脳依紫那は天才である   作:緑川翼

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コメント欄にて言及されたので自白します。
この二次創作には作者が大好きなゲームと漫画の【Fallout】と【魔人探偵脳噛ネウロ】のオマージュネタがちまちま挟まれています。
当然それらの作品を知らない読者様が違和感を感じないように書いているつもりですが、何か御不明な点が有りましたら、指摘して頂ければありがたいです。


2度目の襲撃

「ね、眠すぎる…」

 

 演習場に向かうバスの中で、紫那はつい呟いた。

 

 案の定と言うべきか、昨日マスコミ騒動があって帰宅した後、紫那は新しい雄英バリアの設計に夢中になって眠らなかったのだ。最終的に『ナノマシンによる自己修復機能』を搭載した校門の設計図が完成したが、こんな防衛力過剰な門が一体何の役に立つのだろうか。

 

 設計図を描いてからその事に疑問を持つあたり、やはり紫那の熱中癖は厄介である。一応設計図は根津校長にプレゼントしたが、アレが日の目を見ることは恐らくないだろう。

 

「緑谷ちゃんの“個性”って、オールマイトに似てる」

「え!!! そそそそ、そうかな!? いやでも僕はそのえー」

「……クゥ」

 

 緑谷が《蛙》の“個性”を持つ蛙吹(アスイ)に核心をつかれて口籠もっているが、眠い紫那の知った事ではない。

 

 午前の座学の内に寝ておけば良かったと、紫那は眠るのを何とか我慢しながら今更後悔する。午前中は目が冴えていてつい真面目に授業を受けてしまい、昼食を食べ終えた所で眠気がどっと帰ってきたのだ。眠気覚ましにコーラを飲んでカフェインを摂取したのだが、あまり効果はなかったらしい。

 

 訓練中に居眠りしたら本当に除籍されかねない。せめてバスに乗っている間だけでも仮眠をとっておくかと、紫那はバスに揺られながら微睡んだ。

 

「派手で強えっつったらやっぱ轟と爆豪だな。あと脳依もか?」

「ええ、そうね…」

 

 名前が聞こえたので、紫那は適当に相槌を打つ。呼んだのは、紫那の向かいの座席に座る切島(きりしま)だろうか。

 

「プロなー! しかしやっぱヒーローも人気商売みてえなところあるぜ?」

「ええ、そうね…」

「僕の《ネビルレーザー》は派手も強さもプロ並み」

「ええ、そうね…」

「でもお腹壊しちゃうのヨクナイね!」

「ええ、そうね…」

 

 今度聞こえてきたのは、紫那の隣に座る芦戸と青山(アオヤマ)の会話だろうか。紫那はやはり適当に相槌を打つ。

 

「……シーちゃん、今もしかして反射で会話してる?」

「ええ、そうね…」

「ダメダコリャ」

 

 聞こえてくる声がどんどん遠くなっていく。これはもう寝落ちするなと、紫那は察した。

 

「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそ」

「ええ、そうね…」

「んだとこのワカメ(がみ)が!! 人気ぐれー出すわ!!」

「「「脳依がやっちまったー!!」」」

 

 遠くから、爆豪がボンボンと手のひらを爆破しながら怒鳴る声が聞こえる。また緑谷にキレたのだろうか? うるさいので止めて欲しいと、紫那はほぼ眠った頭の中で思う。

 

 

 ……ワカメ髪とは、もしや私の事だろうか。そんな疑問を最後に、長くうねった黒髪(ワカメ)をした紫那の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「すっげーー!! USJかよ!!?」

 

 紫那が寝寝落ちしてから数分でバスは演習場に到着し、紫那は隣に座っていた芦戸に起こされた。

 

 中途半端に寝てしまったせいで、流石の紫那も意識がしっかりしない。寝ぼけ(まなこ)では、紫那たちA組の前に立つ宇宙服コスチュームのヒーローすらもぼやけて見える。

 

「スペースヒーロー『13号』だ! 災害救助でめざましい活躍をしている紳士的なヒーロー!」

「わー! 私好きなの13号!」

 

 救助(レスキュー)の訓練場である『嘘の()災害や()事故ルーム()』を説明する13号に、ヒーローオタクの緑谷とファンの麗日が興奮気味に喜ぶ。

 

