・オリジナルヴィランの名前を“マキナ”から“
「あァ滑ケイで無様デ愉カイダわ! こノ私に勝ツンじャアナかっタノ?!」
「うるせぇんだよ!! 黙って死んで──…クソが!!」
「サスガよク上手ニ避ケタわね! モッと見セて観察サてちょうダい!!」
ある時は爆破で弾き飛ばし、または隙を縫う様に宙を舞って、爆豪は迫り来る触手を避ける。紫那が5メートルを越える触手の化け物へと変異してから未だ1分足らず。爆豪は既に追い込まれていた。
先ほどまでとは比較にならない攻撃のスピードと威力。爆豪の知る由のない事だが、
細い触手を振るえば音速を越え、太い触手を振るえばソニックブームを引き起こす。未だに決着が着いていないのは、ただ
しかしその差も、紫那が爆豪のセンスを観察、そして吸収する事で徐々に縮まっている。綱渡りの如く、一歩踏み間違えれば真っ逆さまに落ちていくだろう。
「死ィィ…ねえェッ!!」
伸ばされた周囲の触手を爆破で吹き飛ばしながら爆豪は宙を飛び、到達した紫那の元の面影を残した頭部に最大規模の爆破を仕掛けた。
一時的に心臓が止められた影響か、汗腺がイカれて止め処なくニトロの性質を持つ手汗を流し続けている。体力の消耗が酷く激しいが、容易く最大火力が出たのは嬉しい誤算だ。
だがその最大火力も、紫那には夏の微風に等しいらしい。
「ヒトの顔に…、そのキボの爆ハを使えルソの精神セイは…、ステキで潔クテ狂ってるワね」
「──ッ!? ……バケモンがッ…!!」
大規模の爆破によって焼け焦げた顔を構成していた触手が解け、その直後周囲から生えてきた触手によって再び顔が作られる。気色の悪い紫那の再生に、爆豪は悪態をついた。
──僅かな、焦り。
爆豪の最大火力を以てしても今の紫那には文字通り傷1つ付けられない。爆豪が勝利するには紫那を気絶させるか場外させるしかないが、それは容易いことではなかった。
紫那の弱点が脳であることは今までの試合で明らかになっている。だが最大規模の爆撃でダメージが入っていない以上、気絶させるのは現実的な策とは言えず、しかしかと言って、場外を狙うのは更に現実味のない作戦だった。
爆豪は自身の心臓が激しく動き、全身から汗が噴き出ているのを感じる。必死に勝つ為の方法を考える。だがたった数瞬でも、その隙は紫那にとってあまりに大きい。
紫那は爆豪を嘲笑いながら、地面に潜行させていた触手の一本で爆豪を捕らえた。
「のんびり呑気ニ安かんと構えスギじゃあナイかしら?! 」
「──ッ!? しッ…」
「これでェ…終わリカしら!!」
───≪
「ガァア!?」
特に巨大な触手が空気を打ち、衝撃が空気の弾丸となって爆豪に直撃した。その攻撃はトラックに
「フハハハッ!! こノ私に勝つにしては!軟弱デ脆弱で貧弱ね!! たかダか良い“個性”に恵マレただけで! この私ニ、この天才に! ちょいトでもかなうとでも思ったノかしら?! 短慮デ愚劣でマヌケな考えね!」
紫那は語気強く罵りながら、激痛に悶える爆豪に追い討ちを仕掛けた。両手の触手による百を越える滅多打ち。爆豪の肉が裂け、紫那の触手に血が滴る。声にならない悲鳴が、爆豪と観客から上がった。
何時もなら紫那もここまでしなかった。しかし今の紫那は
──触手の状態は精神に左右され、しかし精神は常に触手によって犯される。触手は願望や劣等感を表面化させるのだ。
歪んだ感情が触手を歪め、歪んだ触手が感情を歪めていく。段々と思考は単純になっていくが逆に感情は高ぶっていき、常時耐えがたい破壊衝動が単純化した思考に付き纏う。
一般的な人間であれば、触手に促されるがままに衝動を解放してどす黒い破壊生物として定着してしまうだろう。
紫那がそうなっていないのは、彼女が触手に負けない強い脳を持っているから。
だがそんな彼女であっても、触手の力を“
「さァ!! 魅せテ見セて診せてちょウダい爆豪クン!! 貴方ノ最期の輝キを!!」
紫那の思考から公安によって植え付けられた倫理観が薄れていく。徐々に…、徐々に10%20%と出力が上がっていき、まだ自制の効いていた触手の威力が強くなっている事に主審のミッドナイトが気付いた。
