ナルトTS逆行伝 作:逆行物増えろ
―――木ノ葉隠れの里 某所
(ああ、そろそろお迎えが来そうじゃのう……)
年老いた男性と女性が並んだベッドの上に横たわっていた。
その男は史上最も偉大な火影であり、敵対しあっていた五大国をまとめ上げるという偉業を成し遂げた存在でもあった。
そして女はそんな男を友として、妻として傍で支え続けた蔭の立役者だった。
……しかしそんな二人であっても老いには勝てなかったのだ。
二人の周りにはその家族、息子達夫婦に娘夫婦とその子供たちまで一堂に会し、最後の別れを告げていた。
男は家族の一人一人に最後の言葉を遺していく。
最後の一人と言葉を交わした後には、やることをやりきれた充実感と心地の良い疲労があった。
ふと隣を見てみれば、同じく皆に伝えるべきことを伝えたであろう最愛の妻と目が合った。
何方ともなく笑い合い、見つめ合ったまま流れに身を任せた。
気力のみで持っていた生は自然の流へと合流していく。
(九喇嘛も今までありがとな……)
(ふん……お前と一緒の人生、存外悪くなかったぞ)
光に塗りつぶされていく思考、最後には全てが光に飲み込まれて自分というものが消えていく。
(後悔、やり直したいと思う事は多くあった……けれど、精一杯生きた最高の人生だった……!)
―――こうしてうずまきナルト、そしてうずまきヒナタの両名は同時刻、家族に見守られながら息を引き取ったのだった。
―――微睡みから意識が浮き上がっていく感覚。閉じた瞼の向こう側から光を感じる。人の営みを含んだ微風に鳥達の囀る声。
(おい、起きろ! 起きろナルト!)
(うーん……うるさいってばよ九喇嘛……)
……
…………?
……………………!?
その違和感にナルトは勢い良く起き上がる。
『自分は間違いなく死んだはずなのに』
愛する家族に見守られながら幸せに最後を迎えられたはずなのだ……にも関わらず明瞭な自意識と鋭敏な五感が自らの生を主張してくる。
「どういうことだってばよ……?」
混乱しているナルトに内側から声がかかった。
(ようやく目覚めたかナルト)
(九喇嘛!? 一体全体どうなってるんだってばよ!?)
(分からん……が、幻術の類いではなさそうだ。お前のチャクラにもワシのチャクラにも不自然な乱れは存在しねぇし、周囲の流れも自然なままだ)
(幻術じゃない……? じゃあこれってば……)
多少の落ち着きを取り戻し周囲を窺ってみれば、自分がどこかの病院もしくは診療所のベッドに寝かされていた事が分かった。
直ぐ側にあった窓から外を見渡してみればどこか懐かしさの感じる風景が広がっていた。
「とりあえず木ノ葉隠れの里で間違いはなさそうだってばよ……」
しばらく外を眺めていたのだが、時間が経つにつれて違和感が段々と大きくなってくる。
自分はこんなにも軽く歩き回れただろうか? 晩年は補助がなければ歩くのもやっとだったはずだ。
自分はこんなにも鋭敏に周囲の事を読み取れただろうか? 感覚も衰え、不明瞭な世界で生きていたはずだ。
窓のサッシに置いた自分の手は、こんなにも小さく柔らかだっただろうか? 節くれ立った皺くちゃな手だったはずだ。それに窓枠の位置がやけに高く感じる。
里の街並みはこんな風だっただろうか? 微かに残っている記憶からはむしろ下忍時代の建物の様に感じる。むしろ何度かここからの景色を見た記憶すらあった。
―――そしてなにより、火影岩が四代目までしか彫られていなかったのだ。
「まさか、過去に飛ばされたのか……?」
(どうやらそうみたいだな)
九喇嘛への返事もおざなりに、フラフラと自分の寝ていたベッドへと倒れ込む。
寝返りを打って天井を見上げてみれば、それが記憶にある場所だと思い至った。
―――そうだ、この部屋はアカデミーの医務室だったってばよ。
思考の定まらないグチャグチャの頭でボーッとしていると隣から寝息がしている事に気が付いた。
(こんなに近くに人がいたのに気が付かなかっただなんて、大分鈍ってるんだってばよ)
自分のベッドから見て窓側とは反対側にもベッドが置かれていたのだ。そしてその上にも誰かが眠っていた。
知り合いかと思い近付いてみれば……
―――ヒナタ!?
(な、なんで医務室なんかに!? どこかに怪我が!?)
ナルトは素早くヒナタに駆け寄るとチャクラを流し込み怪我の確認をしていく。
(………………ッ)
その眼差しは真剣そのもので、最愛の人への強い思いが溢れていた。
(―――ふぅ……どこにも怪我はなさそうだってばよ。チャクラ流れも安定してるし、多分寝ているだけだってばよ……)
緊張が解けた反動からか、ナルトはそのままヒナタの隣に倒れ込んでしまった。
突っ伏したまま横目で眺める幼い頃の妻の横顔。
(よく見てなかったけど、この頃のヒナタもすげぇ可愛いかったんだなぁ……やっぱり俺の奥さんは最強だってばよ!)
(何やってるんだか……)
呆れたような九喇嘛の呟きをナルトは意識して無視を決め込んだのだった。
―――そして……
「あ、あれ? ナルト、くん……? 私達死んだはずじゃ? というかその姿は……?」
「まさかヒナタもそうなのかってばよ!?」
こうして二人の、新たな旅路がもう一度始まるのだった。