閃の軌跡Ⅲ ―偽りの仮面―   作:アルカンシェル

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前作の「二人の緋皇―閃の軌跡Ⅱ―」完結にあたり、修正と加筆をして再投稿させていただきました。

今後ともよろしくお願いします。


*リィンの身長について勝手なが修正させていただきました。




1話 新たな始まり

 

 

 

 1206年4月1日。

 

「流れ行く~♪ 星の軌跡は~♪」

 

 早朝のまだ人がまばらな帝都ヘイムダルの駅にはリュートの音色と共に旅芸人のような風貌の男の歌声が静かに響く。

 駅の中という場違いもあってか行き交う人達は男に不快な目を向け、関わらないように足早にその場を素通りする。

 そんな光景を背景にその二人の男女は発車時間が迫る導力列車の前にいた。

 

「これでよし」

 

 長い黒髪の少女は黒髪の少年の真新しい制服の着崩れを直して満足そうに頷く。

 それはまさに微笑ましい“姉弟”のやり取りだった

 

「ありがとうございます。姉さん」

 

「そんなかしこまった言葉使いなんてしなくて良いのよ」

 

「いや……でもケジメはちゃんとつけないと」

 

 頑固な弟――義理の弟に少女はため息を吐く。

 改めて少女は少年の制服を見下ろし、表情を曇らせる。

 

「本当にトールズ士官学院・第二分校に進学するの?」

 

「ええ、いつまでも父さん達に迷惑を掛けるわけにはいかないから」

 

「別に父様は迷惑だなんて思っていないわよ」

 

「それでも……こんな記憶もなく素性の知れない俺を受け入れて、ましてや貴族の家名までくれた父さん達に少しでも恩返しがしたんだ」

 

 意志の変わらない少年に少女はもう一度ため息を吐く。

 トールズ士官学院・第Ⅱ分校

 元はトリスタにあった帝国の名門「トールズ士官学院」が帝国正規軍の本格的な軍学校となる流れを受け、新たに帝都西郊に新設されることになった分校。

 二年前の内戦により立場が難しくなった貴族子女や外国人などと中心に集めた学校である。

 本格的な軍事教練を学ぶ場ということもあり、義理の姉としては不安が増すばかりである。

 もっとももう今日が入学式であるため、今さら口を挟んでも意味はない。

 

「何を言っても無駄みたいね……」

 

 少女はため息を吐き、少年が肩に担いでいる刀袋に視線を向ける。

 

「…………それは……“太刀”よね……どうしたんですか?」

 

「これは先日、ユミルに来たユン老師という方に頂いたんです」

 

「そう……ユン老師がいらしたんですね」

 

 少年の口から出て来た名前に少女は目を細める。

 

「今日まで修行をつけてもらって、情けで《初伝》を賜ることができたんですよ」

 

「そう……頑張ったのね」

 

 誇らしげに胸を張る少年に少女は複雑な表情を作る。

 

「ところでそれは?」

 

 少年は少女が同じような刀袋を持っている事を持っている事にようやく尋ねる。

 彼女が修めている武器は細剣。

 持ち歩くとすれば確かに刀袋でも良いかもしれないのだが、彼女が武器をここに持ってくる理由に少年は首を傾げる。

 

「…………これは貴方の入学祝いです」

 

 逡巡をして少女は少年に刀袋を差しだした。

 

「ダーナさん……私の先輩が貴方にと……“太刀”はその人が用意したものですが、飾り紐は私が編みました……

 老師の太刀に比べたら見劣りするかもしれませんが、良ければ使ってください」

 

「ありがとう、姉さん」

 

 少年は差し出された刀袋を嬉しそうに受け取る。

 

「いったいどんな太刀なんだろう?」

 

 少年は好奇心の赴くまま、袋の口を止める紐を解き――

 

「こら、公共の場で不必要に武器を出してはいけないですよ」

 

 少女はそんな少年の軽率な行動を咎める。

 

「……はい」

 

 しゅんと項垂れて素直に聞き届ける少年に少女は苦笑する。

 

『間もなく、海都オルディス行の列車が発車します。ご利用のお客様は――』

 

「あ……もう行かないと」

 

「ええ……」

 

 名残惜しいのか、列車を気にしながらも別れを惜しむ義理の弟の頭を少女は撫でる。

 

「“リィン”……くれぐれも体には気をつけるのよ」

 

「うん、ありがとう……行って来ます。“エリゼ姉さん”」

 