 他の面々も、普段はTVでしか見れないヒーローの登場に嬉しそうだ。

 

 そんな時、紫那の隣に立つ耳朗が紫那の背中に、()()()()()()()が着いている事に気が付いた。

 

「あれ? 紫那って背中にそんなの着けてたっけ?」

「……今更? このサポートアイテムなら…バスに乗る前から……、装備してたわよ…」

 

 眠そうに紫那が答えた。鉄製だと一目で分かるが、まるで悪魔の羽の様にも見えるそのサポートアイテムは、紫那のコスチューム(紫色のワンピース)によく似合う。

 

 違和感がまるで無く、そのせいで気付かなかったのだと耳朗は納得した。

 

「対人訓練の時は着けてなかったよね」

「前々から作成していたんだけど……、システム開発に手間取ってね…。昨晩ようやく完全したの」

 

 昨日…と言うよりここ数日間眠れなかったのは、何も雄英バリアを設計していたからだけではない。紫那は並行して自身用のサポートアイテムを作るのに夢中になってしまった為、眠り損ねたのだ。

 

 ……紫那と耳朗が小声で雑談をしている間、13号が『“個性”と救命』に関する素晴らしい教訓を話してくれていたのだが、紫那と耳朗はほぼ聞き流していた。

 

「以上! ご静聴ありがとうございました」

「ステキー」

「ブラボー!! ブラーボー!!」

「……ねぇ」

 

 13号が話を終え綺麗に一礼したが、紫那の目は階段を下った先にある、噴水に向いていた。紫那は、聞き流した事を誤魔化して13号に拍手を送っていた耳朗に話しかける。

 

「ん? どうしたの?」

「いや…。 噴水の所に、黒い()()が見えるの。寝ぼけて…視界がおかしくなっているのかしら?」

「え? いや…あれは!」

 

 耳朗が何か言う、その直前…そのモヤは広がり……大量の、悪意ある者がUSJに入り込んできた。

 

「何だアリャ!? また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」

「動くなあれは…(ヴィラン)だ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 ──バチッ!!

  

「グッ、(つう)ッ…!」

 

 左腕で頭に触れ、紫那は自身の頭部に直接電気を流した。ヴィランが侵入してきたと言うのに寝ぼけている余裕はない。激痛だったが、眠気は取れた。

 

(ヴィラン)ンン!? バカだろ!? ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!」

 

 金髪でチャラ男といった風貌の上鳴(かみなり)がそう騒ぐが、“個性”なり装置なりで警報を止め、《ワープ》の“個性”で校舎(ヒーロー)から隔離された1年生(最弱の生徒)達を強襲する。

 雑な襲撃に見えるが、起こる事件のほとんどが突発的犯行である現代においては()()()()()考えられた組織的犯罪だ。

 

「13号避難開始!学校に電話を試せ。センサーの対策も頭にあるヴィランだ。電波系の“個性(やつ)”が妨害している可能性もある。上鳴、おまえも“個性”で通信してみろ」

「……っス!」

 

 的確に避難指示を出した相澤先生が、ゴーグルを装着して首に巻いた操縛布を解き、戦闘態勢に入る。

 

 紫那もサポートアイテムとしての連絡手段(ツール)は所持していたが、電波妨害の影響を(もろ)に受けて、傍受されにくい特殊無線はビービーガーと音の鳴る玩具(オモチャ)に成り下がっていたので、紫那に通信を指示しなかった相澤先生は合理的である。

 

「先生は 一人で戦うんですか!? あの数じゃいくら“個性”を消すっていっても!! イレイザーヘッドの戦闘スタイルは敵の“個性”を消してからの捕縛だ。正面戦闘は…」

「緑谷。一芸だけじゃヒーローは務まらん。13号! 生徒は任せたぞ」

 

 そう言って一人で大量のヴィランの元へ突撃した相澤先生は、初手で射撃隊の“個性”を封じて(ヴィラン)の連携を妨げ、続いて大型の異形系の敵を操縛布で他の敵に向けて投げ捨てる。まさに無双といっていい戦いぶり。

 

 ゴーグルによって誰が見られているか(“個性”を消されているか)が分からない為に連携も取れなくなった、“個性”に頼りきりのチンピラが何人集まろうとも相澤先生が正面戦闘で膝を突かされる事はないだろう。

