脳依紫那は天才である   作:緑川翼

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皆さまあけましておめでとうございます。今年も1年よろしくお願いいたします。


林間合宿・2日目

「“個性”を伸ばす…?」

「ああ、A組はもうやっている。早く行くぞ」

 

 合宿2日目、既に訓練を開始しているA組にB組が合流した。ブラドキングの端的な言葉に、B組生徒は“個性”の何をどう伸ばすのかと疑問を抱く。

 

「筋繊維は酷使することにより壊れ…、強く太くなる。“個性”も同じだ。使い続ければ強くなり、使わなければ衰える! 即ちやるべき事は1つ!

 

 ──限界突破だ!!

 

 

 そう力強く宣言するブラドキングに先導されたB組が目にしたのは、A組の特訓風景。

 

 

「なんだこの地獄絵図…!?」

「もはやかわいがりですな…!!」

 

 崖を転がり落ちる麗日、水に浸けた掌を爆破する爆豪、熱湯に入りながら氷塊を形成し続ける轟、何をしているのか洞窟の中で絶叫する常闇諸々…。

 拷問と見紛うほど凄絶な訓練を行うA組に涼しい顔をした生徒は1人も居らず、今からこれに参加するのかとB組も言葉を失った。

 

「許容限界のある発動型は上限の底上げ、異形型、複合型は“個性”に由来する器官、部位の更なる鍛錬。通常なら肉体の成長に合わせて行うが……」

「まァ仮免試験まで時間が無いんでな。B組も早く準備しろ」

 

 

 A組を指導していた相澤先生にも急かされる。拳藤などはA組B組合わせて計40人をたった6人で監督できるのかと疑問を抱いたが、曰くその為に呼ばれたのがプッシーキャッツなのだと言う。

 

 

「そうなのあちきら四位一体!」

「煌めく眼でロックオン!!」

「猫の手手助けやって来る!!」

「どこからともなくやって来る…!」

「キュートにキャットにスティンガー!!」

「「「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!!(フルVer.)」」」」

 

 

 ラグドールの《サーチ》で“個性”の弱点を探り、ピクシーボブの《土流》で鍛錬に見合う場を形成し、マンダレイの《テレパス》で一度に複数人へアドバイスする。そして残る単純な増強型は虎が直接指導(殴る蹴るの暴行)をするのだ。

 

 1人だけ性別もジャンルも違う筋骨隆々な男である虎には誰もがツッコミたかったが、残念ながらこの場にツッコむ勇気のある生徒はいなかった。

 

「雄英も忙しくてな。ヒーロー科1年だけに人員を割くのは難しい。この4名の実績と広域カバーが可能な“個性”は、短期で全体を底上げするのに最も合理的だ」

 

 との事でラグドールの《サーチ》の元、B組も的確に各々の課題と訓練方法が割り振られていく。

 

「ああ心操、お前はこっちだ。着いてこい」

「え?」

 

 そんな中、心操はブラドキングに連れられて宿泊施設の中へと入る。室内でも時折すれ違うアイボット(監視用ドローン)を横目に、心操はブラドキングの説明を聞く。

 

「お前の“個性”は少々特殊だからな。発動には他者が必要だが…、人数を絞ったこの合宿でただ《洗脳》を受けるだけの人員は用意できない」

「まあ…、そうですよね」

 

 それは心操も気になっていた。

 

 心操は自身の“個性”を使い慣れていない。中学校で紫那と出会うまでは自身の“個性”忌み嫌っており、また種が割れれば対策の容易な能力である為、雄英に入学してからも数える程しか心操は《洗脳》を使用していなかった。

 

 しかし能力の強化には“個性”の習熟が当然必須である。だが心操1人の訓練に掛りっ切りに出来るほど人手は余っていない。

 

 ではどうするのか──…

 

 

──バリバリバリ!!!

