ところでついに看板スタッフ居なくなっちゃうんですけど困ったなぁ
吾輩はパーフェクトスタッフである。
本日の業務はID組2期生アーニャ・メルフィッサさんと作業だ。ちなみに一緒にインドネシアに来ていたシオンさんはオリーさんについて行き寺院を見てくると言っていた。吾輩もアーニャさんとの作業が早く終われば観光に出たいものだ。
ガチャ
「やほーモブさん。⋯サッサと作業終わらせよう」
扉を開けてきたのはやはりアーニャさんだ。どこか機嫌が悪そうな顔で少し眉がハの字になっている。
スチームパンク風の衣装で来ているがそのマントみたいな物が熱いのではないだろうか。とりあえず水でも飲んだらどうだと言ってコップに入れた水を手渡した。
「私は古代兵器だから問題ない。問題ないんだけど⋯暑くて寝苦しいと思う時が最近多い。許せそうにない」
一息に水を飲み干したアーニャさんは吐き捨てるようにそう呟いた。彼女の苛つきに合わせて世界が少し揺れているような感覚を味わう。この子は本当に古代兵器らしい。凄いね。
「で、今日のお仕事はなんですか?」
話の寄り道もなく直ぐ要件を言えという姿勢。嫌いではない。サインペンとポストカードを机の上に乗せた。さぁ存分にサインを書き入れてくれたまえ。
「サッサとやって寝るんだ。⋯邪魔だなこのマント。モブさんそこらへんに引っ掛けといて」
ササッとポストカードにサイン入れをしたと思ったら腕に当たるマントが邪魔になったのかべッと外していた。マントは吾輩の胸元に飛んできたので、シワにならないようにハンガーラックに掛けておいた。
「ナイス」
親指を立ててこちらを見ているアーニャさんだが、少しもポストカードに目を向けずに空いた片手でサイン入れを行っている。凄まじい技である。文字通り片手間の作業とは恐れ入った。きっと古代のコピー機みたいな役割もあったのだろう。
「これが古代の力なんだ」
無駄な力の使い方もあったものだ、と少し感心している間もドンドンポストカードが次々と仕上がっていく。
吾輩的には素晴らしいと思うのだが、シャシャシャッと書きあげては横にポストカードをスライドさせて飛ばしているので非常に散乱しており見た目は良くない。これならコピー機の方が丁寧に積み重ねてくれる分軍配はそちらに上がるかもしれない。所詮は古代の技術だ、やはり時代は新しい物が良いのだと再確認しながら散乱したポストカードをまとめて束にした。
「何か失礼な事を考えてない?」
ポストカードにサインを入れる手は止めずにこちらをじっとりとした目で睨みつけてくるアーニャさん。古代技術うんぬんで人の心を読むという機能も積まれている可能性は考慮してなかった。
彼女特有の鋭い刃物のような応対の仕方も思考を先読みしつつ、緻密な計算の元行っていたとすれば何となく理解ができる。
まぁそんな事はないだろうからただの毒舌キャラというのが吾輩の見立てだ。アーニャさんの訝しむ視線を受け流しつつ失礼な事など考えてないと返すとじっとりとした視線が強まった。
「ほー。日本では疑わしきは罰せと言う言葉があるらしいね。それっ」
そんな酷い言葉はない。
アーニャさんは不穏な一言を発し、空いた方の手の人差し指を振る。すると吾輩の目の前に独特な非対称の形状をした短剣が出現した。うっすらと白いオーラのようなものを纏っており、ふわふわと浮いている。
怪しげな短剣の輝きが強くなった為、反射的に両腕でガードの構えを行ったがまるで防御をすり抜けるかのように腹部に衝撃が走ったではないか。
“ぐほあ!?”
「罰した。モブさんはどうやら防御力に自信があるようだけど、私の元の姿はクリスという武器。このクリスという名前には刺すや貫通するという意味もあるよ。つまり防御力無視」
突如襲ったダメージに思わずヌウッとうめき声を漏らし吾輩は膝をついた。まさかこの世に防御力無視という攻撃があろうとは、まだ吾輩の知らぬ現象があるものだと感心しつつ、立ち上がり軽く地面を踏みしめる。膝が震える、足の感覚がないといった症状が出ていない状況を見るに驚かされはしたが、致命的なダメージではないようだ。
「なんだと」
何故か驚愕の表情を浮かべているアーニャさん。先程まで動じる事なくサイン入れを止めはしなかったのに今は止まっている。どうしたのだろうか?
