夢見る竜の軌道式〜貧乏魔道具店の魔導師と滅びの姫〜   作:こがれ

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エンジン

 ルイエが闇夜への玉座(アザン=ルフス)に飲み込まれた。

 だが死んではいない。

 龍装は使用者が死ねば動かない。

 玉座の使用者はルイエのはず。なのに動いていると言うことは、生きているはずだ。

 

 だが一つ疑問がある。

 明らかに玉座はジュリアスの意思によって動いている。

 一つの龍装を複数人が操ることなどできない。

 可能性があるとしたら。

 

「精神を操る龍装でも持っているんですか?」

「おや、よくわかったね」

 

 ジュリアスはコートの中から長い銃を取り出す。

 細かな装飾が(ほどこ)された、アンティークのようなマスケット銃。

 ジュリアスはその銃を玉座に空いた穴に差し込んだ。

 初めから、ルイエを操るために設計したのだろう。

 

「ルイエにもその龍装を使っていたんですか?」

「そうだよ。バレないように思考を誘導する程度にだけどね。都合の良いように転がってくれて便利だったよ」

 

 ルイエがソフィアの腕を切り飛ばしたとき、明らかにルイエの言動はおかしかった。

 それもジュリアスによる精神操作の影響だったのだろう。

 

「あなたは何が目的なんですか。ウルヌイエの力を手に入れて、何をするつもりなんですか」

 

 ソフィアとしては、ジュリアスが何か大掛かりな悪事でも考えているのだと思っていた。

 そのために大きな力を欲しているのだと。

 だが実際には違った。

 

「インスミア王国の復興。常にそれを目指しているよ」

「本気で言ってるんですか? 犯罪者まがいのごろつきを集めて、自国の民を無下に扱い、ついには王族まで殺そうとして、本気で復興を願っているんですか?」

「もちろん」

 

 ジュリアスは嘘くさい笑顔を浮かべて言い切った。

 

「私は人を信用していない。愛国心なんて不確かな物で動く者たちなんて扱いづらくて仕方ない。それよりもシンプルな欲望で動く者たちのほうが制御しやすい。だからごろつきどもを集めた」

 

 つまりはただの人間不信。

 この男は人を信用できない。だから欲望で縛ろうとした。欲望で操れる人間だけを周囲に置いた。

 

「王族、ルイエを殺そうとしたのはプロパガンダとして利用できるからだ。国民に愛された姫。彼女が命を賭けて国を再興した。とても感動的で、バカな国民たちが騙されそうな話だろう?」

 

 一度滅びた国をまとめ上げるため。

 そのためだけにルイエの命を、たくさんの人命を犠牲にしようとした。

 

 ここまで来て、ジュリアスが嘘を重ねる理由が無い。

 本気でこの男は復興を目指している。

 そのやり方が冷酷で、無慈悲なだけ。

 

「あなたは、そんなやり方しかできないんですか?」

「もっとも効率的で、確実なやり方だと思うけど?」

 

 そのやり方にソフィアは納得できない。

 人の感情も命も無視して、ただ効率だけで国をまとめようとするやり方が。

 

 パキパキとソフィアの周りに結晶が作られていく。

 結晶によってパワードスーツが作られる。

 ルイエを助けに行けるような脚力を、ジュリアスを殴れるような拳を。

 そして余った白衣が、マフラーのようにたなびいた。

 

「止めます」

「来たまえ、目を覚ましてあげよう」

 

 ダン!

 地面をけり上げてソフィアは走る。

 先程までとは比べ物にならない速度。

 竜の脚力を、さらに底上げした。

 

 だが、違うのは闇夜への玉座(アザン=ルフス)も同じ。

 玉座全体に黄金色の線が走り、触手から金色の閃光がほとばしる。

 

 ジャンプで避けるソフィア。

 だが空中では身動きがとれない、それを見透かすように狙いすました触手が光る。

 ボン!

 ソフィアが空中を跳んだ。圧縮した空気を蹴って。

 そして空中を自在に飛び回る。

 触手から光が飛ぶが当たらない。

 

 そしてジュリアスには弱点がある。

 戦闘を行っている長い廊下。

 そこは片面がガラス張り。巨大水槽をさえぎっている。

 貫通力が高すぎる閃光はそちら側を攻撃できない。

 そのことに気づいたジュリアスの動きが鈍る。

 今だ!

 ソフィアは一気に加速し、ジュリアスに迫る。

 玉座は固いがジュリアスは生身。そこを攻撃すれば一撃で片が付く!

 

「甘いね、お嬢さん」

 

 触手が振るわれる。その先端には閃光の剣。

 撃ちだすだけでなく、剣のように振るえるのか!

