脳依紫那は天才である   作:緑川翼

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脳依紫那:オリジン

 

『──“()()()()()()凄いね!』

『──ズルいだろ、“()()()()()()()…!!』

 

 

 意味は真逆であれども、紫那はこの言葉が嫌いだった。本当に大嫌いだった。  

 

 初めて言われたのは、紫那が()()()()()()()()()()()()()()、意思のままに動かせる義手を作った時だ。自分を保護しに来た公安職員がそうほざいた時、紫那はその職員を()()する事を本気で考えた。

 

 その時は保護された方が都合が良かったので仕返しをしなかったが、紫那は今でもその選択を少し…結構後悔している。

 

 または社会の常識を変えかねない発明で特許を取って大手新聞社からの取材に応じた時、または、最年少でノーベル医学賞を受賞した授賞式のコンサートホールで。

 

 ある時は同情を、ある時は嫉妬を込めて、談笑の中やネット上で幾度となく言われ続けたその言葉。

  

 自分を天才だと自覚している紫那は、己の業績がそんな()()()()イチャモンで貶められる事が、何よりも嫌いだった。

 

──脳依紫那には不思議だった。

 

 何故、“個性”が無いだけで天才の私が見下される? 何故、“個性”が有るだけで私より頭の悪い連中は勝ち誇るのか。

 

 

──脳依紫那は天才である。

 

 望む事は何だって…その優秀な頭脳をもって可能(かな)えてきた紫那の、ただ1つの挫折。それは紫那が“無個性”である事だった。

 

 いくら紫那が新たな物を生み出そうと、“個性”持ち以上の、それこそオールマイト並みの偉業を成そうとも、“無個性”という欠点は紫那に付き纏った。

 

 天才を妬む凡人に嘲笑され、平等主義を気取る阿呆に憐れまれる。そんな苛立ちと屈辱の充満した頭の中で…紫那は1つの事を思い付いた。

 

 

「──あぁそうか。“()()()()()()()()()()()()()()

 

 手から炎を出せるから何なのか。そんな事、手に火炎放射器を埋め込めば同じ事ができるじゃないか。空を飛べる? なら脚に電磁浮遊装置でも埋めればいい。

 

 それは天才たる紫那にとって、当然の理屈。

 

 

 それを理解した紫那は、多岐に渡る自身の研究を1つの分野に絞り込んだ。その分野こそが、『生物工学』。また特にその中の…『サイボーグ工学』。

 

 即ち紫那は、己が()()()()()()()()()()()、“個性”と同等の力を得る事を考えたのだ。

 

 医学からコンピューターサイエンス、果てには物理学に至るまで…あらゆる分野で認められていた紫那の知能を1つに集中させた結果…

 

 数年の研究の末、大量の()()()()()()世紀の発明らと一緒に、紫那は“個性”に勝るども劣らない力を手に入れる事に成功した。

 

 これを公表すれば、筋違いな中傷を言う連中は黙るだろう。しかしそう思っていた紫那だが、自分を改造してから、1つの可能性に気が付いた。

 

 

 ──発表した所で、馬鹿どもは黙らないのではないか、と。

 

 

 紫那を“無個性”だと見下す連中は何故見下すのか? ──世の中の常識に“無個性”を嘲る風潮があるからだ。

 

 “無個性”の人間は“個性”を持つ人間よりも弱く、頼りない。そんな偏見混じりの前提条件が、紫那の様な天才(規格外)にまで及んでいるのだ。

 

 今紫那が力を持った事を公表した所で、「でも結局“無個性”でしょ?」とでも言われて終わりだろう。

 

 ではどうすればいい? ──簡単だ。()()()()()()()()()()()()

 

 “無個性”の人間であっても、“個性”持ちと変わらない。平等社会を自称するなら当然であるその事を、世間一般の民衆に理解させればいいだけ。

 

 その方法を、天才である紫那はすぐに思い付いた。この超常社会と呼ばれる現在において、最も“個性”を使用し、最も注目される職業…つまり、ヒーロー

 

 “無個性”である紫那がヒーローとなり、ビルボードチャートでNo.1を獲得する。そしてそのタイミングで、()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 勿論そんな事をすれば社会は混乱するだろうが、その頃には“無個性”なんて差別用語は無くなっているだろう。

 

 何せ、()()()N()o().()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから!

