「早すぎない!?」
退院して最初に言われた言葉がそれだった。
先生にも登校する前に電話で報告すると、同じような反応をされ、非常に驚かれていた。……いや、不気味がられていた。
私は現世と呼んでいるこの世界に来てからそこまで経っていなく、人間どもの言っている事があまり理解できない。その為に人間達の反応や比較的この世界に溶け込んでいると思われる理海姉の言っている事が私には新鮮で不思議だった。ただ、せっかくこちらの世界に来たのであれば、あの行動が色んな意味でアホな姉達の行動に巻き込まれず、この世界の“普通”の行動を取りたいと思っている。
一応、私たちが居た世界にも人間という種族は居たが少数派でほとんどが妖怪やら妖精やら神やらが居座っていた為に分からないのだ。その人間もこの世界の人間とは比較しようがない程に異なる。奴らは普通に妖怪などと呼ばれる種族の者に対峙したり、会話したりしている。よくやるのは宴会だ。普通に彼らは種族など関係の無いという風に酒を呑み交わし、飯を食らう。
少し話が逸れたのだが、私が驚いているのは私が復帰した期間で“遅い”と思っていたら早いと言われたこと。
実は姉の恋理姉は私たちの身の回りで起きる(起きそうな)事を把握しており、それを私たち妹に伝える。そして、その対処をした結果例が以前の交通事故だ。
あの時は、事前にノイズキャンセリング効果を付与した結界を周囲に張り、子供を庇いながら車に向かって瞬間防御魔方陣を展開させ、当たると同時に破裂させた。子供を安全な方向に転ばせながら私はまるで車にはねられるように自身をふっ飛ばし、意識を失い、全身傷だらけ、骨折何本かを演技していた。
その為に近くにいることが分かっていた小坂が助けを呼び続けても誰もが気づいていない為に誰も救助援助に来なかったのだった。(小坂には悪いことをしてしまった自覚はあるが。)
まあ、何が言いたいのかっていうと、その程度の怪我は私たちにとっては2~3日、下手したらその日の内に治る為に1週間もかけた私は遅いと思っていたということ。……この世界の人間って脆いんだなということだった。
昼休憩。外で少しの携行食を食べることに慣れすぎている彼女は、1人屋上で持参した少ない弁当を食べていた。
あちらの世界でもこちらの世界でも変わらない青空を見ながら、姉である理海の言葉を思い返していた。
「……普通を目指しているのに、それまでもが普通では無かったなんてね。……私が人間として振る舞える期間はそんなに無い。」
本来の普通とは異なった普通に戸惑いつつも慣れるしかないと呟きながら、堅パンを食む。
暫く時間が経ち、空に浮かぶ雲を眺めていたが、そんな彼女がいる屋上に誰かが来ようとしていた。
その人物が誰なのか分かりきっている理沙は無視して空を眺める。
「……あいつの言った通りだった。白峰。」
そう呼び掛けてきたのは、理沙の演技に無意識下で騙されたいた小坂蓮だった。
「白峰、本当に身体は大丈夫なのか?」
心配そうに身体の具合を尋ねてくる。
「見ての通り。ここに居て大丈夫じゃなかったら何になるの?」
「まぁ、そうだよな……。」
あっけなく返してしまったからか小坂は言うのを一瞬止めてしまった。
「……お前は覚えていないかもしれないけど、あの事故の時、俺は近くにいたからな……お前を救助しようと色々と処置させてもらったんだ。……とりあえず、謝っておく。ごめん。」
言葉としては何の意味か分からないタイミングで謝罪された。
「人命救助でしょ。私の身体に許可無しで触ったことについて言ってるんなら別に良いよ。大体、そういう場面のその行動は仕方ない。……それよりも私の居場所をよく見つけたね。」
「そう言ってもらって助かる。場所についてはお前の姉に聞いた。」
「あの姉貴は……。」
こういう事を話すのは確定で恋理姉だ。私は気づかれない程度でため息をつき、小坂に向き直す。
「謝りに来てくれたのは良いんだけど、他に何かある?」
「ああ、お前に聞きたくてな。……子供を助ける時のお前と子供の距離や異常な回復とかはまだ良い……。お前のその武器はなんだ?他の奴らは誰も気づいていなかったようだが、何故お前はその2本の刀を腰から提げているんだ?」
「……。」
蓮は自分に見えているものがおかしいものだと判っていた。そして、幻覚だと最初は思っていたものが今日、そうでないのだと確定した。理由は以前の理沙と今日の理沙が全く同じ2本の刀を持っていたということ。オリエンテーションの時には人に興味が無さすぎて気づいていなかったのだが、帰り道、遠目から左側腰に何か棒を持っていたのは分かったのだった。(事故をした後は何故か消えていたが。)
その為に今日、近づいて2本の刀だと分かり、それを本人に問うているのだった。
「……刀か。それを見て君はどうする?」
「否定しないのか……?」
「否定?否定しても肯定しても仕方ない。私は何をするのかを聞きたいから。」
意外な返答だったのか、小坂は黙り、言いたいことをまとめようとする。本来ならば理沙はこれよりも前の時点で固有能力を使い、小坂の記憶を失くすなどの行動をしなければならないのだが、彼女自身がこの世界において自身の固有能力を使うという行動を嫌うために小坂にも自分にも猶予を与えているのだった。
「……いや、俺は聞きたかったから聞いただけだ。目がおかしくなっているのかを尋ねたくて。」
「そうか。」
その小坂の返答を聞いた瞬間、理沙は、
音も無く、自身の長刀を小坂の首に当てるのだった。
「……。」
「……。」
沈黙が訪れる。
見えてはいけない白銀の刃は上から流れてきた雫を割く。
「……これで証明になる?小坂。」
「……ああ。俺の眼が異常だということが分かったよ。」
「異端者から見ればそうだろうね。」
首に並行の向きで当てられた全く微動だにしない刃は恐ろしい程に冷たく、疲れて死にたいと普段は考える小坂に、殺されるという恐怖を与える。
「こんなこと初めてだ。人を殺す為の武器が目の前で持たれ、向けられるなんて。」
「私が初めてで良かったね。他の連中ならば問答無しに斬っていた。」
「……なあ、なんで俺を殺さなかったんだ?」
刀を鞘に収める理沙に小坂は震えながら問う。
そんな答えに理沙は当たり前のように、
「君は殺される対象では無いから。」
と、普通に答えたのだった。
使用する武器の中でも最も得意とする武器最大4種がなり得る。自身の魂の呼び掛けによって顕現させる事が可能。意図的に操るのは白峰姉妹などの所謂異端者と呼ばれる普通の人ではない人たちの一部。
現時点で判っているのは理沙の2つの刀(長刀と脇差し)。