夢見る竜の軌道式〜貧乏魔道具店の魔導師と滅びの姫〜   作:こがれ

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水族館デート?

 ソフィアとルイエはバイクから降りる。

 目の前にあるのは壁。

 ウルヌイエの背中に乗った巨大な水槽。その底辺を補強するようにぐるりと囲まれた金属の壁だ。

 

「なんだか、気味が悪いわね」

 

 そこにぽっかりと通路が通っている。

 薄暗い通路。ガラスの枝が壁から生え淡い光を放っている。

 視界は悪くないが薄気味悪い。

 夜の病院を思い出す。幽霊とかが出そうな感じだ。

 

 ソフィア達はこれからウルヌイエの内部に入ろうとしている。

 竜は生物であると共に、元は建造物や乗り物、機械などだ。

 建造物や船などの乗り物なら、内部には通路が残っている。

 まさしく生きた遺跡だ。

 

「やっと見つけた入り口ですから、入っていくしかありませんね」

 

 ソフィアは何ともないように言った。

 そもそも、ソフィアは幽霊や竜よりも人間の方が苦手。むしろ人が居ない方が気が楽だ。

 

 だが、ルイエの方は違った。

 

「フ、フフフ。転ぶといけないから手を繋いであげるわ」

 

 声が震えている。

 分かりやすいほどに怖がっている。

 

「怖いんですか?」

「はぁ!? 怖くないわよ! 私はソフィアさんの事を考えて言ってるの!」

「いえ、むしろ手がふさがる方が嫌なんですけど」

「うるさいわね! いいから手を出しなさい!」

 

 ルイエはソフィアの手を乱暴につかむ。

 やはりびくびくと震えていた。

 

「はいはい。それじゃあ行きましょうか」

「大丈夫、大丈夫。幽霊なんていない。オバケなんて嘘」

 

 ソフィアが引っ張りながら入っていく。

 少しずつ、出口の明かりが遠のいていく。

 

 やはり通路はそこまで暗くない。

 数メートル先は見通せるし、隣のルイエの表情もよく分かる。

 不安そうに周りをきょろきょろと見回している。

 首を動かすたびに、サイドテールが尻尾の様に揺れている。

 

 すると、ルイエは気を紛らわせるように声を上げた。 

 

「ねぇ、ところでソフィアの白衣って龍装なの? なんだか色々なものを作ってたけど」

「そう……ですね。これは龍装ですよ」

 

 ソフィアは空いている右手を差し出す。

 白衣の袖が液体のように動くと、白衣の下に来ていた服の袖をまくる。

 ひじから手首のあたりまで包む、腕輪が付けられていた。

 

「こっちが操作用の本体ですね。そして、」 

 

 再び白衣が動き袖を元に戻す。そして右の手のひらに集まり、小さな布を作り出す

 

「これは、とある竜の血液を加工して保存できるようにしたものです。物を引き寄せて、周囲の物体の結合を強くすることができます」

「結合を強くする?」

「はい。普段は白衣みたいにして持ち運んでますけど。こんな風に液体みたいにしたりできます」

 

 手の上の布はスライムの様にだらりと広がる。

 

「本来は血液ですから。液体の形が自然なんですけどね。それの結合を強くして白衣みたいにしています。そして、これは周囲の物体の結合も操れるので」

 

 ソフィアは手のひらにそよ風を感じる。

 手のひらに乗った液体に空気が集まっている。

 そして手には小さな布ではなく、そこそこ大きな水晶のような結晶が作られていた。

 

「こんな感じで、空気を集めて固めたりもできます。ちなみに結合の強さを変えれば」

 

 ソフィアはその結晶をグッと引き延ばす。

 結晶はゴムの様に伸びていった。

 

「硬さや柔らかさは自在に変えられます。それにこんな感じで」

 

 結晶は小さくなっていき、ビー玉サイズになる。

 ソフィアはそれを前方に投げ捨てた。

 ポン!

