「人から授かった…“個性”、ですか…。説明して頂けます? オールマイト先生?」
夕日が地を赤く染める校門前で、紫那は心底愉しそうに微笑む。思い詰めた表情の緑谷を追っててみたら、想像以上に面白い話が聞けた、と。
「ムムム…」
彼女と向き合うオールマイトは笑顔こそ崩さぬものの、顔から大量の冷や汗を流し、何と言ったものかと目を泳がせている。
しかし、迷う素振りを見せたのは数瞬だけ。それだけの思考で、オールマイトは覚悟を決めたらしい。
「……分かった。よりによって君に聞かれた以上、隠し立てることはできまい。話せる事は、話すよ。だが、少しだけ待ってくれないか?」
「……この状態で、私に待機していろと?」
「彼…、爆豪少年に発破をかけておきたい。今、彼の自尊心はひどく傷付いている」
そう言うオールマイトの表情は何処までも誠実で、紫那の瞳をしても、彼がはぐらかしたり逃げようとしている様にはまったく見えなかった。
「……まァいいでしょう。あまり意味があるとは、思えませんが」
紫那の許可を得たオールマイトは、下校しかけていた爆豪の元に凄まじいスピードで駆けつけ、彼の肩を掴む。
オールマイトは爆豪が緑谷に負け、八百万に言い負かされたり炎と氷を操る“強個性”の轟との差を実感した事で自尊心を損ない、立ち直れなくなる可能性を危惧している様だが、紫那はその心配は杞憂だと思っている。
「君は間違いなくプロになれる能力を持っている!! 君はまだまだこれから…」
「……放してくれよオールマイト。歩けねぇ。……言われなくても!! 俺はあんたをも越えるヒーローになる!」
(──ほら、やっぱり。)
紫那が爆豪を気に入ったのは、強烈に自分本位までのストイックな精神性だ。広い世界を知って折れる程度なら、紫那は興味など持たない。
焦燥と闘気と気概を募らせた爆豪の帰宅する背に、期待通りだと微笑む紫那。それを見たオールマイトは何を勘違いしたのか頬を引きつらせ、ようやく紫那の姿に気付いた緑谷は顔を青白く染めた。
■
「さて…、教えてくれるわね? 貴方の“個性”について」
他人に聞かれないようにと移動した教師用の仮眠室で、紫那が緑谷に尋ねた。紫那は半ば返答を確信しながらも、それでも尚問い掛ける。
対面のソファに座る緑谷とオールマイトの緊迫した雰囲気にそぐわない、紫那の異様なほど綺麗に浮かべた笑みは、紫那の目的とは真逆の、ひどく恐ろしい印象を緑谷に与えた。
緑谷はちらりとオールマイトに視線で伺い、オールマイトが小さく頷いた事で覚悟を決める。
「僕の“個性”は…《 ワン・フォー・オール 》」
言い出しても尚
「……力をストックして、聖火の様に他の人に譲渡する能力で…、僕が……
「……ええ、でしょうね」
言葉の軽さとは逆に、紫那の瞳はしっかりと緑谷とオールマイトを見据えていた。
「……あァ…全て、本当の話なのね…。私がいくら探ろうと分からなかった
2人の反応を慎重に観察した結果、紫那は今の話を事実だと理解した。正直紫那をしても信じがたい内容だが、こうも証拠を揃えられては信じざるを得ない。
「不明瞭な部分があれば、聞いてくれ。《
オールマイトがそう言って、頭を下げる。『譲渡可能な“個性”』。確かにそれが明るみに出れば、紫那の『
「……社会に
「ありがたい。脳依少女、感謝する」
オールマイトが頭を上げたが、彼のアメリカンサイズだと、その所動すらも派手だ。それを見て、紫那の頭にふと1つの疑問が浮かんだ。
「……何故、オールマイトに
オールマイトは50歳を越えて尚、デビュー時の様な筋骨隆々の肉体を保っている。オールマイトが引退し、
「──? ああ、君にはまだ、その説明をしていなかったか」
緑谷の隣で一瞬不思議そうな顔をしたオールマイトが納得したように頷いた…、次の瞬間、 ボフンという音と共にオールマイトを煙が包んだ。
そしてその煙が晴れた時、オールマイトの座っていたソファには、
「……は?」
垂れ下がった金髪、長身だが肉のない身体。だがその
「まさか…オールマイト?」
「……そう。あのマッスルフォームは無理やり力み続けて作ったニセ筋。今はこっちが、私の