 

 途中で紫那の古巣であるヒーロー公安委員会が紫那の目論見を察して邪魔してくるかもしれないが、如何様にも躱す術がある。

 

 こうして15歳の紫那は、最もヒーローになりやすい雄英高校を受験する事に決めたのであった。

 

 

 

 

「──…間に合った、わね」

 

 雄英高校一般入試の実技試験当日、技術の規格化研究にかまけて、紫那は危うく試験に遅刻しかけていた。

 

 ──自分の身体改造(サイボーグ化)を済ませてから自身を見下す馬鹿を黙らせれない可能性に気付くほど、紫那には集中すると他に目を向けなく悪癖があった。

 

 今日はギリギリで気が付いたが、研究に熱中し過ぎて授業を忘れる可能性もある。紫那は自室にアラームを設置する事を検討した。

 

 紫那が夢に満ちた中学生たちと同じ様に校門を抜け、雄英校舎を目指して歩き始めたその時、大きな怒号が高校全体に響いた。

 

どけデク!! 俺の前に立つな殺すぞ!」

「……へぇ」

 

 怒号の主は、如何にも怒鳴りそうな薄い金髪のヤンキー少年だった。

 

 何となく目を向けた紫那は、野次馬の視線などお構いなしにキレ続ける少年を見ながら興味深げに呟く。

 

 紫那は粗暴な性格の人間が嫌いではない。もっと言えば、自分本位であったり自尊心の高い人間は割と好きである。最も、()()()()()()()()()()()()、あることが前提だが。

 

 怒号の主からは、自分の能力を見誤ったり、妄信して調子にのっている雰囲気はあまり感じられない。それであの性格なのだから、もしかしたら級友になるかもしれないと、紫那は薄く微笑んだ。

 

 

「──なあ、あの人って…」

「──いやでも…」

 

 周りに友人同士で(たむろ)っている受験生から、紫那に向けて好奇の視線が向けられる。確信が持てないのか、コソコソとした話し声も一緒だ。

 

 天才の紫那は様々な賞を受賞しているし、何度もメディア出演をしている為、そこそこ多くの人に顔を知られている。

 気付かれたとしても別に困る事はないので、紫那は変装などはしていない。実に堂々とした足取りで、紫那は試験概要の説明が行われる講堂へと向かっていった。

 

 

 

 

 講堂での実技試験の説明が終わった紫那達受験生は、職員に命じられるままバスに乗り、実技試験の会場に来ていた。

 

「広っ…」

 

 周りの受験者と同じ反応をしたのが気恥ずかしくて、紫那はつい口を押さえる。だがそれ程に、実技試験の会場は広かった。

 

 紫那たち受験者の前に建ち並ぶ高層ビル群は市街地を模した雄英高校の演習会場であり、このサイズの演習場が敷地内に幾つもあるというのだから、雄英高校の財力の凄まじさを語っている。

 

 紫那が好奇心のままにこの会場だけでも建設費はいくらになるのかを概算していると、不意に後ろから痛罵の声が聞こえてきた。

 

「その女子は精神統一を図っているんじゃないか? 君は何だ? 妨害目的で受験しているのか?」

「ひい!」

「──…おや……?」

 

 紫那の傍で()()を繰り広げていたのは、校門前で紫那が目を掛けた不良少年にイジメられていた緑髪の少年と、試験概説の説明時に“0P(ヴィラン)”について問いただしていた生真面目そうな眼鏡の男だ。

 

