女らんまと攻略する異世界地下迷宮   作:RNOVEL

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1.昼間っから宿屋にチェックインかよ

「ったく……昼間っから宿屋にチェックインかよ」

 

 ぼやきながら、オレはコーヒーをすすった。 窓の外に見えるカップルが、昼間から宿屋に入っていくのが見えて、つい、そう、ぼやいてしまったのだ。さぞかしお熱いことだろう……なんて考えていると、すぐさま思考は、隣の部屋にいるオレの嫁、らんまとのこれまでのことに切り替わっていった。

 

 オレの名は達也、16歳だと思う。こっちの世界じゃ時間がどうなってるのかわからないから。『こっちの世界』ってのは、モンスターがいてダンジョンがある、いわゆる剣と魔法のRPGみたいな世界のこと。

 

 そんなこんなで、ごく普通の高校生だったオレがこっちの世界に飛ばされて、なし崩しに勇者になって、結婚した。その相手の名は早乙女らんま、一緒にこっちの世界に吹き飛ばされたんだ。

 

 まあ、説明すると長くなるんだけど、らんまは元々男で、水をかぶるとスタイル抜群の可愛い女の子に、お湯をかぶると男に戻る特殊体質。それがこっちの世界に来てからは男に戻らなくなった。らんまが女の姿のままで転移してきたからのようだ。

 

 そんな年中無休の女となったらんまとオレは、なんだかんだでこっちの世界を征服しようとしていた魔王とサキュバスが合体したラスボスを倒した。めでたく元の世界に戻るゲートが開いたんだけど、オレたちは帰らずに、こっちの世界に残る事を選択した。

 元の世界に帰れば、らんまは元々、男だからオレと結婚はできない。そう、こっちで一緒に冒険を続けている間に、オレとらんまはデキちまった。らんまは『女としての人生』を選び、オレの嫁になってくれたんだ。

 

 オレたちは魔王を討伐した後、こっちの世界に居着いてカフェを始めることにした。らんまの希望もあり、パフェ専門の喫茶店だ。場所は港町のソイツェストにしようと思っている。

 材料集めにはメチャクチャ苦労したけど、何とかパフェみたいな試作品はできあがった。問題は店をどうするかで、オレは高校生の頭で資金計画を練るハメに陥っている。開店できるかどうか、多少の不安はあるけれど、まぁなんとかなるだろう。

 

 

「やっぱり、元の世界で大学出てからまたこっちに来て………ん?」

 

 窓から見える中世風の街並みを眺めながら、そんな都合の良いことを考えていたら、隣の部屋で嫁が呼ぶ声がした。らんまの声は印象的で、とても可愛らしい。

 

「達也ぁ! ベリーヌが来たぜ?」

「はあ?」

 

 ひょこっとドアから顔を覗かせるらんま。へへ、と笑いながら、俺にリビングに来るよう促してきた。

 

 ベリーヌさんはこの世界の公爵で勇者の子孫だと言う。年は20代前半くらい。そして、オレのらんまに色目を使う、ちょっと気に入らないイケメン野郎だ。でも冒険ではもの凄くお世話になったので、オレは頭が上がらない。

 

「何の用だろ?」

 

 オレは数字で充満した頭を抱えながら、リビングのドアを開けた。リビングと言っても、この小さな借家には寝室と台所のある簡易的なリビングの2部屋しかない。

 

「やあタツヤくん、お久しぶり~♪」

 

 あいかわらず、キラキラとした笑顔を振りまくイケメン公爵は、何だか上機嫌でオレとらんまの手を握った。オレの方の手は簡単に離れたが、やっぱりらんまの手だけは離そうとしない。

 

「公爵さんが、こんなボロ家に何の用ですか?」

 

 魔王を倒した2人がどうしてボロ家なんかに、と思われるかもしれないが、断じて金がないわけでは無い。カフェへの資金繰りのため、節約しているのだ。

 

「カフェの準備は進んでいるかね?」

 

 らんまが淹れた紅茶の香りを吸い込みながら公爵が言う。これはらんまが苦労して、生の茶葉から作った紅茶だ。この世界の紅茶はどうも香りが足りないんだよな。

 

「売り物を作る材料のめどは立ちましたけど、あとは店をどう準備するかです。今の資金じゃ、良い場所にある建物は借りられません」

 

 今の所持金で借りられないことはないけど、お客が来なかったらあっという間に資金が尽きて終わる。せめて半年ぐらいは粘れる資金がほしい。欲を言えば、家も一緒に建ててしまいたい。