流石の紫那も、次々に明かされるあまりに衝撃的すぎる事実に、いくらか理解が追いつかない。
そんなオールマイトが、細い躰の脇腹を押さえながら、言う。
「世間には公表していないが、今から5年前、とあるヴィランの襲撃で重症を負った。その手術と術後の後遺症で
もう長くヒーロー活動が出来る体じゃない。だから、私は次の“平和の象徴”となれる後継者を探していた」
そんな時、彼に出会ったのだと、オールマイトは緑谷を見ながら、言う。しかし紫那は
「……まァ、貴方が緑谷クンを選んだ理由は兎も角、何故譲渡したのかは分かりました」
マッスルフォームの時は分からなかったが、
よく自分の瞳すら誤魔化したものだと、紫那は感心した。それ程、オールマイトはボロボロな身体をしている。
「他に質問は…、私たちの他に、《O・F・A》について知っているのは?」
「この学校で知っているのは、私たち以外に根津校長とリカバリーガールだけだ。他の先生方は、
「なるほど…」
先日、保健室前でリカバリーガールに邪魔されたのは、まぐれではなかったらしい。紫那は納得して頷いた。
「脳依少女、重ねて頼むがこの事はくれぐれも…」
「えぇ、決して誰にも話しませんわ。……ああ、そうだ緑谷クン」
「えっ!? あ…はっ、はい!!」
自分に話を振られると思っていなかった緑谷が、慌てて返事をする。そんな緑谷に、紫那は1枚のカードキーを渡した。
「これは…?」
「私の家のカギよ」
「え…? ええ!?」
やたらと狼狽える緑谷を無視して、紫那は言葉を続ける。
「貴方まだ“
紫那は自身の戦闘訓練や自作の戦闘用デバイスを試す実験を兼ねて、自宅にトレーニングルームを作っていた。
かなり広く、また頑丈な造りをしているので、おそらく緑谷の練習にも使えるだろう。
「脳依さん…。昨日だけじゃなく今日も…本当にありがとう!」
「昨日…? ああ、ボール投げの事は気にしないでちょうだい。実技試験の時のお礼だから」
「えっ、実技…?」
緑谷が首をかしげる。0Pロボから紫那を救った事を忘れているのか、そもそも気にしていないのか。紫那は笑って、気にするなと再び言った。
──キーンコーンカーンコーン
「おっと、最終下校時刻か」
「……先に帰ってください。流石の私も…少し、思考をまとめたいので」
「じゃあ…えっと、脳依さん、また明日」
そうして、二人は仮眠室を出て行った。それを見届け、一人残った紫那は、やがて肩を震わせる。
「フ…フフ、フフフフ…」
必死に押さえようとしながらも、湧き上がる歓喜は治まらず、閉じた口から笑い声が漏れ出してしまう。
「フハハハハハハ!!」
ついには抑えきれないと、紫那は仮眠室の外に漏れそうなほどに大きく、笑いだした。
「なんて素晴らしい出会い!! そして偶然!! 産まれて以来初めてだわ!! こんな…高揚した気分になるのは!!」
興奮のままに紫那は踊りまくしたて、バチバチと紫電を放出する。その目は興奮と喜びで大きく見開き、その姿は見る者によっては狂気を感じるだろう。
「嗚呼…、知性が
まるでお腹がふくれて遊びに行く子どもの様に、紫那は仮眠室を跳ね回り、夢想する。きっと、緑谷はいいヒーローになるだろう、と。
「──なんて…」
「あァなんて…」
彼はいいヒーローになる。いやそれどころか、もしかするとNo.1にすら手を届かせるかもしれない。
「なんて素晴らしい……モルモットなのかしら!!」
最高の笑みを浮かべ全身で歓喜を表現しながら、紫那はそう…のたまった。
「オールマイトと同じ“個性”と No.1ヒーローになれる素質、その両方を持ったクラスメートだなんて! 一体どれだけの確率なの?!」
興奮冷めやらぬ様子で紫那は笑い続ける。
……蚊の針を真似た無痛の注射針や、サメの肌を元にした水の抵抗を極限まで減らした水着など。科学において、観察と模範はバイオミメティクスと呼ばれる非常に重要な要素である。
ヒーローになるにあたり、自身の欠点を自覚している紫那もまた他者を観察し、真似る事でそれを克服する事を目論んでいた。
プロヒーローか、いい原石がいればクラスメート。そう思っていたが、まさかダイアの原石が転がっているなんて!
