脳依紫那は天才である   作:緑川翼

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オリジナル設定満載です。お気をつけ下さい。


それぞれの職場体験

 

──脳依紫那の場合

 

『ヒーロー殺しステイン。本名、赤黒血染。オールマイトのデビューに感銘を受け、私立のヒーロー科に進学するも、「ヒーロー観の根本的腐敗」に失望。1年の夏に中退する』

 

 動画の中で、不自然な声調の合成音声が語る。

 

『氏の主張は“英雄回帰”。ヒーローは見返りを求めてはならない。自己犠牲の果てに得うる称号でなければならない。現代のヒーローは英雄を騙るニセモノであり──』

「─……やってくれたわね…」

 

 フィンガースナップで動画を流していたスクリーンの電源を落とし、紫那は部屋中を歩き回りながら思考を纏める。

 

 ここは紫那の自宅であり研究所でもある高層ビルの最上階。広い部屋には良質な家具と共に、簡易的な実験器具が置かれている。

 

 他に目を引くのは壁一面に設置された様々な分野の専門書を大量に収納した本棚が配置され、数え切れないほど箱買いされた菓子類がまさに山積みになっていた。

 

 こここそが、紫那の自室である。

 

 

 保須市襲撃事件から2日経った今日、紫那はホークスが事務所代わりとしていたホテルではなく、自宅へ帰ってきていた。

 

 ヒーロー公安委員会の依頼を受け、保須市を襲撃した新型脳無の解析を行う為だ。

 しかし昨日の内に公安へ新型脳無の残骸と解析結果を送り仕事を終えた時点で、紫那にはヴィラン連合関連でやれる事はなくなった。

 

 学校も明日からであり暇に飽かして2日ぶりに社会情勢を確認していた末に、紫那はあのステイン解説の動画に辿り着いたのだった。

 

 

 紫那は歩き回りながら考える。

 

ステインは捕らえた。しかしメディアの報道やネットの動画サイトなどを通して、彼の思想は広く知れ渡ってしまった。結果、ステインの主張に共感・感化された人間は、ヴィラン連合に接触するだろう。

 

 公安が尋問した所、ステインはほぼヴィラン連合に関する情報を所持していなかったそうだ。ステインは体よく、ヴィラン連合の()()()()()に使われたらしい。

 

「オール・フォー・ワン…」

 

 髪から伸ばした触手で冷蔵庫からチェリーフレーバーの瓶コーラを取り出しつつ、紫那は呟く。

 

 これから先、ヴィラン連合には紫那と同じ脳を持つKL-E-O(クレオ)や元公安所属ヒーローであるレディ・ナガンの他にも、一筋縄ではいかないヴィランが増える事だろう。

 ヴィラン連合の後ろに潜んでいるらしき黒幕のAFOは大した手腕だと、紫那は賞賛すらする。最小の損害で、手数を増やしてみせた。

 

 キャップを外し一気飲みしたコーラの空き瓶をマガジンラックの上に放置しながら、紫那は独り呟く。

 

「KL-E-Oもまた、面倒で厄介で煩雑な兵器を作ってくれたものね。名付けるなら…、ロボブレインかしら?」

 

 新型の脳無について分かった事は少ない。素材となった死体はここ数年間行方不明だったチンピラで、機械部品は全て国外からの密輸品であることは判明している。

 またやはり複数の“個性因子”を所持しており、AFOとKL-E-Oによって作成されたのは間違いないが、USJ襲撃時に使われたモノとは違い、脳内の短期・長期記憶を消去した後に命令(プログラム)を書き込んだ形跡が見えた。

 

 脳無をヴィランではなく、兵器として使用する残虐ながら合理的なアプローチ。如何にも倫理観の転送(ダウンロード)に失敗した劣化コピーであるKL-E-Oらしいと、紫那は嘲笑う。

 

 

「ンん?」

 

 そんな事を考えながら部屋をグルグル歩き回っていると、紫那は靴越しに、何かを踏んだ。丸く、尖った何かを。

 

「……なんで、こんな所に?」

 

 足をどかして踏んだ物を見てみれば、それは瓶の王冠であった。紫疑問に思って頭を上げれば、紫那は全てを理解し、うんざりした顔になった。

 

「あァ…、またやらかしたのね…」

 

