女らんまと攻略する異世界地下迷宮   作:RNOVEL

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9.回復の泉

 それからオレたちは、4日程、ダンジョンを進み続けた。時折、道に迷いながらも、なんとか下の階層への階段を見つけてはいたので、現在いるフロアは第42層だ。

 

 階層が深くなるたびにモンスターの強さは増していったが、それほど、手こずるような相手に遭遇(エンカウント)することはなかった。

 

 それよりも、1番の敵は……。

 

 ぎゅるるる~ん。

 

「……あぁあ!腹へった。ひもじいよお~」

 

「らんま、さっきから、その台詞ばっかだぞ。しょーがねーだろ」

 

 持ちこんだパンや先行パーティから頂戴した食料もすべて食べ尽くし、オレとらんまはダンジョンの最難関である空腹に悩まされていた。

 

 このままだと……いよいよ、獣系モンスターと遭遇すれば、倒した後に食べてしまいそうだ。

 

「ふっ、飯抜きなんざ、普段の修行で慣れっこでい。これしきの空腹でまいるオレじゃねえぜ」

 

 ぎゅるるるる~。

 

 それから何度か戦闘を繰り返し、階段を降りると、フロアの奥から水の音が聞こえてきた。

 

 とても穏やかな水の音だ。

 

 飯は食えずとも、飲み水の確保ができればなんとかなるだろう。

 

「おい、らんま。聞こえたか? 先に泉か、なにかあるかもしれない」

「だな♪ 急ごうぜ」

 

 先へ走っていくと、中央に羽の生えた像が配置された公園の噴水程度の大きさの泉があった。

 

「あれは回復の泉じゃないか?」

 

 回復の泉。魔物がうろつく場所に何故こんな物があるのかは謎だが、長丁場になるダンジョン、特に難所となりやすいボスの手前などに配置されていることが多く、プレイヤーとしては非常にありがたい存在だ。多くの場合、聖なる力が満ちている場所で、入ることで体力と魔力が回復する、というような効果があるスポット。泉の水がピクシーの光を反射するほど、輝いている。

 

「ありがてぇー、久しぶりの水浴びだぜ♪」

 

 オレよりも先に、らんまがビキニアーマーを躊躇なく脱ぎ捨て、一目散に泉に向かって走り出した。

 

「ちょっ、らんま! よく調べてから入ったほうが……って、おい!」

 

 他のパーティはいないだろうが、恥じらいなく脱ぎ捨てたらんまを追いかけて、オレもいそいそと防具を脱いだ。

 

 ざっぱーんっ。

 

 裸となったらんまが一気に飛び込むと、爽快な水しぶきをあげる泉。泉に潜り込んだらんまがひょこっと顔を出した。

 

「ひゃぁー、気持ちいい♪ ほら、達也もはやく来いよ。冷たくて最高だぜ」

 

「こういうときに、いきなり飛び込むと心臓に悪いんだぞ。まずはゆっくりと、心臓に遠いところに水をかけてから」

 とか言っている間に、らんまに引っ張られ、泉に突き落とされた。

 

「どわぁっ」

 

 ばっしゃーん。

 

 頭まで水中に入ると、まるで暑い夏にプールに入ったような最高の心地よさ。最近、流行のサウナブームでの言葉で表現するならば。

「ととのったぁ~」

 

 肩まで浸かれるくらいには十分な深さがあり、全身の肌が水を吸い込んだ。これくらい透き通っているのだから、なにかしらの加護で守られた水なのだろう。元の世界では見たこともないくらいに綺麗な水。光り輝いてさえもいる。

 

 泳げるほどの広さもないのに、らんまはバシャバシャと泳ぎはじめた。

 

「にひゃぁ♪ 最高だな、疲れが取れるぜ」

 

 ゲームをプレイしているときには、こんなポイントでHPとMPが全回復するわけないと思っていたが、いざ、入ってみると、これは納得。ダンジョンで疲労しきった身体を癒してくれる。、まさに命の水だ。それに、ここに泉があるという事は。

 

「これで、そろそろ、このダンジョンも終わりかもしれないな」

「へ? なんで?」

「回復の泉は、ダンジョンのラスボスモンスター手前に配置される事が多いんだ。だから、このフロアの次がボスのいる最深部の可能性が高い」

「なるほどな。んじゃ、しっかりここで回復してから、挑もうぜ」

 

 そろそろ、泉からあがろうとした、そのとき。泉の周りでカサカサっと音がした。猛スピードでダンジョン内を走り回る音。

 

ーーはぐれメタルがあらわれた!

