少し分かりにくいかもしれない描写があります。お気づきの点やご意見が御座いましたら、感想欄等でご指摘下さい。
「異形型“個性”でも…完璧に《コピー》する自信があったんだけどね…」
グラウンドの真ん中で、仰向けに倒れて指一本動かせない物間が対峙する尾白へ言う。
「まさか、君の《尻尾》が“スカ”だとはね…。君の尻尾、筋肉の塊だろ? どれだけ鍛えたのさ?」
倒れたままそう言う物間の尻からは、尾白の物より
物間は“個性”を完璧にコピーしていた。それで生えたのがコレと言うことは、つまり元々の尻尾はこの太さだったのだ。
「ほぼ10年間、空手を始めた頃から毎日欠かさず鍛えてるよ」
「……あァ本当に、今回は“個性”の相性運がなかったな…」
格闘技術で劣っている上に“個性”をスカした時点で負けを察しながらも、物間は出来る限りの抵抗をした。結局は健闘及ばず惜敗したが、肩で息をする尾白の返答に納得した物間は参った、と小さく呟いた。
「物間くん降参! よって…、3位は尾白くんに決定!!」
空手のW大会で優勝した時以上の拍手とフラッシュが尾白を包む。尾白は緩みそうな顔を引き締めて、十字を切る。 そしてその瞬間、拍手とフラッシュの音がもう一段階、大きくなった。
■
『──さァいよいよラスト! 雄英1年の頂点が今ここで決まる!! 決勝戦、脳依
決勝戦の舞台に立ちながら変わらぬ微笑を浮かべる紫那に対して、いつも以上に凶悪な顔の爆豪は数分前に控え室で行った紫那との会話を思い返す。
『──あ? 何でテメェがここに…。控え室……、あここ2の方かクソが!!』
『来て早々に騒々しくて煩くて
『──ア゙ァ゙!? ──…部屋間違えたついでに言っとくがよワカメ髪。テメェ…、決勝戦で“全力”出しやがれや』
『…──!! へェ…、“
『──あンだろ? 金属化じゃねえ、準決勝でパクり野郎ン時に見せたあの力だ。そいつを上から捩じ伏せてやる』
『フフ…。……貴方の洞察力を評して、必要になったら使ってあげる。せいぜい頑張りなさい』
──上等だと、爆豪は笑う。
今日まで直接対決の機会こそ無かったが、今日ここで“上”を決める。そうして完膚なきまでの1位を取るのだと、爆豪は武者震いした。
『──今…S T A R T!!!』
「
プレゼント・マイクのスタート宣言と同時に、紫那の皮膚を合金が被う。だが爆豪はそれに躊躇する事なく《爆破》による猛スピードで紫那の懐に突入した。
──≪
「ッ…!?」
「死ィ…ねェ!!」
光による目眩まし。金属に変異させようとも、眼球の弱点は変わらない。紫那が反射的に目を閉じた隙を突き、爆破のスピードを乗せた肘打ちを彼女の顎へ向けて放つ。
爆豪の肘打ちは紫那が差し込んだ腕によって防がれたが、少なくとも意表を突いた。爆豪は素早く距離を取ってから、紫那を煽る。
「必要になったらだぁ?! これでもまだ足りねェかワカメ髪!!」
「まだまだ…、このままでも対処可能ね! ──≪
「チッ…! ──…うおっ!!」
「あら、惜しい」
紫電を纏った突きを、
ジャージを脱ぎ捨てる爆豪を見ながら、今度は自分のターンだとばかりに紫那は煽り返す。
「全力を見せる…、必要はないみたいね?」
「──…ッッ!! 俺じゃあ力不足だってか…?! テメェ虚仮にするのも大概にしやがれや! 俺が取んのは全力のテメェを捩じ伏せての完膚なきまでの1位だ!
