コスチュームのマスクの下で顔を
「20人中の2人…ざっと計算して、5%程度の確率…か。縁があるわね」
「ま、マジか。ちゃんと喋る内容考えないとコレ…!」
小声だが、紫那の改造された耳にはしっかりと緑谷の警戒が聞こえていた。だが
クジによるコンビ分けが終わり、続いて対戦相手を、オールマイトが再びクジで決める。
「最初の対戦相手は…こいつらだ!! Aコンビが『ヒーロー』!! Dコンビが『
「──…ッ!!」
「あら」
Aコンビは紫那と緑谷。そしてDコンビは《エンジン》の“個性”を持つ眼鏡をかけた堅物な印象の飯田と…
「かっちゃん…」
緑谷とは浅からぬ縁を持つ、爆豪であった。
「……邪魔で
訓練の開始が5分後に迫って尚、緑谷が小刻みに震えているのを、紫那が鬱陶しけに
「いや、その…相手がかっちゃんだから…ちょっと……だいぶ身構えちゃって…」
以前、入試試験日にチラリと見えただけでも、2人は典型的ないじめっ子とその対象だった。中学での関係など、容易く想像がつく。
しかし、それても紫那には気に入らない。
「
「……え?」
「いじめっ子、自分より優れた幼なじみ、そして…コンプレックスの対象。えぇ、貴方が彼を恐れる気持ちは分かるわ。でも、それは
紫那は言葉を続ける。
「貴方は震えるのではなく笑うべきよ。私と同じチームになった時点で、このチームの勝利は決まっているのだから」
ポケットから鉄球を取り出し、そう微笑む紫那の顔は、傲慢なほど自信に満ち溢れていた。
■
「……まァ、信じられないというのなら見ていなさい。私が天才たる
そう言って紫那は、ポケットから取り出したパチンコ玉サイズの鉄球を宙に放る。すると鉄球は落ちる事無く宙を舞い、野球ボール程まで
「──!! これって!」
「そう。このサポートアイテム…“
アイテムを最小限度まで小型化する超圧縮技術は、欧米に
紫那はその企業に知識提供等でかなり援助しており、その見返りとして、この技術を使わせて貰ったのだ。
「超圧縮技術……スゴイッ、日本だとまだエンデヴァーくらいしか使ってないのに!」
ヒーローオタクの緑谷は、分かりやすく興奮している。緑谷の反応に気を良くした紫那は、小型のカメラと小銃を生やした
「
「全てって…この数で?」
「もちろん。なんなら、操縦も同時に行ってるわよ」
今フワフワと紫那の周りを浮いている
「低威力だけれど、レーザー銃も備えているから、索敵から制圧まで対応できるわよ。オート機能もあるし」
この
「凄いな…、治安維持用の自立ロボットはアメリカのロブコ社とかが実用可能なレベルの物を造っているけど、ここまで小型化に成功した上に高性能だなんて…」
知識の幅が広い緑谷が紫那の言って欲しい事を全て言ってくれるから、紫那の機嫌は青天井に上がっていく。緑谷の
「さぁ行きなさい
紫那を補助する1機を残して、他の5機が素早くビルの屋内へ入っていった。
「……1階には何も無し。2人の“個性”的に、罠の可能性も無いわね」
目を閉じて、紫那は
瞬く間に1階の捜索を終わらせ、
「少し、拍子抜けね」
5機の
「この様子なら、2階にも何もなさそッ…!!!」
「──ッ!!脳依さん!?」
紫那が突然、目を手で被って俯いた。
「しまった…! 緑谷クン、来るわよ!」
「何がッ─ハッ!!!」
アタフタと混乱していた緑谷も、紫那の言葉で何かを察し、2階の窓を見る。
その瞬間、バリンと2階の窓ガラスが割れ、
「クソデクゥゥッッ!!!」
爆風を纏いながら飛び降りてきたのは、鬼の如き人相をした、爆豪であった。
彼は飛び降りつつ、両手の爆破により錐揉み回転しながら緑谷に突撃してくる。落下のスピードに爆発の勢いが加わり、
「緑谷クン、どきなさい!!」
「ッ! クソが、邪魔すんじゃねぇ!」
咄嗟の事に体が一瞬硬直した緑谷に変わり、紫那が腕から生やしたレーザー銃で爆豪の攻撃を受け止める。
「──ッ! 脳依さん!!」
突撃の瞬間、大きな爆発が2人の姿を包んだ。爆豪が、回転の勢いに乗ったまま特大の爆破をしたのだ。
爆風により、ビルの一部が崩れる。紫那は気絶していないか、いやそもそも生きているのか?緑谷にそう思わせるほどの、大威力。
「──
しかし、紫那は倒されていなかった。補助役の
「がァァ…!! クソが!!!」
「一旦ビルの中に退くわよ、緑谷クン!」
「う、うん!」
未だ目を押さえる紫那に連れられ、緑谷はビルの内部に逃げる。
「行かせっか──」
