脳依紫那は天才である   作:緑川翼

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想定以上に文字数が増えてしまい、駆け足気味です。その内書き直すかもしれません。

何らかのバグ?で一部の特殊タグが機能していません。読みにくくなっております。


実技試験・後

 

 

「さァこの燃え盛る炎の中で、いつまで戦えるか……なァーーッ!?」

 

 自身が火災を起こした森林ゾーンでそう揚々と紫那と蛙吹を煽るブラドキングであったが、その心情はいっそ意外な程に落ち着いていた。

 

 自分が荒っぽい性格だと理解しているブラドキングは、心は熱く頭は静かにと自分を律し、情熱的な感情と冷静な思考の両立させている。

 

 ヴィランに徹したブラドキングが森に火を点けたことで動揺を顔に出す紫那と蛙吹を見ながら、ブラドキングは前日行われた実技試験の担当を決める教員会議での、1年A組担任のイレイザーヘッドの言葉を思い出す。

 

『──次に蛙吹・脳依ペア。まず蛙吹は、課題らしい課題のない優等生ですが力押しに弱く、“個性”の関係上急な気温変化に対応出来ない弱点が有ります。そこをブラドキング先生に突いていただきたい』

『──異議なし!』

『──そして脳依ですが…、本人の改造もあってか能力的な弱点は見受けられませんが、彼女の戦闘センスは凡たるもので、またプライドが高く精神的には脆い面がある。そこを抉っていただきたい』

 

 試験官として行うべき森林火災(第1フェーズ)は成功した。

 

 イレイザーヘッドの言葉通り、蛙吹はコスチュームの耐火性能を越えてくる熱気にかなり辛そうにしている。もはや彼女はここにいるだけで体力が削れていくだろう。

 だが、まだブラドキングは周囲25メートルに張り巡らした≪血線≫を解除していない。故に蛙吹がこの場から逃れるには、ブラドキングを倒す他に方法はないのだ。

 

「ハアァ…ッ!!」

「──…ケロッ」

 

 それを分かっている脳依と蛙吹は、鋼鉄の翼(シナプス・トーチャラー)による攻撃と蛙の脚力を活かした蹴りを前後から同時に放ってきた。

 

 どちらか一方を防げば、どちらかは直撃する連携技。並みのヴィランであれば、これで倒せるかもしれない。だが、ブラドキング(プロヒーロー)には届かない。

 

「──フンッ!! 甘いわァッ!!」

「ッ…!!」

「血の大盾…!? なんて強度なの…!!」

 

 なるほどイレイザーヘッドの言葉通り、蛙吹の蹴りはそれなりに重いがあくまでそれなり程度であり、脳依の攻撃は最短距離を進んだが軌道が読みやす過ぎる。これでは実戦慣れしたヴィランならば直感で回避できるだろう。

 

 ブラドキングは蛙吹の蹴りを片腕で受け止め、脳依のサポートアイテムを血液で作った防御壁でガードした。鋼鉄の翼(シナプス・トーチャラー)は血の大盾に突き刺さったが、それ以上引く事も進む事も出来ない。

 

 そして次の瞬間、ブラドキングは≪熱血≫を発動する。

  

「──…!? 血の大盾が発火した!? 形状変化させてからも沸騰させられるのね…!」

「当然! ≪熱血≫は“個性”操作の応用に過ぎん!」

「なら……ッ!! ≪テスラ・ブレイ…」

「それが甘いと言っている!!」

「──!? ゲコッ…!!」

「蛙吹サン!? クッ…!!」

 

 脳依は咄嗟に鋼鉄の翼(シナプス・トーチャラー)を捨てて迫り来る沸騰血を回避したが、沸騰血は鋼鉄の翼の隅々まで行き渡り、内部の精密機器を溶かした。修理しない限り、再使用は出来ないだろう。