 結晶は小さな爆発を起こす。

 

「きゃ!」

「圧縮された空気を解放すれば爆発も起こせます」

「ちょっと、先に言ってよ!」

「えへへ、すみません」

 

 ソフィアはいたずらが成功してにこりと笑う。

 再び手のひらを差し出すと。

 

「もう何度も見せましたけど、こんな風に物を作ることもできます」

 

 そこに作られたのは、水晶のような結晶で作られた髑髏(どくろ)

 

「なるほどね。性質が変えられるのを利用して、パイルハンマーやバイクみたいな複雑なものも作れる……なんでドクロなの?」

「ルイエさんは好きかと思って」

 

 ソフィアとしてはルイエが好きなものを考えて作ったのだが。

 ルイエは『はぁー』と深いため息をつく。

 気に入らなかったようだ。

 

「違うのよね。確かに私にはダークな雰囲気のものが似合うけど、こういうのじゃないのよ。ちょっとずれていると言うか――」

 

 ルイエの説教が続く。

 もしかしたら幽霊が怖いくらいだし、人のドクロとかも怖いのだろうか。

 ソフィアは手元のドクロの形を変える。今度は人ではなく竜のものに近づけて。角とかも付けておこう。

 ついでに仮面の様に顔に付けられるような形にする。

 

 それを見たルイエはキラキラと目を輝かせた。

 

「すごい! かっこいい! 貸して!」

「どうぞ」

 

 今度はお姫様のお気に召したようだ。

 ソフィアが仮面を渡すと、ルイエはそれを顔に付ける。

 はしゃいだ笑顔をソフィアに向ける。

 

「どう? 似合う? クールでミステリアスな美少女の私に似合うかしら?」

 

 クール? ミステリアス?

 クールと言うかキュートだし。表情の変化が分かりやすくて、謎など一ミリもないのだが。

 

 だが、わざわざ現実を突きつけなくてもいいだろう。

 幻想は幻想のままでいいのだ。

 

「ええ、似合っていますよ(かわいらしくて)」

 

 ソフィアは生暖かい笑顔でそう言った。

 

 

 

 

 通路の終着点につく。そこには扉があった。

 二人が近づくとモーター音を響かせながら扉は開く。

 そこは、海の中だった。

 

「なにこれ、すごい……」

 

 巨大なガラスの壁。

 そこから見えるのは青い水の中。

 

 ふわふわと浮かぶクラゲ、飛ぶように泳ぐマンタ、色とりどりの魚。

 その魚の群れをサメのような竜が飲み込んだ。

 

 そしてガラスの壁の中央。そこに通路があった。

 全面がガラス張りの、大きな三角形の通路だ。

 それは水槽の底までずっと伸びている。

 

「ソフィア! あそこに行ってみましょうよ!」

 

 ルイエとつないでいた手がグッと引かれる。

 先程までびくついていたのはドコに行ったのやら。

 二人はガラスの通路に入っていく。

 

「すごい。海の中を歩いているみたい」

 

 不思議な感覚だ。

 

 だが海の中と決定的に違うものがある。

 それは海底から伸びた黒い四角い塔。それが水槽の底から何本も伸びている。

 よく見れば黒い塔には三角形の小さなパネルがびっしりと並べられている。

 いったい何のために伸びているのか、あのパネルはどんな意味があるのか。

 

 そんなことを考えていた時、ルイエが声を上げた。

 

「もしかしたら、水族館だったのかしら?」

「水族館?」

 

 水族館。ソフィアは聞いたことのない単語。

 いや、昔どこかで聞いたかもしれないが思い出せない。

 

「古代では水生生物を捕獲して、保全、研究を行っていた施設があるの。一般にも開放していて娯楽施設でもあったのよ」

 

 お金を稼ぎながら生物の研究を行うための施設。

 効率的ですね。ソフィアは納得する。 

 

「数は少ないけど水族館が変化したと思われる竜も居て、その竜たちはこんな風に沢山の水生生物を体内で保管しているのよ」

 

 水族館が変化した竜の特徴。水生生物を体内に保管する。

 たしかにウルヌイエにも当てはまるが。ならばどうして、

 

「でも、この竜の体内には夜空の石があるはずですよね? 古龍を退けるほどの力を持った石が。どうしてそんなものが水族館にあるのでしょうか」

「それは、どうしてかしら?」

 

 目の前の水槽に生物を保管している感じはしない。

 ただ大量の水を取り込んだら、結果こうなったような感じがする。

 それにただの水族館であれば、あの黒い塔の存在意義が分からない。

 なんにしても――

 

「もう少し奥の方を調べてから、また考えましょう」

「それもそうね」

 

 二人が奥へと歩いて行こうとした。その時だった――


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