「……へぇ?」
予想以上にブチ切れた爆豪を、紫那は鈍色に光る金属の肉体のまま興味深そうに観察する。
入学初日の“個性”把握テストでの言動や屋内訓練での粘着行動から、“
現在爆豪が紫那へ向けている苛立ちの大半も、
──だが、そんな事情は紫那の知った事ではない。
「幼馴染みがぁ! そんなに気になるのかしら!? 不快で不祥で不愉快ね!! その類いの台詞は私に勝ってから抜かしなさい!!」
「アァ!? あんなクソナード…どうでもいいんだよ!! さっさと全力で来いや!!」
ブチブチと血管の千切れる音を響かせながら、爆豪は怒りに任せた突撃を決行した。紫那は短慮な行動を嘲笑いながらカウンターを狙う。愚直な正面からの爆撃…に見せかけて、爆豪はグラウンドを強く叩いた。
──≪
「──! あら…」
先の尾白戦で使用した≪爆破地雷≫に似た構え。だが広がったのは広範囲爆撃ではなく、爆破により高く舞い上がった土煙であった。
一瞬爆豪の姿を見失い、紫那のカウンターは虚しく空を切った。なるほど爆豪は、煙幕に紛れた奇襲を狙うらしい。頭に血が上っているとは思えない、理知的な行動。
しかし…
「ッ!! ──ハァッ!?」
「忘れたの?! 私の瞳は
「グッ…!!」
気配を消して爆豪が真横から放った大振りの一撃を、紫那はいとも容易く掴み取る。そしてそのまま、掴んだ爆豪を力任せにグラウンドへ叩き付けた。
衝撃で肺に溜まった空気を吐き出す爆豪の腕を、その
「さようなら爆豪クン。短かったけれど、貴方との戦闘からは良い
「クソがッ…」
「まァ、貴方なら死なないでしょう。
──≪
「──… ッッ!?」
「ええきっと…、貴方も強いヒーローになるわ」
抵抗させる間を与えず、紫那は素早く爆豪の心臓を停止させた。心音が止まった事を確認して、紫那は爆豪から背を向ける。
「爆豪クン気絶!! よって脳依さん優しょッ…?!」
「──…嘘でしょう…?」
紫那が白線を越える直前、ふらりと…
「まさか…、そんな事があり得るの…?」
確かに心臓を止めた。紫那の目は身体の中身すら見抜く。その瞳で確認したのだ。彼の心臓が止まっている事を。
──だがしかし、白目を剝き、ふらふらと揺れながらもしかし、
紫那がその精神性を認めた心操ですら起き上がる事の出来なかったこの技を喰らって尚、爆豪は立ち上がった。紫那は他者より多くの物を見通す目を持ちながら、自身の瞳が信じられぬと目を疑う。
「心臓を…、止めたはずなのだけれどね…」
「……テメェの事情なんざ、俺が知る訳ねェだろうがよッ…。ンな下らねー技、気合いでどうにかなんだ…!!」
「──…ッ!! まさか…、貴方の精神が肉体を超越したとでも…?!」
あり得ない。だが、紫那はこの光景を知っている。
超大型のヴィランと闘う時、被害規模の予想すら出来ない災害が発生した時。──誰もが不可能だと判断した救助を、
「フッ…、フフ…」
それを理解した紫那は、つい笑い出す。彼女の胸を占める感情は、
「……正直に認めるわ。
──彼はこんなにも素晴らしい素質を秘めているというのに!