 

「すごい…! 多対一こそ先生の得意分野だったんだ!」

「分析している場合じゃない! 早く避難を!!」

「避難? させませんよ」

 

 相澤先生の“個性(抹消)”が途切れるまばたきの隙に出入口を塞ぐ場所に現れたのは、大量のヴィランをUSJに侵入させた《ワープ》の“個性”を持つ、身体を黒モヤで覆ったヴィランだった。

 

「初めまして、雄英高校の皆さん。我々は(ヴィラン)連合。僭越(せんえつ)ながら…この度ヒーローの巣窟(そうくつ)雄英高校に入らせて頂いたのは……」

 

 勿体ぶってから、黒モヤは言い放つ。

 

「平和の象徴オールマイトに、──息絶えて頂きたいと思ってのことでして」

「……へぇ?」

 

 興味深いと、紫那は呟く。何をとち狂った馬鹿が攻めて来たのかと思っていたが、オールマイトを狙っていたとは。

 

 全盛期のオールマイトを超えられると(おご)っているのか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。前者なら話は単純だが、後者なら何処でその情報を知ったのかが問題になる。

 

 とは言え、《ワープ》を(まと)って物理攻撃が無効になっていると慢心して()()()()()()()13号の前に堂々と出てくる辺り、ただの阿呆かもしれない。

 

 こっちの戦闘はすぐ終わる、そう思って紫那が静観していると、黒モヤの前に2人の生徒が飛び出した。

 

「ッ!? 待ちなさい!!」

「その前に俺たち生徒にやられることは、考えてなかったか!?」

 

 そう言いながら黒モヤに奇襲を仕掛けたのは、腕を《硬化》させた切島と爆豪だ。

 

 しかし黒モヤに物理攻撃は意味がなく、また2人は13号の射線に入ってしまった。敵を吸い込もうとする13号の動きが、止まる。

 

「危ない危ない…。そう、生徒といえど優秀な金の卵。散らして…、(なぶ)り殺すに限る」

 

 そう言った(ヴィラン)を覆っていた黒モヤは一気に広がり…、紫那たち生徒を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 黒モヤが晴れた時、紫那は()()()()()()()に向かって落ちていた。

 

「──ッ!! 火災ゾーン!」

 

 落下しながら周りを見れば、《尻尾》を生やした尾白が共に落ちている事に気が付いた。尾白はワープさせられた事に気が動転しており、自力で対処出来そうにない。このままでは地面に激突してしまうだろう。

 

シナプス(天才の)──トーチャラー(万能器具)!!」

 

 すかさず紫那はサポートアイテムである鉄製の翼を起動した。開かれた翼は羽ばたかずとも紫那に浮力を与え、3対6枚に分かれた一翼が尾白の尻尾を掴む。

 

「ふう…」

「あ、ありがとう脳依さん…。助かったよ…」

「ええどういたしまして。もっとも貴方なら…、余計なお世話だったかしら?」

 

 紫那と尾白のどちらも傷付くことなく着地させた鉄製の翼…シナプス・トーチャラーは、自動で折り畳まれて紫那の背中に治まった。

 

「空を飛ぶサポートアイテム? スゴい便利だね」

「ええ、まぁ…。……それだけではないのだけれど」

 

 炎の熱気の中、涼しげにそう言ってのけた紫那だったが、何かに気が付いて口を(つぐ)む。

 

「嗚呼…。殴りたい…、人間を殴りてぇ…。ボコボコに殴り殺して…頭蓋骨が割れる所が見てえよ…」

()()えしてええ!! 炎に囲まれてハアハアしてえよおお!!」

「ッ…、ヴィラン!! 俺たちを待ち構えていたのか!」

 

 人の身ほどある棍棒を抱える者、火を身体に纏った者。様々なヴィランが火柱の中から出て来ては、紫那と尾白を取り囲む。共通しているのは、自身の欲望を隠そうともしない目だけだ。

 

 リーダー格であろう岩石の様な肌をした大型のヴィランが、2人の前に立つ。

 

「最高だ…。こんなガキを殺すだけで金が貰えるなんてなぁ」

「なんでもいい! 早くそいつらをエロカワイイ()えキャラにさせろ!!」

「黙ってろクソオタク!てめえらこの小娘は殺すなよ!こいつの頭には万金の価値があんだ!」

「クッ…、こいつら脳依さんの知識狙いか! 脳依さん!俺が食い止めるから逃げてくれ!」

 

