脳依紫那は天才である   作:緑川翼

33 / 38
・以前どこかで言及していた閑話です。時系列的には13話『戦いの前準備』の後になります。
・いつも以上に冗長(10,000字超え)で、パロネタ多めです。苦手な方は読み飛ばし推奨です。
・元ネタが分からなくても伝わる程度にネタは抑えたつもりですが、不明な点、分かりにくい点が御座いましたらご指摘下さると有り難いです。


【閑話】緑谷出久 紫那の家へ行く

「靴のサイズは?」

「確か…、25.5だったはず…」

「大体平均値ね。他には──…」

 

 緑谷が《OFA》の制御訓練を紫那のトレーニングルームで行う事を決意したその日の放課後。緑谷は自動運転車(ドライバーレスカー)に乗せられ、紫那の質問攻めに合っていた。

 

 訓練に必要な情報だと紫那は至って平常にタブレットを叩いているが、対面に座っている女慣れしていない(クソナード)の緑谷には、車の個室で美少女とのお喋りは荷が重かった。

 だがしかし、「君が来たって事を世間に見せつけてくれ」というオールマイトとの約束を胸に、緑谷はこの困難に立ち向かう。

 

 そんな緑谷の大袈裟過ぎる決意など(つゆ)知らず、紫那は上機嫌に「そろそろよ」と呟いた。現在高速に乗って30分程。紫那の家は東京の郊外にあるが、もう到着してもいい時間であった。

 

「今の内に覚悟を決めておきなさい。私のトレーニングは厳しいわよ?」

「──ッ!! うっ、うん!」

「……ええ、良い返事ね」

 

 先ほどまでの様にどもりながらも強い“()()”を感じさせる緑谷の返答に、紫那は興味深そうに頷いた。

 

 

 

 

 

『目的地ニ到着シマシタ』

「ふう、ようやく着いたわね」

 

 それから15分ほど経って、車は自動で止まりドアが開いた。ハイテクな技術に驚く緑谷を傍目に、紫那は車から降りる。

 

 

「さァようこそ。我が──“Bio-Tec社”へ!!」

 

「ここが…!」

 

 釣られてドライバーレスカーを降りた緑谷が上を見上げれば、そこにあるのは10階を越える高さの巨大なビル。このビルこそが紫那の自宅であり研究所であり…、紫那の取得した大量の特許を運用する“Bio-Tec(バイオテック)社”である。

 

「ここら一帯の建造物全てがBio-Tec社の所有物よ。この本社では出来ない実験も多いから」

「凄い…! 時折CMで見てたけど、こんなに広いんだ…!!」

「ふふ…。でしょう?」

 

 敷地内の実験棟や社員寮を含めれば、かなりの面積になる。特定のパトロンを持たない紫那は、それら全てを自費で賄っているのだ。“百年先を行く天才”の名は伊達ではない。

 

 ガラス張りの玄関口の向こうに白衣やスーツを着こなした大人達が行き交う姿が覗え、緑谷は少し気後れしてしまう。

 だが紫那は緑谷を待たずに手慣れた様子でカードを機械に通してビルの中へ入ってしまった。緑谷も慌てて真似する様にカードを通せば、何の問題もなく自動ドアは開いた。

 

 

 が…

 

 

『アァアまた不正入場者デスカ!? 政府や企業も忙しくしてるようデスネ!』

「えっ、え?」

「しまった…」

 

 脚部のタイヤで通路をスイスイと進み緑谷の行く手を阻んだのは、何と表現するべきか…、アメリカの街中に設置されているタイプのゴミ箱にタイヤとアームとレンズを取り付けた様な……奇妙なロボットだった。

 

『ンン? アナタのID本物はデスネ?! ヤリマシタ! これでようやく仕事にありつけマス! 運が向いてきマシタ!

