部屋の中は書類が少し積まれていたり、パソコンが2台あったり、他に事務作業をするための道具がそこらじゅうにあったが整頓されている、まるで小さな職員室だった。
「そういえば、自己紹介をするのを忘れていたね。私は白峰恋理。生徒会副会長をやってるよ。」
副会長と身分を明かしたそいつは先ほどまでの気味が悪い笑顔をしておらず、俺に向かって明るい笑顔をしていた。
「……白峰?」
「何故か私の苗字に気になるあてがあるようだね。そんなに無い苗字だからかもだけど。」
「ああ、いや、気にしないでくれ。……というか、副会長だったんだな。」
「うん。あと、私は背が小さすぎるせいでよく間違われるけどこの学校の3年生だよ。」
「3年だったんかよ……。」
「まぁ、それは別に良いよ。……本題に入ろう。君、生徒会に入らない?」
3年生だとカミングアウトされ、そして急に生徒会に勧誘された。
俺はまずそもそも部活には入りたくないと断る。
「この学校、部活に入るのは強制だよ?」
は?……え?そんなことあるのか?
「毎年説明があるんだけどねぇ。この学校の生徒は何らかの部活に入らないといけないの。理由は部活自体もこの学校の教育の一貫として認めているから。他者との交流、協調性の育成……だとかね。」
めんどくさ……。
「どうせ君の事。他の部活に対しては全く興味を示していなかったでしょ。歓迎会では生徒会は役員を募集しないからね。もしかしたら君は生徒会には入るかもしれないと思って声をかけたんだけどなぁ……。」
「いやいや、そもそも部活がめんどくさいから。」
「それは残念。生徒会に入っているだけで部活に入ることになるのに。他の部活と比べてスケジュールとか決まってないのに。所属していたら高校受験の時の面接とか有利になるのに……。」
「……。」
露骨な勧誘文句だ。
……しかし、必ず部活に所属していないといけないのなら生徒会執行部は不定期なために部活に極力参加したくない俺にとっては良いのかもしれない。
そう考えた俺は聞くのはタダだと思い、少しずつ質問するのだった。
「今、生徒会には何人が所属してるんだ?」
「執行部には会長、副会長2名、委員長5名、庶務1名が所属しているよ。今空いてるのは庶務枠2枠だね。庶務は生徒会選挙をする必要が無い代わりに副会長以上の推薦が必要になる。……という訳で小坂蓮君。君を私、白峰恋理が庶務に推薦するけど入らない?」
「推薦してくれるのはありがたいが、あいにくとそんな直ぐには決めれない質なんで。生徒会はどんな仕事をするんだ?」
「端的に言えば、先生のお手伝い。学校行事の時に裏で仕事をするのが大半かな?あとは学校生活で改善点を見つけてパッチをあてるとか。とりあえず雑用係だけど、色々な事が出来るようになると思うよ。」
「裏方作業集団だなぁ……。」
粗方聞くと分かるようにまぁ地味な仕事が多いらしい。表に立ってやることはイベント単位になるので案外仕事は少なかったりするのだとか。裏方仕事は目立ちたくない俺にとっては好ましいのでその点は興味をそそられた。
その後も色々と気になる事を聞いて答えられてを繰り返し、少し長引いた所で切り上げた。
「それじゃあ今日の追加授業は終わり!気をつけて帰ってね!」
「別に頼んでこんなことになったんじゃないだけどな。まあ、説明してくれてありがとう。」
「生徒会に興味が湧いたなら私の元に来てね~推薦書書くよ~」」
そう言われながら生徒会室を後にする。
ようやく脱靴場に向かえたが、外を見るとそこまで時間が経っていないように見えた。
「部屋の説明やら部活の説明やら聞いて小一時間は経ったと思っていたんだがな……。気のせいか。」
そのように呟きながら靴を履く。
そういえば、俺から自己紹介したっけ……?でもあの先輩、俺の名前を知っていた……いや、それこそ気にしても仕方ないか。
色々と気になる所が後から生まれてきたが、面倒なので押し殺し、帰路につくのだった。
蓮が生徒会室を退出した後、部屋には恋理1人だけが残されていた。彼を見送った後、生徒会室の鍵を閉め、密室を作り、部屋の中央らへんにある1人用ソファに座りこむ。
そして、1度深呼吸し、そのまま眠るように眼を瞑り、意識を集中させていく。そして自身をこの部屋にて行う儀式に向けて準備する。
これから行われるは監視者として、現世と隠世の境界の守護者としての数ヶ月に1回の儀式。白峰姉妹の中でも最も強力な
眼を瞑ったまま時がゆっくり、ゆっくりと流れる。
自分の心音がトクリ、トクリと聞こえる。鼓動が鳴る度に血液が廻る。彼女の頭の中には何も無い。ただ部屋中に微かに響き聴こえる自身のその音を、その流れを徐々に失くしてゆく。時が経つにつれ呼吸が荒くなるのを耐え、自身の力を集結させた魔方陣を自分の足元に大きく描き、その魔方陣が力を最大限溜まるのを待つ。
生徒会室に掛けられた壁時計の秒針が進む音が響く。時が経つ毎に恋理の身体の温度は下がる。顔から指先まで蒼白く染まり指先の感覚も失くなっていく中、彼女は弱々しく声をしぼり出す。
「
そう恋理が声を出した瞬間に恋理の足元に描かれた魔方陣がひかると同時に校庭の真ん中に常人には見えない、先ほどの魔方陣と同じものを展開させ、そして2つともが同時に霧がかるようにゆっくりと消えた。
「今回のガス抜き準備は終わった。あとはその処理だ……ね。」
現世と隠世との境界を適度な具合に解除するというのは非常に繊細な技術と膨大な力が必要となる。恋理は隠世の六界と呼ばれる世界の内の1つ、【魔界】の1番低層と現世との境界を開いたのだった。