 見物する価値もないと、根暗と堅物による寸劇から目を離して、紫那は今回の試験について考える。

 

 

 ──今年度の入学実技試験は10分間の“模擬市街地演習”である。

 

 市街地に配置された仮想ヴィランを行動不能にして、そのヴィランの撃破難易度に応じたポイントを稼ぐのが受験者の目的だ。

 

 武器や救急箱など道具の持ち込みは自由である。自身を改造している紫那は無手かと言えばグレーゾーンだったので、後々()()()つもりだった紫那としても後々の面倒が1つ減ったと、聞いた時に1人小さく喜んでいた。

 

 事前に紫那が立てていた、ほぼ予想通りの試験内容。大きく深呼吸したり軽く“個性”を発動させたりと、各々の方法で緊張を解している受験生達の中で、紫那は小さく微笑んだ。

 

 そして……

 

 

 

「──ハイスタートーー!!」

 

 プレゼント・マイクが不意打ちで実技試験開始の合図を宣言したのと同時に、紫那は思考を切り替えて飛び出していた。

 

 脳の回転の速い紫那にとって、虚を突かれる事は痛手ではない。後手に回ったとしても、すぐに対応できるからだ。

 

 

「──Mr・Device(浮遊デバイス) 、起動!」

 

 紫那の声と共に、紫那の体がフワリと浮き、走る速度が上昇する。磁気の力で宙を飛ぶ、紫那の発明品の1つである『Mr.Device』が、紫那の脚には埋め込まれている。

 

実戦じゃカウントなんざねえんだよ!!走れ走れぇ!!

 

 状況を理解してようやく走り出した受験生を尻目に、紫那は誰よりも早く狩り場に到着した。

 

 今回の実技試験は対ロボット戦。破壊すればする程高得点となるこの試験で、素早い狩り場の確保は合格のために重要な要素だ。

 

『目標ハッケン!! ブッコロ──』

「ハッ! 遅くてトロくて鈍いわね!」

 

 独立行動している紫那へ大量に群がってきたヴィラン型ロボットを、紫那は体中に仕込んだレーザー銃でまとめてスクラップにする。

 

 紫那の腕から青白い光が放たれる度、1点ロボットがスクラップとなり鉄くずが舞う。

 

(──今ので11点!)

 

 破壊したロボットの点数を数えつつ、紫那は次の行動を思索する。

 

 紫那が予想するに、今回の試験で求められているのは、純粋な戦闘力、戦場までの素早い機動力、戦況全体を理解する判断力、の辺りだろう。

 

「──っ! 見つけた」

 

 紫那の複数ある瞳孔の内、二酸化炭素を知覚するよう作った瞳孔が、集まった二酸化炭素(排気ガス)を認識した。

 この試験会場に車は走っておらず、火災とうが発生している様子もない。十中八九、ロボットの群れだろう。

 

 道中のヴィラン型ロボットを破壊しながら目標地点にたどり着けば、紫那の予想通り大量の1、2点の雑魚ロボットと共に、3点のロボットが受験生を待ち構えていた。

 

『人間メ! ブッ殺シテヤル!』

「ハッ! 今のはジョークかしら? 面白いAIを搭載しているのね!」

 

 3点ロボットの発射するミサイルを避けつつ、3点ロボと周りの雑魚をまとめてレーザーで銃撃するが、3点ロボだけは破壊しきれない。

 

 上手くやれば素手で壊せる1点ロボ、金属バットでもあれば充分に闘える2点ロボに比べて、流石の3点ロボは硬く、強い。

 

 何故見ただけで分かるのか? ──紫那は訓練用に似たタイプのロボットを作ったことがあるからだ。

 

 故に紫那は素早くレーザーによる破壊を諦めて、次の手を打つ。

 

「──パウリ・ショック!!」

 

 紫那は機械の電子回路に致命的な障害を引き起こす電磁波を全身から放流し、3点ロボを停止させた。

 

