場面転換が多いです。お気をつけ下さい。
──世界には……想像を超えたヴィランが存在する。いつか…、運命は
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「ナガン先輩…、大丈夫なんスか、こんな堂々と出歩いてて。全国のヒーローが先輩の手配写真を持ってますよ」
自分に群がるファンの中で、カチリと背中に銃口を突き付けられた感覚を察したホークスは、努めて軽薄にそう言った。
“裏切りのヒーロー”レディ・ナガン。“個性”《ライフル》と優れた射撃技術によって3キロ離れた標的を打ち抜くスナイパー人間であり、前公安委員長を殺害し逃亡するまでは公安所属のヒーローとして超人社会の『暗部』を担い続けていた、いわばホークスの前任者。
そんなヴィランに、銃口を突き付けられている。一滴、ホークスの背に冷や汗が流れた。だが遠距離からの射撃ではなく民衆に紛れての接触ならば、すぐに殺すつもりはない筈。ホークスはそう予想して、撃退ではなく会話を選択した。
「ハッ…、ヒーローってモンはな、強盗と万引き犯の捕まえ方しか教わってないんだよ。……実に悠々と歩かせてもっらてるさ。得意気に突発性ヴィランを倒している、その横をな」
深くキャップを被っただけのナガンは、そう言って不敵に笑う。以前聞いていた彼女との雰囲気とは全く違う。 本質がこうだったのか、ヴィランとなってはっちゃけたのか。どちらにせよ、凶悪なヴィランが持つ独特の気配を、ナガンは纏っている。
(──マズいな…)
何にせよ、背後を取られたのが致命的だった。ホークスは翼を閉じた状態からでも《剛翼》を弾丸並みのスピードで飛ばすことが出来るが、ナガンは既に銃口を向けている。
どちらかが撃てばもう片方も反射的に引き金を引いてしまう、いわゆる膠着状態の“メキシカン・スタンドオフ”。ここからホークスが一人勝ちするのは、困難だった。
(──公安の機密情報の奪取、トップヒーローである俺の暗殺、もしくは…、時間稼ぎか…?)
このタイミングでナガンが接触してきた狙いを、ホークスは何も気付かぬファン達に笑顔を振りまきながら推測する。
「……で? どうだった?」
「え? 何がっすか?」
「何がってお前…、私の後釜に据えられたんだろ? 公安共にろくでもない事を沢山させられて…
ナガンは1度言葉を区切り、シボッと、空いている左腕でマッチを点火した。剛翼の空間探知が、彼女が咥えた煙草に火を付けたのを察知する。一息吸って紫煙を吐き、ナガンは言葉を続ける。
「残念だよホークス。お前が私好みに成長してれば、仲間にしてやろうと思ってたのに」
「……仲間?」
(──俺の勧誘…? まさか。本気か……?)