 少年――リィンは列車に乗る。

 少女――エリゼはそれを見送った。

 

 

 

 

 

 

「あ! 蒼の騎士様だ!」

 

 道を歩けば子供が歓声を上げる。

 

「あの人がセドリック皇子と共にカイエン公を倒してくれた英雄なのね!」

 

 それはかつて望んでいた羨望の眼差し。

 

「お疲れ様です《蒼の騎士》殿!」

 

 軍人はまるで憧れを見るように誇らしげな眼差しを向けて来る。

 

 ――やめてくれ……

 

 尊敬の眼差しを向けられる度にクロウは《英雄》としての笑顔を顔に張り付け、心の中では血を吐く。

 

 ――そんな目で見るな……

 

 オズボーンの手によって作られたクロウのカバーストーリーと《英雄》としての偶像。

 本人が生きていたから暗殺の件は有耶無耶にされ、貴族連合の先兵として暴れ回ったことさえもなかったかのように人々はクロウを称える。

 

 ――頼むから、誰か俺を殺してくれ……

 

 罪悪感に胸を焦がすも、人々はひたすらにクロウの事を《英雄》だと持ち上げ、称える。

 多くの者を自分勝手な理由で殺したクロウには与えられた《英雄》の仮面を自分で剥がす権利などない。

 できることは……

 悪夢から目を覚ますとクロウは死んだ目でテーブルの上に置いてあるオズボーンから貰った火薬式のリヴォルバーを手に取る。

 弾は六発中、五発が入っている。

 弾倉を勢いよく回転させながら、装填。

 

「くそっ……」

 

 何度やっても慣れない震える手でクロウは銃口を顎の下に突き当てて――引き金を引いた。

 カツンーと小さな音を立てて銃は不発する。

 

「はっ……ははっ……どんな運だよ」

 

 あの日から毎日行っている自殺未遂。

 もう内戦が終わって二年近くの月日が経つというのに、ギャンブルに弱いはずのクロウは六分の一の確率を延々を引き続けている。

 《黄昏》に向けて確定した《起動者》であるクロウにはもはや死ぬ自由さえ因果が許さない。

 例え死ぬことができたとしても《不死者》となって無理矢理生かされると知らされてしまえばさらに陰鬱な気持ちになる。

 そんなクロウの気持ちとは裏腹に、ドアがノックされて明るい声が掛けられる。

 

「朝だよっ! クロウ君っ! 起きてる?」

 

 聞こえて来たトワの声に逆らうように、クロウは銃を隠すようにベッドの中にうずくまる。

 

「もう……やっぱりまだ寝てる」

 

 返事がないため、部屋に踏み込んだトワはベッドの中のクロウを見て肩を竦める。

 

「ふわぁ……あと五分……ぐぅ……」

 

「ダメだよクロウ君! 起きてっ!」

 

 カーテンを開いて差し込む朝日を拒むようにクロウ・アームブラストは布団に蹲る。

 そんな彼をトワは揺さぶって起床を促す。

 

「これでもギリギリまで待ったんだよ! 早く起きないと朝ごはん抜きになっちゃうよ!」

 

「くっ……しゃあねえな」

 

 引き合いに出された食事に負けてクロウは身を起こす。

 

「もう、クロウ君ってば。明日からは起こして上げられないんだよ。一人で起きられないといけないのに本当に分かってるの?」

 

「俺のせいじゃねえよ。アランドールの奴に“要請”でこき使われていたんだよ。ったく、こっちは今日から入学式だって言うのに……」

 

「それは……」

 

「はっ……ただの愚痴だ。気にすんな」

 

 顔を曇らせるトワにクロウは自虐の苦笑をして立ち上がる。

 

「まさかこんな事になるなんてね……サボるか」

 

「ダメだよクロウ君」

 

 思わず漏れた願望をトワは睨むように咎める。

 

「わーってるよ……っと、そろそろ着替えないとまずいな」

 

「うん、それじゃあ私は先に行ってるね。ちゃんと時間までに来ないと校長先生のお説教だよ」

 

「うえ……それは勘弁だ」

 

 それを想像してクロウは苦い顔をする。

 ただでさえ気が乗らないが、説教と天秤を掛けてクロウはため息を吐く。

 

「それじゃあクロウ君。後でね」

 

 とりあえず二度寝の心配はないと判断してトワは部屋から出て行った。

 それを見送り、クロウはため息とベッドに身を投げ出す。

 

「ったく、何でこんなことになっちまったんだろうな」

 