「はぁ……はぁ……袋……。」
儀式が終わり、どっと身体が重くなる。本能のまま呼吸が荒くなる。下がりきった体温を上げる為や低酸素状態になっている為に身体が酸素を求め、彼女は用意していたビニール袋を取り出し、開いて口に当てる。過呼吸になるのを抑え、少し息を整えると、そのままある人物と連絡する為に念波の調整を行う。
念波とは、文字通り念の波。実は誰からも無意識に出ているものなのだがこれを理解し意識的に扱える者はほとんどいない。また誰からも出ているとは言ったが、この波に対して自分の意識を用いて何かしらのデータを入力しなければ交信相手に出力はされない。その為にこの念波が扱える白峰姉妹は情報のやり取りの為にこの念波を用いた
『
念話をする時には相手の念波(チャンネル)に合わせないといけない。その為、念波を操る事が出来る白峰姉妹達は常に各々が一定の念波を出し続け、自分の名前、誕生日や好きな数字に沿ったチャンネルコードを決めている。その為、念波が届く範囲内且つよっぽどの偶然が無い限り指定した相手と通話することが可能になっている。(交信の相手を確定させるために受信側は自分のチャンネルコード、自分の名前、送信側の二つ名の内の1つを言うなど念話を行う時には様々なルールに則って行われる。)
『……こちらRS0603、白峰理沙。KR0516、念話の発明者。どうした?』
『良かった。起きててくれて。あの事故のあと本当に死んじゃっていたのかと……。』
『……いや、昨日病室まで来て私と近距離念話してたよね?』
『冗談よ。』
静かな部屋にクスクスと笑い声が響く。眼を瞑りながら恋理は1人笑い、交信相手の理沙は笑えない冗談に呆れていた。
『……アンタの指令通り、見た目だけ意識不明をキープしてるけど、遠距離念話してくるってことは解除して良いってこと?』
『そうね。その代わり6日後には学校に復帰、監視者の活動を再開してもらう。あと、仮浅層【隠魔】を解放したからそれの処理をしてもらうことになるよ。』
『……隠魔ね。前々から扉を開けるって言ってたね。発生箇所はどこ?あと時間は?』
『学校の校庭。7日後の
『……了解。』
『それじゃあ明日から超人リハビリ頑張れ~。』
『……へいへい。』
理沙がめんどくさそうに返事をした後に念話が終わる。恋理は眼を開け、一度深呼吸する。
「はぁ……ふぅ。……さて、帰るか!」
そして、恋理はソファから立ち上がり少し顔色が悪いまま今日の仕事場から帰宅するのだった。
補足
アルファが1番適応範囲が狭く、機密性が高い物事を伝達する時に用いる。念話の中で念波を唯一用いず、彼女らの能力によって直接伝達が可能。その為、他者の直接介入が出来ない伝達方法になっている。また、能力によっての発動になるため、消費コスト(使用する力やエネルギー)が大きい。しかし、範囲が狭い事と範囲内の人物全てを対象とするため、伝達相手を選択することが出来ない。また、恋理は常にテレパシーαを発動させている。その為、範囲内にいる人物の考えていることは極一部の例外を除いて全てお見通しである。(プライバシーもへったくれもない。)
ベータは適応範囲がアルファよりも少し大きく、念波を用いたテレパシーになっている。伝達相手を選択する事が可能で相手と発声による会話を行っていても別口の会話になるため、見た目の会話の偽装が可能。消費コストは小さく、他者による直接介入は難しい。使用される頻度が高いのはテレパシーβである。
ガンマは適応範囲が非常に大きく、念波を用いたテレパシーになっている。ベータを用いた念話が近距離と呼ばれるのに対してガンマは遠距離と呼ばれることもある。機能はベータとある程度同じだが、念話相手とのタイムラグが生じたり、他者からの直接介入を2つと比較すると受けやすいのが特徴。コストはベータと同じぐらい。電話みたいなテレパシーである。また、交信相手を確認するルールはテレパシーγのみに適応される。
二つ名
隠世において、自分で名乗った奴や誰かがそのように呼んだのが広がったり、称号として呼ばれるようになったもの。
白峰姉妹
前提として、彼女らは人間ではない。人間を騙った人外であり、現世と隠世の境界を保ちつつ、現世の監視を行う為に隠世から送り出された。現在は父親の友人の持ち家を借り、普段は3人で過ごしている。また、現世にいる時(本来の力を解放していない時)と隠世にいる時(本来の力を解放している時)とでは容姿が異なる。いつもは黒髪黒目の日本人を装っている。
白峰恋理
白峰姉妹の長女。生徒会副会長。やることは何でもこなす。自分の感情が表に出る時と出ない時の差が非常に激しく、行動も極端。気味が悪い笑顔が非常に印象的。考える事、行動は予測がつきにくい。前述のテレパシーαの常時発動のせいで消費コストが大きいため、身体の成長までもが遅くなっている。その為、年齢にそぐわない身長と体重の低さになっている。本来の髪の色は緑色。目の色も緑。
白峰理海
白峰姉妹の二女。生徒会長。恋理と比較すれば色々と正反対な性格。姉の方が優秀だが、行動があれなので自分が表だって行動する事が多い。苦手なものは恋理。姉と同様やることはなんでもこなす。また、水泳部の部長でもある。本来の髪の色や目の色は深い青。
白峰理沙
白峰姉妹の三女。姉2人の行動によく巻き込まれやすい。めんどくさがりやで言動も一般の思春期の女子に似ている点がチラホラと見える。体育と恋理が苦手。好きな事は身体を動かす事と読書。本来の髪と目の色は桃色。