 そう言って、尾白が紫那を庇う様に立つ。流石は雄英生。1年生ながら、ヒーローの心構えを持っているらしい。だが紫那は、その尾白(ヒーロー)の前に立つ。

 

「問題ないわ尾白クン。この程度、私一人で片付けるのに何の支障もない」

「ちょっ…、脳依さん! 挑発しちゃ…」

「ほう…。言ってくれるな“無個性”のクソガキがぁ!!」

「ほらぁ!」

 

 紫那の挑発に乗ったヴィランたちは、ある者は纏った炎を更に激しく燃え盛らせ、ある者は岩石の身体(からだ)を膨張させる。

 

「どーするの脳依さん! これじゃ攻撃が…」

「……弱ったわね。下手に手を出す事はできないわ…」

 

 炎や岩に身を包まれては、殴った所で自分の方がダメージを受けてしまう。ジリジリと迫ってくるヴィラン達に物理攻撃しかできない尾白は焦り、紫那も一滴、汗を流す。

 

 

「ああ、それはそうと私…」

 

 困った表情をしていた紫那は一転、何かを思い出したかの様に頷き──

 

 

こんな所で遊んでる暇は無いの

 

 ──囲んでいたヴィラン達を纏めて失神させた。

 

「え…、……何ッ!?」

 

 一人だけ無事だったリーダー格の岩石男は瞬く間に周りの仲間が纏めて倒された事に遅れて気付き、慌てふためく。

 

「な、何をした小娘ェ!!」

「い、今…脳依さんの翼が…」

 

 紫那の横にいた事で、逆に今起こった出来事を俯瞰できた尾白は、一瞬で展開された紫那の3対6枚の翼が2人を囲うヴィラン達のアゴを打ち、脳振盪(のうしんとう)を引き起して気絶させたのを、しっかりと見ていた。

 

 炎の熱の中、鉄製の翼を広げて紫那が笑う。

 

「よく見ていたわね、尾白クン。このシナプス・トーチャラーは空を飛び、物を掴むだけの便()()()()()などではないわ」

 

 ──シナプス・トーチャラーは、『万人に使える』事をコンセプトに開発を行う紫那が唯一、()()()()()作ったアイテムである。

 

 このアイテムが持つ機能は何ら複雑なものではない。単純に…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だけだ。

 

「んな! 無茶苦茶な…」

 

 雄英高校(倍率300倍)に合格しただけあってかなり賢い尾白は、説明されたその機能の()()()()()にすぐさま気が付き、驚愕する。

 

 それもその筈だ。察して動くとはつまり…()()()()()()()()()()()()()()動くと言う事なのだから。

 

「思考ルーチンの共有にはかなり時間が掛かったわ。ノウハウが無ければ、この(天才)でも諦めていたかも」

 

 紫那(天才)に苦労させただけあり、天才に合わせたスピード、キーボードを打てる精密性、数メートル先まで伸びる射程など…。このアイテムは正に、『万能器具』だ。

 

「さてと…」

「グァッ」

 

 鋼鉄の翼が密かに逃げようとしていたリーダー格の(ヴィラン)の足を捕らえて引っ張り、紫那の前まで連れてくる。

 

「貴方を残したのには、当然意味がある。この杜撰な計画の全容、どこの(阿呆)が考えたのか。そして…オールマイトを殺せると思った()()。全て教えてくれる?」

 

 翼で簀巻きにしたヴィランを相手にそう言った紫那の見下した笑みは、火災ゾーンの熱気の中ですら寒気を感じさせるほど冷たいものだった。

 

「……ハッ、誰が教えるかよ…!」

「へぇ…頑張るわね。でも無意味だわ」

「ハァ…? ……あぐあッ、グッ…が、アァアアア!!!?」

 

 尋問を拒絶したヴィランの頭の上に紫那が手を置いた途端、ヴィランは断末魔の様な叫び声を上げ、拘束されながらもんどりを打ちだした。

 

「えっ、脳依さん…何をしたんだ…?」

「脳に電気を直接流した。ああ心配しないでも()()()しないわよ。せいぜい物凄く痛いのがずっと続く程度で…。拷問には最適でしょう?」

「アァア分かった! 話す! 全部話すから! これをやめてくれえェ!!?」

 