ワタシはガイドロボットのB.I.R.A(ヴィラ)デス。友人にはDr.フィールグッドと呼ばれていマスが…、なんて、ワタシには友人が存在しませんデシタ!』

 

「えっと…」

 

 1人で喋り続けるロボット…B.I.R.Aへの対応に困った緑谷が助けを求めて紫那を見れば、紫那も困った様に眉をひそめて説明する。

 

「そのゴミ箱型ロボットには─」

『バイオテック・インフォメーショナル・ロボット・アシスタントのB.I.R.A(ヴィラ)デス! もしくはDr.フィールグッド!!』

「ここの研究員がプログラムした“自己成長する”AIの試作品を搭載していて──」

『ワタシ専用のプログラムなのデス!』

「いつの間にか性格プロトコルが“JustBe(あるがままに)”に固定されてしまったせいで──」

『“お喋りで享楽的”プロトコルデスヨ!!』

「こんな珍妙なロボットに…。ハァ…」

 

──バチンッ!!

 

『ア゙ア゙ァァァァーー!!!』

 

 いちいち口を挟むB.I.R.Aに嫌気の差した紫那が、突如B.I.R.Aに電気を流してショートさせてしまった。B.I.R.Aはやけに人間臭い悲鳴を上げた後にバタリと倒れ、動かなくなった。

 

「ようやく静かになったわね」

「えぇ…」

 

 唐突すぎる暴挙でありながら受付嬢やフロントを行く人々には見慣れた光景なのか、音源の紫那に一瞬目を向けただけですぐ興味を失って仕事に戻ってしまった。

 

「いきなり我が社の恥部を見せてしまって御免なさい。このゴミ箱、文字通り“生きてる”せいで性格プロトコルの変更が効かないのよ」

 

 特異な進化すぎて希少価値がある為に破棄も出来ず、放置するしかないのだと紫那はため息ながらに言った。

 

「な、なるほど…」

「兎に角、時間を無駄にしたわ。さっさとトレーニングルームへ…」

『そこまでのガイドはワタシにお任せクダサイ!!』

 

 痺れてビクビク震えていたB.I.R.Aが突如立ち上がり、我こそはと(アーム)を挙げた。確かにショートさせたのにと目を見開く紫那に、B.I.R.Aは──表情などないのに、ドヤ顔で威張った。

 

『そう何度も気絶させようだなんて甘い考えデスヨ!! サー・ハマーロックにお願いして最新の絶縁体を装備させて貰ったのデス!』

「……ハマーロックの分野は生物科学でしょう? 騙されてるわよ、貴方」

 

 大方面倒になって適当に言いくるめたのだろうが、数秒間はショートするほどの電流を素通りさせる程度の素材で最新の絶縁体とは、大きく出たものだ。

 しかし今はそんな事よりも、この五月蝿い(B.I.R.A)のをどうにかする必要がある。もう一度電流を流すのも手だが、紫那はそれすらも面倒くさくなっていた。

 

「そうね、準備にはもう少し時間がかかるだろうし…、緑谷クン、B.I.R.Aと一緒にこのBio-tec社を見学して来てくれるかしら?」

「えっ…」

『了解マシタ!! サァサァ! 行きマスヨ、ミドリヤ!』

「えっ、えっ…?!」

「じゃあ、そういう事だから」

 

 唐突な展開に緑谷が動揺している内に、紫那はさっさとホールのエレベーターに乗って緑谷の前から消えてしまった。

 

 

(──う、売られた……ッ!?)

 

 

 一瞬遅れて真実に気付いた緑谷は、ガーンと電撃を浴びた様なショックを受けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『Bio-tec社に在籍している科学者はノウイ殿だけではありまセン。この建物では日々多くの科学者が部門に分かれて数多の実験を繰り返しているのデス。ここでは大まかに4つの部門に分類されテオリ、日々多くの研究者達がその叡智を競い合っていマス。モチロン、そのトップに立つのはノウイ殿デスが。

 そしてその4つの部門とは即ち、“ロボット工学部門”、“バイオサイエンス部門”、“アドバンスシステム”、“SRB(Science Retention Bureau)”の事を差しマス。どれもノウイ殿が得意とする分野デスヨ!』

 

 上層階へ向かうガラス張りの長いエレベーターの中で、緑谷はB.I.R.Aの解説を聞く。根津校長を思わせる長話だが、思いのほか要点はまとまっている。腐ってもガイドロボットと言うべきか。

 エレベーターの中から見るBio-tec社は白を基調とした清潔感と未来を感じさせる内装をしており、各階層で白衣を着た科学者達が(せわ)しなく動き回っている、如何にも研究所然とした光景であった。

