恋理が仮浅層【隠魔】と呼ばれる謎のものを解放した翌日。
白峰理沙が居る病院は少しざわついていた。
「白峰さん!そんな直ぐには動いちゃいけません!」
「いや、動けるし、学校に直ぐに戻らないといけないんで。」
「だからといって、先生の指示なしに勝手にリハビリをしないで下さい!まだ身体に事故の影響が残っています!」
「それ、事故前の私の様子から判断しての事ですよね?今は大丈夫なので。」
朝から動く、動いちゃダメと、患者と看護師の連呼が病院の廊下に響かない程度に行われていた。
昨日の夕方、理沙は恋理の『眼を覚ましちゃいな!そして、超人リハビリしちゃいな!』という意識不明の患者には言いたくても言えなさそうな事を念話にて告げられ、直ぐに意識を取り戻す振りをしたのだった。事故によって意識を失っていた患者が眼を覚ましたことにより担当医達は少し慌てていたのだった。
そして、今となっては意識を取り戻した次の日にその患者が点滴が付いている台を支え代わりにして廊下を散歩するという退院少し前の状態の行動をとっていた。そんな事に担当医や看護師は大慌てで色々と理沙を止めようと必死になっていた。
しかし、理沙はそんな彼らの心配する声を全く聞かず、一応の患者が退院するまでにやりそうな事を実践していたのだった。
その日の夕方、保護者が家に不在の為に呼ばれた理海に事の詳細が担当医から告げられたのだった。
「……すみません、ウチの妹が。」
「全くですよ。目を覚ました次の日にはほとんど動けない筈の患者が廊下を散歩しようと、いや、していたのですから。……気になって検査してみました。」
そう言いながら、パソコンにある写真を写し出す。
そこには理沙が事故の後に病院に運ばれた際に写された傷だらけの身体やレントゲン写真と比較するための今日の昼に取られた身体の写真やレントゲン写真だった。
「私たちは理沙さんを治療するために手術を施しました。しかし、手術をしたからといって直ぐに動ける身体にはなりません。治療の中には時間経過による自然治癒も含まれます。……だが、理沙さんの回復力は度が過ぎてます。身体全身にあった傷は既に大抵のものは治っており、骨折にしても治るスピードが速すぎます。というか、両足共に骨折していた筈なのに既に足を使って歩けている事が不思議でなりません。」
「……はい。全くです。」
理海は答えを言わず、ただただ担当医の話に同情することしか出来なかった。
その後も色々と理沙の文字通り超人な回復力と精神力の話を聞かされ続ける羽目になった。
「……ということです。こうなると別に神経疾患も考えられますが、今回の事故だけで見れば我々はもう既にここまでの回復をされている理沙さんに直接的な治療は行えません。他に検査を行い、無事であれば、理沙さん本人が望んでいる5日後には退院も可能かもしれません。実感は湧きませんが。」
「はい。……先生には色々と気苦労を掛けさせてしまいすみません。」
「本当に昼に診た時には夢でも見ているのかと思わされました。人かどうかも怪しい回復力を見せつけられてしまっては……。」
真剣に語った担当医と苦笑いの理海。後ろめたさを感じながら理海は作り笑いをしながら相談室を後にし、病室に響かない程度で理沙に叱責するのだった。
「……りさ~!?あのなぁ、あれだけ人間らしくない行動を人前でとるなと言っただろう!?なんで、姉さんと同じで気を付けられないんだ!?
理海が最後の言葉を叫ぶと同時に2人がいる病室は外から見れば変わらずとも病室は信じられない程に膨張し、2人がいる場所と扉までの物理的な距離が非常に遠くなった。
「あの、理海姉、それやるとこの空間内が真空に一気に近づく……。」
そんな理沙の声は直ぐに自身にも聴こえなくなり、自分が今何を喋っているのかも分からなくなる。
理海が得意とするものはモノの距離を操るということ。
空間を広げるということは内部にある空気は分散しようとするため、真空に近くなる。また、室温も大きく下がり、更には声も届かなくなる。しかし、姉の理海は恋理や理沙とは違い、父親のある特性を受け継いでいるために寒さに非常に強く、また自分の声は説教相手には聴こえるように一方的な見えないバイパスを作り、自身の発声によって生じる音波を通らせる。その為、理沙は凍え、呼吸もままならない世界の中、反論も何も出来ない状態で姉の説教を食らい続けることになる。
(
そんな事を思いながらずっとグチグチ怒ってくる姉さんの説教を聞き流し、執拗に襲ってくる寒さと酸素不足によってやってくる眠さに抗い続けるのだった。
白峰理海が扱える呪文・魔法の中でも最も強い部類の内の1つ。
相手が室内にいることが条件。空間を歪ませ、異常に拡張・膨張させる。外見は全く変わっていないので部屋の外からでは変化を確認する事は出来ない。空間が膨張するがそれに伴って内部の空気も膨張、低温化する。その為に相手は呼吸がしにくくなり、周りの空気が一気に熱を失い、自分の声が聴こえなくなるという拷問部屋が完成する。また、相手が抵抗しても理海自身は空間を歪ませて相手に視認出来るようにさせているだけなので単純な攻撃では理海には通らないようになっている。流石に身体が破裂するほどに真空に近づけると理海自身にも被害が来るので限界はあるが、元より寒さと低酸素状態には滅法強い理海には非常に相性が良い呪文。(限界があるのは理海も同室に居た場合)
理沙に対しては理海は甘い。今回の行動も自身は理沙と同室におり、手加減していた。また、恋理には容赦せず、捕縛した際には自分は外から室内を操作する事がほとんど。(それでも恋理は全く動じず平気で流す為に理海は敵わないと感じている。)
攻撃に用いることも可能で、相手の破裂や酸素不足などによる眠りからの凍死を引き起こさせる。
また、理海は距離を操るという事と水を操る事が得意でそれらから派生するものも扱う。