デヴィットの研究所から追い出されたメリッサ、緑谷、心操の3人は、メリッサに案内されてヒーローアイテムを展示しているスタジアム型パビリオンを訪れていた。
「最新のヒーローアイテムがこんなに!」
「みんな見て! この多目的ビークル、飛行能力はもとより水中行動も可能なの!」
「すごい!」
「上空一万メートルから深海メートルの深度までの圧に耐えられるのか…!」
メリッサが指差したモニターには飛行機型のビークルが映し出されており、空を飛んでいた多目的ビークルが海中に潜り込み、そのまま潜水していく様子が映っている。
2人が最先端のビークルに感嘆していると、メリッサが次のブースへと案内する。そこでは巨大な水槽の中で潜水スーツの耐久実験が行われていた。
「この潜水スーツは、深海七千メートルにまで耐えられるの!」
「深い!」
「七千メートルまでエアポンプで空気を送っているのか? 凄い技術だな」
その実演では潜水スーツがかなりの水圧に晒されているが、被験者はものともせず更に深度を深めている。
充分に見学した次のブースで、メリッサは緑谷にメットを被せた。するとモニターが起動してヘルメットの内部から見える多数の映像がモニターに表示されるのと同時に、ヘルメットの中で驚く緑谷の顔も表示される。
「このゴーグルには三十六種類のセンサーが内蔵されているわ」
「見えすぎる!」
「臭気や音波まで観測しているのか。これがあったら潜入なんて出来ないな」
内部での表情が分かる事で意思疎通を容易にし、また成り済ましも防ぐ画期的なアイデアだ。2人が凄まじい最新技術に唸っていると、メリッサが少し誇らしげに胸を張る。
「実は、ここにあるほとんどのアイテムはパパかDr.シナが発明した特許を元に作られてるの!」
「えっ、脳依さんも!?」
「そうなのよ! 彼女は私たちと同世代でありながらすでに数々の偉業を成し遂げていて、世界でもパパに匹敵する“天才”なの!」
「へえ~! メリッサさん、本当にお父さんと脳依さんの事を尊敬してるんですね」
「え? アハハ」
紫那とクラスメートであり彼女の人間的な面を良く知る緑谷にとって、紫那のファンを見るのは不思議な気分にさせたが、緑谷は戸惑いながらもメリッサと会話を続ける。
そんな時──
「楽しそうやね、デクくん」
3人の後ろから突如声を掛けてきたのは、なんと緑谷のクラスメートである麗日であった。
「う、麗日さん!? どうしてここに?!」
「A組の…」
「楽しそうやね…、って、心操くん!?」
緑谷に釣られて振り向いた心操の顔を見て、何故ここにいるのかと麗日も驚愕する。心操が辺りを見渡せば、麗日の他にも雄英で見知った顔が見受けられた。
「心操…だっけ? アンタもI・アイランドに来てたんだ?」
「パビリオンでお会いするなんて奇偶ですわね」
「耳郎さんに、八百万さんまで!」
「緑谷くんと心操くんの…、お友達?」
事情を把握していないメリッサがそう尋ねたが、体育祭で戦った程度の仲でしかない心操には何とも答えかねた。
「彼女たちは僕のクラスメートで…。えっと、メリッサさんには会場の案内をしてもらってて…」
緑谷は自分がオールマイトの同伴者である事を秘密にするらしい。
心操も何故オールマイトが緑谷を同伴者に選んだのかは知らないが、心操自身もおかしな理由で紫那に選ばれた為、深く追求する気はなかった。
緑谷の言い訳が終わるよりも早く、心操は手早く掻い摘まんで自身の事情を釈明する。
「俺は…、脳依の同行者として、I・アイランドに来てる。今は別行動してるけど」
「シーちゃんに? あっ、同中やったね!」
「そう…。結局、心操さんを選んだのですね」
A組の女子たちは、巨大企業グループの一人娘である八百万が持っていた2枚の招待状でI・アイランドに来たらしい。
何にせよ、周りにいる女子達が緑谷の知り合いであることを理解したメリッサは皆に1つの提案を口にする。
「よかったら、カフェでお茶しません?」
■
「どういうことだ…、トシ? “個性”数値がなぜこれほど急激に下がっているんだ!?」
デヴィットの研究室が一室である“個性”診察室にて、“個性因子”を計測する為にカプセルに入っていたオールマイトへデヴィットは狼狽えながら問いただす。