 

『ただいま向かっているのは8階、バイオサイエンス部門のエリアで、その名の通り植物学、遺伝学、医学を専門に取り扱ってイマス。ここに所属する研究者らはここの中でも特にブッ飛んでいルノデ、とってもスリリングデスヨ!』

 

「へっ、へぇ~…」

 

 B.I.R.Aの恐ろしい解説に戦慄する緑谷を(おもんばか)る事もなく、エレベーターは8階に到着した。

 

 外部からは分かりにくかったが、このビルは円形だった。中央にある大型のエレベーターから十字型に通路が伸び、その周囲がラボらしい。緑谷の前には、4方向に跨がる廊下がある。

 

 そしてエレベーターのドアが開き、緑谷が目にしたのは白く清潔な通路と、その両面からガラスを隔てた先にあるラボ。まず目に入ったのは──

 

 

「飢え死ぬゥ! エリマキトカゲ喰わせろォォ!」

「はァい、チクッとしますよォ」

──ズンッ!!

「フム…、“HealthNow(ヘルスナウ)”の効果が薄いな。次は“Rejuvenator(リジュヴネーター)”を試してみよう。まあ、悪いようにはせん」

 

 手術台に拘束された被験者にブッとい注射針をブッ刺したマスクのドクターに…

 

 

「ヴィラン連合? 知ってるぜぇ~。アイツら全員ロボットで、ゴミから鉄屑漁って食ってんだろぉ? 怖ぇよなぁ~」

 

 機械をスパナで修理しながら与太話に興じるエンジニアや…

 

 

「前にも言ったけど、ゼネラル・アトミックス社が警備用ロボットの開発を明言した以上、市場に参入するのは時間の問題よ。それから、設備部にラボの換気装置を何とかするよう言ってくれる? ラボがベーコン臭いの。わかる? ベーコンよ!?」

 

 神経質にキレながら伝言を頼む研究者…、であった。なるほど確かに、皆何処かブッ飛んでいる。中央廊下を歩きながら、緑谷はキョロキョロと左右の研究室を見回す。

 

「な、なんて言うか、凄い人たちばかりだね…」

『Bio-tec社は世界最大規模の研究所ですからネ!その上この会社は特定のスポンサーを持たないノデ、倫理的に危うい研究がやりヤスク、Iアイランドでの精神鑑定に落ちた研究者はこぞってここの門を叩くのデス!』

「へ、へぇ~…」

 

 B.I.R.Aの説明に、緑谷は些か引き気味に相槌を打つ。紫那の所に変わった研究者が多い理由の一端が分かる解説だった。

 その後もB.I.R.Aによる、現在行われているプロジェクトや実績を残した研究者の概説を聞きながら緑谷がバイオサイエンス部門のラボを進めば、ついに通路の端に到達する。

 そこには先ほど乗った物より一回り小さいエレベーターがあり、B.I.R.Aは慣れた(アーム)つきで降下ボタンを押す。

 

「次は1階下のロボット工学部門へ参りマス。彼らは1階層上のバイオサイエンス部門にコンプレックスを抱いているノデ、常に下克上を狙っているのデス。ホントデスヨ?」

「な、なるほど…。そう言えば、1階下なら階段で行くのは駄目だったの?」

「ワタシの車輪は階段には対応していないのデス!」

「ああ、なるほど…」

 

 間もなくエレベーターはやって来た。また、スリリングな見学が出来そうだと、緑谷は一筋の不安と幾らかの好奇心を胸に、B.I.R.Aに連れられてエレベーターに乗っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 B.I.R.Aの案内の元、緑谷は1階層ずつ下りながら社内にある4つの部門の見学を終えた。時間的にも、次の階層で社内見学は終わりだ。

 

『2階3階は事務関連の階層デス。日々産業スパイや特殊詐欺グループなんかと闘ってイマスノデ、このワタシすら入れマセン』

「ああ、機密情報とか…」

『イエ、五月蝿くて気が散るから入るなと出禁を喰らいマシタ。ヒドいデスネ!』

 

 至極納得の理由であった。そんな雑談をしていると、2人の乗っていたエレベーター止まる。

 

『着きましたネ! 4階、総合ホールデス!』

 