苦痛の声すら上げず立ち上がろうともしない爆豪の足を、紫那の触手が掴んだ。
「──!! 待ちなさ─」
「さァ私の脳を彩リナさい爆豪クン。そノ断末魔の悲鳴で!!」
ミッドナイトの制止より早く、紫那は爆豪をグラウンドへ叩き付けた。爆豪は受け身も取れず、数回、
プロヒーローすらつい目を背けてしまう残虐な攻撃。このままでは双方共にマズい。そう判断したミッドナイトとセメントスが、それぞれ“個性”を発動させる。
だが眠り香とコンクリートの高波が紫那に到達する直前。再び…、
「さっきから…、クソみてぇに殴りやがってこのクソバケモンがッ…!!」
全身にできた切り傷から血を流し、視点も定まっていない。爆豪は肉体を越えた意志の力だけで、立っているのだ。
試合を中止させるべき。ミッドナイトはその判断を取り消した。ここまでやられて尚、爆豪の目はまだ一切の『負け』を認めていない。ミッドナイトとセメントスは目配せでお互いの“個性”を消して試合を続行させた。
「こいやクソバケモン。俺はまだ負けてねぇぞッ…!!」
正にこれこそが紫那が見たかった精神の力。だが触手に浸食されている紫那には、喜びよりも苛立ちが勝った。
「フ、フフ…。私が、バケモノ? 何故? たダノ人間は発電しないカら? 触手を持タナいから? ……下らない!! こレは科学の到達しタ結カで成果で賜物よ!」
触手に縛られた紫那の脳裏に、幾つもの
『“無個性”のクセに何であんなに頭がいいんだよ? “個性”隠し持ってるんじゃねぇの?』
──“個性”を持ってなきゃ、認めてくれないの?
『天才っていっても、 “無個性”なんでしょ? カワイソ~』
──違う!! 私に“個性”なんて必要ない! 私を憐れむな!!
『“変異細胞”?気持ち悪い…。“無個性”だからって、そんな研究に手を出さなくても…』
──ッ!! 私は…ッ!!
言葉を振り払うように、またら今までの憎悪全てを爆豪にぶつけるように、紫那はグラウンドの中心で叫ぶ。
「どいつもこいつもッ!! 何故“個性”をそんなに信仰する?! 私が“無個性”で何が悪い?! アァ…嗚呼!! くだらないクダラナイ下らない!! 私は“天才”、脳依紫那だッ!!」
「──ンなこととっくに分かってんだよボケがッ!!」
「───ッ!!?」
紫那の触手を爆破で振り払いながら、爆豪が叫び返す。その怒号には怒りの他に、失望や落胆の意図が感じられた。
「さっきから黙って聞いてりゃ…、“個性”だの“天才”だの…。
「──っ!!?」
頭部まで跳躍しての、最大火力による爆撃。先ほどの焼き増しの様な攻撃でありながら、紫那の
連続で2度死にかけたせいか、または極度の興奮状態にあるせいか。爆豪の汗腺は限界まで開き、明らかに爆破の威力が向上している。
──爆豪勝己は
中学の間は勉強だろうと運動だろうと常にトップであったし、やり方を理解すれば楽器だろうが料理だろうが軽くこなす事ができた。
汎用性は高いながら扱いの難しい《爆破》の“個性”を自在に操り、雄英にあっても戦闘センスだけで言えば、一際優れている自信が爆豪にはある。
だがそんな爆豪にも…、否、自身の実力を正確に判断している爆豪だからこそ、オールマイトや
脳依紫那も、その内の1人だった。
科学技術というお門違いの分野とは言え、既に世界で力を示し認められいる紫那の事を、爆豪は“無個性”だからと侮った事は一度もない。
そんな彼女がグチャグチャとコンプレックスを語って自分を甚振るだけでトドメも刺さないというのは、爆豪にとって大いに腹の立つ態度であった。
「勝つつもりもねえなら俺の前に立つな!!! 何でここに立っとんだクソが!!!」
大振りの構え、そして爆破による回転を交えた飛翔。爆豪は苛立ちで目を充血させながらも、好戦的な笑みを浮かべている。
脳に衝撃を喰らい、また強く呼び掛けられた事で、紫那はようやく多少なりとも正気を取り戻した。紫那は両腕の触手を広げて紫電を纏わせる。
「……少し、混乱していたわ。悪かったわね爆豪クン。今から…、パワー重視の全開攻撃を貴方に向けて繰り出すわ。せいぜい死なないでちょうだい?」
「そうだ、そうだよ…! 俺の前に!