 

 

「ッ!?」

「おう、やってるな」

 

 心操がそんな事を不思議に思いながらブラドキングに着いて廊下を歩いていれば、突如宿泊施設の一室から()()が溢れ出した。

 

 驚愕する心操を他所にブラドキングはそんな怪奇現象を当然の事の様に受け止めて、紫電を発した部屋へと入る。そこにいたのは──

 

 

「また!? あァまたやり直しだわ!! このッ、自主規制(ピーー)コンプラ(バァン)な、くそったれのクソアニメめ!!」

 

「……脳依」

 

 目を真っ赤に充血させ、見たことない表情でブチ切れる紫那であった。

 

 心操とブラドキングの来訪に気付かないほど興奮した紫那は何時もの知性的な振る舞いからは考えられない下劣な罵詈雑言を叫んでおり、そんな彼女の前には一台のテレビとCDプレイヤーが設置されている。

 そのテレビでは何かアニメが再生されているらしく陽気な音楽と映像が流れているが、内容までは分からなかった。

 

「心操、一度脳依に《洗脳》を掛けてみろ。説明はその後だ」

「え。良いんですか? ……おい、脳依」

 

 紫那は《洗脳》の条件である『返事』を『独り言』と認識する事で、《洗脳》を回避しながら心操と会話する技術を持っている。

 ブラドキングの指示通り心操は《洗脳》の意志を持って声を掛けた。紫那が冷静ならこの適当な《洗脳》には掛からないだろうがしかし──

 

「なにッ!? 見ての通り今忙し……」

 

 誰が声を掛けたのかも確認する事なく返事をして、呆気なく紫那は《洗脳》に引っ掛かり沈黙した。

 あの脳依がこんな手に掛かるなんて、と心操が驚愕すれば次の瞬間、バチンと紫電が煌めき、紫那の瞳に光が戻る。

 

 

「……何の……、つもりかしら? 心操クン。いえ“個性”犯罪者(ヴィラン)と呼んだ方が良いかしら? 貴方はこんな下らない邪魔をする低脳の一員だとは思わなかったわ。見て分かるわよね? あァ、もしかしてそれすら理解出来ないほど脳ミソが詰まっていなかったのかしら? だとしたら貴方の知性を見誤った私の落ち度ね。私、今、忙しいの。これで分かってくれたかしら? 馬鹿の思考を理解するつもりは無いのだけれど、唐突に“個性”を使ってくるなんて──」

 

「そこまでだ、脳依。心操には俺が“個性”を使わせた。お前と、心操の訓練の為にな」

 

 だがその瞳の光は常々浮かべている理知的な色をしておらず、憤怒と屈辱に燃えた赤色の光であった。

 

 立て板に水とばかりにネチネチと流れ出る紫那の罵倒に心操が再び衝撃を受けていれば、横から黙って一連の流れを見ていたブラドキングがそう弁解した。

 

「訓練…。ええ、なるほど?」

 

 ブラドキングの言葉を聞き、テレビを一瞥した紫那が口を閉じる。瞳は真っ赤に充血したままだが、何かしらの納得をしたらしい。

 未だ状況を飲み込めずにいる心操に、次いでブラドキングが説明する。

 

「今回の合宿において、脳依には他の生徒とは異なる課題と特訓が課されている。そしてその訓練こそが、『()()()()()()()()()()()()()()()()』だ」

「──…?」

 

 紫那が“無個性”であり、全身が“変異細胞”で構成されていると言う特殊な事情から、別途の処置が取られるのは当然の事であり、心操もそこに疑問は抱かない。

 

 だがアニメを見るのが課題とは、一体どういう事なのか。

 

「このアニメは…、約30年前一部地域で放送されて波紋を呼んだ挙げ句に放送規制された問題作でな。その内容が──」

「ひたッすら“無個性”を揶揄って馬鹿にして虚仮にした、自己規制(ピーー)で最ッ低のクソアニメよ!!」

「……まあ、そんな作品だ。まだ“個性”絡みの放送倫理が緩かった時代の遺物だな。雄英では“個性”倫理学で用いる為に保存されていたのを、今回は持ってきた」

「……だからか」

 

 体育祭の最終種目で紫那を煽った身として、心操は紫那が“無個性”を嘲笑された時の煽り耐性の低さは承知している。

 逆鱗を殴り付けるような内容のアニメを12話(ワンクール)(約5時間分)も視聴しろと言われれば、紫那でなくとも短気になるだろう。

 

 だが紫那の怒りと疲労は、それだけが原因ではないように心操には思えたが……

 