 中央エレベーターの扉が開くと、そこは今までの階層とは違って吹き抜けになっており、大きな広場になっていた。広場はビルの4階でありながら公園であり、芝生が広がり木が植えられ人工の小川まで流れている。

 所々に設置されたベンチには科学者らしき白衣を着た人々が腰掛けて意見交換を行っていた。

 

『この階層では社員や研究者同士の積極的な交流が推奨されていマス。奥には社員食堂もありマスヨ。Bio-tec食料パックの味は最悪デスガ』

 

 ペラペラと喋りながら、B.I.R.Aは(車輪)を進める。方向的に、その食堂へと向かっているらしい。

 

「君が噂の雄英生かい? 高校に侵入したヴィランは大変な連中だったらしいね」

「えっ、えっと…」

「君がミドリヤ君か。Dr.脳依は素晴らしいお方だ。それを分かってくれる事を望む」

「はっ、はい…」

 

 共に進む緑谷はベンチに座る科学者や社員から話し掛けられたが、皆緑谷の傍にB.I.R.Aがいる事に気付くとすぐに去ってしまった。どれだけ嫌われているのかと、緑谷は苦笑した。

 

 

「フードサプリメント77が生産終了というのは本当か? 好物だったんだぞ。もう少し引き伸ばせんのか?」

『ご希望ハ、喜んでアドバンスシステムにお伝えいたしマス。当面ハ栄養豊富で風味豊かな他のサプリメントをドウゾお楽しみ下サイ』

「使えない機械め。──おっと、君が例のクラスメイトか。ようこそ! 来てくれて嬉しい」

 

『ディィイイザァァァァアのォォオ、レモネェェエイドはいかがですかァァアア!レモン果汁0%のォォ美味しいレモネードですよォォオオ!』

 

 

 到着した食堂では販売や給仕をロボットが行っており、一般的なフードコートとは違った空気を醸し出している。

 食事をするには微妙な時間だが、食堂はそれなりに賑わっていた。軽食も多く販売しているらしい。

 

『ナニニシマスカ』

「……えっ?!」

「あぁそこのボク、お願いがあるの。ただ「はい」って言ってあげて。彼にはそれしか分からないの」

「か、変わってますね…」

「言語機能が故障しちゃっててね…。修理出来ていないのよ」

 

 コック帽を被ったロボットが鍋をかき混ぜている光景はなかなか刺激的だ。なんでもこのロボットが作るヌードルがBio-Tec社で1番美味しいらしい。

 

 そんな少し先進的過ぎる食堂を抜けて、緑谷とB.I.R.Aの社内見学は終了したのだった。

 

 

 

 

 

 

 最後に緑谷がエレベーターに乗ってガイドされたのは、地下1階層を丸々使用したトレーニングルーム。

 

 B.I.R.Aの解説によればこのトレーニングルームには幾つもの機能があり、確かにベンチプレスセットやランニングマシンなど一般的なトレーニングマシンも設置されているが、最初緑谷の目に付いたのはだだっ広く何も無い運動場だった。

 

『この運動場は主にノウイ殿が自身の身体能力や兵器のスペックを確認するのに使用していマスガ、計算上核爆弾の直撃にも耐えられるシェルターとなっていマス』

 

 そんな謳い文句ながら所々に補強しきれない焼け跡やひび割れが見え、緑谷にはそれが不吉な未来を予感させる。緑谷が不安に冷や汗を流していると、突如スピーカーから紫那の声が運動場に響き渡った。

 

 

『ああようやく来たのね。こっちの用意は出来ているわ』

 

 

 薄情にもB.I.R.Aを緑谷に押し付けて逃げてしまった紫那は、運動場の横に設置された管理室で準備をしていたらしい。運動場と管理室を隔てるガラス窓越しに、スピーカーを通じた涼しい声で紫那が言う。

 

 

『丁度良いタイミングね。入ってきなさい。──そうだ緑谷クン。B.I.R.Aを先に行かせてみなさい』

『ノウイ殿ならそう言ってくれると思いマシタ! ワタシと彼女は1つ(サヤ)の中の豆、1つの弾倉の中の弾丸、いえむしろ1人のデブの腸内に住む寄生虫みたいなものデスから! ──ア゙ア゙ア゙ァァァッ!!?』

