女らんまと攻略する異世界地下迷宮   作:RNOVEL

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5.なぜ、助けたの?

第21層へは、階段じゃなくて崩れそうな岩を伝い歩いて行くことになった。降りきったところには膝まで水が溜まっていて、さらに岩の割れ目からちょろちょろと水が流れ落ちている。

 

「これさ……」

 

 その水を皮袋の水筒に受けながら、らんまが不安そうにあたりを見回して言う。

 

「どんどん水が入って来たら、ここ水没するんじぇねえか?」

「たしかに……ヤバイな」

 

 もう水は第21層のかなりの部分まで拡がっている。歩いても歩いても足首のあたりまで水の中だ。早めに進む必要がありそうだ。

 

「らんまは水着みたいなものだから、ちょうど良いんじゃね?」

 

「面白くも何ともねーぞ」

 

 別に笑わせようとして言ったわけじゃない。もうまる一日くらいこの中を歩き続けて戦って、カチカチのパンと干し肉くらいしか食えなくて。しかも、らんまがすぐそばにいるのにエッチなこともできないのだ、ムダ口で気を紛らわせるくらいしかできない。

 

 かなり透明だった水が濁ってきて、何だかイヤなものが浮いていたり水の中に漂っていたりしている。先を行くパーティーの連中は順調に戦果をあげているらしい。

 

「あ……行き止まりだ」

 

 これでもう何度目なのか。

 

「俺たち……なにしてんだろ?」

 

 らんまが足元に視線を落としながらボソボソ言った。

 

「なにって……」

 

 いやな雰囲気だった。オレもこの状態にウンザリし始めているけど、らんまだってとっくの昔にウンザリしているのだ。もう半日になるのか、じめじめした洞窟の中をただ歩くだけ。これならモンスターが出てくれた方がまだ気が楽だ。

 

「楽しいこと、考えようぜ」

 

 オレが言うと、『こいつ何言ってんだ?』と言いたげにらんまが横目で見る。

 

「達也は気楽だよな?」

 

 『気楽なのはらんまのほうだろ』と口から出そうになった。オレはカフェを開店させるために知恵を絞っているのに、らんまはひたすらパフェを作って食べている。

 

 パフェを食べる事はお客に出すメニューの研究だってことはわかるけど、面倒なことは全部オレに任せっきり。

 

 ケンカにならない程度で何かを言い返したかったけど、うまい言葉が思いつかない。でも、結局は可愛い笑顔にやられてしまう。尻に敷かれっぱなしってやつだ。

 

「あっ……」

 

 曲がり角の先は行き止まりだった。そこだけが少し段のように高くなっていて水がなく、そして人間が折り重なって倒れている。

 

「らんま。ここにいてもらっていいか? 見張り」

「……うん」

 

 人間の死体に見えて実はモンスターのこともある。オレは剣を抜いて慎重に近づく。切っ先で一人の体を軽く突く、ぐにゃっとして反応はない。

 

「ピクシー、明かり」

 

 ふわふわと寄ってきたピクシーに照らされたのは、戦士2人に魔法使いと僧侶の4人パーティだったようだ。

 

 戦士は2人とも剣を抜いていないが、苦しんで死んだようだ。トラップにやられたのだろうか。一番奥にあった僧侶の死体は、蓋が開いた宝箱に頭を突っ込んでいた。

 

「何でこんな怪しい箱開けるんだよ……」

 

 ここは盗賊がアジトにしていた洞窟じゃない、つい最近できたばかりなのだ。宝箱には警戒が必要なのに、ダンジョンに疲れて判断力が鈍ってしまったのだろうか。

 

 オレは、また死体の荷物からギルドの登録証を回収した。HP回復の薬草とMP回復薬の小瓶、食糧も貰う。このパーティーにはもう必要のないものだ。

 

「わかってるけど……あんまり気持ちのいいものじゃないな」

 

 黙って見ていたらんまがぼそっと言う。

 

「オレも、気持ちよくはない」

 

 モンスターの吼える声が遠くから響いてきた。だんだん声が大きくなってきているから、中ボスとかにHPのでかいヤツが紛れているのだろう。

 

「あ……空気、動いた」

 

 らんまが言った。確かに、それまでよどんでいた空気が動いている。きっと第22層への扉が開いたのだ。

 

 風が流れてくる方向を頼りにダンジョンの中を移動していく。進んで行くほど水は浅くなり、下は乾いてきた。おかげで先に行っているパーティーの人数がわかった。

 

「男が3人、1人がたぶん女」

「ああ……足跡が小さいね」

 

 

 この世界でのパーティ編成は回復を担う僧侶、攻撃呪文を扱う魔法使い、それに盾と剣、もしくは斧で戦う戦士にあと1名自由枠が多い。ちなみに攻撃呪文も回復呪文もこなす賢者もいるらしいがオレはまだ会ったことはない。

 

 通路の先に目を向けると、薄ぼんやりした明かりがある。その中に、何か人間ではない影が浮かび上がっていた。

 

「なんだ、あれ?」

 

 足音をたてないようにしながら進んで行くと、それはこっちに背を向けているオークだった。その向こうには、壁によりかかりながら光る杖をオークに突きつけている女の姿。

 

「達也……」

 

「待って、ヘタに動かないほうがいい」

 

 女は白いローブを着ている。やはり僧侶だ。僧侶というよりも聖女と呼ぶのが近いかもしれない。何で一人だけここにいるのかわからないが、あの杖が放っている光でオークを金縛りにしているのだろう。でも、いつまで力が保つのか。

 

「どうするんだよ!」

 

 らんまが小声でオレを急かす。でも走って近づいて行って、女の集中力が途切れたらかえって危険なことになる。オレは転がっている岩のカケラを拾ってらんまに渡した。

 

「らんま。合図したら、こいつをオークにぶつけろ。絶対外すなよ!」

 

「がってん!」

 

 ひそひそと打ち合わせて、オレは静かに剣を抜いた。

 

「ゴー!」

 

 オレの声が消えないうちにらんまの腕が風を切った。オレは飛んでいく岩のカケラを追いかけるように猛ダッシュ。岩は見事にオークの後頭部にヒット。

 

 ドゴン!

 

 鈍い音の後、オークが怒りの唸り声を上げて振り返った。

 

「でやあぁぁ!」

 

 オレは全力ダッシュの勢いのまま、オークに突きを入れる。剣はオークの体を完全に貫通した。オークの痙攣が止まった瞬間、オレはオークの体に蹴りを入れるようにして剣を引き抜いた。

 

 格好良く血を振り飛ばしたいところだけど、そんなことをすると切っ先が岩にあたるのでオークの体で剣を拭うだけにした。

 

 聖女はオレにも光る杖を向けているけど、オレには何の効果もない。

 

「なぜ、助けたの?」

 

 オレを睨みながら女が言った。

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