「加えて、このCDプレイヤーには外部から電力を感知するとO()P()()()()()()()仕組みになっている。挑発への耐性を付けなければ行う意味が薄いからな」

「……なるほど。ストレスで放電すれば、アニメはまた最初から…、ってワケか」

 

 ブラドキングの補足で、心操は苛立ちの溜まった紫那のグロッキー具合に納得した。

 

 紫那は強い感情の発露によって放電する。これは激情で引き起こされる生きた中核(リビング・ハート)の急速な発電に体内の蓄電器が追い付かない際に起こる現象だが、今回の特訓ではそれを悪用したらしい。

 表面上だけ平静を装おうと無意味であり、真に感情を抑制出来るようになるまで終わらない荒修行。成る程、合理的だ。

 

 

「放電で巻き戻し……か。だから俺が呼ばれたんですね」

「流石察しが良いな! 今日の所は“個性(洗脳)”の連続使用に慣れる事を目的とする。バンバン使っていけ!!」

 

 そう言ってブラドキングから渡されたのは、サポートアイテムである折りたたみ式の『ペルソナコード』である。

 

「……えェ、成る程。次からは貴方の邪魔が入るのね。“洗脳”を解く時も、()()()()()()。ただでさえ低かった成功率が地に落ちたわね」

 

 常々の彼女から考えれば驚くほどに遅かったが、紫那もようやく心操が呼ばれた意味を理解した。心操が《洗脳》を使うたび、ビデオは巻き戻されるのだ。紫那はアニメだけで無く、心操の妨害にも注意を払わなくてはならない。

 心操にとっては“個性”の連続使用訓練となり、紫那にとってはある意味で単調な訓練にメリハリを加える。正にwin-winな関係であり、なるほど雄英らしい合理的な組み合わせだ。

 

 

 ──…紫那のトラウマを踏み付けていることを除けば、だが。

 

 

「心操クン、私は先んじて詳細を聞いた上でこの訓練を行っているの。貴方も自身の訓練に集中して、私にどう返事をさせるかだけを考えなさい」

「……まあ、アンタがそう言うなら」

「それで良いわ。ヴィランは私の心情なんて慮ってはくれない。ヒーローになるなら、精神攻撃への耐性は必須。私の心配なら無用よ」

 

 瞳を真っ赤に充血させたまま、紫那はそう言った。その表情にはウンザリしながらも不退転の決意が見え、誰かに止めるよう説得されようとも応じないであろう『()』が感じ取れた。

 

 ならば心操も言うことがないと、ブラドキングからペルソナコードを受け取った。口元に装着して、()()()()()()()()()()覚悟を決める。

 

 

『──僕らの“個性”じゃスーパーヒーローになる事はできないし、清濁併せ呑んで汚い手を使う必要もある』

 

(──まったく。本当にお前の言うとおりだよ、物間)

 

 

 身体を鍛えても戦闘訓練では身体強化系の“個性”持ちには及ばない。救護訓練では知識のある一般人以上の働きをする事は出来ない。心操が何かを成すには、誰かを傷付けなくてはならない。

 

 だが、言葉のナイフを振るってでも前へ進む覚悟を決めた。きっとヴィランには恨まれるだろう。この“個性”を使う度、民衆には心ない事を言われるだろう。

 

 

(──それでも、人の為に“個性”を使えるヒーローになる為に)

 

 

 躊躇も罪悪感も無く、紫那のトラウマを踏み付けよう。その覚悟を、いま決めた。

 

 

 

 

 

 

 ───バリバリバリッ!!!

 

 

「ッ…──!! ハアァァァッ…!」

 

 一際大きな紫電が部屋を包み込んだのち、ブチンと音が鳴ってテレビの画面が落ちた。見た目は派手だが紫那の漏電は静電気に似た性質の物であり、ピリピリするだけで心操に害は無い。

 

 それはそうとして、これで今日何度目の放電なのか。心操は既に数えるのを止めていた。

 

 紫那のアニメ視聴は、心操の想像以上に難儀していた。アニメは心操も眉をひそめたくなる下劣で低俗な内容だが、紫那の反応は度を超している。OPが流れれば放電し、主人公が一言話せば漏電する。同じ台詞の最初と最後で2度放電した時点で、心操は今日中に2話目を見るのは諦めた。