 とっさに結晶でガード。ガリガリと結晶が削れる。ソフィアは横に跳んで間合いから逃げる。

 

 カシュッと音を立てて、触手の先端から棒が引っ込む。

 アレを中心として閃光の剣が生成できるのか。

 

 ……まずい。ソフィアは焦る。

 玉座が放つビームは、結晶の壁である程度防ぐことができる。

 だが白衣の消費が激しい。

 白衣が無くなってしまえば結晶は維持できない。

 攻撃力、機動力、防御力。あらゆる面で不利になる。

 白衣が削り切られる前に、勝負を決めなければならない。

 

「おや? 焦りが見えるね。それなら、こんなのはどうかな?」

 

 ぼとりと、玉座の触手が外れた。

 それはコロコロと床を転がると、うねうねと動き出した。

 

「ッ! 分離ですか」

 

 まずい。

 攻撃パターンが一気に広がる。

 このままでは対応しきれなくなる。

 

「いい言葉を教えてあげよう。人生は諦めが肝心だよ」

 

 

 

 

「オラぁ!」

 

 メイスの男の一撃がほのかを捉える。

 ドガン! 

 轟音と共に壁がひしゃげ、土ぼこりが舞う。

 

「ちょこまかと逃げやがって! テメェなんざ俺の敵じゃねぇんだよ!」

 

 ほこりが晴れたとき、そこには潰されたメイド服。だけが残されていた。

 

「は?」

「残念、空蝉(うつせみ)の術」

 

 メイスの男がハッと上を見上げる。

 そこにはぴっちりとした黒シャツと、スパッツを着たほのか。

 メイド服はただのおとり。

 

 伸びた義手が男の頭を掴み、一気に引き戻す。

 義足から炎が噴き出し加速する。

 両方の加速をのせた跳び蹴り。

 ドガン!

 男の兜がひしゃげるほどの勢いで、その跳び蹴りが決まる。

 そして、男は酔ったようにふらふらと後ずさると、ガシャンと倒れた。

 

「前職の経験が役に立って良かった」

 

 ほのかはメイド服を着なおす。

 やはり、今はこの服がしっくりくる。

 

「さて、一応あっちを助けに行かないと」

 

 見れば『ジュリアスの集めたごろつきども』と、『元インスミア国民』では国民の方が有利。

 このまま行けば、ほのかが何をしなくても勝てそうだが。

 念のため助けに行こう。

 そう思ってほのかが一歩進んだ時だった。

 ゾッと背筋に寒気が走る。

 後ろから殺気。

 とっさにほのかは横に避ける。

 ガツン! 大きな剣が空気を切って床にを叩いた。

 襲撃者の正体は。

 

「えぇ……?」

 

 メイスの男と同じ龍装をまとった者が三人。

 それぞれが違う武器を持っている。

 

「量産されすぎ」

 

 しかもその後ろからは、ぞろぞろと目覚めの剣の人員が歩いてくる。

 まだこんなに居たのか。

 まずい。勝てる人数じゃない。

 だが先には行かせられない。ソフィアが戦っている。

 主人を助ける従者として引けない。

 

 ほのかが決死の覚悟で挑もうとしたとき。

 ウォォォォンと唸り声が聞こえる。

 いったい、次はなんなんだ。

 それは唸り声にも、エンジン音にも聞こえる。

 

 ……よく聞けば、ほのかはこの音に聞き覚えがある。

 それは、

 

「ウォォォォ! お嬢様ぁぁぁぁ! このボレアスが参りましたぞぉぉぉ!」

 

 ほのかの師匠。ソフィアに仕えていた執事。

 ボレアスだ。

 そして目覚めの剣の集団から叫び声があがる。

 

「どけぇぇ! 貴様らが目覚めの剣か! 退かないとひき殺すぞ!!」

 

 人の海が割れる。

 現れたのは真っ黒なバイクに乗ったボレアス。

 

「ぬぉ! ほのかではないか! お前は何をしている! ソフィア様はどうした!」

「ちょうどいい所に来たなジジイ。こいつらはお嬢様の邪魔をする敵。ぶっ飛ばすから手伝え」

「また私のことをジジイなどと! ボレアスと呼べと言っているだろうが!」

「おいクソジジイ」

 

 最後に声をかけたのは、ほのかではない。

 龍装を着た一人だ。

 

「失せないと殺すよ?」

「やってみろ小童」

 

 ブン! と大剣が振り下ろされる。

 ボレアスはバイクの前輪を上げて、大剣を横なぎに殴りつける。

 そして回転の勢いのまま今度は後輪を上げると、鎧の顎を殴りつけた。

 タイヤの回転を利用したアッパーカット。

 鎧は数メートル飛びあがり、ガシャンと音を立てて落ちた。

 

「まぁ良い。お嬢様のお役に立てるのならば戦おう」

 

 ボレアスがバイクを降りる。

 するとバイクがガシャンと音を立てた。

 ガシャガシャと音を立ててバイクは変形し、ボレアスを覆う鎧へと変わっていく。

 タイヤは二つに分かれて、それぞれを手足にまとう。

 

 それはボレアスの龍装。

 作ったのはソフィアだ。

 どこからかソフィアの『バイクが変形するのはロマンですよね!』と声が聞こえてきた気がする。

 

 ブォン! エンジン音が響き、ボレアスの背中から煙が上がる。

 

「さて、行くかジジイ」

「この程度、従者の敵ではないな」

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