「ま…、No.4ヒーローになっちまった時点で…、私達の仲間とはほど遠かったな」
徐々に、群衆が散っていく。今なら、《剛翼》で人々を守りつつナガンを捕らえられるかもしれない。だが近隣に彼女の仲間が待機している可能性を排除しきれない以上、ホークスに無茶は出来ない。
「……先輩なんて言うか…性格変わりました? 公安出てから…、何があったんです?」
ホークスは話を逸らしつつ、《剛翼》の振動感知能力を用いて周囲の挙動不審な人物を探索する。殺気は必ず挙動に出る。僅かな振動からそれを察知する事もホークスには可能だった。
もしナガンが単身であれば、その時は危険を冒してでも彼女を捕える。ヴィラン連合の居場所、AFOとの関係…。彼女に聞きたい事は山ほど有る。
「……なあホークス。『
ホークスの目論見に気付いてか否か、ナガンは話に乗ってきた。少しでも情報を掴めればと、ホークスは周囲の探索と同時並行で聞き耳を立てる。
「今の世の中は…やたら性善説がはびこってる。ヒーロー制度がその代表。「生まれついての
また一息、ナガンは大きく紫煙を吹き出した。甘い煙草の煙が、ホークスの顔まで届く。
「違うんだ」
「──いるんだよ、本当の『悪』は。」
「結果悪だとか必要悪だとか、そんな不純な『悪』じゃあない。『
ゾクリと、ホークスの背筋が冷える。それはまるで、銃口を向けるナガンの恐怖と恍惚が、ホークスにまで伝わったかの様な震えだった。
「私が公安時代に犯した罪を…
── 一緒にいるだけで吐き気がこみあげてきて、胸クソ悪くて生きてるのも嫌になってさ。……それでいて離れられない『悪』のカリスマってのは、いるんだよ」
「悪のカリスマ…。先輩まさか…?!」
ホークスの脳裏に浮かんだのは、かつてこの国のその“個性”とカリスマ性によって支配していた1人のヴィラン。
「……ハッ、察しがいいな。いずれ分かるよ。……いや…」
「──!! 先輩ッ…」
不意に、ホークスの背に掛かっていた圧力が消えた。ナガンが、右手のライフルを解除したのだ。咄嗟に、ホークスは振り返る。
「お前達ヒーローには…、あの人は
──ジジッ…、バシュン!!
まあ…、平和にやってろよ。そう言い残して、ナガンは青い光と共に消えていった。
(──付近にはもういない…俺が目的じゃなかった…? てなると足止め……、──ッ!! しまった!!」
素早く思考を回してナガンの目的に気付いたホークスは、既に時遅そしと理解しながらも空を翔る。
──航空進路上にある、
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「今日さー、超声かけられたよ登校中に!!」
「俺も!」
「俺なんか小学生にいきなりドンマイコールされたぜ?」
「ドンマイ上鳴」
体育祭の終わった二日後、通常授業が再開し、数日ぶりにクラスメートが教室に集まった。HR前の教室は体育祭で上がった知名度に関する話題で持ちきりであり、それは紫那を含む女子グループも同じだった。
「私もジロジロ見られて何か恥ずかしかった! 」
「透明でも見られてる感覚ってあるのね?」
「めっちゃ分かるよ! ってそう言うシーちゃんはどうだったの?!」
「私は…車で登校しているから、よく分からなかったわね。ただ、付き合いのある企業から幾つか祝辞が届いたわよ」
「うわぁ、流石は“天才”って感じ」
紫那が触手の化け物に変身し残虐性を露わにしたにも関わらず、クラスメートは拍子抜けする程、彼女に対して普段通りに接している。
紫那がそれを有り難く思いつつ雑談に興じていると、予鈴と共に「おはよう」と相澤先生が教室に入ってきた。
USJ襲撃事件の際に負った傷がようやく完治した相澤先生はHRもそこそこに、すぐさま1限目を開始する。
今日の1限目はヒーロー情報学。いつもならヒーロー関連の法律や犯罪傾向の推移などのヒーローとしての基礎知識を学ぶのだが、体育祭明けの今回はちょっと特別な回らしい 。
「“コードネーム”、ヒーロー名の考案だ」
「「「──胸ふくらむヤツきたああああ!!」」」