 

「……ふー。ようやく落ち着いてきたわ」

「やたら大きな放電だったけど、やっぱり感情の発露を無理に溜め込むと反動も大きくなるんだな」

「私の体内…、正確には“変異細胞”の中に溜め込める電力には限りがある。普段なら過剰電力は細胞内で処理出来るけど、抑制が過ぎれば処理が追い付かなくなるのよ」

 

 いま心操は“個性”を発動している。それで尚《洗脳》されないという事は、ソファに座って目を揉む紫那はいま冷静なのだ。

 

 ……先ほどまでの紫那は酷かった。時にはクラスメートの声で茶々を入れ、時にはアニメの登場キャラクターの声で煽り、また隙を見てはブラドキングの声で休憩を促す。

 

 そんな多種多様な方法で《洗脳》を仕掛ければ、紫那はその全て余すことなく引っ掛かった。

 紫那に少し重めな尊敬の念を向ける心操としては目も当てられぬ有様だったが、一度大きく発散した事で冷静さを取り戻したらしい。

 

 

 バチッ、バチ…、と小さな紫電が漏れ出たのを最後に、ようやく紫那の漏電が止まった。しかしテレビの画面は暗いまま動かない。どうにも様子がおかしい。先ほどまでは、紫那の放電が収まるのと同時にアニメも再会していたのだが。紫那がテレビを触診する。

 

「……内部の電子回路が度重なる放電で焼き切れてるわね。修理が必要だわ」

「そうか…。何分くらいかかる? 道具はブラキン先生が用意してくれてるんだよな?」

「今、中身を確認するわ。少し待ってちょうだい」

 

 機械の故障も当然想定内であり、紫那はブラドキングに道具箱を渡されていた。心操は詳しくないのでよく分からないが、道具箱のサイズ的に部品か何かが足りないという事も無さそうだ。

 

 

「……修理には10分…、いえ、15分は必要ね。休憩にしましょう。20分30分休んでくれても全く構わないわ」

「……分かった。15分前後で戻るよ」

 

 

 特殊な瞳が無くとも、紫那が5分も掛けずにテレビを直せるだろう事は心操にも分かる。だが訓練を始めて約2時間が経過したが、今まで休憩を取っていなかったのも事実。

 

 アニメを見ていただけと言えばそうなのだが、そろそろ脳を休める必要があるかと、心操は大人しく部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 行き交うアイボットを横目に、心操は宿泊施設を出る。施設内で休憩しても良かったのだが、折角森に囲まれた自然豊かな場所にいるのだから新鮮な空気を吸いたい。そう思って外に出た心操だったが……

 

「ぎゃあああァァ…!!」

「いてええええッー!!」

「……地獄の最深部か? ここは」

 

 そこらかしこから聞こえてくる絶叫で、リフレッシュ気分はすっかり失せてしまった。

 今日の所はまだ余裕があるが、明日以降は自分も阿鼻叫喚の仲間入りするのかと思うと、呑気に休憩する気にもなれなくなる。

 

 軽く周囲を散歩しながら、心操は時間を潰すことにした。

 

 

「ん? お前は……」

「おや、誰が来たのかと思えば心操じゃないか。休憩中かい?」

「物間か。それに轟も。何してるんだ? ……本当に何してるんだ?」

 

 

 崖から転がり落ちたり崖の上で通電したりしている同級生を見なら散策していた心操に声を掛けてきたのは、別々のドラム缶の中で手を繋いで湯を沸かしながら氷塊を造っている物間と轟であった。

 

 あまりに混沌とした特訓風景に、心操の理解が追い付かない。

 

「何してるって、当然“個性”伸ばしだろ」

 

 言うまでもない事を訊くなと言いたげな轟だが、これは煽っているのではなく、ただの()である事を、I・アイランドで共闘した心操は知っている。

 説明してくれと、轟と横並びのドラム缶風呂に入った物間に視線で訴えれば、物間は苦笑いして口を開く。

 

「彼は氷結と炎の同時使用に身体を慣らす訓練で、僕は《半冷半燃》を《コピー》する事で“個性”の所持数(ストック)を増やす試み…、ってトコかな」

 