 紫那の視界に広がるのは、重要な書類が床にばら撒かれタブレットが冷蔵庫の中に収納され、よりにもよって外国から取り寄せている外科ジャーナルが並べられたマガジンラックの上にコーラの空き瓶が放置されている、悲惨な光景。

 

 紫那には思考に熱中し過ぎると、 周りが見えなくなったままフラフラと歩き回った挙げ句手に取った物を辺りに捨て置く悪癖がある。

 

 最近はこの悪癖も治まっていたのだが、久々に発症したらしい。紫那はひとまず危ういバランスで保っている空き瓶を回収してから、どう片付けるべきかと頭を抱えた。

 

 

 

 

──尾白猿夫の場合

 

「ッ…、うっ……」

 

 木刀を構えた尾白の額に、冷や汗が流れる。対面に立ち同じく棒を構えているヨロイムシャには、一切の動揺は見られない。

 

 事の発端は、初日の職場体験を終えた尾白にヨロイムシャが木刀での立ち会いを求めた事。

 トップヒーローに揉んで貰えると軽く承諾した尾白はその5分後、ヨロイムシャの木刀から放たれる剣圧に気圧され気絶した。

 

 そしてこの1週間、仕事終わりに1度だけ、尾白はヨロイムシャと木刀での立ち会いを行っている。今のところ、尾白の全敗。

 

 構えたまま、尾白は荒くなっていた息を整える。無闇に打ち込む事はしない。悠然と構えている様に見えて、ヨロイムシャにはまったくの隙がないのだ。

 適当に木刀を振った所で容易く弾かれ、返す刃で叩きのめされる予想が付いてしまい、尾白は動くことが出来なかった。

 

「うっ…、くぅッ…!!」

 

 だが、向かい合って、5分。尾白は、自身の動悸が速くなり、背から滝のように汗が噴き出している事に気が付いた。

 

 原因は明白。

 

 ヨロイムシャが放っている、強烈極まりない闘気である。“個性”などではない。本人がまったく動かずとも、ただ放たれる気迫が、尾白をここまで追い詰めていた。

 

 なまじ強者だからこそ、読み取れる達人の気配。昨日までは、剣圧に耐えきれず破れかぶれで突っ込んだ所を、一撃で打ちのめされて気絶している。

 

(──武芸には自信があった。でも、ここまで差が有るなんて…!!)

 

 “具足ヒーロー”ヨロイムシャ。トップ10に出たり入ったりしている、“オールマイト”以前から活躍しているこの老年のヒーローの事を尾白は当然知っていた。

 

 だが、尾白の認識は甘かった。

 

 あるいは尾白以上に直接戦闘に使えない“個性”でありながら、剣技のみでこの国のトップヒーローまで上り詰めたヨロイムシャは即ち、尾白の完全上位互換。

 

「ふっ…、ハァ…!!」

 

 向かい合っているだけで、息が荒くなり思考の幅が徐々に狭くなってゆく。必死の思いで、尾白は最初の一手を考える。

 常道の上段攻めは駄目だ。既に3度、無謀に試して失敗している。ならば、素早さを重視した突き技か。──否、ヨロイムシャならば確実に反応してくる。

 

 ヒーローコスチュームの下に着たインナーがいつの間にかびしょ濡れになっていた事に、尾白は気が付いた。身体も脳も、限界まで熱くなっている。

 

 いっその事何も考えずに突撃すれば、どれ程楽だろうか。そんな誘惑が一瞬、脳裏を過った。

 

「くっ…。それだけは、駄目だッ…」

 

 昨日までは、その誘惑に負けている。

 

 だがその選択は、尾白が幼少期から…、それこそ10年以上歩み続けてきた“武”の否定に他ならない。己の武術が唯の暴力以下だと、同意するのに等しい屈辱だ。

 

 

──“弱個性”だと馬鹿にされても平気だった。

 同世代の誰よりも、鍛錬した自覚があったから。

 

──普通だと評されても気にならなかった。

 自分の価値(強さ)は、自分が最も理解していたから。

 

 だが自分以上の技巧を誇るヨロイムシャ相手に思考を捨て、ただ筋力を持って攻める事だけは、許容出来ない。その方法は、自分の()()()()()の一切を否定する事と同義だからこそ。

 

「ッ…、ふぅー」

 