さては小テストかと危惧していた面々が一斉に騒ぎ出し、相澤先生に睨まれて一瞬で静かになった。何時もながら、愉快なクラスである。
そんな連中を無視して説明を続ける相澤先生の言葉に紫那が耳を傾ければ、体育祭を観戦したプロヒーロー達による“ドラフト指名”が来ており、インターンではそれを名乗る必要があるのだと先生は説明を締めた。
「で、その指名の集計結果がこうだ」
A組指名件数
・脳依 3088
・爆豪 2812
・轟 1916
・尾白 1208
・砂籐 701
・瀬呂 112
・緑谷 58
・飯田 17
……
「1位2位逆転してんじゃん」
「表彰台で拘束された奴とかビビるもんな…」
「ビビってんじゃねーよプロが!!」
「あの票数…、さすがですわね轟さん…」
「……ほとんど親の知名度ありきだろ」
全体的には順位通りと言える指名数だが、1位の爆豪よりも2位だった紫那の方が多く、またベスト8止まりの轟が4位を取った尾白よりも指名数が多い。こちらに関しては、轟本人が言う通り親であるエンデヴァーの話題ありきの票数だろうが。
ちなみにその轟だが、体育祭で闘った物間にどう触発されたのか、連休明けでは雰囲気が少し柔らかくなっていた。先ほども緑谷や麗日と談笑していたし、クラスメートともその内打ち解けるかもしれない。
「でだ。これを踏まえ…指名の有無は関係なく、おまえらにはいわゆる職場体験ってのに行ってもらう」
「それでヒーロー名なんですね!」
「まァ仮ではあるが適当なもんは…」
「付けたら地獄を見ちゃうわよ!! この時の名が! 世に認知されそのまま…プロ名になってるヒーローも多いからね!!」
そう言いながら教室に入ってきたのは18禁ヒーローのミッドナイト先生。
恐らく自身のヒーロー名の由来を調べた事のないであろう
「さて…、どうしたモノかしらね…」
前から回されたクリップを手に、紫那は脳を回し始めた。
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(──さて、どうしたもんかな…)
クリップと油性ペンを手に、彼──尾白は悩んでいた。案を書いては消し、書いては消す。彼のクリップボードはもう既に修正の痕で黒ずんでいる。
無難に武闘ヒーロー《テイルマン》にでもしようかなどと考えていたが、千を越える指名を頂いておきながら
(でも参った…、何も思い付かないぞ…。蛙水さんは凄いな…)
彼女が発表したヒーロー名《フロッピー》の様に、自身の特徴やアピールポイントを端的に表した名前を考えるのは、思いのほか難しい。
猿、武闘、空手。尾白はクラスメートの発表を傍目に浮かんだ言葉をボードに書き並べるが、良い名前は思い浮かばない。
ついでに、尾白がセンス無い仲間だと勝手に同族意識を持っていた砂籐は甘味ヒーロー《シュガーマスク》と洒落たヒーローネームを既に発表している。全身タイツのコスチュームや体育祭の実況から、彼は覆面レスラー系統のキャラで行くらしい。
ウンウン悩む尾白を横に続いて壇上に立ったのは、砂籐と同じく騎馬戦で組んだ脳依である。彼女は相変わらずの自信に満ちた表情でボードを広げる。
「私は…“技術ヒーロー”《メカニスト》です」
「
「フフ…ええ、シンプルで分かりやすくて明白な名前でしょう?」
「あら…辞めちゃうの、その名前? 勿体ないわね。良いヒーローネームなのに」
「ッ!! 脳依さん…」
壇上を降りた脳依が、そう声を掛けてきた。尾白は見られた恥ずかしさでつい押し黙れば、脳依は不思議そうに言葉を続ける。
「もっと自負とプライドと自尊心を持ちなさい。貴方には
「……え」
それだけ言って、脳依は自分の席へ戻っていった。尾白はその背を見送ってから、1人考える。
(──プライド…、か)
雄英体育祭で4位となり表彰台に立った事。それは誇りに思っているし、偶然の結果だったなどとは口が裂けても言えない。しかし同時に、押っ広げにそれを自慢するのも、また違う気がしていた。
──尻尾がありゃそう動くだろって動きなんだよテメェの立ち回りは!
