会場にお越しになった皆様、テレビでご覧になる視聴者の方々、そして……
──
「「「──!!!??」」」
──が、普通に話してもつまらないな、と途中でつい紫那の心に魔が差した。凍り付いた空気の中、紫那は気にしない。
ふと、列に並んでいる爆豪と目が合った。その結果、彼が言いそうな丁度良い煽り文句が思い付く。
「私が優勝する。せいぜいよく跳ねなさい」
「──ッッ!! 上等だゴラァッ!!!」
「どんなけ自信過剰だよ!! この俺が潰したるわ!!」
「ははっ! やっぱスゲーよアンタ」
「第一種目はいわゆる予選よ! 毎年ここで多くの者が
計11クラスによる総当たりレース。コースはスタジアムの外周約4キロ。上位何名が通過するかは公表しない。
「我が校は自由が売り文句! ウフフフ…、コースさえ守れば
「……なるほどね?」
「さあさあ位置につきまくりなさい!」
ミッドナイトにそう言われ、生徒達がぞろぞろとスタートゲート前に移動するが、推定220名に対してゲートがあからさまに狭い。
つまり、これが
そして…
「──スターーート!!」
「ってスタートゲート狭すぎるだろ!!」
そのゲートに詰まった誰かの
「──ッ!! イッテェー! 何だ凍った!! 動けん!!」
「寒みー!!」
「早速? 気が早いわね」
スタートと同時に氷による滑走と妨害を行ったのは、紫那と同じくふるいに気が付いていた轟である。紫那は地面の凍結より速く
紫那と轟は先頭争いをしながら、お互いの隙を見計らいつつ会話する。
「脳依…。やっぱお前には通じねェか」
「あら。私だけじゃないわよ?」
「──甘いわ轟さん!」
「そう上手くいかせねえよ半分野郎!!」
「チッ…」
轟の妨害を回避したのは紫那だけではない。A組のクラスメイトや一部の他クラスの生徒もまた、タイミング良く跳ねたりとして上手く避けていた。
特に目立つのは爆破で飛ぶ爆豪、棒を創造し高跳びの要領で跳ねる八百万、虚ろな目をした生徒たちの上に立つ心操。そして…
「ワン・フォー・オール…≪
……そう。緑谷は紫那との2週間に及ぶ訓練の末、OFAを5%のみとはいえ怪我する事なく制御する事に成功したのだ。
“個性”を使いこなし、集団の前方を走る緑谷を爆豪が視線で殺せそうなほど睨んでいるが、先頭争いをしている紫那には関係ない。
『さぁいきなり障害物だ!! まずは手始め…第一関門 ロボ・インフェルノ!!』
「へぇ…。入試の仮想ヴィランの再利用ね」
「こいつらが一般入試用の仮想ヴィランってやつか」
先頭2人の行く手を阻むのは、大量のロボットたち。ビル数階分の高さを持つロボットが進路を塞いで立ち並ぶその光景は、なかなか
後続がすぐ後ろまで迫っている。思案に暮れる暇はなく、先に動いたのは轟であった。
「せっかくのならもっとすげえの用意してもらいてえもんだな。……クソ親父が見てるんだから」
轟は小声でぼやきながら素早く巨大ロボットを二体凍結させ、間を抜ける。なる程上手い手で、不安定な状態で凍った為すぐに倒れて、後ろへの妨害になるだろう。
──だが、紫那も負けていない。
「独走はさせないと…、言ったでしょう!≪ トータルハック≫!!」
紫那はバチバチッと紫電を纏い、立ち塞がる巨大ロボと、その周囲の
「コロス、コロス、コロ…。ピピッー! プログラムノ変更指令ヲ感知。“VIPエスコートモード”ニ移行シマス」
『おおっと何をした1-A脳依紫那!! 放電した途端周囲のロボどもが攻撃を辞め追従しだしたー!!』
『……ハッキングか…?』
特殊な電波を放出してロボットのプログラムを書き換える≪トータルハック≫。
「チッ…」
紫那は巨大ロボットの上に乗り、ハッキングしたロボット達を走らせながら操作する。巨大なだけありキャタピラーの足は一歩一歩が大きく、自力で走るよりは速い。
一歩先を行く轟が邪魔をしようとするが、バラバラな攻撃しかしなかったロボット達が紫那という
徐々に轟を抜かして、巨大ロボットに乗る紫那が先頭に躍り出る。だが後続も次々に『ロボ・インフェルノ』を突破し、先頭もほぼ横並びになってきた。
『オイオイ第一関門はチョロイってよ!! んじゃ第二関門はどうさ!? 落ちればアウト!! それが嫌なら這いずりな!! ザ・フォーーール!!!』