 そしてならばと紫那が繰り出した電撃を籠めた拳を、ブラドキングは蛙吹を紫那に向けて投げ捨てる事で対応する。またも理想的な道筋ながら単純過ぎる攻撃を仕掛けた紫那は、蛙吹を受け止める形で吹き飛ばされた。

 

「くッ…!! 不味い!!」

 

 吹き飛ばされた先には、燃え盛る炎と回転する刃付きの≪血線≫がある。試験故に大惨事になる前には止めるだろうが、その場合赤点は免れないだろう。

 紫那は髪の毛を触手に変異させ、それを地面に突き刺してスピードを落とし、刃の直前で踏み留まった。

 

 紫那の触手が地面を削り、ズザザザと土煙が巻き上がる。

 

「ケホッ! 分かってはいたけれど…、強いわねッ…!!」

「ゴメンなさい脳依ちゃん。私がミスッたわ」

「気にしないでちょうだい。振り出しに戻っただけよ」

 

 とは言うものの、紫那はサポートアイテムを失い蛙吹は火災によって体力を奪われ続けている。状況は、確実に悪くなっている。

 現在ブラドキングは煙に紛れた奇襲を警戒してか砂塵の中に入って来ないが、土煙が晴れればすぐに襲ってくるだろう。

 

「……ブラドキングが放出可能な血液量は、大体3リットル前後。戦闘中ずっと観察していたから、多分間違いないはずよ。それを抜ける事が出来れば……」

 

 紫那の優秀な頭脳は、ブラドキングが如何なる時もその量以上の血液を放出していない事を見抜いていた。

 一般的成人男性の致死出血量が大体1リットルであるのだからかなりの流出量だ。恐らくは体外に出した血液も“個性”によって体内に循環させているのだろう。

 

「その情報が正しかったとしても、どうブラドキングの防御を潜り抜けるかが問題だわ」

「……仕方ないわね。蛙吹サン、これを持ってちょうだい」

「──…!! これは…」

「頃合いとタイミングと仕掛け時は貴女に任せるわ。隙は私が作る。……御免なさい」

「脳依ちゃん…ッ!!」

 

 腰に掛けていたアイテムを蛙吹に渡した紫那は、それだけ言って砂埃の中から飛び出してしまった。即座に意図を察した蛙吹は口をつぐみ、少しでも浴びる熱を減らすべく《蛙》の“個性”を活かして体勢を低く構えた。

 

 

「──戦術変形(バトルモード)強化外骨格(パワーアーマー)≫!!」

「土煙から出てきてやる事は、結局考えなしの特攻か!? 天才の名が泣くぞ!」

「それは……ッ、どうかしらね!!」

 

 ブラドキングのあからさまな挑発に言葉で返さず鋼鉄化させた拳で応える紫那は、その優秀な脳を用いて予想と演算を繰り返して致命傷になり得る攻撃を的確に弾き、逆に攻め立てていく。

 重りのハンデもあり、ブラドキングは紫那の思考を抜けて攻め切る事が出来ず、戦場に一時の膠着が生まれた。

 

 だが──…

 

 

(──まだまだ甘いぞッ!! 脳依紫那!!)

 

 ブラドキングは既に、紫那が蛙吹にハンドカフスを渡している事に気が付いていた。

 

 紫那が自身の黒いワンピース型ヒーローコスチュームに装着していたハンドカフスが無くなり、蛙吹が露骨にもブラドキングの死角に入り機会を狙い続けている。

 大方紫那が隙を生み出し、蛙吹がハンドカフスを掛ける作戦なのだろう。相談する暇のない不意を突かれた遭遇戦の作戦としては無難である。

 

 だがその程度の策略で倒されてやるつもりは、ブラドキングにない。何故なら──…

 

(──USJ襲撃事件以降流れるA組中心的な風潮はッ! 俺がッ!! ここで変える!!)