バトルロイヤルにて爆豪に言われた台詞を、尾白は噛み締める。実力を過信していたつもりはない。だが自分の技術では爆豪に及ばなかった事を、認めなくてはならない。
これから身を費やすのは、ルールのある試合ではないのだ。培ってきた技術と
「……よし!」
そんな意味でも、尾白は殻を突き破る必要がある。彼は覚悟を決めて、思い付いたものの自分には荷が重すぎると躊躇していたヒーローネームをボードに書き直し、壇上に立つ。
「次は貴方ね! さぁジャンジャン発表しちゃいなさい!」
「……俺のヒーロー名は…、武闘ヒーロー《セイテンタイセイ》です」
「えっ…
「大胆な名前だなぁオイ!! そんなキャラだったっけ?!」
尾白の意外なヒーローネームに、クラスメートがざわめく。この場所でも恥ずかしがって名乗れない様では、大衆やメディアの前で名乗る事など出来ないだろう。
「そのヒーローネーム。大言壮語にしないためには相応の気苦労が付いて回るわよ。それでも良いのね?」
「……はい、覚悟の上です」
「……フフッ。頑張りなさい、セイテンタイセイ」
ミッドナイトの問いに尾白が答えれば、奥の席で脳依が小さく笑ったのが聞こえた。彼女なりの激励が無ければ、尾白は《テイルマン》に成っていただろう。尾白は「あぁ!」と小さく答えた。
「ンンン~青春ね!!」
成り行きを察したミッドナイトが肩を抑えて悶えていたのが、とくに印象的だった。
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──時をいくらか遡り、とあるバーにて
「今戻りましたよって…、アァ?」
「……ハァ。新手か…」
「なんだコリャ。どういう状況だよ?」
バシュンと青白い光と共に現れたのは、レディ・ナガン。
「アァ…っと、交渉決裂…って事で良いのか?」
『いいやナガン、これで良いんだ! 彼自身が考え行動した結果だ。まだ、手を差し伸べる段階じゃあない』
「……まあ、アンタがそう言うんなら…」
ボスのお気に入りである死柄木弔が殺される前にステインを撃ち殺そうとしたナガンだが、それをイヤホン越しの声が制した。確かに
すると死柄木弔にナイフを突き刺した態勢のまま、ステインが血走った目付きでナガンを睨む。
「お前は…ハァ、知っているぞ…。レディ・ナガン!! ヒーローの名を穢した貴様も粛清対象だ…! ハァ…」
「ハッ!
そう言いながらもステインはまず死柄木弔から仕留めるつもりらしく、ナガンを無視して地面に組み伏せた死柄木へ偉そうに説法を垂れている。
そしてついにキレた死柄木が自分に突き刺さったナイフを《崩壊》させて反撃すれば、何が気に入ったのかステインは「始末するのは後でいい」などと言い出した。
「始末はすんのかよ…。こんなイカレた奴がパーティーメンバーなんて嫌だね俺…。イカレてんのは一人で充分だ!」
「あら、“イカレた奴”ってワタシの事かしら? えェ、本当にそうみたいね! 悲しいわ」
「さっきまで
「ハイハイ喧嘩はそこまでにしろ!」
何があったのかナガンは知らないが、死柄木弔とKL-E-Oは折り合いが悪い。と言うよりも、KL-E-Oが事あるごとに煽っては短気な死柄木弔が律儀にキレるのだ。
お陰でバーを破壊しかねない二人の喧嘩を、ナガンか黒霧のどちらかがしょっちゅう仲裁する羽目になってしまった。
「死柄木弔、ステインもKL-E-Oも、連合にとって大きな戦力になる。排斥ではなく受容を、死柄木弔。少なくとも、交渉は成立した!」
「……ハァ。用件は済んだ。さァ俺を“保須”へ戻せ。あそこにはまだ成すべき事が残っている…!!」
「……ハッ」
黒霧の子守やステインの狂った信念で静かに燃える目を、ナガンは嘲笑いながら見ていた。
オリジナルヒーロー名一覧
・脳依紫那
技術ヒーロー《メカニスト》
・尾白猿夫
武闘ヒーロー《セイテンタイセイ》
・砂籐力道
甘味ヒーロー《シュガーマスク》
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