「今の一撃なら古代の兵ですら気絶するかしないかの瀬戸際で悶絶し続けるはずなのに事も無げに立ち上がる!?なんてこと…古代兵器も鈍らになってしまったか…」
どこか煤けた表情で宙を見上げているアーニャさん。どうやら自信喪失してしまったようだがそんな一撃を放たないで貰いたいものである。あとサイン入れ止まっているので継続して貰えれば。
「人の心とかないんか!?」
吾輩は仕事に関しては心を鬼にする。この状態の吾輩はあやめさんすらも鬼だと慄く。例え自信を喪失した古代兵器が嘆いていようとも、錆びていようともペンを持ってサイン入れくらいはできるはずだ。椅子の背もたれに身を預けて萎れているアーニャさんにそのように告げた。
「ヴァアア最悪だ」
パーフェクトスタッフなので最高の間違いだろう。その意を伝えるべくドスンと机に追加のポストカードを乗せた。ほぉらまだまだお代わりはあるぞ。
「どうやら私はパーフェクトスタッフというものをナメていたようだ」
恨めしげな目でこちらを睨みつけてくる古代兵器を無視し吾輩は別の作業に取り掛かった。どんなに穴が開くほど見つめようともこのパーフェクトスタッフの集中力は乱せない。逆に暖かい目を向けてやった。
「ブフォッ!?エフッふざけっゲホゲホ」
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「終わったぞコノヤローチクショウメー!!」
吾輩の暖かい目攻撃によりしばらく悶え苦しんだアーニャさんだったが、その後は黙々と(片手でスマホ片手でサイン入れのマルチタスク)と作業していた。そのおかげかあれだけあったポストカードの山も綺麗さっぱり片付いた。
仕事も終わったので帰っても良いと伝えたのだが
「ふぅ…ふぅ…エネルギー切れる。寝なきゃ。煩くしたら怒るよ」
ヨタヨタとソファに近づき横たわる古代兵器娘がおられた。最初に睡眠がどうだの言っていたので実は睡眠不足なのかもしれない。流石にこの状態で帰すのも忍びないので事務所で寝ても良い事とする。
「分かった1000年くらい寝る」
戯けた事を宣う古代兵器もいたものだ。このサテライト事務所のリース期間はあと数日だし、そもそも1000年も吾輩は生きてないだろう。
帰るだけの体力を回復するのに1000年も寝るとはどれだけ燃費の悪いボディなのだろうか。まだどこかのポンなロボっ子の方がマシかもしれない。
「モブさんは私の野望、もしくは夢を知ってるか?」
唐突にアーニャさんはそんな事を言い始めた。あまり詳しくは存じ上げないが、我が社の社長に大きい寝床を作らせそこで寝る事だったか。
「そう。それはもうすっごいの作ってほしいんだ」
どこか楽しげに語るアーニャさんはすっごい寝床が欲しいらしい。
確かYAGOO社長の家にはピザ窯があるとかなんとか。自作かは知らないがベッドでも作らせるのだろうか。それともダンジョンの奥にある宝箱みたいな場所で眠りたいのだろうか。彼女は古代兵器なため吾輩達とは価値観が違うかもしれない。それはさておき、その夢がどうしたというのか。
「この際パーフェクトスタッフであるモブさんなら作ってくれるじゃないかと」
ソファに横たわりながらどこか期待するように吾輩を見てくる古代兵器。これはまた非常に厄介な無茶振りである。
そこそこDIYもしてきたがすっごい寝床などを一からは作ったことがない。某お値段以上の家具専門店で取り寄せたベッドをそこはかとない洞窟の奥に置いただけだと駄目だろうか。
「そんな事されたら私はモブさんの耳元に纏わりついて一生泣き喚くからね」
コイツマジかみたいな目を向けられ断られてしまった。どうやら駄目らしい。非常に鬱陶しい嫌がらせをされてしまいそうなので別の案を考える。
例えば棺桶的な物はどうだろうか。
「故人ならぬ故兵器にはまだなるつもりはない。というよりモブさんは私のことをドラキュラとかそういう類だと思ってる?」
ソファでだらけているアーニャさんはジト目で吾輩を睨みつけてくる。気が付くと指でクリス?という武器を撫でていた。
別に一緒くたにしている等という訳では無いが、まずは認識に差があっては良くない。理想の寝床なるものがどういったものか聞きたいものだ。
「ナルホド」
一つ頷き理解を示したアーニャさんに問う。ここからが認識のすり合わせである。遺跡の奥地でマスターソードのように石に刺さっていたいという願望があるわけではない?