爆豪が選択したのは、錐揉み回転しながら突撃し回転の勢いとともに特大火力をぶち込む大技の≪
高速の大回転。
爆豪すら気付かぬ事であったが、体温調節機能がバグり汗腺が開きっぱなしになっていた結果…、今の爆豪の手には
──偶発性…≪
爆破を凝縮した同時爆発は、先ほどまでとは比較にならない程のスピードと威力をもたらした。それはまさに、
「……素晴らしい」
回避しなければ確実に吹き飛ばされる。そう理解しながらも、紫那は迫り来る爆豪から目が離せなかった。限界まで、ギリギリまで観察したい。その欲求は、紫那の
──≪
『特大火力に馬鹿げた勢いと回転を加えまさに人間榴弾!! 脳依は撃退を選択したようだが果たして…』
土煙が晴れた時、爆豪は威力のあまり両腕を投げ出すようにしてグラウンドに倒れていた。そんな彼の視界に映るのは、
(──途中で攻撃を、緩めやがった)
「……は?」
爆破の使いすぎで腕が痛む。全身から血が滲む。だが、先ほど以上の怒りに染まった爆豪はそれを気にせずに立ち上がり、倒れる紫那へ詰め寄って襟元を掴んだ。
「オイっ…。ふッ…ふざけんなよ!! こんなの! こんっ…!!」
勝負は決したと、ミッドナイトが“個性”で無理やり爆豪を眠らせてから大きな声で宣言する。
「脳依さん場外!! よって──…爆豪くんの勝ち!!」
『以上で全ての競技が終了!! 今年度雄英体育祭1年優勝は──…A組爆豪勝己!!!!』
今日一番の歓声が、ドーム中に響き渡った。
■
ポンッポンと色とりどりの空砲が打ち上げられる中で、皆の前に立ったミッドナイトが大きな身振りと共に喋り出す。
「それではこれより!! 表彰式に移ります!」
ミッドナイトの前には選手である1年生全員が並び、その更に後ろでは柵の向こう側からカメラを構えたメディアがメダル授与のシーンを待ち侘びている。
ミッドナイトのすぐ後ろでは1位から4位までの生徒が見栄えの良い表彰台の上に立っている。が…、生徒も観客もドン引きの表情でそれを見ていた。
「うわあ…、何アレ…」
「もはや
「起きてからずっと暴れてんだと。しっかしまー、締まんねー1位だな…」
「ん゙ン゙ーー!! ン゙~~!!!」
最も高い表彰台の上で、両手と口を拘束された爆豪が睨み殺さん眼光で紫那を凝視しながら、拘束具から逃れようと暴れている。
その爆豪より少し低い台の上には平然としながらも何処か考え込んでいる様子の紫那が立ち、更にその左右に引き攣った表情の尾白、物間と続く。
「早速メダル授与よ!! 今年メダルを
「──私が!メダルを持って来た!!」
そんな声と共にオールマイトが颯爽と登場し、同時にあちこちから歓声が上がる。オールマイトはそのまま4位と書かれた台の上にいる物間の前に立ち、彼の首にメダルを掛けた。
「おめでとう物間少年! くじ引きの不運を励まそうかと思っていたんだけど…、いい目だ!! 不要な気遣いだったかな!?」
「ええ、まあ…お節介な友達がいるもので」
「なるほど、その友情は得難いぞ! 大切にしなさい」
「……ええ、もちろん」
言葉の後にハグをして、オールマイトは続けて尾白にメダルを授ける。
「尾白少年おめでとう! 強いな君は!」
「……ありがとうござます」
「ただ! 相性差を覆すには技術に頼りっきりじゃダメだ。もっと“個性”を鍛えれば取れる選択が増すだろう」
「……押忍!!」
小さく十字を切る尾白を見て満足げに頷いて、オールマイトはハグをしてから2位の紫那の元へ来る。
「脳依少女。おめでとう」
オールマイトに差し出されたメダルに、紫那は大人しく首を通す。冷静沈着に努めながらもつい口の端を緩ませる紫那の年相応の姿に和まされ、今なら聞けるとオールマイトは1つ質問を彼女に投げ掛ける。