「飛びなさい
「──ッ!!」
爆豪がそれをさっして目を
■
「ハァ、ハァ… ここまで逃げれば大丈夫、かな」
「……ええ」
2人はビルの3階まで駆け上がっていた。爆豪は4機の
「かっちゃんは動けないみたいだけどまだ飯田くんもいるし…、脳依さん、ここからどう動こう?」
息を整えた緑谷が、紫那にそう相談する。
「……じゃないわ」
「……? ……脳依さん?」
緑谷はブツブツと独り言を呟いて返事をしない紫那を、不思議そうに見た。
「えぇ、私はミスなどしてないわ。これはミスじゃあない。少し彼の予想に失敗しただけ。次善策を使えばいいだけよ、私はミスなどしていない!」
「の、脳依さん…?」
目が真っ赤に充血するほど強く目を見開き、1人ブツブツとキレる紫那の変貌に、緑谷は戦慄する。
「彼の襲撃は予想内だった、ただ彼が予想以上に強力だっただけで! 対処できたし次の手もあるッ…。ミスじゃないミスじゃないミスじゃない!
髪を掻き毟る勢いで紫那が慟哭する。
──脳依紫那は天才である。
客観的に見てもそれは事実だし、“個性”の件を抜きにすればそれを認めない者はいない。故に、紫那には天才の自負とプライドがある。
……未知の世界を研究する実験には失敗は付き物である。どれだけ正確に実験を行おうと思わぬ失敗をする事など、紫那にとって日常茶飯事だ。
“失敗は成功の元”。正にその通り。紫那は失敗から学べど、失敗を悔やまない。
──しかし、紫那はミスをした事がなかった。
そんなミスを、天才たる紫那は──少なくとも本人の自覚の中では──したことがなかった。
そしてミスという
「ええ、今から幾らでも挽回できるわ。何の問題もない。緑谷クン!」
「はっ、はいっ!」
自己弁護と正当化を終え、一応落ち着いた紫那が真っ赤に充血した目のまま緑谷を呼ぶ。
「1機、探索を続けさせていた
まさかの、力による無理押し。緑谷は紫那がスマートな勝ち方を好むと思っていたので、正直な所緑谷には意外だった。しかし、有力な作戦なのは確かなので、否定はしない。
「さっさと行って、終わらッ!?」
──ドオオォォォ!!!
「なッ、何が?! まさか…かっちゃん!?」
「……驚いた」
直下型の地震でも起きたのかと錯覚させる程の振動、そして、大爆発。
それと合わせて、爆豪と戦わせていた
「……驚いたわ。ええ、でも何の問題もない。
紫那は上層階を探索させていた
「待って!」
「……なに? 緑谷クン」
「かっちゃんの狙いは、多分僕だ。僕がかっちゃんを足止めする」
「……別行動は非効率よ」
「でも!」
緑谷の目には、強い決心の光が見えた。紫那がいくら理屈を説こうが、仮に暴力を振るおうが、彼の決心は揺るがないだろうと確信させる程の。
ふと紫那は目をつぶり、つい先ほどビルの前で緑谷と交わした会話を思いだした。
『──私と同じチームになった時点で、このチームの勝利は決まっているのだから。 』
『──……うん。脳依さんは凄いし、全部任せればきっと勝たせてくれるんだと思う。』
『──ええ。そうでしょう? 』
『──でもかっちゃんには、
ビルの前でそう言った、ただ愚直に目標に向かって没頭する、そんな
「……分かったわ」
「──!!」
紫那は再び目を開き、そう言った。真っ赤に充血していた目は元に戻り、紫那はある程度の冷静さを取り戻していた。
「いくら説得しても聞かないのでしょう? なら、ED-Eを1機つけてあげるからさっさと行きなさい」
「……うん! ありがとう!」
ED-Eと共に階段を駆け下りていく緑谷に、紫那はイヤホン越しに『手元に気をつけろ』とだけ忠告しておく。計画を変えられた腹いせに、紫那はそれ以上の事は教えない。
流石に、爆豪もあの籠手から噴出する大爆発は人に向けないだろうから、あの程度のアドバイスで充分だ。よしんば向けたとしても、あのオールマイトが実行を許すとは思えない。
「……さて」
紫那も
紫那は残った1機の
「俺はぁ…至極悪いぞぉお…!!」
「……? 何をやってるのかしら」
バカ真面目な飯田がヴィランに成り切る練習をしていた所に、腕から生やしたレーザー銃で紫那は強襲を仕掛けた。
「ッ!! 来たな脳依くん…!」
「こんにちは、そして…」
「さようならッ!」
「──…?! しまっ…!!」
的確に
「これで──」
「くっ、致し方ない…」
スピードに乗った紫那の手が、核に触れる、その寸前。
「トルクオーバー! 」
──≪レシプロ・バースト≫!!