「あれは寝てるというより封印だ。武器の気持ちの分からぬエゴだよ。あれが理想の寝床に見えるのなら私はモブさんをこのまま刺す」
アーニャさんはまるでダーツを投げるかのような持ち方で武器を構えている。どうやら選択肢を誤ったようだ。慌てて考え直すも良い寝床と言われてパッと思いつく事がない。
吾輩としては基本的にどこでも寝れるが故に仮眠室と自宅のセール品のベッドで事足りるのだ。天啓が降りてこないものかと唸りながら荷物を漁っていると
「ん?モブさんそれ寝袋?」
ソファからコロコロと転がって来た(武器は所持したまま)アーニャさんが吾輩の持ってきていた寝袋を凝視していた。
シオンさんが着いてきた時にもしかしたら事務所が消し飛ぶかもしれない。という最悪を予期して持ってきていたのだ。
「何したらそんな事になるというの?」
そんな不可思議なことが起きるわけがないと言った風に訝しむ古代兵器様だが、吾輩は前に魔法使いのライダーキックで事務所毎消し飛ばされた経験がある。あの大きいホロライブ事務所ですら被害甚大だったので、この小さめのサテライト拠点では確実に更地になってしまうだろう。
「魔法使いのキック?魔法とはウゴゴゴ…」
魔力纏った蹴りなら魔法なのだろう。詳しくないため分からないが。
謎の唸り声を上げつつもアーニャさんは寝袋をじっと凝視している。そんなに気になるなら見ても構わない旨を告げた。
「感謝。封筒型ってやつか…どれどれ広げてみよう。おー…ほー?」
吾輩がアウトドアのオンラインショップで気になったので購入したものだが、別にアウトドアの為に買ったわけではない。災害時だとか事務所が吹き飛んだ時に用意したものである。
どこでも寝れる吾輩が言っても説得力皆無だが、かなりぐっすりと眠れる気がする。
「ふむふむ。このサラサラ感…素材は表も裏もポリエステル。幅は80…いや84かな。長さも高身長大丈夫そうだ。私には関係ないケド…結構ゆったり。抗菌機能もあると見た」
なにやら目と手を忙しなく動かして寝袋を観察している。先程のポストカード作業の時より集中しているように感じた。睡眠に対して並々ならぬこだわりがあるのだろう。
集中するのは結構なことだが、隙だらけの後ろ姿を眺めていると少し魔が差した。気配を消してアーニャさんの後ろに立ち、渾身の拍手で爆音を鳴らしてみた。
「…ん?」
やってから思い出したが彼女は驚かないということで有名だった。ゆっくりと振り返ったアーニャさんと目が合う。
「…へっ。キャー(棒読み)これで良い?」
鼻で笑うだけでは飽き足らず、付き合ってやったぞと言わんばかりの悲鳴で返された。圧倒的な敗北感に思わず頷いてスゴスゴと引き下がる羽目になった。
「じゃこれは報酬として頂いていくからね」
えっと声を上げるよりも早くモソモソと寝袋に梱包されていく古代兵器様。なんとか止めようと手を伸ばすも宙に浮いたクリスに阻まれた。なんという小癪な真似をするのか。
「(夢の世界に)旅に出ます。起こさないでください。オヤスミ」
最悪寝るのは構わないが、このまま何日も寝るという事ならば許されぬと再度手を伸ばしたが、周囲に大量のクリスが張り巡らされていた。試しにもう少し手を伸ばすとクリスが白く輝き光線のようなものが放ってきたではないか。先程見た光景の為、マトリックス的な避けで躱す。
ガチャ
「ただい゛ま゛ぁ゛!!モブさん変な置物買ってきたからあげいっだぁあぁああ!!!??!?!?」
後ろから断末魔が聞こえた為後方確認のためにブリッジで顔を向けた。シオンさんが帰ってきたタイミングで防御貫通光線の流れ弾に当たってしまったようだ。シオンさんは夏に力尽きかけたセミファイナルみたいな動きで悶えている。
「ぶっ◯」
ゆらりと起き上がりハイライトの無い目で吾輩の方を睨みつけてくるが冤罪だ。吾輩の正面に立ちはだかるこの古代兵器の尖兵達が見えんのか。
「あー?どーゆー状況これ…っていうかシオンちゃん常に防御魔法纏ってるのにバカ痛かったんだけど?」
かくかくしかじかでとんでもない事なのだ。殺意の波動に呑まれかけたシオンさんは正気に戻ったが、どうやら常時バフをも貫通するアーニャさんの一撃の説明をすると機嫌が悪そうにぽつりと言い放った。
「負けられん」
これは勝ったなガハハ。こんな見た目でも彼女は優秀な魔法使い。やる気の出した彼女が居れば、最早吾輩の仕事は無きに等しい。吾輩は魔力的なものを漲らせているシオンさんにエールを送った。
「まかせなー。というわけで突撃しろ壁」
吾輩がシオンさんに頑張れプイキュア的な応援を心で送っているとプイキュアから死刑宣告を告げられた。大量のクリスが浮いている中に突撃せよと申すか。それは無謀にござりまするぞ!!考え直すように具申した。
「問題ない。行け。シオンチャン回復サセル。モブサン囮ナル。シオンチャントドメサス。おけ?」
シオンさんは指を自分と吾輩を交互に指しながら片言で命令を告げた。どうやら前衛をしろとのお達しだ。ダメージを受けるのは確定らしい。吾輩は憂鬱な気分で梱包された古代兵器様に向き直った。
「まかせなー。今、古代兵器特攻の魔法作ったから確実に倒せるわけ!」
胸を張ってドヤ顔を見せつけてくるシオンさん。
別段倒すのが目的ではないのだが、流石に優秀さが際立っている。この短時間でもう対抗策を作り出したというのは尊敬の念すら覚える。ついでに吾輩が犠牲にならない方法とかも考えてくれないものか。
「さっさと行っけ☆」
“ぐおっ”
吾輩の考えを読んだのか満面の笑みで魔法使いは吾輩の膝裏を蹴り上げた。姿勢が崩れアーニャさんの寝袋に近づくと同時に防衛兵器達が容赦なく吾輩に光線をぶっ放した。
“ぬわーーー!!”