 自業自得と言われてしまえばそれまでなのだが、この償いは全く考えていなかった。

 

「ヴァルカンやスカーレットに見られたら笑われるだろうな……」

 

 かつての級友ではなく、同志の顔を思い出してクロウは自嘲する。

 

「――行くか」

 

 感傷に浸るのをやめ、クロウは身を起こし準備していた制服に着替え――

 

「ああ、くそっ……やっぱり学院なんて行きたくねえ」

 

 

 

 

 

 ざわざわ……

 リーヴスに新設されたトールズ士官学院第二分校の校庭では集められた生徒達がそれぞれ新たな学友となる者達と雑談を興じていた。

 軍人の卵とは言え、その姿は年相応のあどけなさがあった。

 そんな彼らも校舎から現れた教師たちの姿を見つければ、口を噤む。

 

「あ、あの女性は……!?」

 

「まさか…………《黄金の羅刹》……?」

 

 教師たちの中で一番後ろを歩く女性の姿に慄く。

 彼女の名はオーレリア・ルグィン。

 帝国の武において五本の指に数えられる猛者。

 

「そ、それにあの銀髪の人って……」

 

「ええっ…………あの有名な……!?」

 

「くっ……」

 

 銀髪の青年、《蒼の騎士》クロウ・アームブラストの存在に色めき立つ周囲を他所に不快そうに顔を歪める者達が数人。

 だがオーレリアやクロウの存在以上に存在感を持つ者が教師陣の中にはいた。

 

「おい……あれって……?」

 

「うそ、本物……?」

 

 その存在に理解が追い付かず生徒達は混乱する。

 そこに先頭を歩いていた軍人風の男が生徒達の前で足を止めて彼らを諫める声を上げる。

 

「静粛に! 許可なく囀るな!」

 

 一声で厳しい教官だと気付くと浮ついていた生徒達は一様に口を噤み、佇まいを直す。

 統率のないバラバラな動きにその教官は顔をしかめるが、不満を呑み込んで教官は続ける。

 

「これよりトールズ士官学院《第Ⅱ分校》の入学式を執り行う!

 本分校を預かる分校長からの御言葉である――分校長、お願いします」

 

 教官は場所を開けオーレリアは前に進み出て、生徒達を見回して威風堂々とした佇まいで名乗る。

 

「《第Ⅱ》の分校長となったオーレリア・ルグィンである」

 

 その名乗りに思わず生徒達は息を飲む。

 そんな反応にオーレリアは愉し気に笑みを浮かべて続ける。

 

「外国人もいるゆえ、この名を知る者、知らぬ者はそれぞれだろうが、一つだけしかと言える事がある……

 うすうす気付いている通り、この第Ⅱ分校は“捨石”だ」

 

「分校長!?」

 

 その発言に驚いたのは生徒達よりも先程号令をしていた教官だった。

 あまりにも明け透けな発言に狼狽える教官をオーレリアは無視する。

 

「去年入学したものの、政務に励んでいた皇太子は本年度《トールズ本校》に復帰なされた……

 そこで受け入れられない厄介者や曰く付きをまとめて使い潰すために新設されたのがこの《トールズ第Ⅱ分校》と言うわけだ……

 そなたらも、そして私を含めた教官陣も同じであろう」

 

 オーレリアの言葉に生徒達は顔を見合わせる。

 

「おいおい……」

 

「ぶ、分校長! それはあまりに――」

 

 歯に衣着せぬオーレリアの発言に二人の教官が心当たりがあると言わんばかりの反応を示す。

 

「だが、常在戦場という言葉がある……

 平時で得難きその気風を学ぶには絶好の場所であると言えるだろう」

 

 使い潰す最前線だからこそ、得られるものがあるのだとオーレリアは言う。 

 

「自らを高める覚悟なき者は今、この場で去れ!」

 

 突然の一喝に生徒達は体を竦ませる。

 

「――教練中に気を緩ませ、女神の元へ行きたくなければな」

 

 しかし続く優しさが籠った言葉に生徒達はそれぞれの思いで受け止め、去ると名乗り出る者は一人も現れなかった。

 

「フフ――ならば、ようこそ《トールズ士官学院・第Ⅱ分校》へ!」

 

 そんな生徒達の意志を激励するようにオーレリアは声に力を込める。

 

「『若者よ、世の礎たれ――

 かのドライケルス帝の言葉をもって、諸君を歓迎させてもらおう」

 

 

 

 

 オーレリア分校長の御言葉が終わると、生徒達の視線は彼に集まった。

 