「──…!? な、にッ」
飯田は
「まだ秘匿しておくつもりだったが…トルクの回転数を無理矢理上げて、爆発力を生んだ! 残り時間30秒! このまま逃げさせて貰うぞ、脳依くん!」
そう言い残し、飯田はエンジンから黒煙を吹かせながら逃げ去っていく。最大速度では飯田が勝っている。彼のエンジンがエンストでもしない限り、紫那は飯田に追いつけない。
「……ええ、問題ないわ」
だが、紫那は慌てなかった。イヤホン越しに、緑谷が叫ぶ。
『脳依さん行くぞ!!!』
「ええ、やりなさい緑谷クン!」
──SMAAASH!!!
ボゴオォ!!と激しい音を立てて、1階から5階までの床が、吹き飛んだ。緑谷が、“
「なにぃい──!!?」
下での、緑谷と爆豪の戦闘はED-Eを通して確認していた。紫那は緑谷に指示を出し、SMASHを放たせたのだ。
足場ごと吹き飛ばされた飯田が、床の破片と共に宙を舞う。そして紫那のMr.Deviceは…破片を足場に空を駆けた。
「これで終わりよ!」
「ああーー、核ーー!!!」
紫那は見事に、飯田の抱え込んでいたハリボテの核を、奪取してみせた。
『ヒーロー…ヒーローチーム…
「ぐはっ」
オールマイトの勝利宣言と共に、飯田は地面に叩き付けられた。
「……えぇまあ、概ね想定通りの結果ね」
紫那は何処か自分を納得させるように、そう呟いた。
■
──対人戦闘訓練の終わった、放課後…
「これだけは君には、言わなきゃいけないと思って…!」
日の沈んでゆくのが見える校門前で、緑谷は爆豪に己の秘密を打ち明ける。
路傍の石ころと見なしていたデクに負けた事で、茫然自失していた幼馴染みに、騙していた訳ではないと、説明するために。
「──この“個性”は僕のものじゃない…
その言葉は、この超常社会であっても“あり得ない”妄言であり、
「何だそりゃ…? わけわかんねぇ事言って…これ以上コケにしてどうするつもりだ……なあ!?」
やはりその自白を聞いた爆豪は、その自白を虚言だと認識した。その判断は間違えていない。それがこの社会において普通の反応である。
「へぇ…」
しかし…校舎の陰に隠れて話を聞いていた
この
──保健室前での、緑谷の“嘘”
──緑谷の身体に覚えた“違和感”
それすらも、あの言葉通りなら、辻褄が合ってしまう。そしてなにより…
「あァ…、本当なのね……
「……まいったな」
振り向いた紫那の横に現れた、引きつった笑みを浮かべたまま冷や汗をかくオールマイトが、信憑性を何よりも証明した。
オールマイトのものと酷似した、
紫那の口元はオールマイトとは対照的に、大きく弧を描いた。
・紫那が自作したサポートアイテム
・野球ボールサイズだが、超圧縮技術により、パチンコ玉サイズまで小さくなっている。
・レーザーによる攻撃力は低いが、耐久力は高め。空を飛ぶ 理屈はMr.Device(電磁浮遊装置)と同じ。