 激痛と紫那の(たの)しげな声に負け、ヴィランは知っている事を全て自白する。

 

「“個性”の複数持ち…? そんな馬鹿な!」

 

 脳無と呼ばれる、《超回復》や《ダメージ吸収》、《怪力》などの“個性”を多数持っているとしか思えない化け物が、(ヴィラン)連合に在籍しているのだと、ヴィランは語った。

 

 雄英に通うヒーローの卵である他は普通の高校生である尾白には、到底信じ難い話だった。しかし似た事例(ワン・フォー・オール)を知る紫那は、興味深そうにヴィランの話を聞いている。

 

「お、俺が知ってるのはこれだけだ! 早く解放してくれェ!!」

「そうね…あァ、最後にもう1つだけ…」

「何でも答える! だから…!!」

「──何処の、誰が、“無個性”のクソガキだって…?」

「あっ…」

 

 一際大きな絶叫が、火災ゾーンに響き渡った。

 

 

「ええっと、脳無って、多分あの脳を丸出しにしてたヤツだよな…?」

「ええ、恐らくはそいつね」

 

 紫那による“お仕置き”が終わった所で、2人は今得た情報について話し合う。

 

 脳無は恐らく、紫那が火災ゾーンに飛ばされる前に、少し気になっていたヴィランだ。体内の電気信号の流れが異様におかしかった為、記憶に濃く残っていた。

 

 紫那はポケットからED-E(エディー)を取り出し、尾白の傍に配置する。

 

「私は、中央広場でヴィランを引きつけている相澤先生にこの情報を伝えてくるわ。その間、尾白クンは気絶しているヴィラン達の監視をお願い。念のため、ED-E(エディー)もここに置いておくから」

「監視って…こいつらを?」

 

 尾白は辺りの倒れているヴィランを見渡すが、正確に脳振盪を起こされ、早々には目覚めなさそうに見えた。

 

「痛い…いてぇ…。は、早く刑務所に入れてくれぇ…」

 

 意識のあるリーダー格のヴィランも、強固な岩石系の“異形個性”を持つ故に痛みには耐性がなかったらしく、すっかり心が折れているように見える。

 

 道すがらまだヴィランが待ち構えていないとは限らない。こいつらの見張りはED-E(エディー)に任せて、2人で行った方が安全な様に、尾白には思えた。

 

「一応、大事は取っておきたくてね。今の程度の(ヴィラン)なら、私一人でどうにかなるし」

 

 火災ゾーンに潜んでいただけあり、ここには異形系の敵が多かった。大丈夫だとは思うが、倒れている中に常人よりも脳が頑丈な“個性”持ちがいるかもしれない。縄などの拘束具が無いこの状況なら、一人残しておく方が無難だった。

 

「そうだね…。分かった、俺が見張っておくよ」

 

 そう紫那が説得すれば、尾白は折れた。早く相澤先生に伝えて来てくれと切り替えてウジウジと紫那の心配をしない尾白は、やはり優秀である。

 

 一カ所に纏めたヴィランの見張りに徹する尾白を横目に、紫那はシナプス・トーチャラーを起動して飛び出した。流石にホークス(最速ヒーロー)には劣るが、Mr.Device(浮遊デバイス)や車よりは遙かに速い。

 

「フフ…」

 

尾白と離れた所で、つい紫那の口から抑えていた笑みがこぼれる。

 

(──オールマイトを殺せる改人。あァ、楽しみね…)

 

 高速で移り変わる景色の中で、()く意識を宥めながら紫那は微笑んだ。




【シナプス・トーチャラー《天才の万能器具》】
・紫那が自作した、自分専用のサポートアイテム。見た目は3対6枚の鉄製の翼。
・『紫那の思った事を“察して”動く』機能。単純に言えば、『紫那がコーヒーを飲みたいと思った時には淹れ始めている』アイテム。とっても便利で強いが、パワーそのものは抑えめ。
・鳥や天使の翼と言うよりは、悪魔の羽根と言う方がしっくりくる。コスチューム(紫色のワンピース)を着てコレを展開すると、ラスボスの第二形態みたいになる事を本人だけが気付いていない。
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