モニターに映し出されている“個性因子”を数値化したグラフに目を向ければ、年々徐々に低下していた“個性因子”が今回の計測では最大時の十分の一以下まで低下しているのが見て取れる。
他者に譲渡出来るという《OFA》の秘密を知らないデヴィットがこの件に
「このままでは、平和の象徴が失われてしまう…! 日本がヴィラン犯罪発生率を6%で維持出来ているのはひとえに君がいるからだ。それなのに──ッ!!」
「落ち着きなさい、デイヴ。貴方の困惑は理解できるけれれど、頭を回さずただ騒ぐのは
「シナ…。ああ、そうだな…」
“出国計画”と《OFA》、両方の秘密を知る紫那はお互いの秘め事が露見しないよう2人の間で調整役として振る舞っていたが、段々と無理が出てきた。
紫那が視線でパスを送れば、トゥルーフォルムのオールマイトがカプセルから立ち上がり、痩せこけながらも強い意志を宿した瞳でデヴィットを見つめながら口を開く。
「それほど悲観する必要はないさ。私以外にも優秀なヒーローは大勢いるし、君のようにサポートしてくれる方たちもいる! そして何より──…、ちゃんと次世代も育っているさ」
「あら。オールマイトにそう言っていただけるなんて、光栄で名誉で幸甚の至りだわ」
「でも! ……いや、そうかもしれないな…」
一応はオールマイトの言葉で納得したのか、デヴィットはそれ以上何かを言う事なく、淡々と検査を続けていく。
『──本日は18時をもって閉園となります。皆さまご来園ありがとうございました』
「おっと、もうこんな時間か。レセプションパーティーは19時からだったよな?」
一通りの検査が済んだタイミングで、パビリオンの閉園を告げるアナウンスが流れた。区切りとしては丁度いい。
「ゴホッゴホッ…。デイヴ、脳依少女また後で…、パーティー会場で会おう!」
マッスルフォームに戻ったオールマイトはそう言って検査室から出ていった。それを見届けてから、紫那は窓から入る夕日に照らされるデヴィットに尋ねる。
「オールマイトはああ言っていたけれど…、貴方の決意は変わらないのね?」
「……ああ。この世界には、まだオールマイトの力が…、平和の象徴が必要なんだッ…!」
「ふぅん? まァ、何でもいいわ。乗り掛かった船だし、最後まで付き合ってあげる。──さて! そうと決まれば、折角時間もあるのだし、少しでも計画を詰めましょうか」
「……ああ、そうしよ──」
紫那が心操たちに着いていかずに残ったのも、計画を進めるためだ。しかし紫那が専用のタブレットを取り出した所で、再び館内アナウンスのアラームが鳴った。
『日本からお越しの脳依紫那さま、お連れ様がセントラルタワーにてお待ちです。繰り返します。日本からお越しの──』
「……心操クンが、アナウンスで呼び出し?」
何かあったのかと、不穏な気配を感じて紫那は眉をひそめる。
「さっきの少年かい? 行くといい。
「……ええ、そうね。
そうオウム返しに言い返して、紫那はデヴィットの研究室を出て行った。
■
「……なんでこんな事に?」
日の沈み始めた夕暮れ時、心操は忍者モチーフのヒーローコスチュームではなくフォーマルウェアを着て、レセプションパーティーの行われるセントラルタワーのロビーで待ち惚けていた。
心操はパーティ会場にさっさと入場して会場で紫那と落ち合う心積もりだったのだが、何がどう間違ってかA組の面子と一緒に出席する事になってしまった。
「君を含めB組とは共に行動する機会が少なかったからな! 今回は良い切っ掛けだと誘わせてもらった!」
「まあ…、それは否定しないけど」
と言うのも、心操たちがパビリオンでA組の女子達と合流して喫茶店に向かったあと、偶然その喫茶店で短期のバイトをしていたA組の上鳴と峰田と遭遇し、続いてそれを見ていたA組委員長の飯田と出会ったと思ったら、なんと喫茶店近場のアトラクションに挑戦していたA組きっての武闘派(物間調べ)である爆豪、切島、轟と鉢合わせたのだ。
B組の面々もI・アイランドに旅行に来ている筈なのに、出会うのは狙ったかの様にA組の面子ばかりである。
親友の物間なら交友のない同級生相手でも上手く会話に入り込めるのだろうが、雄英に入場するまで友だちのいなかった心操には荷が重い。