 

 群れからはぐれたメタルスライムが変質したモンスターである「はぐれメタル」

 

 厳密には系統は違うがメタルスライムの上位互換に位置付けられており、メタルスライムを超える非常に高い守備力・素早さ・耐性・逃走の確立・その対価に膨大な経験値を誇る。後発のRPGにおいても類似した敵が「はぐれメタル」と形容されるほど「倒すのが困難ですぐ逃げるが倒せるとおいしいボーナスキャラ」の代名詞となったモンスターが現れた。しかも、2匹。

 

 絶対に倒さないといけない相手だ。

 

「らんま!」

 

 オレが説明するよりも早く、らんまが泉から出ていた。さっき、ビキニアーマーを脱いで、泉に入っていたので、装備を付けずに戦うつまり……だ。

 

 素手ではぐれメタルに攻撃するらんま。

 

 ……ミス! ……ミス! ……ミス! ……ミス!

 

「だぁー、こんちくしょ。ぜんぜん当たらねえ」

 

 素早さには自信を誇るらんまさえも を上回る超スピードで逃げ回るはぐれメタル。

 

 こんなことなら、やっぱり愛斧ラブリュスを持ってくれば良かった、斧ならメタルボディを一撃で倒せる魔神斬りのスキルが使えるからな。後悔もそこそこにオレは剣を取り、多段攻撃で手数を増やしていく。

 

「はやぶさ斬りぃ!!」

 

 ……ミス!カキンッ、カキンッ!……ミス!

 

 はぐれメタルのメタルボディにダメージが入った。

 

「達也、ナイス!」

 

「らんま、多段攻撃を仕掛けろ。とにかく、手数を増やすんだ」

 

「よし、任せろぉっ! 甘栗拳でぃ」

 

 逃げ回るはぐれメタルに向かって、らんまが無数の拳を放った。

 

 ……ミス!……ミス!……ミス!カキンッ、カキンッ!カキンッ、カキンッ!

 

「やったぁ!」

 

 1匹のはぐれメタルを倒すと、オレとらんまに膨大な経験値が入る……はずだ。

 

 残りも逃すまいと、らんまと取り囲むと、はぐれメタルがカウンターで攻撃呪文を放ってきた。攻撃呪文はオレたちではなく、ピクシーにヒットし、辺りが真っ暗になってしまった。

 

 ここまでダンジョン攻略を共にしてきたピクシーがやられてしまったのは痛手だ。

 

「わっ!? まっくら」

 

 ザザザザッ!

 

「ちょっと待ってくれ、らんま。別の瓶にもピクシーがいるはずだから」

「ちょっとも待てねえよぉ。はやくぅ、はやくー、経験値ちゃんが逃げちゃうよぉー」

 

 オレは脱ぎ散らかした荷物のほうへと、暗闇の中、手を伸ばした。

 

 伸ばした手にあたったのは、小瓶じゃなく、柔らかいものだった。

 

「あれ、居たのは、はぐれメタルだったはずだけど、なんでスライムが……?!」

 

 しかも、2匹いる。オレは両手で、それぞれのスライムを捕まえた。

 

 

 ぎゅっと握る。

 

 

 めちゃくちゃ柔らかい。

 

 

 あれ、スライムってこんな感触だったっけ……?

 

 

 大きさはオレの手にはあまりあるほどの大きさ。

 

 

 心なしか、突起もあるような……。

 

 

「絶対に逃がさねーぞ、スライム!」

 

 

 暗闇の中、ぎゅっとさらに2匹のスライムを握りしめると。

 

 

 次の瞬間。スライムからの攻撃ではなく、別のモンスターから、オレの頰に強烈な平手打ちが決まった。

 

 

 バッチーーンッ!

 

 

「どこ触ってんだ、ドスケベ野郎っ!!」

 

 らんまが開けた小瓶から出たピクシーに辺りが照らされると、オレが握っていた最高に柔らかいものはスライムではなく……。

 

 らんまの『たわわなバスト』だった。

 

「うわぁ、ご、ごめん! らんまぁ」

「いつまでも触ってんじゃねーよ、乙女の胸を!」

 

 バキッ! バキィ! バキィイッ!

 

 全身の骨という骨が折れるくらいにらんまから蹴飛ばされた。

 

 急いで手を離すと、もう、そこにはぐれメタルの姿はなかった。

 

◆◇◆◇

 

 それから、防具を着て歩きはじめても、らんまとの気まずい雰囲気は硬直したままだった。

 

「あの、らんま。さっきは悪かった……わざとじゃないんだよ」

「ふんっ、ドスケベの達也のせいで、はぐれメタルを逃がしちまったからな。あーあ、達也がドスケベじゃなかったら、今ごろ、2匹目も倒して、経験値がっぽりだったのにな」

「ああ。でも、正直オレはちょっと得し……」

 

 ばっちいいいん!

 

 らんまの平手打ちがまた炸裂すると、そのまま歩みを進めた。

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