紫那の欠点。それこそ、
元々は爆豪を観察するつもりだった。彼の欠点は紫那に似ている。あの高い戦闘センスを持つ彼が広い世界を知って成長すれば、それは紫那の進化のきっかけになるから。
しかし、その予定は変わった。今はまだ未熟だが、緑谷すぐにヒーローの頭角を現すだろう。それを観察して、紫那は彼以上に強くなる。
家のキーを渡したのも、善意ではなくより多く彼のデータが欲しかったからだ。
「あァ…期待で待望で楽しみね。早く強くなってちょうだい? 緑谷クン」
紫那は少女の顔には不釣り合いな妖しい魅力を持った笑みで、そう呟いた。
■
「眠い…」
紫那はフォークとナイフを持ったまま、眠そうにぼんやりしている。オールマイトの秘密を知った次の日。紫那はまた、芦戸ら友人達と昼食を取っていた。
「また~? これで三日目だよ?」
「少し…寝付けなくてね…。結局、また徹夜しちゃった…」
「つまり、紫那さんは学校が始まってから1度も寝てませんの?」
経験則的に、三徹程度なら思考能力が落ちる事はないと紫那は思っていたのだが、対人戦闘訓練で想定より体力を消耗していたらしい。
興奮のまま研究を続けた結果、今の紫那はかなり、眠かった。常人で言えば、一徹した日の夜くらいの眠気だ。
「ちゃんと寝ないとダメだよ?」
「そうね。少し見誤っていたわ…」
「少しかい。にしても…紫那はスゴい甘ったるそうなモン食べてるね」
「美味しいわよ? 1つ食べてみる?」
「……いや、遠慮しとく」
今日の紫那の昼食は、揚げたファンシーラッドケーキである。元々カロリーの高いお菓子を揚げたこのカロリーの爆弾は紫那の大好物であり、皿に盛られたケーキをどんどん胃に収めていく。
「見てるだけで胸やけしそう…」
「すっごいカロリー高そうだね…」
紫那の好物は、《創造》の“個性”で脂質を使用する八百万以外には不評らしい。
ちなみに、紫那の今日の朝食は一杯で一日の糖分摂取量の100%が賄える“シュガーボム”というシリアルである。紫那はとことん甘党だった。
「そういえば、朝の選挙でシーちゃんは誰に投票したの?」
「言われてみれば、紫那さんに票は入っていませんでしたわね」
朝のHRでクラス委員長を決める投票が行われた。クラスメートのほぼ全員がやりたがっていて、その上自薦が許可されていた為、当然の帰結としてほぼ全員が一票ずつ票を獲得した。
そんな中、一人で
「……さぁね」
精神的な成長も期待して緑谷に投票したのだが、それを言えばまた恋愛
しかしよく考えなくても、2票以上を獲得したのが八百万と緑谷だけなのだから、隠してもすぐに露見する気もするが、紫那はやっぱり面倒だから誤魔化した。
「えー、キニナルッ!」
「教えてよー!」
結局騒ぐ芦戸と葉隠を適当にいなして、紫那はスティック状のスポンジケーキを食べ続ける。過度な甘さに、紫那の頬が緩む。
『──セキュリティー3が突破されました。生徒のみなさんは速やかに屋外へ避難してください。繰り返します──』
しかしそんな甘く至福の時間は、唐突に鳴り響いたアラームによって破壊された。
「えっ!? なになになに!?」
「セキュリティ3って何の事?!」
困惑する1年生を置いて、すぐさまアラームの意味を理解した2年3年生を中心に出入口に殺到し、瞬く間にパニックが食堂中に
「このアラームは確か…校舎内に部外者が侵入してきたって意味のはず…」
「部外者って…
「私にもそこまでは…」
周囲のパニックによる騒音が、眠い頭には堪える。紫那も何時もの聡明さを発揮できず、紫那たちは出入口へ向かう人の波に流され、食堂の窓際まで運ばれてしまう。
「痛いっ!!」
「押すな、押すなって!!」
「ッ! あれは…報道陣!?」
窓ガラスから見えた校舎の入り口付近には、カメラやマイクを構えたマスコミが集まっていた。そう言えば今朝、“雄英バリアー”の前に記者やカメラマンが屯っていた事を、車登校で邪魔されなかった紫那は思い出した。
相澤先生とプレゼント・マイク先生が入り口を塞いでいなければ、マスコミは思うがまま校舎内に入り込んでいただろう。
「──大丈ー夫!! ただのマスコミです! なにもパニックになることはありません!!」
その後、紫那よりも先にマスコミの侵入に気が付いた飯田が食堂のパニックを沈静化。マスコミも警察の到着により解散させられた事で、ようやくこの騒ぎは収まった。
■
「どうだい?」
「……鉄製の雄英バリアーが砂状に崩壊している。現代の科学力で出来ない事もないけど…かなり大がかりな機械が必要になるわね」
「そうか…」
紫那は雄英の一生徒ではなく天才科学者として、根津校長の依頼で雄英バリアーを検査している。雄英バリアーは端を少しだけ残して、粉々の塵になっていた。
今回雄英高校に侵入したマスコミの中に、こんな事ができる“個性”を持つ者はいなかった。つまり…
「校門を破壊して、マスコミを内部へ
「うん。
紫那の調査に同行していた根津校長が、アゴに手を当てて様々な可能性を考える。《ハイスペック》の真骨頂といった所か。
「
根津校長の言葉に、紫那は小さく喜ぶ。流石に、そろそろ寝たい。
「……それにしても、雄英バリアーを作り直さなくては。この様な事態にも備えて頑強にすべきか、否か…」
「……ほう? 校門の開発ですか?」
面白そうな話題に、紫那の食指が動かされる。なんとなく、今日も一晩中発明を続ける嫌な予感を、紫那は感じた。
まあ、授業に身が入らなくてもあまり困らないかと、紫那は眠い頭で適当に考える。
……しかし、
第3話、第7話の題名を変更しました。(2022.6/28)
緑谷の強化フラグが立ちました。どれくらい強化される?
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最終章までにOFAを100%使いこなす
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仮免までにOFAを45%を使いこなす
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体育祭までにフルカウル(5%)を使う
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強化なし(原作のまま)