 無理やり逸る呼吸を飲み込み、息を整える。混乱していた脳が、少しだけ冷静さを取り戻す。そして一瞬、冷えた頭が走馬灯のように過去へと飛んだ。

 

 

『──なんでッ、ボクの“個性”はこんなのなの…?』

 

今でこそ誇りにすら思っている“個性(尻尾)”だが、幼少期にはこんな“個性”ではヒーローになれないと泣いていた。だからこそ、小学校に通う前から空手道場に通うようになったのだ。

 

『──いっぱい練習してて凄いわねぇ。将来は武道家かな? ヒーローかな?』

 

 道場で母さんに褒められるのが、好きだった。毎日道場に通うようになったきっかけは、そんな単純な事だ。

 

『──お前には鍛錬の才がある。それは得難い才能だ。大切にしなさい』

 

 最初に才能を認めてくれたのは、師範だった。寡黙な人だったから、褒められたと気付いた時は本当に嬉しかったのを覚えている。

 

『──ありがとうねぇ。おかげさまで助かったよぉ』

 

 初めて人を(たす)けたのは、中学1年生の頃。お婆ちゃんの鞄を奪い取ったひったくり犯を咄嗟に投げ飛ばした時。

 その時初めて、自身の力で人を救ける事が出来るのだと、尾白は知った。

 

 

(─……そうか。俺は…)

 

 ヨロイムシャの剣圧に晒され続けた末に、尾白は自分の“原点”を理解した。

 

 爆豪のように、勝利や戦闘その物が好きな物騒極まりない性格はしていない。かといって、注目されたり“個性”が平凡だと馬鹿にした連中を見返したい訳でもない。

 

 ただ、()()()()()()

 

 歩める所まで、道を極めてみたい。その過程で、なるべく多くの人を(たす)ける事が出来れば、それで万々歳だ。

 

──その想いこそが、尾白猿夫の原点(オリジン)

 

 

 ふと尾白は、まったく動かなかった自身の足が動き出し、一歩踏み出していた事に気が付いた。

 

 そのまま普段通りに、まるで通学路を進むかのように無心で、尾白は前へと進む。そして…、ペコリと会釈をする様な自然体で、木刀を振った。

 

「ムッ…!?」

 

 無言を貫いていたヨロイムシャが初めて1つ唸り、構えていた木刀で振り下ろされた尾白の木刀を弾き飛ばした。

 

「はっ…!!」

 

 尾白はその衝撃で始めて、自分が木刀を振り落としていた事を理解した。不味い、撃退された。反撃を──

 

「痛うッ!!」

 

 直後、尾白の持つ木刀は跳ね飛ばされ、その返しと振られたヨロイムシャの木刀が尾白の脳天に直撃する。

 

「これにて一本だ。ここまでとしよう」

 

 結果、手応えは感じたが今回も尾白の負けである。過度な集中故、逆に視野が狭くなっていた事を反省する。

 動きは良かったと自覚するだけに余計悔しさを表情に滲ませながらも、勝負の礼儀として尾白は一礼する。

 

「ありがとう…ございましたッ…!」

「うむ。今の一撃、始めて俺の“個性”が反応した。何か掴んだのだな?」

「ッ!!」

 

 ヨロイムシャの問い掛けに尾白は驚いた。まさか、今の一手で悟られるとは。現代に置ける武芸の最高峰と評されているのは伊達ではない。尾白は鍛え上げた自身の腕を見ながら、答える。

 

「……はい。俺の“原点”が何だったのかを、理解した気がします」

「……うむ。高校生ながら俺の気迫に負けず木刀を振るう事が出来たその精神力は、類い稀なる。インターンになったら連絡するが良い。歓迎しよう」

「ッ…!! ありがとうございます!!」

 

 チンピラの振り回す銃に怯えずとも、侍の振るう刀に対処出来ないヒーローも多いものだと、ヨロイムシャは語る。感慨深まった様子で、尾白が頭を下げた。

 

 尾白の成長は、これからである。

 

 

 

 

心操人使の場合──

 

 ふと、思い出す。

 

『あら心操クン。奇偶ね。その様子だと、職場体験先をまだ悩んでいるの?』

『……脳依。えェと、色々と目移りしちゃって』

『貴方も指名数が100件越えてるそうね? リスト、少し見せて貰っていいかしら? ……ふぅん? この中なら、ここをお勧めするわね』

『─……ここは…?』

『まァ、行ってみれば分かるわ。……多分ね』

 