上ジャージと運動靴を脱ぎながら、紫那はそう後悔した。研究対象を偏見で見誤るなど、科学者がやっていいミスではないというのに。
「……なに意味分かんねェ事ブツブツ言ってんだ、ワカメ髪。寝言は寝て言え。ンでそのまま死ね」
「見せてあげると…、言っているのよ。貴方…、私の“全力”を見たがってわよね? いいわ、見せてあげる。私の“全力”を!!」
「──!!」
「さァ見せてちょうだい? 貴方の“意思”の力を」
紫那がそう呟いた途端、彼女の全身が
■
───紫那の身体を形成している“変異細胞”。
この細胞は
一見すると誰もが超人になれる夢の細胞だが、紫那以外の科学者たちはこの“変異細胞”がヒーローの代わりになるとは誰も思わなかった。
その最大の理由は制御の難しさ。
変異細胞は常に脳へ負担を掛け…、使用者の意志が緩み統制を失えば、変異細胞は使用者の全身を犯してしまう性質を持っていた。
変異細胞を実用するのであれば細胞の制御は早急の課題。だが紫那は既に、数多の実験から“特殊な電流”によって変異に指向性を持たせる事には成功していた。
しかし電流で変異細胞制御するとして、その電力をどう生成するのか。またその電力どう維持するのか。
百年先を行く天才科学者である紫那は…、神をも恐れぬアプローチで電力の生成を企んだ。
──
紫那の研究内容は革新的だった。現代の科学を5歩も6歩も飛び越える程に。それ故紫那以外の誰もが、この研究が成功するとは考えなかった。
だが結果だけを述べるのであれば…、紫那のアプローチは成功した。
3年にも及ぶ実験の末に完成したその発電機を、紫那は“
そう即ち…、紫那の最高傑作“リビング・ハート”の役割は身体に埋め込んだ
生み出し続ける電力で変異の方向を常に操る事で、紫那は常に変異を続ける細胞を制御する事に成功したのだ。
いつかの日に根津校長に明かした『紫那が世界を変えると確信した』発明はあり得ない発電効率を誇る“
──とどのつまり、≪
■
まず最初に変異が始まったのは、紫那が思い切り広げた腕であった。指先がびるんッと奇妙な音を立ててうねり、続いて紫那の体操服に隠れた脇先から
「な…にっ…!?」
「変異細胞をフルパワーで運用する時!! 私の身体はその強大な力を受け止めるため…、強靭で柔軟な性質へと変異する!!」
腕は割けて分裂した後、ムチの様にしなりながら、長く太く増大してゆく。
「私はこの状態の細胞を…、“触手”と名付けた」
「触手だぁ…!?」
紫那の言葉通り、紫那の腕はまるで軟体動物に似た触手へと変異している。痛がる素振りを見せない紫那の身体は変異を続け、靴を脱いだ足が、顔が触手へと変異する。
人の形を失い、全身がうねる触手の塊となった紫那。このまま変異させるのはヤバイ。そう理解しつつも、爆豪は動かない。
ダメージが残っているせいでもあるが、“全力”の紫那を倒さなければ意味がないと、自身で定めているからだ。冷や汗を流しながらも、何時でも動けるよう構えながら爆豪は頬を吊り上げる。
爆豪や観客、プレゼント・マイクすらも息を飲み見つめる中で、無秩序に伸びていた触手が一瞬停止した。そしてその直後、大小様々な触手が絡み合って形を作り始める。
紫色の触手が絡み合って巨大な身体となり、その上により濃い紫の触手がその巨体に見合うサイズの頭部を形成する。
端から見れば、タコの様な太い触手で構成された歪な下半身の上に、紫色をした紫那の上半身が乗っている様に見えるだろう。
紫那の上半身と言っても、胴体は常に絡み合った触手が流動し、頭部からは髪の代わりに数え切れぬ数の触手が生えている、
最後に空っぽの
「別ニ…、変異の終ワるのを…待ってモラう必要は無カッたのだけレド…」
「……はっ、ガワまでバケモンに成りやがって」
「……えェ精々…、こノ危機を乗り越エルだけの精神リョクを見せテちョウだい?」
こうして、紫那と爆豪の、本当の意味での決勝戦が始まった。
技解説
≪変異新人類《スーパーミュータント》≫
・紫那の
・紫那の全身を形成する“変異細胞”が最も力を振るえる形状へと変異する。
・全身が“触手”に変異し、それを編み込む形で全長5メートル以上の化け物へと変身する。その姿はラスボスの最終形態にしか見えない。
・OFA40%と同様の力を持つ。
≪発煙手榴弾《スモークグレネード》≫
・≪
・頭に血が上っていた爆豪の即興技だが、技としての完成度は高い。