『引き留めてゴメンなさいね。B.I.R.Aの話を聞いているとじわじわ脳細胞が死滅していく感じがするのよ。今防壁の電磁シールドを解除するわ』

「えぇ…」

 

 

 紫那の策によって高電圧のシールドに突っ込んだB.I.R.Aは、ビクビクと感電しながら動かなくなった。訓練中は動けないだけの電撃を流したらしい。

 

 緑谷が軽く引きながら管理室の中に入れば、紫那は既に制服から着替えていた。クソナードな緑谷は女子の私服にドキマキしていたが、紫那はそんな様子を気にせず今日の目的を説明する。

 

「貴方には今日中に、《OFA》をある程度は扱えるようになってもらうわ。再生も出来ないのに、発動の度に腕を壊していたらどうしようもないもの」

「ええと、それは、そうなんだけど…」

 

 緑谷は不安そうに自身の腕を見た。雄英内での自主練なら兎も角、外部での怪我ではリカバリーガールは対応してくれないだろう。優れた科学力が有ると言っても、紫那の医療技術もそこまでは逸脱していない。

 そんな緑谷の不安を理解した紫那は、デスクの上に置いてあったアイテムを緑谷へ渡す。

  

「雄英の体操着は持ってきているわよね? そこの更衣室で着替えたら、それを腕に装着しなさい」

「えぇっと、これは…?」

 

 そのアイテムの見た目は、まるで厚手の長手袋を鉄製にしたかのようだった。重い上に、紫那の発明品としては洗練された形とは言い難い。

 

「“粗悪な手甲(テッサ・フィスト)”。計算上、それを装備しておけば《OFA》のフルパワーでも4回は腕を保護出来るはずよ。特許の関係で、公の場では使えないけどね」

「オールマイトのパワーを4回も?! 凄いな…!!」

「出来合いの品だから名前の通り粗悪品よ。I・アイランドの住人なら、学生でも造れるんじゃないかしら」

 

 そんな紫那の照れ隠しを受けながら、緑谷は体操着に着替えテッサ・フィストを装備して運動場に立った。まだ何をするのか聞いていない緑谷の表情は、些か困惑気味である。

 

 

『準備はいいわね? 貴方には今から、倒れるまで()()()()()()()()()()()。かなりキツいとは思うけれど…、まァ殺しはしないわ。せいぜい頑張ってちょうだい?』

「え…、えっ?!」

 

 

 突拍子もない言葉に緑谷が困惑している内に、天井に設置されたレールに運ばれたロボットが降ってきた。そしてそのまま緑谷に向けて発砲する。

 

「嘘だろ、脳依さん!?」

『そのGUNLoader(ガンローダー)は我が社の基本モデルよ。銃撃とグレネード投擲の他には格闘とレーザーしか持たないから、脆弱で虚弱で貧弱しょう?』

「充分じゃないかなぁ!?」

 

 ガンローダーの銃撃から這々の体で逃げ回る緑谷はそうツッコんだが、紫那は何も答えない。本気で、どちらかが倒れるまで止める気はないようだ。

 

「くっ…!」

 

 銃はBBガンでグレネードは閃光手榴弾だが、痛いものは痛い。だがやるしかない事を理解した緑谷はガンローダーの重心が上半身に偏っている事を見抜き、決死の覚悟で体当たりを放ってガンローダーを転倒させた。

 

 

(…──ッ!? モノアイからのレーザー!!)

 

 

 マウントポジションを取り殴り掛かろうとした緑谷だったが、ガンローダーの単眼(モノアイ)が紅く輝いた事でレーザーが放たれるのを察し、体幹を捻ってそれを躱す。

 

「割れないッ…イメージ!!」

 

 避けた反動を乗せたテッサ・フィストでまだ熱いモノアイを殴れば、パリンとガラスの割れる嫌な音と共にガンローダーは停止した。そこが弱点だったらしい。

 

 しかし勝利を喜ぶ暇も一息つく暇も無く、新たなロボットが3体、落下された。

 

「ええっ!?」

()()()()()()と言ったでしょう! さァ第2ウェーブよ、《OFA》を使いこなしてみせなさい!』

「まっ、マジか!!」

 

 1体倒すのにも苦労したガンローダーが、3体も。

 

 

『──君が来た!ってことを世の中に知らしめてほしい!!』

 

 

 かなり厳しい状況だ。だが、オールマイトとの約束を守る為にも、《OFA》の扱い方を覚えなくてはならない。

 

 緑谷は覚悟して、拳を握る。

 

 

 そして…

 

 

──バチンッ!!

