「ようやく障害物走が終わったわね。それじゃあ結果をご覧なさい!」
そう言いながら、壇上に立ったミッドナイトが電光掲示板を展覧した。掲示板には1位から42位までの順位が表示され、当然1番上には緑谷の名前がある。
「予選通過は上位42位名! 残念ながら落ちゃった人も安心しなさい! まだ見せ場は用意されているわ!!」
「……? あら?」
「凡戸…? 凡戸お前ッ…?!」
「うぅー。みんな…、普通科に行ってからも仲良くしてくれる…?」
「わー! 諦めんなよ!! まだ挽回のチャンスはあるって!!」
42名に入り損ねたらしい土気色の肌をした大柄の生徒をB組の仲間が励ましているのを横目に、紫那は順位に疑問を持つ。
全体的に、
“個性”の使いすぎで腹部を押さえている
紫那たちが1位を争っている内に、後ろを追っていたA組の順位が軒並み落ちていた。紫那がその謎に首をかしげている間にも、ミッドナイトの司会運行は止まらない。
「さーて続いて第2種目よ!! 私はもう知ってるけど~何かしら!!? 言ってるそばから──これよ!!!」
順位を表示していた電光掲示板が切り替わり、第2種目が表示される。競技内容は…、“騎馬戦”だった。
出場生徒は任意で2人~4人のチームを組み、騎馬を作る。生徒には順位に応じたポイントが与えられ、上位4チームが最終種目へ進出する。
つまり、
「1位に与えられるポイントは1000万Pよ!!!」
バッ!!と瞬間的に真っ青な顔色に変色した緑谷に周囲の視線が集中した。
「……1000万…?」
「上位の奴ほど狙われちゃう…、下克上サバイバル!! 上を行く者には更なる受難を。雄英に在籍する以上何度でも聞かされるわよ。これぞ
様々な思惑の込められた視線を浴びながら、それでも尚、思いのほか緑谷は闘志を
■
雄英体育祭の競技はどれも合理的だ。
第一種目の障害物競走はヒーロー科ならクリアできて、他の科でも何人かは通れる絶妙な難易度であり、現に狭き門ながらヒーロー科以外に3人の生徒が第2種目まで残った。
そして紫那が見るに、第2種目の騎馬戦は『ヒーローになってからのシミュレーション』を上手く競技に落とし込んでいる。
「って言うのは?」
「他の
「なるほど…。将来的に絶対必要になるスキルってことか」
紫那と話しているのは、地味目な顔立ちの尾白と分厚いたらこ唇が特徴的な砂籐の2人である。彼らはチーム決めに設けられた15分間の交渉タイムで、騎馬を組もうと紫那に誘われていた。
「そんな趣旨の元に行われる競技だから、私と相性の良い貴方たちを誘わせてもらったわ。このメンバーなら、1位を狙えると思っている」
「このメンバーって…、3人だけで?」
「至当で妥当で正当な質問ね。麗日サンや切島クンなら誘っても良かったんだけど…、どちらも先約があるみたいだから」
浮力を持たせる“個性”の麗日は緑谷の所で、《硬化》の“個性”を持ち耐久力の高い切島は爆豪の所で既に作戦会議を始めており、
他にはクラス1の腕力を誇る障子も候補だったが、彼は高身長と触手がネックで騎馬を組みづらい。
「という訳で、クラスでも特に馬力に優れた貴方たちを誘わせてもらったわ」
「それは分かったけどさ。俺らの“個性”じゃ轟の氷や上鳴の電気には耐えられないよ? 実際模擬戦で1回やられちゃってるんだし…」
「それにB組もコエーな。後ろから見てたけどよ、
2人の懸念は尤もであり、その質問を予想していた紫那は自身の立てた計画を2人に話す。
「回避行動にポイント争奪…、大概の事は私が処理するわ。貴方たち2人には騎馬戦の間、私の指示に従って
「えぇ…」
「それって計画か…?」
紫那の計画とはつまり、状況に応じた力押しである。臨機応変と言えばそうなのだろうが、やはり天才の考えた計画とは思えなかった。
2人の反応にムッとした表情になった紫那が、心外だとばかりに反論する。
「B組どころかA組全員の“個性”も把握できていないのに
「ええと、まあ…、ううん…」
「まぁ、そう言うなら…」
それは計画の根拠になってすらいない傲慢な言葉だったが、紫那の功績と天才としての自信が、言葉に不思議な説得力を持たせている。A組の中でも特に
「さて、2人が納得してくれた所で情報の共有といきましょうか」
具体的には、A組全体の異様な順位の低さについて。紫那は他組の策略だろうと予想しているが、何が起きたのか詳しい話を聞いておきたかった。