 

「ゴールドがいるのかね?」

 

 大金持ちであるイケメン公爵は、ここぞとばかりに語気を強めた。

 

「できれば」

 

 オレの返事に、イケメン公爵はニヤリと笑う。

 

「ならばちょうど良い」

 

「何がですか?」

 

 公爵は粗末なテーブルに両腕を置いて、オレに向かって体を乗り出した。テーブルが軋む。

 

「墓所のすぐ近くに魔障窟が開いた」

 

「……!」

 

 ちょうど試作品のクッキーを運んで来たらんまが、目を見開いて動きを止めた。運んでいる間につまみ食いをしていたから、口にクッキーをくわえたままだ。

 

「最近、あっちこっちにボコボコできてるっていう……ダンジョンですか?」

 

 オレが聞き返すと、公爵は真剣な表情で頷いた。

 

「ご先祖が眠る墓所のそばに、あんな穢れた物があるのは許しがたい。タツヤだってそう思うだろう?」

「はい。それは、もちろん」

 

 『墓所』とはただの墓地じゃない。公爵のご先祖で、オレが継いだ勇者の先代にあたる人と、その奥さんである武闘家さんの墓だ。たしか、名前はアレルとヤオ。そんな特別な墓所の近くに、モンスターがうじゃうじゃいるダンジョンがあるなんて、考えただけで怒りがこみ上げてくる。

 

「勇者の力はタツヤに移った、だから墓所を護る力が薄れたのかもしれないな」

 

 ……この言いぐさ、もしや、ベリーヌは遠回しにオレに責任をなすりつけようとしているのか?

 

 魔障窟=ダンジョンは、聖なる力が失われたり弱まった場所にいきなり出現する、地下深くに通じる大穴だ。地中に湧き出たモンスターの力で巨大な蟻の巣のようなダンジョンが形成されて、そこにまたモンスターが住み着く。

 

 放置しておけば魔障窟はどんどん大きくなって、いずれ地上が陥没することもあるくらい危険なもの。そうなる前に最深部に棲息しているラスボスモンスターを退治するしか、被害を未然に防ぐ方法はない。

 

「それは、いつから?」

「もう10日になる。ギルド登録者の4パーティーが入ったが、まだ誰も出てこないようだ」

 

 オレとらんまがここでカフェの準備に没頭している間に、町では大変なことが起こっていたのか。

 

「すると……公爵のご用は、それですか?」

 

 真剣な表情のまま、ベリーヌ公爵が頷いた。

 

「そうだ。勇者の力で、墓所に巣食うダンジョンを潰して欲しい」

 

 そう言うと、公爵はテーブルの上に皮袋を置いた。それでまたテーブルがみしっと軋んだ。

 

「これはギルド報酬とは別に、私からの準備金だ。報酬と合わせれば、カフェを開く資金には十分だろう」

 

 オレとらんまは顔を見合わせた。前の冒険の間、本格的なダンジョンを攻略した経験はない。砦跡だとか廃坑で、ダンジョンとしては低レベルの物だった。

 

「それでダンジョンの規模はどれくらいなんだ?」

 

 らんまが聞くと、ベリーヌ公爵は首を振った。

 

「誰も戻ってきていないから、墓所ダンジョンの規模はわからない。他では40層以上の深みのものがあったそうだが」

 

 ラスボスモンスターのタイプによってダンジョンの構造は異なるのだ。垂直に何層も重なるタイプや、蟻の巣のように行き止まりばかりのタイプもある。入ってみなければ、攻略にどれだけの時間がかかるのかもわからない。数日、いや、数週間はダンジョンに篭る覚悟も必要だ。

 

「やろうぜ、達也。犠牲者が増えないうちに」

 

 らんまが真っ直ぐにオレの目を見て言った。金のことよりも、らんまにとっては人の命のほうが大事なのだ。それはオレも同じだ。

 

「……わかりました。行きましょう」

 

 オレは、壁に掛けた剣に目をやりながら言った。

 

「幸運を祈る、君たちのギルド登録はもう済ませてあるよ。二人に神のご加護を」

 

 ベリーヌ公爵が手を差し出し、オレとらんまの手を握った。いや、らんまの手を主に握っていた。あいかわらず、いけすかないイケメン野郎だ。




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こちらの短編は長編作品・女らんまと異世界冒険記の第一部と第二部の間の話となります。
長編を読まずとも楽しめるように執筆しておりますが、読んで頂けると大変、嬉しいです。
https://syosetu.org/novel/281714/


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