 

 ブラドキングはそんな何処か方向性を間違えた、熱いB組愛を抱いているからだ。

 

(──校門(雄英バリア)前に張ったマスコミ共に「キミA組?」と聞かれてはガッカリされる不憫な愛しき生徒達の為にも!! 体育祭2位であろうと赤点を取るのだとここで証明する!!)

 

 物間が体育祭で4位に輝いた事で多少は治まったが、B組は潜在的にA組への差を感じ、対抗意識やコンプレックスを燻らせてしまっている。

 

 これは担任であるブラドキングが励ました所で解決策とはならない。生徒を愛するブラドキングにとって何もしてやれないのは歯痒すぎたが、“天才”として名を轟かしている紫那が補習となれば少しは意識も好転するかもしれない。

 

 ならば、やる価値はある。

 

 当然、ブラドキングに不正などするつもりはない。ただ、ルールの内で一切の油断も手心もなく叩き潰すだけだ。

 

 そんなちょっと履き違えた熱血の元に、至極冷静な思考でブラドキングは血の刃を振るう。

 《b》

「──≪血剣≫!!」

「なんのッ! ──技術者の曲撃(テスラ・アーク)!!」

「まだまだァ!! そんな程度なのか天才の実力は!?」

「くッ…!!」

 

 ブラドキングの攻撃を避けた紫那は指向性を持たせた電流で反撃するが、ブラドキングは血剣を膜に変えてそれを防ぐ。

 電流は血の膜によって散ってしまい、ブラドキングまで届かない。ブラドキングは血の膜を即座に剣へと変化させて斬りかかる。

 

 流れるような連撃。

 

 攻撃後の隙とも言えない隙を突いて、ブラドキングは血の刃を紫那に向けて振り下ろした。紫那は反応出来ない。これで終わりだとブラドキングが確信した、その直後──

 

「照らしてッ 、ED-Es(エディーズ)!!」

「──ヌウゥッ!? サポートアイテムの小型偵察機かッ!!」

 

 突如飛び出してきた4機のED-Eがフラッシュを焚き、ブラドキングの目を潰した。

 

 ≪血線≫の間を潜り抜け、草木と炎の影に潜伏していたらしい。ブラドキングが眩い光に目を閉じた隙に紫那は剣の間合いから抜け出した。

 ED-Eの事が完全に頭から抜けていたとブラドキングは(ほぞ)を噛んだが、即座に思考を切り替え血剣を握り直す。

 

 だがしかし、紫那の行動はそれよりも速かった。

 

「これで終わらせる!! STEROID(ステロイド)ォォッ──…!!」

 

 バチバチバチッと、紫那の腕から紫電が弾ける。観察と改良の末、ワン・フォー・オール5()0()()()の威力を持つに至った、オールマイトの模範技。

 

 そんな詳細は分からずとも、マトモに喰らっては不味いとブラドキングは直感で理解する。

 

「オオオォォ…、グラアアアァァァッ!!!」

 

 手を誤ったと察しながらも、ブラドキングは≪血線≫に回していた血液すらも回収して最高硬度の大盾を形成した。

 

 ブラドキングは全身の筋肉に力を込めて身を固め、攻撃に備える。

 

──SMASH(スマッシュ)!!!!」

「ッッッ!!! ルウウウオオォォォーーーッ!!」

 

 紫那の拳とブラドキングの大盾が衝突する。

 

 衝突の結果生じたのは、爆発的な衝撃波。轟音と共に地が抉れ、周囲の炎が掻き消されるほどの、強い衝撃。その威力は、身を屈めていた蛙吹すらも吹き飛ばされそうになったほど。

 

「脳依ちゃんッ!?」

 

 何とか衝撃波に耐えた蛙吹が、大声で紫那の安否を問い掛ける。森林火災を吹き飛ばすだけの衝突は当然甚大な土煙を巻き起こし、中心にいるはずの2人の姿を見る事は叶わない。

 

 

 数秒経ち、土煙が晴れる。

 