「……大げさな綱渡りね」
ルート上に底が見えない大穴が掘られ、そこをロープの張られた小島が点々としている。
それを見て、紫那は小さく眉をひそめる。ロープを伝って向こう岸まで行くのが趣旨なのだろうが、紫那の操るロボットではロープを渡れないし、Mr・Deviceは電磁力による地面との反発を加速力に変えている。
ロープの様に不安定な足場では、浮遊すらままならない。紫那はせっかくハッキングしたロボットを棄てる事を即決する。
『オォッと脳依紫那! 何と操ったロボットを橋にしてロープを渡っていく! これがリサイクルの精神ってやつかァ!?』
『乗って来た巨大ロボットは乗り捨てて他生徒への妨害に使っている。まァすぐ破壊されるだろうが、なるほど合理的だな』
紫那は張ってあるロープの上にロボットを敷き詰め、その上をMr・Deviceで走る。安定感は薄いが、自力で走るよりはマシだった。
「やはり、遅い…」
しかしこんなロボットの上という不安定な足場では、マシなだけで最大速力は出せない。その間に轟に差を付けられ、身体の温まってきた爆豪にも抜かされた。更に悪いことに、踏み台としてきたロボットが、ロープの途中で途切れた。
「仕方ないッ…」
紫那はMR・Deviceを停止させ、自分の足でロープを踏む。大きく
バランスを崩して転落するようなミスを紫那がする事はないが、飯田や常闇など細い道でも機動力を確保できる面子も紫那に追いついてきた。
だが紫那は焦らない。天才としてのプライドを胸に、1位を目指して紫那は紫電をまとった。
■
「ワン・フォー・オール ≪フルカウル≫…5%!!」
スタートと同時に《OFA》を発動し、轟の氷が足元まで広がる直前に、緑谷はゲートの壁に向かって跳ねた。
ジグザグに壁を蹴り、ゲートで詰まった生徒達の上を進む。初手で轟が何かする予感はしていたので、OFAの発動に
「訓練の結果…、身についてる!!」
集中しながらも、つい歓喜の声が出てしまう。2週間、紫那の元でそれこそゲロを吐きながら行った猛特訓は、無駄ではなかったのだ。
「ッ…!! 二人とも…速いッ…」
A組は皆回避したが、いまだ殆どの生徒は轟の氷に囚われているため、機動力の高い緑谷は高順位だ。しかし
出遅れたのは数秒だが、既に彼女らは第一関門に到達している。緑谷はOFAを5%で維持しつつ、先を急ぐ。
緑谷は2週間に及ぶ特訓により、OFAを“必殺技”ではなく“個性”…“身体機能”として扱う
最初は気を張り詰めただけで覚束なくなっただけで《フルカウル》の制御も、今では多少考え事をしながらでも出来る。
それも、紫那作の鍛錬用ロボットに散々
『さぁいきなり障害物だ!! まずは手始め…第一関門 ロボ・インフェルノ!!』
「っ!! 入試の仮想ヴィラン!!?」
紫那と轟を追いかけながら走れば、目の前に表れたのはロボットの大群。紫那と轟の両者はそれぞれの方法で即座に突破し、後ろを追う者を焦らせる。
「落ち着け…、慌てるなよ僕…!」
努めて冷静に、緑谷はロボット達の動きを観察するれば、ここでトラウマ物だった鍛錬用ロボットとの100体1戦闘で散々たこ殴りにされた経験が役立った。緑谷は《フルカウル》を維持したまま、ロボットの次の動きを予想し、最短で間を駆け抜けていった。
『爆豪や常闇に続いて抜けたのは1-A 緑谷! 上手くロボット共の間を突っ切ったぞアメージング!!』
『“個性”…、使い
入試の時には動く事すらできず、手も足もでなかったロボットに対処できた。自身の成長を感じてつい頬が緩みそうになるが、まだ競技中。感慨に浸るのは後だと、緑谷は気を引き締め治す。
「ッ! 脳依さん…?! こんな所に…」
「あら、緑谷クン。想定よりも速いわね」
第二関門“ザ・フォール”を、ロープと飛び地を器用に跳ねながら進む緑谷が前方に見つけたのは、ロープを大きく軋ませながら走る紫那と、その先を行く轟と爆豪であった。
ここで、緑谷は自分がほぼ全ての生徒を追い越して、先頭争いに加わる権利を得た事に気が付いた。しかし先頭二人は最終関門に突入し、紫那ももうじき不利な足場から抜ける。
(負けたくない…!)
──君が来たってことを、世の中に知らしめてほしい!!