「あの……分校長……その人は……」

 

「ああ、紹介しよう。前に出ろクロウ・アームブラスト」

 

「うーっス」

 

 オーレリアの言葉に銀髪の青年は前に進み出る。

 彼の返事に教官の一人は顔をしかめるが、それを背後にクロウは名乗る。

 

「クロウ・アームブラストです。今日から皆さんと同じ《第Ⅱ分校》に参加させてもらいます」

 

 にこやかな笑みを顔に張り付けて、自分達と同じ蒼い制服を着こんだ年上の青年はそう名乗った。

 

「えっと……質問よろしいでしょうか?」

 

 誰もが困惑して固まる中、黒髪の少年が挙手をして発言を求める。

 

「許可しよう。そなたは――」

 

「ノルティア州ユミル出身のリィン・シュバルツァーです」

 

 そう名乗った瞬間、寒気を感じる程の強い視線が周囲から睨みつけられる。

 何事かとリィンは首を竦めながら、質問を言葉にする。

 

「み、見たところ、クロウ……さんは年上のようですが、教官ではないんですか?」

 

「あ……」

 

 名乗った少年に背の低い教官は何かを言いかけて口を一度噤み、その質問に答える。

 

「はい、クロウ君は22歳で皆さんよりも年上です」

 

 その答えに生徒はざわめき出す。

 

「そうだよな……そもそも《蒼の騎士》って本校生じゃなかったか?」

 

「そう聞いてるけど、いったいどういうことなんだろう?」

 

「静粛に!」

 

 口々に疑問を呟く生徒達を教官が一喝する。

 

「ハーシェル説明を」

 

「はい……

 知っている人もいるようですが、クロウ君は《本校》の生徒でした……

 ですが一年半前に始まった帝国の内戦から休学していて、貴族連合の筆頭騎士として騙されて利用されていたクロウ君は留年と正規軍への奉仕活動を行うことで執行猶予をもらえました」

 

 小さな教官はクロウを一瞥して続ける。

 

「本来なら先月に本校を卒業して、帝国情報局に配属されることになっていたんだけど、そこで問題が見つかりました」

 

「それは……?」

 

 小さな教官は言い辛そうにしながら答えた。

 

「入学書類の偽造です」

 

 教官の答えに生徒達の視線はクロウに集中する。

 

「クロウ君は名前こそ本名でしたが、出身地やそれまでの学歴など虚偽報告していた事が判明して、このまま卒業させて良いのかと問題になったんです」

 

 貴族連合の後ろ盾があった偽造であっても、そんな人物に帝国の名門であるトールズ士官学院の卒業資格を与えて良いものかと本校の教官たちは頭を悩ませることになった。

 他にも出席日数などの余罪はあるのだが、教官はそれには触れずに続ける。

 

「教官たちの話し合いの結果、クロウ君には《第Ⅱ分校》で一年生をやり直してもらうことになりました」

 

 小さな教官の答えに校庭に何とも言えない静寂が満ちる。

 

「卒業するはずだったのに一年生に入学し直すって……留年?」

 

「いえ、留年というのは進級できず同じ学級に留まることを示す言葉なので、この場合には不適切かと思われます」

 

「じゃあ落第?」

 

「いや、それは試験に落ちるという意味で使われるはずだ」

 

「じゃあこういうのは何って言うの?」

 

「それは……学年が下がった……?」

 

「学年って下がるものなの!? こわい」

 

 ざわめき出す生徒達の困惑が分かるのか、私語を諫めていた教官は何とも言えない顔をしてその喧騒を見逃す。

 

「こほん、いいみんな! たしかにクロウ君はみんなより年上だけど、いじめたりしちゃダメだからね」

 

「くっ……」

 

 小さな教官の言葉にクロウは呻く。

 

「…………彼の事は分かりました……それで……そちらの人? はどなたでしょう?」

 

 クロウの紹介は理解したとリィンは告げて、生徒達が気にしていたもう一人? に視線を送る。

 

「うむ、そなたも挨拶をすると良い」

 

 鷹揚に頷き、オーレリアは彼を促す。

 彼は前に進み出て名乗る。

 

「みしし……こんにちは~、みっしぃだヨ!」

 

 白と灰色のハチワレ柄をしたウザ可愛いデザインが特徴の着ぐるみはクロウの事で緩んだ厳格な空気を更にぶち壊して名乗った。

 

「初めましての人は初めましてだネ~☆」

 