そんな風に心操が1人居心地の悪さを感じているとは梅雨知らず、集まったA組の一群はレセプションパーティに団体で出席しようと盛り上がり、何故か心操も巻き込まれてしまったのだった。
「ごめん遅くなって…、ってアレ? 他の人は?」
「まだ来てない。まったく、団体行動をなんだと思っているんだ!」
「……女子の着付けには時間が掛かるんだろ」
「着付け…ドレスアップかぁ…。くぅ~、来て良かったなぁ、上鳴ぃ!!」
「ああ! 峰田ぁ!!」
心操が回想を終わらせるのとほぼ同時に、正装に着替えた緑谷が自動ドアを開けてセントラルタワーのロビーに入ってきた。
これで心操、緑谷、飯田、轟、上鳴、峰田の団体行動を拒んだ爆豪と切島を除いた男子陣は揃い、女子を待つだけとなる。
「ごめん、遅刻してもーたぁ!」
「申し訳ありません、耳郎さんが…」
「うう、ウチ、こういうカッコは、その、なんてゆーか…」
しかし噂をすればと言うべきか、麗日、八百万、耳郎の順で女子たちが華やかなドレスを纏ってやって来た。
男子にも好感触な衣装だが、シックなドレスを着た耳郎相手に馬子にも衣装だの殺し屋みたいだのと失礼な事を言った上鳴と峰田は《イヤホン・ジャック》によって制裁を受けている。
「デクくんたちまだここにいたの? パーティー始まってるわよ」
「「ウヒョー!!」」
そんな時、自動ドアをくぐり抜けて現れたのは、メガネを外してメイクをし、髪型を変えて大胆なドレスを着たメリッサであった。
「真打ち登場だぜ!」
「ヤベーよ峰田ぁ。オレ、どうにかなっちまうよ、どーしよう!」
「どーにでもなれ」
先ほどの制裁など無かったかのようにはしゃぐ2人に呆れ返った耳郎はそう呟いたが、黙って見ていた心操も同じ感想である。
そんなバカバカしくも、平穏な青春の真っ只中であった。
──警報が猛々しく鳴り響き、自動ドアを含む全てのガラスに防犯シャッターが下ろされたのは。
『I・アイランド管理システムよりお知らせします。警備システムにより、I・エキスポエリアに爆発物が仕掛けられたという情報を入手しました』
「なッ、爆発物!!? 」
「マジかよォ~!?」
『I・アイランドは現時刻をもって厳重警戒モードに移行し、今から10分後以降の外出者は警告なく身柄を拘束されます。くれぐれも外出は控え下さい』
アナウンスが沈黙すれば、ロビーに閉じ込められた雄英生たちは混乱を即座に収めて現状把握に動き出す。
「携帯は圏外だ。連絡機器はすべて遮断されちまったらしい」
「エレベーターも反応ないよ」
「出入り口の自動ドアも駄目だ。セントラルタワーが完全にシェルター化してるらしい」
「そんなおかしいわ! 爆発物が設置されただけで警備システムが厳重モードになるなんて…!?」
「……」
心操の脳裏に嫌な予感が走る。エディ・ソウルの忠告していた
「……メリッサさん、パーティー会場へ行きたい。会場まで行くルートを知らないか?」
「会場へ行きたい…? なんで?」
「会場にはオールマイトと脳依がいる筈だ。何か、情報が掴めるかもしれない」
心操の言葉に納得したメリッサに連れられて、心操たちは非常階段を利用してレセプション会場へと走り出した。
■
心操たち雄英生がロビーでアナウンスを聞いていたのと同時刻レセプション会場は、覆面で顔を隠した10数名のヴィランに襲撃されていた。
戦闘力の無い招待客が銃器で人質に取られ、ヴィランがタワーと共に掌握したセキュリティ用の捕縛装置によって、オールマイトを含めたヒーローが束縛されてしまう。
「安心しろ。大人しくしていれば危害は加えない。こちらの目的を達成すれば解放する準備もある」
人質の間を歩きながらそう宣言しているのは、防弾チョッキの上からマントを羽織り、鉄仮面で顔を隠した、このヴィラン集団のボスであるウォルフラムである。
反抗したヒーローを足蹴にしながら、ウォルフラムは周囲を見渡す。
「お前、ここの研究者だな?」
「は、はい…」
そして目を着けたのは、温和な顔付きをした科学者…、デヴィットの助手であるサムであった。サムの胸に掛けられているのは科学者である事を示すプレートであり、誤魔化すことはできない。
「よし、連れていけ!」
「い、いったい何を…」
「やめろ!」