 ふと頭に浮かんだのは、職場体験先の提出最終日の事。

 

 物間達と相談しながらも百を超える指名数を処理し切れず、焦りながらも決めらなかった心操に、紫那が示した一件の受け入れ先。

 

全くの無名事務所ながらも、自分では決められなかった以上紫那が推すならと、心操はその事務所の名を提出した。そして──

 

 

──来る場所を間違えた。

 

 その結果、職場体験初日に、心操が最初に抱いた感想がそれだった。

 

 ヒーロー事務所ながら人目に付かない地下に扉を構え、その扉には不思議な模様の円が彫られている。それを見た時点で、心操は何処か嫌な予感がしていた。

 

 ギイイィィと異様にきしませて開いた扉の先に、そのヒーローはいた。

 

「待っていた──選ばれし者よ。我が名は“厨二ヒーロー”オッドアイ。……この世界では、そう呼ばれている」

「はっ?」

 

 黒を基調としたヒーロースーツを纏い、眼帯を装着した作為的な銀髪のそのヒーローは、そう名乗った。そしてその周囲には、目を思わせる仮面を付けた4人の男が立っている。

 

 呆然としている心操をどう受け取ったのか、オッドアイはキザッぽく笑みを浮かべて、言う。

 

「そう警戒してくれるな。この者たちは私と契約した使い魔だ」

「ただのサイドキックです」

「フツーに雇われてます」

 

 唐突に嘘を付かれたのだが、彼は本当にヒーローなのだろうか。

 生真面目で友人が少なかったが故に、 “厨二病”の概念を知らなかった心操は、本気でそう思った。

 

 心操がそんな事を考えているとはつゆ知らず、オッドアイは妙にテンションの上がった様子で立ち上がり、語る。

 

「汝が目指すもの…、それはこの世界の言語で形容するならば…、英雄(ヒーロー)。だが英雄とは常に己が身を深遠に置くことに等しい。人々は時に我らを賛嘆(さんたん)し…、時に畏怖の念すら覚える」

 

 何となく言いたい事は分かるが、オッドアイの言葉は一々仰々しくて頭に入ってこない。また始まったと、使い魔(サイドキック)達が呆れている。

 

「貴様ら人間は己が内に黒き真実を秘めている。その真実に支配されかけた時打ち勝つか否か…、汝が英雄の器たり得るのか──」

 

 そして突如、オッドアイは右手を開く。

 

「──其の身を(もっ)て我へ示せ!!」

「ッ!!」

 

 不意に進撃してきたオッドアイに対処できず、心操は頭を鷲づかみにされてしまう。すると…

 

「ほ、放課後の教室でクラスメイトが見てるとも知らずに…──!?」

 

 心操の意図に反して口が開き、思い出すだけで死にたくなる人にはとても話せないような恥ずかしい記憶が口から漏れでて来た。羞恥で、心操の顔が赤くなる。

 

「中学の時のやらかしがッ…! な、何で言葉に…!?」

「良いぞ…。それが汝の内に潜む闇!! 我が“個性”は《無意識開放(アウト・オブ・リミッター)》!! 触れた者の深層に眠る闇を呼び覚まし抉る!!」

「要するに、知られたくないコトや恥ずかしい過去をさらけ出されちゃうってことね」

 

 サイドキックの意訳に、心操は寒気立つ。何と恐ろしい“個性”か。オッドアイに頭を掴まれたままの心操は、いまだに恥を暴露話し続けてしまう。

 

「こ、子供のころ親と間違えて知らない人の…」

「フム…。それが貴様の深層に潜む闇か。なる程な…」

 

 4つ目、5つ目と、墓まで持っていくつもりだった秘密を吐かされしぼりカスと化した心操を、オッドアイが興味深そうに見る。

 先ほどまでと同じく悦に浸ったオーバーな言葉と動作でありながら、何処か静かな口ぶりのオッドアイは、心操から手を離して“個性”を解除した。

 

「心操…、貴様の事は我が従魔の手によって前世までも調べが付いている」

「いや使い魔じゃなかったんですか。いや使い魔でもないすけど」

「あ、前世って小中学校の事ね」

「貴様は…私と似ている」

「えっ…?!」

 