「壮観だなぁこれが古代兵器の力。はいはい回復回復。そしてこれで終わりだぁ!!はいタッチ」
「ん?…ウ゛ワ゛ァ゛ア゛ァ゛!!力が抜けてくぅ…」
吾輩が光線で滅多打ちにされている中、なにやらシオンさんの声とアーニャさんの気の抜けた声が聞こえてくる。何事かと思った瞬間に攻勢が止んだ。
先程アーニャさんの寝ていた位置を確認すると紫色に輝く大量の鎖が巻き付き、蓑虫のようにされて天井に吊るされているアーニャさんが居た。寝袋から顔だけ出していたので覗き見ると少しやつれているように見える。
「このシオンちゃん特製魔法の鎖は古代兵器の力は使えないデバフです」
“凄い”
「安眠を求めていただけなのにどうしてこんな目に」
「シオンちゃんに害を与えた事許せません。しばらくそうしてると良いよ」
「そ、そんなー」
蓑虫アーニャさんをぐるぐると回してご満悦のシオンさん。
回れ回れーあーれーと楽しそうに遊んでいるが、よく考えれば吾輩の寝袋ごと鎖に巻き巻きされているので回収はできない状態だ。
「あ、モブさん忘れてた。お土産で変な置物いっぱい買ってきたよ」
“少しも欲しいと思わない”
「なんでー!?あ、そろそろ夕飯の時間だしご飯行こっか」
「え、私放置されるの!?」
とりあえずシオンさんの誘いで夕飯を食べに行くことになった。
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その日の夕食後
「………忘れてたから魔法解除しようかと思ったんだけどさ」
「zzz…」
“ぐっすり寝ていますな”
「結局どこでもいいんじゃないの?」
“ふーむ”
最近観光で見て回ったのであろうシオンさんが、インドネシアの夜景や面白い建物を紹介してくれたので着いて回ったが確かに面白く興味深かった。
毎回ドヤ顔で語っていたシオンさんだったが、ほとんど誰かの受け売りだろう。
そんなプチ観光をしてすっかり夜も更けてしまったわけだが、事務所に戻ってきた時に蓑虫アーニャさんを見て思い出したのだ。
今のアーニャさんは顔までしっかり寝袋に潜って寝息が聞こえてくる。
「このままにして飾っておこ」
こうして古代兵器は吾輩の寝袋ごと封印された。シオンさんは満足そうに頷いているが、あと数日でこの拠点は引き払うわけだ。
「どしたの?先に帰ってるよ?」
急かしてくるシオンさんの一言を受けて、吾輩は思考停止して帰ることにした。
その時にどうするかはまたシオンさんに相談することにして事務所の電気を消し鍵を閉めたのであった。
モブ
今回ついに防御力無視するという現象をたらふく味わった。
ぼちぼち日本に帰る準備をしようと思っているが、どこかの魔法使いが買い足しているお土産の数々を押し付けられて頭を抱える日々。でも寝袋分のスペースが空くよヤッタネ!
アーニャ
モブの防御力を貫いた。更に睡眠に対してのこだわりも貫いた。求めたものではないが及第点としては寝れる寝袋だった。後日この寝袋はモブから強奪する予定。
シオン
やはり天才魔法使い。インドネシアを楽しんでいたが、本日とんでもないダメージを負った。海外ということで常にマホカンタアタカンタ的な物を纏っているらしい。万全の態勢が崩れ見直しているとか何とか。