「……ッ!! オールマイト50%分の…、力なんだけれど…!! 」

「このッ、程度で…、俺のクラス愛が折れるものかアァッ!!」

 

 ブラドキングはまだ、倒れていなかった。叫んでいる内容はよく分からないがしかし、ブラドキングは何か強い意志の元に立っていた。

 

 振るった紫那の腕が爆散するだけの威力。真っ正面から受け止めたブラドキングも当然無事ではなく、盾として使った血液はあまりの威力に弾け飛び、本人も拳圧によってかなりのダメージを受けている。

 目から光は失われていないが前後不覚であり、立つのに精一杯な様子のブラドキングに、限界まで力を振り絞った結果まだ動けない紫那は隙を見出した。

 

「今よッ、梅雨ちゃん!!」

「ケロッ、待ってたわ」

「──ッ!? このタイミングで──…ッ!!」

 

 ブラドキングの死角から飛び出してきたのは、今のいままで息を堪えて潜んでいた蛙吹である。その彼女の手にあるのは、束縛用の黒いハンドカフス。

 

 紫那が勝ち誇ったように、言う。

 

「ブラドキング! 貴方が体外に放出可能な血液量には限界があるのでしょう?! これで“詰み”よ!!」

 

 使用限界である3リットル分の血は先ほどの一撃で四散させた。つまりブラドキングに出来る事は、もうないはすだ。

 

 しかし──

 

「俺をッ…、1年B組担任(ブラドキング)を舐めるなアァァッ!! ──血剣・≪シシケバブ≫!!」

 

 ブラドキングは雄叫びを上げながら血液を放出し、それを発火する剣へと変化させる。そのまま蛙吹の持つハンドカフスを溶かし、両断した。そしてその勢いのままに再び炎を放つ血剣を拘束具へと変化させ、蛙吹を捕らえる。

 

 蛙吹は捕まり、頼みの綱であったハンドカフスは呆気なく破壊された。形勢が瞬く間に逆転する。ブラドキングは僅か数瞬の間安堵に気を緩めた、その瞬間──

 

 

──ガチャン!!

 

 ボロボロになったブラドキングの腕に、ハンドカフスがかけられた。

  

「……えェ、貴方はヒーローだもの。Plus Ultraくらい……、予想していたわ…」

「……なん…だと…?」

 

 思考が急激に冷めていく。ブラドキングの腕に繋がれているのは、見覚えのある()()()()()()。だがしかし、それは確かに破壊した筈で──

 

 

「……一見似ているが、細部が支給されたハンドカフスと違う。なるほどな。俺が壊したのは、偽物だったのか」

「ええ…、その通り。つゆ…蛙吹サンと土煙の中へ投げ飛ばされた時、ED-E1機とシナプス・トーチャラーの残骸を材料に造ったの。1分と掛けずに製作したにしては、上出来でしょう?」

「……ああ。見事に騙された」

 

 蛙吹の持っていた──ブラドキングが破壊したハンドカフスは、紫那の作った偽物であった。

 

 ブラドキングがハンドカフスを破壊した隙を狙って本物のハンドカフスで捕らえる。つまりは蛙吹が紫那の作った隙を突くのに失敗し、捕縛される事を前提にした、二段構えの作戦。

 

 蛙吹は土煙の中で偽物のハンドカフスと紫那の申し訳なさそうな表情を見た瞬間、その作戦内容を理解し、自身が囮になることを承諾したのだ。

 

 紫那の天才的な技術力と、蛙吹のヒーローとしての寛容さ。そのどちらかが欠ければ決して成立しない作戦を、2人は文句の付けようなく成功させたのだ。A組をライバル視するブラドキングとしても、それは認めざるを得ない。

 

「……ハンデの重りが有ったとはいえ、今回の実技試験で俺は容赦も手加減もしなかった。それにヒーローとして勝ったんだ。誇りに思え」

「……はい。私としては、蛙吹サンを犠牲にしなくて済む方法で勝ちたかった所ですが…」

「気にしなくていいのよ脳依ちゃん。これが一番良い手だったわ。それにしても、もう「梅雨ちゃん」とは呼んでくれないのかしら?」

「いやあれは…、その、咄嗟だったからつい呼んでしまったと言うか、ちょっと口が脳の制御から外れてしまったと言うか…」

「……まったく、イレイザーヘッドもいい教育をしている」

 

 ──蛙吹・脳依チーム 条件達成!