 成る程なと心操が頷けば、物間の隣で轟もそれが言いたかった、とばかりに頷いている。物間は体育祭や職場体験を通じて、天然な轟のフォローが上手くなっていた。

 物間は《コピー》できる“個性”の数に限りがある。それを増やせるなら、つまりは手数を増やせるという事。絵面は兎も角、やってみる価値はあるだろう。

 そんな理由で轟と物間は氷を造りつつ湯を沸かして体温を調節しているが、どうにも轟の方が顔色が悪い。

 

「轟は…、大丈夫なのか? ちょっと顔色が青くなってるぞ」

「造ってる氷に対して炎の熱量が足りてねぇんだ。炎の扱いに関しては正直物間の方が上手えからな。俺はまだ使い慣れた氷が先に出ちまう」

「炎を出す意志とエンデヴァーへの反抗心がぶつかってるのかもね。左右(炎と氷)を同時に使う時には身体の中心にある心臓を意識して──」

 

 流れるように物間がアドバイスを入れる。物間は誰かのサポートに回ってこそ最も輝く。轟とは良いバディになるかもしれない。心操は少々の寂しさと共にそう思った。

 

 

 バッッチャーン!!と大量の水しぶきに襲われたのは、物間と轟と別れた心操が感傷に浸りながら歩いている時だった。

 

「チッ!! 猫ババア、ドラム缶がブッ壊れた!!」

「またァ?! 施設に予備があるから、自分で持ってきて!!」

「チッ!!」

 

 心操に生温い水を押っ被せた下手人は、案の定近場で“個性”伸ばしを行っていた爆豪であった。穴の開いたドラム缶から水が零れているのを見るに、爆豪はあの中で《爆破》をしていたらしい。

 

「……精が出てるな」

「アァッ!!? ……テメェ、ワカメ髪と一緒じゃねえのかよ」

「いま休憩中……って、よく脳依と訓練してる事が分かったな?」

「あンだけバチバチやってりゃ誰でも分かるわ。ワカメ髪に《洗脳》掛けてんだろ。アイツなら自力で対処出来んだからな」

 

 外から聞こえるほど、紫那の漏電は大きかったらしい。心操に実害が無いのが不思議なほどだった。それにしても流石の洞察力である。これがA組で才能マンと呼ばれる所以かと、心操は感心する。

 爆豪はピクシーボブに言われた通り宿泊施設に新しいドラム缶を取りに行くらしく、そろそろ戻ろうと思っていた心操の前を歩いている。

 

 

「……水中でドラム缶を破裂させるだけの爆発。目指してるのは、()()()()()()か?」

 

 歩きながら、尋ねる。ズボンの裾くらいしか水は被っていないとは言え、爆発に巻き込まれたのだから聞く権利は有るだろうと、心操は思う。

 

 体育祭。その決勝戦で、爆豪が紫那を相手に放ち決め手となったあの大爆発の輝きは、今でも心操の脳裏に焼き付いている。

 

「ホントのコト言うと、体育祭は脳依が全員打ち負かせて優勝すると思ってた。だから──…、お前が脳依を吹き飛ばした時、ちょっとだけ感動した」

 

 それは、心操の正直な気持ち。誓って、心操は紫那にマイナスな感情は向けていない。しかしその上で、心操は紫那から勝利をもぎ取った爆豪の姿に興奮と感動を抱いたのだ。

 

 前を歩く、爆豪の足が止まる。

 

「ニトロの汗を玉にして同時多発させる、新境地()()()()()。到達すりゃ、俺の技全ては底上げされる」

 

 自身の掌を見つめながら、爆豪は言葉を続ける。

 

「そうすりゃ、ワカメ髪も半分野郎も相手じゃねえ、俺が一番だ!!」

 

 それだけ言い残して、爆豪は早足で駆けていった。向かう方向は同じだが、変に追い掛ければキレられるだろう。

 

 

「……俺も、気合い入れ直さなきゃな」

 

 

 爆豪の姿が宿舎の中に消えてから、心操は歩き出す。結局夕飯のカレー作りに呼ばれるまで、心操と紫那が再び休憩を取る事は無かった。

 

 

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