ドガーンっと雷鳴がヤマタノオロチの巨体は丸焦げにされていた。すると、フィールドとダンジョンを繋ぐ扉から現れたのはオレたちとよく似た背格好の男女だった。
「ふうっ……やっと見つけたね。イシュダルは、どこだろうか?」
「アレル。きっと、この子たちが達也とらんまよ。ほら、髪飾りを見て」
「なるほどね、イシュダルとヤマタノオロチを討伐したのはキミたちだったか。ありがとう」
ニコリと人懐っこい笑顔で笑うと、ヤマタノオロチを小瓶へと入れる男。ツンツンの黒髪に銀のサークレット、青い上着に紫のマントの男はアレルと呼ばれていた。
「会いたかったわ、達也にらんま。私の名前はヤオ。こっちはアレルね」
中国武術風の稽古着を着た短いツインテールの黒髪の女がらんまへと手を差し伸べた。稽古着には龍と書かれている。
「は、はじめまして……」
らんまがオレに耳打ちをする。
「おい、達也。この人らが先代の勇者と武闘家さんじゃねぇのか?」
「へっ? 先代は100年以上前の人らだぞ。なぜ、ここに。それに見た感じ、年もオレたちとそう変わらない」
「んふふふ」
談笑するアレルとヤオ。
「そうそう。先代……まぁ、まだまだ戦っているけど、僕が勇者アレルだ。こっちは妻のヤオ」
「よろしくね、あっ、オバケじゃないわ。でも、あなたたちの世界から見れば、オバケのようなかもね」
オレは伝説の勇者とその妻に緊張しながらも説明を促した。
二人は丁寧に説明を始める。
「僕らは、今、冥界のモンスターと戦っているんだ。もう100年近くもね。そっちの世界、キミたちの世界で魔王を討伐した後、ヤオと僕は結婚し、国を築いた後にこうやってダンジョンを通り抜け、冥界へと移動した」
「そそ。あれから、もう100年近く経つわね」
摩訶不思議な話を聞いているようだが、この世界はファンタジーワールド。おかしな事ではない。
「それだったら、魔王サキュバスが復活したときもアレルとヤオが出てきてくれれば良かったんじゃないのか?」
らんまが疑問を投げかけた。冥界という世界には行きっぱなしなのだろうか。
「まぁ、戻る事もできたんだけど。ほら、そこに力は残しておいただろ?」
オレとは違い、しっかりした先代の勇者。真っ直ぐと見つめる瞳が輝いている。まぎれもない正義感の強そうな正真正銘の勇者だ。
「そそ、魔王が再び復活したときには祖先が受け継ぐつもりで、光の宝玉がついた髪飾りは残してきたんだけど。どうやら、それは私たちの子供じゃなくてあなたたちが受け継いだようね」
「ただ、その……」
イケメン勇者・アレルが照れて、その先の説明を濁した。
「なに照れてるのよ。宝玉に閉じ込めた勇者の力を受け渡すときに「愛」をトリガーにするって決めたのはアレルでしょ?」
「こほんっ……そうそう、そのとおり。だからこそ、達也とらんまに力が受け渡せたようだね」
「なるほどな……だから、子孫であるベリーヌじゃなくてオレになったのか」
たしかに血縁でもなんでもないオレとらんまに光の宝玉が反応していた。もしかすると、ベリーヌにも恋人なり、嫁がいれば勇者になっていたかもしれない。
ここでもう一つの疑問も問うてみる事にした。
「あと、一つだけ質問があります。お二人はなぜ、ここに?」
「どういうわけか、数ヶ月前に勇者軍が使役していたヤマタノオロチを妖女イシュダルが盗んだんだ。イシュダルが形成したダンジョンに逃げ隠れていたというわけだ。探したけど、どこのダンジョンにいるかぜんぜんわからなくてね。けっこう時間はかかったよ」
主はやはり妖女イシュダルだったか。
「そろそろ、お別れのときね。主であるイシュダルが消えた今、ダンジョンも消えていくわ」
互いの姿がまるで電波が悪くなった画面のように揺れ、ぼやけていく。
「ちょっと、冥界でも戦力が必要ならオレたちも手を貸すぜ!」
困っている人や助けを求める人がいれば、協力を惜しまないらんまが声をかけた。
「ふふ、大丈夫よ。らんまさん、あなたたちは現世で、まだ、やるべき事があるわ、ゼノリスが力を蓄えはじめている。現世を守って。豊かな大地を守ってほしいの」
「先代! あ、えっと、勇者アレルさん。また会えますか?」
オレは自分の剣術も魔力も未熟である事を今回のダンジョン攻略で痛感した。だからこそ、先代に色々、教えてもらいたいと思ったのだ。
「ふふ、アレルでいいよ。また会えるよ、必ず……。そうそう、僕らの仲間だった魔法剣士と賢者は……世で生き……きっと二人……ってくれ……うよ、そ……、さよなら」
途切れるアレルの言葉を聞いている間にオレたちはダンジョンの外へと出ていった。
眩しい太陽。太陽の位置から察するに、まだ、昼前のようだ。
「へへへ、へ♪ なんか、いい奴らだったな。ちょっとしか会ってないけどさ」
「らんまもそう思ったか。じつはオレもだ」
マントで身体を包み、らんまが歩き出した。
「んじゃ、ベリーヌのところに報告へ行こうぜ。無事、地下迷宮を攻略ってな♪ それにご先祖さんも健在だったってさ」
ニコっと笑うらんま。一瞬、先代の武闘家ヤオの顔が重なって見えた。アレルもこうやって、ヤオの元気な笑顔と旅をしてきたのだろうか。
オレはらんまの笑顔を見ながら、これからも一緒に冒険は続けていきたいなと思った。
イシュダルを討伐し、先代の墓所から街へと移動したオレたち。
殺風景なダンジョンに何日もいたからか、街を行き交う人々の表情に温かみを感じた。
「なぁ、らんま。ベリーヌへの報告はすぐに行かなくても……いいよな?」
「ふふ。昼間っからかよ、ま、実はオレもそのつもりだったんだけどな♪」
オレとらんまはベリーヌへの迷宮攻略報告を後回しにして、街の宿屋へチェックインした。
—女らんまと攻略する異世界地下迷宮・完—
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第1話の後書きにも書きましたが
こちらの短編は『長編作品・女らんまと異世界冒険記』の第一部と第二部の間の話となります。
かなりの長編になってきていますが、本編も読んで頂けると嬉しいです。
https://syosetu.org/novel/281714/
こちらの迷宮攻略編にR18に加筆して、本編にも追加するかもしれません。
個人的には『9話の回復の泉』シーンはとても気に入っています。