 

「ッ!! ──痛ッ!?」

「起きたわね。5分程度倒れていたのだけれど、それ以前の記憶はあるかしら?」

「う、うん…」

 

 運動場の中央で、緑谷は紫那に電撃を流されて目を覚ます。緑谷は善戦こそしたものの、第4ウェーブのロボットを破壊しきれずに気絶したのだった。

 

「原因は分かっているでしょう?渡した サポートアイテム(テッサフィスト)を安易に頼りすぎたわね。アイテム抜きで戦えないヒーローは三流止まりよ」

 

 紫那の言葉通り、緑谷は第4ウェーブまでにテッサフィストを多用してしまい、破損した事に動揺した隙にやられてしまったのだ。

 

「今の戦闘で少しは分かったわ。緑谷クン貴方…元々“無個性”だったかしら? 《OFA》を特別視しずきね」

「特別視…?」

「《OFA》は確かに特殊な出生を持つ“個性”よ。でも結局は“個性”…、身体能力の一環なの。必殺技や奥の手じゃあない」

「ッ…!!」

 

 紫那の言葉に、緑谷は青天の霹靂とばかりに目を見開かせる。

 

「そうだ…、そうだよ…!かっちゃんや皆が息をするように自然と出来る事が僕にはまだ「使う」って意識がある…! あんなに近くで見てたのに何で気付かなかったんだ! ──もっとフラットに《ワン・フォー・オール》を考えないと!!」

 

 緑谷のブツブツを聞きながら、紫那はニヤリと微笑んだ。理解するまでが、ずいぶん早い。もう2、3回気絶してもらう必要があると思っていたが、その必要はないらしい。

 

「今まで「使う」って事に固執してた…! スイッチを切り替えて…使う時に、使う箇所に! でもそれだと2手目3手目で反応に遅れが出てくる…! なら初めから、スイッチを全て付けておけばよかったんだ!!」

 

 緑谷の腕を紅電が覆い、それが全身へと広がっていく。

 

「全身…、常時身体許容上限5%!! ──ワン・フォー・オール《フルカウル》!!」 

「ええ、良く気付いたわ。さて緑谷クン、その状態で動けるのかしら?」

「わかっ…らない! からッ! もう1戦、お願いします!!」

「もちろん。さァ…、貴方の倒れた第4ウェーブから再開しましょうか」

 

 そう言って紫那は退き、代わりにロボットが4体、落下された。

 

 その内訳は、ガンローダーが2体と自爆特攻に特化したEXP Loader(エクスローダー)、そしてグレネードがオミットされた代わりに大盾を装備した、ブルドーザーの様な突撃を得意とするBUL Loader(ブルローダー)である。

 

 特にブルローダーは、前回の単体相手の戦いで即生身での破壊を諦めて、《OFA》の使用に踏み切った強敵だ。

 

「クッ…! ちょっ、待っ…!!」

 

 ガンローダーの銃撃を避けながら、緑谷は悶える。意識と身体の感覚が噛み合っていない。軽く避けたつもりで数メートル移動してしまう違和感。唐突に強化されたパワーに意識が追い付いていないのだ。

 

 筋力増量型の“個性”の持ち主はこんな感覚を味わっているのかと、緑谷は新たな発見に呻る。

 

 そんな時──

 

「ッ!? やばッ、解けたッ!!」

 

 不意をついて突撃してきたエクスローダーが自爆した。ほぼ音と光だけの虚仮威しだが、緑谷の集中を途切らすには充分だった。

 

 すぐさま≪フルカウル≫を全身に巡らそうとしたが、残っているロボット達による絶え間ない猛攻のせいでその余裕もない。

 

(BBガンとスタングレネードの威力は重くない! けど目で追えるスピードでもない!! 少しでも時間を──…!!)