 生徒や教官たちの動揺を他所にみっしぃは独特な緩い口調で挨拶をしてまるでテーマパークにいるように手を振る。 

 

「ボクはクロスベルのミシュラムって言う所で働いていたみっしぃって言うんだ~

 でも実はそのミシュラムが無期限の営業停止中なんだよ……

 だけどボクも生活するためには働かないといけないからルーファス総督に何かお仕事をさせてくれないかって頼んでみたんだ~

 そしたら《第Ⅱ分校》の教官のお仕事をしてみないかって紹介されたんだヨ~」

 

「みっしぃが……働く……いや……」

 

「言いたいことは分かるけど……」

 

 マスコットもお給料がないと生きていけないという世知辛い話に生徒達は何とも形容しがたい顔をする。

 

「ボクは《Ⅶ組》の担当教官になるからよろしくね~

 あと帝国史と世界史をみんなに教えて、戦闘教練と機甲兵教練のお手伝いもするからよろしくね~」

 

 意外と多芸にカリキュラムに関わると知って生徒達はより困惑を深める。

 

「ボク、ワンダーランドから出て帝国に来たばっかりなんだ~

 教官をするのも初めてで、分からないことも多くて眉毛もフニャフニャしちゃうんだけど」

 

 不安げに俯いたみっしぃはそれを振り払うように大きな手を握り締めて決意を表明する。

 

「ボクの夢は、みんなとエンジョイして沢山のハッピーを届けることっ!

 分校長はみんなやボクの事を“捨石”って言ってたけど、ボクはみんなハッピーになれる学院生活ができるように頑張るネッ☆」

 

「み、みっしぃ……」

 

「それじゃあみんな! ボクと一緒に――エンジョイ、みっしぃ☆」

 

 みっしぃのキメ台詞は空しく校庭に木霊する。

 

「みんな元気がないよ。ほら、もう一度――エンジョイ、みっしぃ☆」

 

『え……エンジョイ、みっしぃ……』

 

 みっしぃのノリに押し切られて生徒達は思わず唱和する。

 それをオーレリアは満足そうに頷き、教官の一人は額に手を当てて唸る。

 

「………………何だこれ……?」

 

 そんな光景をリィンは訳が分からないと首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

 エンジョイ、みっしぃと沸き立つ生徒達を校舎の上で見下ろす人影があった。

 

「フフ……」

 

 不敵な笑みを浮かべるその青年は異様な風貌をしていた。

 長く白い髪。

 装飾を施された位が高いと思わせる軍服。

 そして顔には鬼を彷彿とさせる仮面。

 

「もうすぐだ……」

 

 鬼の青年は黒髪の少年を空を見上げながら呟く。

 

「この時をどれだけ待ち侘びたか……」

 

 淡々としているような、陶酔しているような、空虚な言葉を誰ともなく青年は語り掛ける。

 

「これでようやく、世界を……終わらせられる……創められる」

 

 喜悦を含んだ、憤怒に満ちた、悲嘆にくれた、享楽に弾んだ、感情が入り乱れた声で青年は眼下の生徒達を見下ろす。

 

「待っていてくれ……近い内に、必ず迎えにいく。そして一つになろう」

 

 堪えるように伸ばした手を青年は引き戻し、踵を返す。

 

「そして、見届けよう私達が創る、新たな世界を――」

 

 その言葉を最後に青年は士官学院の屋上から忽然と姿を消した。

 

 

 

 







原作からの変更点
リィン・シュバルツァー 17歳
新入生一年。八葉一刀流《初伝》。
復興した温泉郷ユミルに迷い込んだ出自不明の少年。
テオ・シュバルツァーが保護して家族として迎え入れられたエリゼの弟。

クロウ・アームブラスト 22歳
内戦を生き残ったクロウは一年の奉仕活動をへて士官学院を卒業、情報局に入局するはずだった。
しかし、前述の理由で彼の卒業に待ったが掛けられ、ならばという事で《第Ⅱ》で一年生をやり直すことになった22歳。

みっしぃ・ミシュラム ?歳
第Ⅱ分校の教官、原作でのリィン枠。
ミシュラムが無期限で閉鎖しているため、出稼ぎに来ているミシュラムワンダーランドのマスコット。
中の人はいない。
少しだけ先のイベントを明かすと、普段は旧みっしぃの体だが、本気の戦闘をする時や機甲兵教練になると機甲兵に乗るために黎Ⅱの新みっしぃとなる。
本人曰く、気功術による体型操作の一種らしい。



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