ウォルフラムの指示によってヴィランに銃を突き付けられたサムを庇うように、デヴィットが銃口の前に立つ。
「お前…、知ってる顔だ。デヴィット・シールドだな? お前にも来てもらおうか」
「……断ったら?」
「お前のせいで、誰かの悲鳴が会場に響くことになる」
「クッ…」
鉄仮面の下でウォルフラムの顔が凶悪に歪むのを見て、デヴィットはこのヴィラン集団が本気である事を悟る。
「分かった…。従おう…」
「それでいい。安心しろ、従順であれば安全は保証してやる。さあ、一緒に行こうじゃあないか」
ウォルフラムはそう嘲笑い、拳銃を突き付けられながらも瞳の奥に決意を宿すデヴィットとサムは怯えるウォルフラムに会場の外へと連行されたのであった。
■
一方その頃、様々な器具が並んだセントラルタワーのとある研究室の一室にて、紫那は研究者の一団にレーザー銃を突き付けられた。
「さて…、一応訊いておくけれど、何のつもりかしら?」
危機的状況でありながらもそう問う紫那の口元には笑みが浮かべられており、それがより一層科学者たちのリーダーを苛立たせる。
「アナタ…、烏滸がましくも“天才”を名乗っていながら、状況の把握すら出来ないようね。質問できる立場にあると思っているの?」
神経質な雰囲気でレーザー銃を構えた白衣姿の初老の女が、トリガーに指を掛けたままそう答える。
「ええ勿論よ、ヒューマライズ残党の科学者さん。ただEMP(電磁パルス)兵器で囲まれている。
「それだけの事…ッ!? 虚勢にしても無様ね!!」
偽りの館内アナウンスで紫那を呼び出し、逃げ場のない密室でEMP兵器で取り囲む。なるほど良い作戦だ。体内に
だがやはり、紫那の表情に焦りはない。それどころか、机の上に置かれたアイテムに目を向けるだけの余裕すらある。
「ああなるほど。
紫那の瞳は音波を観測できない。技術的には可能だが、日常生活に差し支えが出る事を考慮して搭載しなかった。
「カメラやらEMP搭載のレーザー銃やら…、徹底した私対策ね。内幕を知らない貴女たちに用意できる物じゃあない。なら…、
「「「──…ッ!!?」」」
紫那が軽く探りを入れれば、リーダーは反応を見せずとも紫那を取り囲む科学者たちの間に僅かながら動揺が走った。
「ああやっぱり、
「……そうよ。あのお方は、
耳障りのよい事を囁いて、人を自分の都合の良いように動かす。KL-E-Oのやりそうな事だと、紫那は鼻白む。
「あの不良品が画策した企みなら…、手配した外部の別働隊がセントラルタワーの占拠でもして、そろそろレセプション会場でも襲撃している頃合いかしら?」
「ッ…!? 化け物めッ!!」
「あら、そこは“天才”と呼んで欲しいわね」
軽口を叩きながらも、紫那は思考を高速で回転させる。良心の呵責を持たないKL-E-Oが、どんな方法を使ってくるのか。
(──何にせよ、エキスポ中にこうも大きく動くなら別働隊は裏切者ではなくヴィランね。なら、そちらはオールマイトが何とかしてくれるでしょう)
会場にオールマイトがいるならば、世界の要人だらけであるレセプション招待客が皆殺しにされるという最悪の事態が起こる事は無い。
例え人質が取られて行動を制限された上で身柄を拘束されようともオールマイトなら何とか出来るし、万全の彼を完全に捕らえられる装置など、紫那にも造れないのだから。
(──なら私がすべきは、
挙動を観察した限り紫那を取り囲む科学者たちには別働隊の他に仲間はおらず、この科学者たちが紫那の足止めに手一杯となれば、それだけで敵の連携を邪魔できる。
KL-E-Oが如何なる策をこの連中に授けていようと、本機がいないのなら何とでもなるだろう。そう考えた上で、煽るために紫那は敢えて傲慢に笑った。
■
非常階段を上りレセプション会場の上から情報収集を行っていた緑谷と耳郎は、非常階段の踊り場で待機していた仲間とオールマイトから得た情報を共有する。
その2人から話を聞き、あまりの事の重大さに一同は言葉を失った。冷や汗をかきながらも、心操が何とか言葉を絞り出す。
「……情報を整理しよう。警備システムを掌握したヴィラン集団によってタワーが占拠。島中の人が人質に取られたせいで会場のヒーローは拘束された。挙げ句に、デヴィット博士とその助手がヴィランのリーダーに連れ去られている」