 

 紫那はモニター室から興味深そうに観察している中で、緑谷は必死に身体を動かしながらも同時に頭も動かす。

 

「とおりゃあああ!!」

 

 第1ウェーブを繰り返す様に緑谷はガンローダーの上半身にタックルを仕掛け、転倒したガンローダーにマウントポジションを取った。

 

「ワン・フォー・オール≪フルカウル≫!!」

 

 優秀なCPUを搭載しているらしく、ロボット達が仲間に被弾する状況では撃ってこない事は以前のウェーブで分かっていた。

 素早く≪フルカウル≫を張り直した緑谷はモノアイを叩き割って、アームを引き千切ってもう1体のガンローダーに投げつける。アームは上手機体を貫通し、停止させた。

 

 残るは、大盾を構えたブルローダー1機。

 

 遠距離からは盾を構えながらBBガンでの銃撃、近づけば本物のブルドーザーの様な接地体勢からの突撃をかましてくる厄介なロボットで、気絶前にテッサフィストを乱用してしまったのはコイツが原因だ。

 

 だが今度は倒せる筈だと、緑谷は深く息を吐いて構える。全身に張り巡らせた≪フルカウル≫は乱れていない。それにによってか、感覚までも鋭敏化しているのが分かる。

 

(──ッ、今だ!!)

 

 敢えて隙を見せて誘発されたブルローダーの突撃を、緑谷はギリギリで躱した。

 

 遠距離技を持たない緑谷には、ブルローダーの大盾を越えて弱点を穿つ術がない。よって緑谷が取れる手段はただ1つ。衝突寸前で避けてからの、カウンターである。

 

 緑谷の目論見は成功し、突撃を躱しながら放った緑谷の蹴りはブルローダーの頭部に直撃し、それをへし折った。

 

「──~~ッ!! ヨシッ!!」

 

 停止したのを確認してから、緑谷は大きく吠えた。保つだけでも難しいが、《OFA》を制御する事が出来た。ようやく、真の意味でオールマイトの“個性”を受け継げたのだ。

 

『肉体にダメージ無し。《OFA》の操作に成功したようね。基礎を習得した以上、後は身体を鍛えて許容上限を上げていくだけね。でも、ここからが大変よ? まァ何にせよ…、おめでとう、緑谷クン』

「脳依さん…。うん! ありがと──」

 

 

 ──ダンダンッと、緑谷のお礼を遮るように、ロボットが複数台、落ちてきた。

 

 

『それはさて置き、さっき≪フルカウル≫の維持が拙い場面があったでしょう? 体育祭までに、そこを矯正しましょうか』

「え? の、脳依さん…?」

『ああ心配しないで緑谷クン。ここにはあらゆる戦闘パターンのロボットが用意されているわ。変なクセがつくかもなんて不安は杞憂よ。さァ、頑張りなさい!』

 

 ジリジリとにじり寄ってくるロボットの大軍団に、一歩後退る緑谷。

 

 ガンローダーやブルローダーだけでなく、火炎放射器やテスラコイルを装備した機体から空飛ぶドローンまでより取り見取りだ。

 

『“個性”の制御は身体で覚えるしかないわ。体をつくる為にも、ひたすら実戦訓練でゲロを吐かせてあげる』

「……ま、マジか !! 脳依さん…!?」

 

 

 ──こうして心に多大なトラウマを残しながらも、緑谷は体育祭までに≪フルカウル≫を完璧に習得したのであった。

 





【脳依'sプロフィール】
“百年先を行く天才”
・本名→脳依紫那
・ヒーロー名→メカニスト
・個性→《無個性》
・学校/学年→雄英高校1年A組 15番
・誕生日→10月3日
・身長→背伸びすると5メートルくらい
・体重→見た目より重いっぽい
・趣味/特技→観察と研究
・座右の銘→『天才の一瞬の閃きは凡人の一生に勝る』『明日死ぬつもりで生き、永遠に生き続けるつもりで学ぶ』
・彼女を見たある高名な学者の言葉→「“個性”の生体移植技術が欲しい。それさえあれば彼女は完璧になれるのに」

劇場版『2人の英雄』編。脳依紫那に連れられて追加で登場するなら誰?(期限:次話投稿まで)

  • 尾白猿夫
  • 砂藤力道
  • 物間寧人
  • 心操人使
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。