 

 

 

 

「──…ッ!? 常闇、そっちから来る!!」

「クッ…、すまない。ダークシャドウ!!」

『アイヨ!』

 

 エクトプラズムが新たに湧き出すのを察知した耳郎が常闇に警告し、常闇は奇襲を喰らう寸前にエクトプラズムをダークシャドウで撃退した。

 

 試験会場であるドームエリアのギャラリーを走りながら、耳郎が愚痴る。

 

「さっきからこれの繰り返しで…、キリがないッ…!! ホントに相性最ッ悪!!」

 

 耳郎は音を聞き取る“個性”の性質上、音を消した行動は察知出来ない弱点がある。そんな耳郎に対して、エクトプラズムの《分身》は出現する瞬間までまったくの無音。まさに、耳郎にとっての天敵であった。

 なまじ索敵を得意とするだけに奇襲を受けた事のない耳郎は、常闇とダークシャドウがいなければ試験開始早々にやられていただろう。

 

「《分身》各々の強度や戦闘力が異なっている…、用途によって使い分けているのかッ…! 分かってはいたが…、偵察から白兵戦と何たる万能“個性”!」

『俺もダヨ…』

 

 また常闇の《ダークシャドウ》も、間合いに入らせない射程範囲と素早い攻撃を強みとするが、30人以上の分身を神出鬼没に出現させられるエクトプラズムの辞典に間合いの言葉はない。

 間合いに入られれば脆い常闇もまた、耳郎の索敵がなければ既に不覚を取っていただろう。

 

「ああもう! 常闇アンタ、ダークシャドウ纏って飛べたりしないの?!」

「ダークシャドウを…!? なるほど一考の余地がある…!!」

「違っ、そういうのは後でいいから!!」

 

 突如現れるエクトプラズムを対処しながら、2人はゴールを目指して走っていく。

 

「ッ……! 見つけた! 無駄に可愛い脱出ゲートと…、多分本物のエクトプラズム先生!!」

「ホウ…。アノ数ヲ凌イダノカ…。ダガ…、コレナラドウダ?」

 

 ズズズズと、エクトプラズム先生の口から大量の霊的エネルギー(エクトプラズム)が吐き出され、巨大なエクトプラズム先生の分身となった。

 

 ──強制収容・≪ジャイアントバイツ≫…!!

 

 巨大な分身の口が、耳郎と常闇を飲み込まんと迫り来る。

 

「──…ッ!?」

「避けきれ…!」

「数ハ出セナクナルガ我ガ視認出来レバコノ一体デ事足リル。分身ノ解除ハ我ノ意思デノミ。サァ、ドウスル?」

「クッ…!!」

「マジで動けないッ…!!」

 

 まんまと飲み込まれた2人は、巨大分身の身体に取り込まれて拘束されてしまった。ご丁寧にも耳郎のイヤホンジャックと特製スピーカーブーツは離されており、接続する事は出来ない。

 

「ダークシャドウ、お前だけでもゲートを通過しろ!」

『アイヨ!』

 

 悪足掻として常闇がゲート前に陣取ったエクトプラズム先生へダークシャドウを放ったが、義足による蹴り技で鎧袖一触とばかりに対処されてしまう。

 

「やはりプロ相手に正面からは凌げんか…!」

「……でもダークシャドウが届くんなら、チャンスはある!」

「なに…?」

 

 言うが否や、耳郎は自身を拘束する巨大分身(ジャイアントバイツ)にイヤホンジャックを()()()()