「決勝で技を緩めてしまったのには…、ワケがあるのかな?アレは爆豪少年の技を相殺出来ただろう威力だった」
「……彼の
未だに上から睨み続ける爆豪を見て、軽く笑う紫那。その笑みは他者を見下した嘲笑でも型にはめたような微笑みでもない、ただの少女としての笑顔だ。
「……顔つきが昨日までと全然違う。深くは聞くまいよ。今の君ならきっと素晴らしいヒーローになれる」
オールマイトは最後に強く紫那を抱きしめ、ポンポンと軽く肩を叩いて爆豪の元へ向かった。
「さて爆豪少年!! ……っと、こりゃあんまりだな」
暴れ強ける爆豪の口枷をオールマイトが外せば、爆豪はほぼ直角まで目尻を吊り上げてオールマイトに突っ掛かる。
「オールマイトォ…。こんな1番…、何の価値もねぇんだ!! 世間が認めても俺が認めてなきゃゴミなんだよ!!」
「うむ! 相対評価に晒され続けるこの世界で…不変の絶対評価を持ち続けられる人間はそう多くない。受けとっとけよ!」
「要らねっつってんだろが!!」
「まァまァ…、セイッ!」
四肢を拘束されながらも顔だけで受け取りを拒否する爆豪に、オールマイトは無理やりメダルを押し付けた。そして大きく振り返って観客とメディアに向けて大きく口を開く。
「さァ!! 今回は彼らだった!! しかし皆さん! この場の誰にも
流石にNo.1ヒーロー。体育祭を終わらせるのに相応しい事を言う。締めの一言が予想の付いた紫那はンンッと軽く咳をした。周りを見れば、他の生徒や観客も同じ様な事をしている。
「てな感じで最後に一言!! 皆さんご唱和下さい!! せーの!」
選手も観客も一体となって叫ぶ。
「「「プルス!! ウルトラ……」」」
「──おつかれさまでした!!!」
「そこはプルスウルトラでしょオールマイト!!」
「ああいや…、疲れただろうなと思って…」
「……まったく、締まらないわね…」
こうして、紫那にとっても非常に有意義だった雄英体育祭は幕を閉じたのだった。
■
『脳依さん場外!! よって──…爆豪くんの勝ち!!』
「アララ。シーちゃん、負けちゃったのか。応援してたのに」
首都圏、上空。行動の速いホークスは既に公安との紫那から得た情報の共有を終え、事務所を構えている福岡へ帰るべく《剛翼》によって飛行していた。
そんな高速飛行の最中であっても、ホークスの羽根は主婦の井戸端会議から助けを求める悲鳴まで正確に掴み取る。
窓を開けたままテレビで試合観戦している家から漏れてきたプレゼント・マイクの実況が、ホークスに紫那の敗北を伝えた。
「えっ!? ウソ、マジじゃん!アレってホークス?!」
「アレホントだったの!? てかなんで東京にいんの?! つーか写メ写メ!!」
「おっと、見つかっちゃたか」
大通りを歩いていた女子高生2人が上空を飛ぶホークスを見つけてにわかに騒ぎ出す。自身の主義的にファンサービスを怠らないホークスが2人の前に降り立てば、他の通行人も寄ってきて騒ぎは更に大きくなる。
「ホークス写真撮らせて下さい!」
「オッケー」
「あの! 自分大ファンでこの色紙にサインを…」
「おー準備良いね、名前は?」
「大塚です!」
1人1人丁寧なファンサービスをしているせいで人が減る様子がない。しかしホークスは嫌な顔をすることなく、増えていくファンを丁重に捌いていく。
「
「オッケー大塚クンいつもありがと」
「おい鷹見ってば」
「何よ? 人がファンサしてる最中に…──ッ!!?」
突如街中で呼ばれた、公安以外に知る者のいないはずの本名。当然の様に呼ばれたせいで、違和感を察するのが一瞬遅れた。
驚愕と共にホークスが振り返れば、そこに立っているのは
「よう。久しぶりだな」
「……
──裏切りの女傑”レディ・ナガン。
超人社会の暗部が、そして当時の公安委員長を殺害した上で