 素で衝撃を受けてしまった。心操は自身がこんな面白可笑しいキャラだと思った事はない。だがオッドアイの目は何処までも真面であり、今ばかりは正当なツッコミすら余計な茶々に感じられる。

 

「我らは共に輝かしき正道ではなく、怨嗟の声響く邪道を強制されし者。故に太陽の如く英雄に身を焦がすのならば、茨の道を行かねばならない」

「─……」

 

 正直、心操はオッドアイの言っている事の半分以上の意味が分からなかった。だが、分かる事もある。

 人を洗脳し操る心操も、秘密を暴き立てるオッドアイも、人に嫌われる()()()()()()()“個性”だということ。

 

 納得した様子の心操を傍目にオッドアイは軽く微笑んだ。

 

「我が“個性”の前には、何人たりとも沈黙を貫く事は叶わない。それこそ、()()()()()()()()()()()()

「ッ…!!」

 

 言われて始めて、心操は理解する。オッドアイの“個性(無意識解放)”は、黒歴史を暴露させる下らない悪戯“個性”ではない。

 

──()()()()()を、可能とする“個性”だ。

 

 心操の頬に今までとは違う種類の冷や汗が流れた。もし自分が“個性(洗脳)”を使い悪事を行っていれば、今すべて自白していたのだろう。

 

 オッドアイは大袈裟な身振り手振りのまま、言葉を続ける。

 

「この封じられし力を以てして、貴様の過去に浅ましき罪の記憶が掘り起こされる事はなかった。──故に、私は貴様を信用しよう」

 

 オッドアイの、雰囲気が変わる。バッと、中央に立つオッドアイの横に顔を仮面で隠した4人のサイドキックが並んだ。

 その光景に巫山戯た空気はまるで無く、まさに一流のヒーローとそれを支えるサイドキックの風情を醸し出している。

 

 中心に立つオッドアイが、言う。

 

「改めて自己紹介をしよう。──我が名は()()()()、厨二ヒーロー《オッドアイ》! 己が信じた正義の為にあらゆる冒涜を省みぬのなら、我が手を取るがいい。闇より深き夜を歩む術を教えよう」

「……ハハッ!」

 

 何故脳依がここを推したのか、ようやく釈然とした。彼が無名なのは、スパイを専門としているから。サイドキック達の異様な格好は顔を隠すためで、オッドアイ本人の目立つ言動や格好は…、変装時と差異を出すためだろうか。

 

「……よろしく、お願いします」

 

 何にせよ、オッドアイの第一関門は突破したらしい。心操はオッドアイの手を取った。

 

 

 

 

 

──ホークスの場合

 

 公安本部のビル最上階にて、ホークスと公安委員長が対談する。

 

「他ヒーローとのチームアップ?」

「……あの子の研究所から、新型脳無(ロボブレイン)に関するレポートが送られてきたわ。その報告が確かならば、ヴィラン連合及びAFOは我々の想定を超える力を持っている。確保までに時間が掛かるほど、人民への被害は重大になるわ」

 

 早急に対処するため、人員を増やすということだ。よっぽど、紫那が報告書で脅したらしい。育ての親である現公安委員長は、何だかんだで紫那の言葉を信頼している。

 

「ナルホド…」

 

 表情を隠す様に口元を抑えながら、ホークスは相づちを打つ。

 

 現在、公安はヴィラン連合に関する調査をホークスに一任している。まだ情報収集の段階であり、無用な多勢は邪魔立てになると、ホークスはゴーグルの下で苦い目をした。

 

「不満そうね、ホークス」

「あ、いや…サーセン」

「チームアップの相手が貴方の足手まといにならない事は保証するわ。……入ってきなさい」

「ハッ!」

 

 委員長の言葉を受けて入ってきたのは、金髪に青紫のゴーグルが特徴的な女ヒーローだった。綺麗な敬礼と共に、女ヒーローが名乗る。

 

「この度ホークス殿との合同調査を命ぜざれ()()()()より着任致しました、ICHO(国際ヒーロー機構)所属の“透視ヒーロー”クレア・ボヤンスと申します!」

「……ICHOの」

「彼女は私が留学時代にオセオンで出会ったヒーローよ。ビルボードチャートランキングこそ低いものの、調査・追跡能力は世界レベルで群を抜いているわ。ホークス、貴方に次ぐレベルでね」