紫那の質問に眉をひそめながら答えたのは、尾白だった。
「俺も断片的にしか見てないけど…、B組のアイツ…この前クラスに宣戦布告をしに来た奴が何かやったのは間違いないと思う」
「宣戦布告の…、と言うことは心操クンが?」
「そう。その心操って奴が近づいた途端に、俺の前を走ってた常闇と瀬呂が足を止めたんだ。その時は走るのに必死でよく見てなかったけど…」
「飯田が
2人の話を総合すれば、心操が“個性”を使用して妨害したのは間違いないのだろう。しかし、“個性”の内容も発動条件も、その話だけではよく分からない。同じ事を思ったのだろう尾白が、紫那に尋ねる。
「脳依さんは同じ中学校だったんだよね? アイツがどんな“個性”なのかは知らないの?」
「同じ中学校だったと言っても、私は殆ど通ってなかったし…、彼と話した記憶も1度しかないわ」
「えぇ…。なのにアイツ、脳依個人に宣戦布告したのかよ…。てか、恩返しとか言ってなかったか?」
「身に覚えはないわね。私の発明で救われたとか、その手の恩かしら」
気紛れとも思える発明により、幾つかの分野で
何処ぞの団体から感謝状が贈られてきたり、見知らぬ裏組織から刺客を送られたりするのは日常茶飯事であり、対応はすべて
「う~ん。脳依さんも知らないとなると結局、
「まあ、それなら確実だしな」
「そうと決まれば、残りの時間は大まかな作戦会議に使いましょうか。まずは…」
紫那は自身の考えた行動計画を語り始めた。
■
『さぁ起きろイレイザー!15分のチーム決め兼作戦タイムを経て、フィールドに12組の騎馬が並び立った!!』
『……なかなか、面白ぇ組合せが揃ったな』
『さァ上げていけ
プレゼント・マイクによる煽りによって会場のテンションが最高潮まで高まる中で、緑谷は麗日、発目、常闇の3人が組んだ騎馬に跨がる。
『よォーし騎馬は組み終わったな!? 準備はいいかなんて聞かねえぞ!! いくぜ残虐バトルロイヤル!!
──START!!!』
プレゼント・マイクのスタート宣言と共に、多くの騎馬が緑谷の
それを予測していた緑谷の騎馬はサポート科である発目の開発した飛行用のサポートアイテムでその場から素早く離脱する。
麗日の“
「──ッ! 痛…!!」
「デクくん!?」
「大ッ、丈夫…!」
地に着地した際の小さな衝撃で、騎手の緑谷の身体に激痛が走った。額から脂汗を流しながらも、緑谷は痛みに耐える。
(8%…。やっぱり僕にはまだ…!!)
新たな騎馬が着地した緑谷のハチマキを狙う中で、緑谷は先日のトレーニング終わりに紫那とした会話を思い出す。
『貴方の覚えたフルカウル…。出力はせいぜい5%程度に抑えておきなさい。今、貴方の身体が耐えられるのはその程度よ』
『5%…。うん、確かにそれくらいかも…』
『そんな不安気な顔をしないでも、貴方が身体を鍛えれば直に100%を扱えるようになるのは間違いないわ。それこそ、オールマイトの様にね』
それに、と紫那は言葉を続ける。
『正確に言うのであれば、貴方の身体は8%まで出力を上げても
その言葉の通りだった。障害物競争でフルカウル8%を使用した緑谷の身体は、動けない事はないが日常行動に支障をきたす程度には、傷付いている。
連戦でリカバリーガールの治療が受けられていない今、緑谷は5%のフルカウルすら使う事はできない。よって、緑谷は撃退ではなく、痛みに耐えながらの逃げの一手を取る事しかない。
小さな身体を活かした、障子の触手に隠れた峰田の奇策やもはや異様なほど殺気立った爆豪の中空からの襲撃を凌ぎ、ようやく中盤の7分が経過。
「よく動くなァ。流石は1位通過」
「──ッ!!」
動くたびに訪れる激痛と狙われ続けるストレスで息も絶え絶えになっている緑谷の前に現れたのは、生気のない目つきをした騎馬に跨がった心操だった。
「君は…」
「緑谷!」
「あっ…!」
前騎馬の常闇の指摘を受け、喋りかけた緑谷は咄嗟に口を塞いだ。“個性”を喰らっていない事を確認し、緑谷は胸をなで下ろす。
騎馬の3人も口をつぐみ、決して答えない構えを取っている。心操は手の内が知られているにも関わらず、不気味な笑みを崩していない。何か策があるのだろうと、緑谷は警戒を深めて心操と対峙する。
戦いは未だ中盤。戦場は、混沌模様を見せはじめた。
■
「クソッ、クソッ…!!」
「カラダがッ…痺れて…、動けませぬ…!!」