 強すぎると周囲の人体にも悪影響を及ぼす為に敢えて低威力なのだが、それでも3点ロボを停止するには充分な威力だったようだ。

 

 機能停止した3点ロボットを破壊して、紫那はその場を去る。

 

 

「そこよ! ──…ほら、せいぜい気張りなさい!」

「あっ、ありがとう……」

 

 その後も、紫那はロボットの多い場所を探索し、まとめて破壊して点数を稼いでいく。ついでに窮地に陥った受験生を助けるのは、ヒーロー科の試験であれば、救助活動には加点措置があると推測したからだ。

 

 

 そして紫那が順調にポイントを稼ぎ、試験終了1分前にせまった、その時。()()はビルの間がら現れた。

 

Booooon!!!!

 

「──…っ! 0Pロボット!!」

 

 紫那からそれなりに離れたビル群を破壊しながら出現したのは、今試験のお邪魔虫である0Pロボット。

 破壊しているビル群以上の巨体を誇る0Pロボットは、優れた技術者でもある紫那の目から見れば見掛け倒しのハリボテである事が筒抜けである。

 

 破壊しろと言われれば、容易く可能だろう。しかし、今は時間が惜しい。紫那は素早く0Pロボから距離を取り、ポイント稼ぎを再開した。

 

 

(あと45秒…ポイントは48!)

 

 途中レスキューに時間を取られ、見込みよりポイントを稼げていない。落ちる事はないだろうが、このままでは主席は取れないだろう。

 

(チッ… 近場に高得点ロボの反応が無い…!)

 

──Buuuun!!

 

「──ッ!? しまっ…!」

 

 ロボットの捜索に夢中になりすぎた紫那は、0Pロボットの位置を見失っていた。結果、大通りのど真ん中で0Pロボットに捕捉される大失態を、紫那は犯してしまった。明らかに紫那の姿が探知されている。

 

(破壊?──ダメだ時間がかかり過ぎる。逃走するには距離が近い…隠密? でも…)

 

 この状況からでも、紫那はロボットの探知から逃れる機能(ガジェット)を持っている。しかしそれを使った場合、会場に設置されたカメラからも外れ、採点の対象外になってしまう可能性がある。

 

 それでは本末転倒、慎重にならざるを得ない…が、0Pロボットは迫っている。紫那は優秀な脳を迅速に回転させ、即座に破壊を決断した。

 

 

STEROID(ステロイド)…──」

 

「──SMAAASH(スマァァッシュ)!!!!」

 

「──…ッ!?」

 

 紫那が0Pロボットを破壊しようと体内に()()()()()()、その瞬間、飛び出した緑髪の少年により、0Pロボットが爆せる様に破壊された。

 

「なんてっ…!」

 

 信じられない光景に、紫那は目を疑う。それは、ロボットが破壊された事ではない。壊すだけなら紫那でもできた。しかし──

 

「オールマイトの様な…いや、()()()()()()()()()──?!」

 

 紫那の目の前で打たれた緑髪の少年のパンチは、天候を変えかねない…オールマイトに並ぶ威力であった。

 

 気を失い自由落下する少年と共に、会場中のマイクが繋がった。

 

「──試験終了ォォォッ!!!!

「……存外で感嘆で驚愕ね」

 

 地面に激突する寸前に、茶髪の女の子に助けられた少年を見ながら紫那は呟いた。

 

 あの少年は合格するだろう。皆が背を向けて逃げ出した強敵から、少なくとも紫那と茶髪の女の子を守ったのだから。

 

「……いいわ、今回は(たす)けられてあげる。この恩、高校で返させてちょうだい」

 

 そう言う紫那の口元は、笑っていた。

 




【Mr.Device《浮遊デバイス》】
・紫那の脚部に埋め込まれている装置。
・電磁波によって浮遊する。自転車よりは速く走れる。
・『Mr.』はMagnet Rise(電磁浮遊)の略。
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