絶望的だな、と心操が締めくくれば、代わって飯田が口を開く。
「……撤退せよというオールマイトのメッセージは受け取った。俺は雄英校教師であるオールマイトの言葉に従い、ここから脱出することを提案する」
「飯田さんの意見に賛同しますわ。私たちはまだ学生。ヒーロー免許もないのにヴィランと戦うわけには…」
「いや…、俺たちは外ではなく、タワーの最上階を目指すべきだ。──警備システムを、取り戻す為に」
「心操君!!?」
セントラルタワーからの撤退を提案したA組のクラス委員長2人の台詞を遮るように、挙手して注目を集めた心操はそう提案した。
驚愕の表情で見てくる一同を前に、心操は自身の考えを説明する。
「パーティーの出席者は大手企業のCEOや資産家なんかの重鎮ばかりだ。偉業を成したとは言え、そんな大物連中を無視して研究者を連れて行ったのなら、ヴィランの目的は身代金だけじゃない」
「最上階にある、研究資料…」
「最新技術を使ったサポートアイテムか…。間違いなく金になる上、抵抗する人間よりは持ち運びやすいな…」
轟がそう纏めれば、この場にいる全員が心操の言わんとする事を理解した。つまり、ヴィランにバレないように最上階まで行き、警備システムを奪い返すという事。
「でっでもよ! それにしたってオールマイトまで捕まってんだぞ、オイラたちだけでヴィランと戦う気か!? USJで懲りなかったのかよ!?」
「峰田アンタはそれで良いわけ!? 救けに行こうとか思わないの?!」
「思うよ! だからってヴィランから警備システムの奪還なんて出来るわけないだろ!!?」
『──あら、そうとも限らないわよ?』
「どうしてそんな事が──って、え?」
「なっ、脳依!? 何処から…?!」
行くか行かないかで意見が二分化している中、行方不明になっていた紫那の声が非常階段に突如響いた。
皆が声の発生元を探して辺りを見渡せば、不意に1つ思い当たった心操がポケットを漁り、その中からビー玉サイズの鉄球を取り出した。
「これは…、デヴィット博士の研究室でレセプションパーティーのチケットと一緒に渡された…」
「それって…、圧縮技術の使われた脳依さんのサポートアイテムじゃないか! 」
取り出された鉄球は心操の手からフワリと浮かび上がり、野球ボールサイズまで巨大化する。万が一の事に備えて紫那が心操に渡していた≪
『通信が遅れて御免なさいね。タワーが厳戒モードになったことで電波が遮断されているのよ。独自回線がようやく繋がったわ』
ED-Eは搭載されたカメラで一面を見回して、ED-Eの向こうから現状を再確認した紫那は言う。
『セントラルタワーを占拠したヴィランは警備システムを完全には掌握できていないわ。各所に設置された感知センサーや
連中が使えているのはアナログな監視カメラとせいぜいが警備ロボットだけだと、紫那は断言する。
「つまり…?」
「監視カメラの設置されていないこの非常階段を昇って制御ルームのある200階まで侵入して、奇襲に成功すれば勝機は充分にある…って事ですね? Dr.シナ」
『その通りよメリッサ。コントロールルームまで行ければ私が警備システムを奪還できるわ。でも、通信デバイスを組み込んだこの機体に戦闘システムが無い。だから──』
──最上階にたどり着くまで、私を護ってちょうだい。
スピーカー越しにも救けを求めていることが伝わる紫那の心髄な声に、恐怖に負けて応えられない者はいなかった。
「あーもーッ! 分かったよ、行けばいいんだろ行けば!!」
「よっ…、よっしゃ! そう言うことならオレも! 一丁やってやろうぜ、脳依!」
「うん。困ってる人たちを救けよう。ヒーローとして当たり前のことをしよう」
「脳依、俺も行くぜ」
「ウチも!」
「……これ以上無理だと判断したら引き返す。その条件が飲めるなら、俺も行こう」
「その条件でしたら、私も」
『……ええ。皆の協力、感謝するわ』
怯懦に取り憑かれて動けなくなる者がいないとは信じていたが、全員の協力が得られるならば作戦の成功率は格段に上がる。
銃口に囲まれたままの紫那は、胸に迫る感情が表情にも声色にも出ないよう細心の注意を払ってから、通信越しでそうお礼を言った。