B組の獣人系個性の男を電撃で麻痺させ、紫那は背に乗っていた故に一緒に感電した中国系の男から、ハチマキを奪う。
「これで、830Pね」
紫那が奪ったハチマキを首に巻きながらいう。これ以前にもB組の騎馬からハチマキを奪っているのでそこそこのポイントは貯まったが、紫那のチームは3人。元の点数が低い為にまだ
「あと一組二組…、せめて1000Pは必要ね」
この騎馬戦において、1位の1000万ポイントを除いた合計ポイントは4305P。可能ならばその3分の1である1435Pは欲しいが、そこまで奪れるかは状況次第だろう。
「──ッ!?」
「えっ、なッ──!!」
瞬間、紫那の計6つの瞳が違和感を察知した。
「2人と…、──…ッ!!」
紫那が警告しようとしたその瞬間、突如紫那の視界を覆ったのは、空飛ぶ鳩の群れであった。大量の鳥は紫那の6つの瞳すら眩ませ、紫那の動きを封じた。
咄嗟に紫那は周囲に放電するが、騎馬2人にダメージを与えない程度の電撃では、鳩の群れが退く事はなかった。
「脳依さん?!」
「クッソ“個性”の攻撃か…ッて誰だオマエ?!」
「ケヒヒ…」
そして突然の攻撃に動揺を見せた砂籐が、紫那を包む鳩の群れの影に下半身を溶け込ました黒い肌に銀髪の男子生徒に足を掴まれる。
前騎馬の砂籐が動きを抑えられた事で、騎馬全体の動きが止められた。素早い連携。これは計算された攻撃だ。つまり、
「──ッ、そこ!!」
視界の端、紫那にまとわり付く鳩の群れに紛れて飛んできた『人の手』を、紫那は腕から生やしたレーザー銃で弾き飛ばした。
「痛ったー…。今のに気付くか~。流石は噂の天才」
「……、…!!」
「あー、大丈夫ダイジョウブ。そのまま鳩の維持に集中しててくれる?」
それに反応したのは、少し離れた場所から紫那たちのチームを観察していた一組の騎馬。岩石の様な頭部をした大柄な男と、ロングボブのキノコを思わせる髪型をした少女が騎馬を担っており、騎手の女には手首より先がなかった。
状況を見るに、影に入り込む“個性”らしき砂籐を掴む銀髪の少年もそのチームメイトだろう。
「ヒーロー科で見ない顔が混じっているわね。
「そ。あんま“個性”は使い慣れてないけど…、でもまあ、そんな状態なら逃げられないっしょ?」
そう言って、どこかトカゲを思わせる騎手の女はもう片方の手首も飛ばす。既に弾いた手首は戻ってきており、いまだに紫那の周囲を鳩の群れが舞い、騎馬の動きは銀髪の男によって封じられている。
『B組C組混合チームの攻撃が脳依チームを襲う!! さァ脳依チームは切り抜けられるのかー!!?』
「これ、ヤバイんじゃ…!」
「ケヒヒッ…」
「コイツ、動かせねえッ…!! 脳依、使うか!?」
砂糖を摂取することで身体能力を5倍にブーストする砂籐の“個性”、《シュガードープ》。切り札に相応しい“強個性”だが、数分使うだけで脳機能が低下していく致命的な弱点も抱えている。
故に紫那は角砂糖を懐から取り出した砂籐を手で制し、笑みを浮かべて言う。
「何の問題もないわ。
「へぇ、やってみなよ!!」
飛ばされた女騎手の両手が紫那の頭に巻かれたハチマキに届く、瞬間──
「まだまだ、甘いわね。──≪
「──ッッ!!?」
「イッタァァッ!?」
──バチリと紫那の身体に紫電が舞い、敵に向けて電撃が放たれた。
紫色の電撃は騎馬の砂籐と尾白のみならず、紫那の周りを飛ぶ鳩の大群すら避けて、騎手の女、騎馬の2人と砂籐を捕らえる銀髪の男に直撃する。
「指向性をッ…、持たせた電撃…?! そんなことも出来るんだ…!!」
「ええ、すごいでしょ? 視界を塞いで動きを封じた程度じゃ私は負けないわ」
「……あ~あ、完敗かぁ…」
“個性”の解けた鳩の群れは飛び去っていき、影に溶け込んでいた男は全身を
「これで合計1030P…。なかなかの成果ね」
「うっし!! これで充分に入賞見えてきたんじゃねーか?」
「あともう少しはないと安心できないわ。それに私が目指すのは優勝…」
紫那が言葉を途切らせたのは、
その近隣では轟の騎馬と爆豪の騎馬が、両者退かぬ攻防を繰り広げている。
「へぇ…」
「うわぁ、悪い顔…」
後ろ騎馬の尾白に苦笑される程、悍ましい笑みを浮かべている自覚が、紫那にはあった。だがしかし、こんな面白い状況では表情を戻す暇も惜しいと、紫那は素早く脳内で次の戦略を組み立てていった。
矛盾点や違和感等、お気づきの点が御座いましたらご指摘下さればありがたいです。