「へぇ…」

 

 ホークスの振動を利用した空間把握能力は国内外問わずに最高峰と言える。その自覚が有るからこそ、虚言を嫌う委員長がここまで言い切ったクレア・ボヤンスの能力に、ホークスは興味を持った。

 

 

 それを察してか、委員長が部屋にもう1人招き入れる。

 

 

「お、お待たせいたし…ました。こ、ここ1年におけるヴィランによる殺傷害事件の記録を…、お持ちしました…」

 

 

 入ってきたのは公安の一般職員で、その両腕には大量の書類が抱えられている。書類の山の高さはゆうに職員の頭を越えており、職員は一歩踏み出すだけでもフラフラだ。

 

「─……えっ、うわあぁ!」

 

 しかし不意に、ホークスの前に立つクレア・ボヤンスはその職員の肩をちょいと引っ張り、職員のバランスを崩す。

 

 当然の帰結として書類の山はばら撒かれるが、職員が転ばないよう片手で背中を押さえるクレア・ボヤンスは指で作った輪を覗き込みながら、それを見ている。

 

「ホークス殿。適当な3ケタの数字を言って頂けますか?」

「─……?」

「……678」

 

 クレア・ボヤンスの突然の奇行と要望の意図が掴めなかったホークスに代わり、委員長が答えた。クレア・ボヤンスはクスリと笑ってから、口を開く。

 

「書類の山を上から数えて678枚目は4年前の宝石商誘拐殺人事件。2月12日土曜日午後9時25分ごろ、宝石商、球川光の悲鳴を従業員3名が聞いて駆け付けるも球川は既におらず、数日後死体で発見。その3日後、警察とヒーローの合同調査により犯人は逮捕。ヴィランはそのまま判決を待たずに“タルタロス”へ収容」

 

 つらつらと片手で転びかけた職員を支えるクレア・ボヤンスが語ったのは、なんとその書類に記載された事件の詳細である。

 

「……と、こんなものでどうでしょうか委員長」

「相変わらず力は衰えていないようで何よりだわ」

「─……!!」

 

 余りの衝撃に、珍しくホークスの言葉が詰まった。委員長がいつも通りの無表情で解説する。

 

「クレア・ボヤンスの“個性”は《透視(ボヤンス)》。彼女は視界の届く範囲の物質を全て透過して見る事ができるのよ」

「……今書類が落下する一瞬の内に、全ての書類を透視して読んだ、と?」

「全国レベルで膨大な調整をする捜査官に、彼女は適任でしょう?」

「返す言葉もないっすね」

 

 肩をすくめながらホークスは答える。ホークスでもその様な芸当は難しい。少なくとも調査において、彼女が邪魔になる事はないだろう。

 

 納得頂けたならと、クレア・ボヤンスは人好きのする笑みを浮かべて、ホークスに手を差し出す。

 

「AFOは1度オールマイトが取り逃がしたと聞いております。今度こそ捕まえてやりましょう。我々の手で…その男を!」

「……ええ、よろしく」

 

 いち早くAFOを捕らえたいのはホークスも同じ。ホークスはクレア・ボヤンスの手を握った。




【キャラ解説】
“厨二ヒーロー”オッドアイ
・スピンオフ作品『チームアップミッション』に登場。
・原作では緑谷と黒色の黒歴史を暴露させ、常闇のダークシャドウを暴走させた。
・公安所属はオリジナル設定。公安では主に潜入と尋問を担当。
・個性《無意識開放(アウト・オブ・リミッター)》…
触れた相手の秘密を語らせる。語らせる内容は尋問によって誘導可能。

クレア・ボヤンス
・映画第三弾『ワールドヒーローズミッション』に登場したオセオンのヒーロー。
・原作ではエンデヴァーと共にヒューマライズのオセオン支部に突入した。戦闘においてはサポートアイテムのテーザー銃を使用する。
・ICHO所属はオリジナル設定。主に捜索を担当する。
・個性《透視(ボヤンス)》…
視界の届く範囲の物質を透過して見る事が出来る。発動時は敢えて視界を狭める事で消耗を抑える。
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