 

「衝撃に備えて!! デカいのいくよ!!」

「──…ッ!? クッ…!!」

 

 ドックンと、爆音の衝撃波となった心音が巨大分身に叩き込まれ、その振動によって巨大分身が崩壊した。

 

 その衝撃はその身体に取り込まれていた2人にも伝わったが、痛みに頭を抑えて蹲る訳にはいかない。自由の身となり落下しながらも、耳郎は素早く持っていたハンドカフスを常闇に投げ渡す。

 

「やって! 常闇、ダークシャドウ!!」

「──征け、ダークシャドウ!!」

『トオリャアァ!!!』

 

 常闇の受け取ったハンドカフスがダークシャドウに渡り──、見事、ダークシャドウはエクトプラズムの義足にハンドカフスを嵌めた。

 

「──ナル程。逆境ヲ打チ崩スヒーローの瞬キ。……見事ダ!」

 

 ──耳郎・常闇チーム条件達達成!

 

 

 

 

「ああ~! キリねーよオイ! ブッ壊してもブッ壊しても…壁が生えてきやがる!!」

「ウウ~…! 眠い…だるい…!」

「おおい頑張れ!!」

 

 切島・砂藤グループの相手は、自在にコンクリートを操作するセメントス先生で試験会場は入試でも訪れた都市エリア。

 

 試験開始早々、2人が無用心にも大通りに出た途端に、セメントスの操作するコンクリートのドームに閉じ込められてしまった。

 その状況を打開する為に《シュガードープ》を使用したのは失敗だったと、倦怠感や眠気に犯された思考で砂藤は思う。

 

『──貴方の“個性(シュガードープ)”はメリットもデメリットも単純明快な分、不用意に使っていい能力ではないわ。良く考えて使いなさい』

 

 体育祭の騎馬戦前に、そう紫那に言われた事を思い出す。注意されたそのままの危機に陥ってしまった。

 

 もう20分ほどコンクリートの壁を殴り続けている。すぐ近くでセメントスが操っているらしく、いくら壁を破壊しようとすぐに再生してしまう。

 

 あと数分で自分は起きているのに精一杯となり、《硬化》を持続させている切島にも限界が来るだろう。

 残った10分弱を、消耗したままコンクリートの壁相手に格闘している訳にはいかない。どうすれば勝てるのか、試験なら勝ち筋は有る筈だと、鈍った頭で砂藤は考える。

 

(──…ハッ!!)

 

 紫那の事を思い出していた影響か、不意にこの状況を打開できる策が砂藤の頭に浮かび上がった。

 

「切島ァ! ()()()()()()()()()!!」

「はっ? 何言って…、いや! 分かった!!」

 

 唐突な砂藤の言葉に困惑しながらも、その表情から何か策があるのだろうと察した切島は全身を《硬化》したまま砂藤の拳に飛び乗った。

 

「ウウゥ…オオオォォッ!」

「ウオッ、マジかぁ!?」

 

 そして砂藤は5倍に上昇した身体能力を活かした人間カタパルトとなり…、切島をコンクリート製の壁へ向けて投げ飛ばした。

 

「……ほう。そう来ましたか」

 

 超人的パワーで投げられた切島は自身の《硬化》も相まって壁に激突し、そのまま壁を突き破ってセメントスの背後まで吹き飛んだ。

 

 当然セメントスは出てきた切島に対処するため意識と“個性”を切島に向けたがしかし、再生しない()()()()であれば、砂藤ならば容易く破壊できる。

 

 

「……得意を相手に押し付ける。それでいい」

 

──烈怒頑斗裂屠(レッドガントレット)!!

──≪シュガーソルトキック≫!!

 

 脱出した砂藤と切島の前後からの挟撃を受け、ハンデの重りによって避けきれなかったセメントスは意識を失った。

 

 ──切島・砂藤チーム条件達成!

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