轟からの宣戦布告、紫那とのあまり思い出したくない猛特訓。そして…、オールマイトとの大切な約束。
緑谷は、自分が「負けたくない」と強く思っている事に気が付いた。それは彼の中に負けられない理由が増え、またそう思えるだけの自信がついた事を意味する。
自身の成長を1つ、また気が付いた緑谷は少し笑って、勝つべく身体に力をこめた。
■
現在先頭を走るのは変わらず轟で、2番手が爆豪。それを紫那、緑谷の順で走り、その後ろはダンゴ状態で先頭を追い掛けている。
『さァ早くも最終関門!! かくしてその実態は──…一面地雷原!!! “怒りのアフガン”だ!! 地雷の位置はよく見りゃわかる仕様になってんぞ!! 目と脚酷使しろ!!』
コンクリートで舗装されていない、剥き出しの地面には、よく見れば不自然な黒い影が所々に確認できる。これが地雷で、本来は避けて通るのだろう。
だが、
「さァ、追い付いたわよ!」
「テメッ…、ワカメ髪!!」
『ここで脳依が轟、爆豪を追い越し先頭がかわったーー!! 喜べマスメディア!! おまえら好みの展開だああ!!』
後続の道となってしまう氷の道は作らずに地雷を避けながら走る轟、紫那と同じように浮遊する事で地雷を避ける爆豪。
そしてその少し後ろからボウンッボウンッ!!と轟音を響かせながら追うのは、何とOFAを使って地雷を踏みながらも爆発する前に爆発範囲から駆け抜けるという、力技で地雷原を走る緑谷である。
故意か偶然が、その爆発が後続を走る歯が剥き出しの男やイバラ髪の女の妨害になり、彼我の距離を広げている。
「ッ…!! 追い付いたぞ、かっちゃん!!」
「デクッ…、テメエッ!!!」
「あら、よそ見している場合かしらッ?!」
「グゥッ…、クソがァ!!」
爆豪が追い付いてきた緑谷に気を取られた隙を狙い、紫那は前を向いたまま手首から生やしたレーザー銃で爆豪の空中移動を担う手を狙撃する。
攻撃は直撃し、爆豪はバランスを崩す。流石の才能ですぐに体勢を治したが、その間に緑谷に抜かれ、爆豪は4位に落ち込んだ。
『後続もスパートをかけてきたが、先頭4名引っ張り合いながら依然デッドヒート!! 誰が予選1位の栄光を手にするのかァ!!』
“怒りのアフガン”4分の3程を通り過ぎ、ゴールが見えてきた。現在も紫那が先頭だが、差を広げる事ができていない。
一抜けしようとすると、他の3人がそろって邪魔するのだ。もちろん、他の3人が抜け出そうとしても同様だが。
一種の膠着状態のまま、ここまで来てしまった。だがこのまま1位でゴールできるなどと、紫那は安直には考えない。
そして案の定、まず動き出したのは緑谷であった。
「ワン・フォー・オール ≪フルカウル
≫…、
「なにッ…!?」
『緑谷まだ余力を残していたか!! 妨害を物ともせず脳依を抜かして先頭に躍り出たーー!!』
8%…。緑谷のオール・フォー・ワンの
そしてたった3%の違いでも、
「デクがぁ!! 俺の前を行くんじゃねえ!!!」
「後続に道を作ってしまうが…後ろを気にしてる場合じゃねぇか…!」
「足りるかしら…? Mr・Device ≪ジェットパック≫!!」
『他3人が足の引っ張り合いを止めて緑谷を追う!! 共通の敵が現れれば人は争いを止める!! 争いはなくならないがな!』
『何言ってんだお前』
必死に8%を維持して逃げる緑谷、氷の道を駆ける轟、爆破で宙を行く爆豪、爆発的加速で跳ぶ紫那。その4人で競った結果…
『さァさァ序盤の展開から誰が予想出来た!? 今一番にスタジアムに還ってきたその男──、緑谷出久の存在を!!』
1位は、緑谷であった。紫那は4位。これは仕方ないと、紫那は諦める。
《ジェットパック》は爆発的加速力を持つが、使用後に数秒Mr・Deviceを使えなくなる欠点がある。使用した以上、1位か4位になるのは当然であった。
「緑谷クン」
「あっ、脳依さん…」
笑顔で客席のオールマイトにガッツポーズを見せていた緑谷だが、紫那に声を掛けられて少しどもる。
紫那に対する緊張感は2週間の特訓で無くなったが、勝ったことの罪悪感か何かがあるらしい。気にする必要はないと、紫那は笑顔を浮かべて言う。
「1位通過、おめでとう。次の種目では私が勝つわ」
「──!! う、うん! あっ、いや! 次も…、僕が勝つ!」
内気だった緑谷の中に、確かな“勝ちたい”という欲が芽生えている。紫那は計6つの瞳孔を動かしながら、緑谷の成長を興味深く観察した。
【障害物競走 順位(読み飛ばされても大丈夫です)】
1位緑谷出久 2位轟焦凍 3位爆豪勝己 4位脳依紫那
5位塩崎茨 6位骨抜柔造 7位心操人操 8位鉄哲徹鐵
9位 物間寧人 10位円場硬成 11位尾白猿夫
12位泡瀬洋雪 13位蛙水梅雨 14位障子目蔵
15位拳藤一佳 16位瀬呂範太17位常闇踏影
18位 柳レイ子 19位 宍田獣郎太 20位砂藤力道
21位芦戸三奈 22位八百万百 23位峰田実
24位角取ポニー 25位麗日お茶子 26位取蔭切奈
27位耳朗響香 28位 回原旋 29位上鳴電気
30位切島鋭児郎 31位飯田天哉 32位口田甲司
33位小大唯 34位鱗飛竜 35位庄田二連撃
36位小森希乃子 37位鎌切尖 38位葉隠透
39位吹出漫我 40位黒色支配 41位発目明
42位青山優雅