閃の軌跡Ⅲ ―偽りの仮面―   作:アルカンシェル

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10話 サザーランド州Ⅰ

 

 

 

 

 セントアークとパルム。

 その中間、帝国の各地を繋ぐ鉄道網から逸れて延線されたその場所は鉄道憲兵隊が様々な活動で使う広い草原地帯。

 《デアフリンガー号》が到着すると、その余韻に浸る間もなく作業が始まる。

 荷物が下ろされてテントや天幕を張り魔獣除けの導力器を各所に設置していく。

 そして演習の目的である《機甲兵》が列車から降ろされる、Ⅶ組、Ⅷ組、Ⅸ組はそれぞれの担当教官の指示を仰ぐミーティングを受けていた。

 

「Ⅷ組戦術科は戦闘訓練に機甲兵によるミッション演習……

 Ⅸ組主計科は通信、補給、救護などの実践演習を予定しているヨ」

 

 《デアフリンガー号》のブリーフィングルームにはⅦ組が集まり、クレアが同席した上でみっしぃからの説明を受けていた。

 

「クロウ君達五人、《Ⅶ組特務科》の主要活動は主に三つ……

 一つは『広域哨戒』。現地周辺に敵性勢力がいないか偵察することと、大型魔獣などの安全確保を兼ねた“情報収集活動”だヨ~」

 

「情報収集か……」

 

 みっしぃの言葉にクルトは頭に周辺の地図を思い出す。

 

「二つ目は『現地貢献』。本演習を現地に肯定的に受け入れてもらうための挨拶回りや支援活動をしてもらうヨ~」

 

「現地貢献か……具体的には何をすりゃいいんだ?」

 

 どこか懐かしさを感じる演習の内容にクロウは質問する。

 

「とりあえず一番最初にしてもらうことはサザーランド州の領主に分校長からの書状を届けてもらうヨ」

 

「サザーランド州の領主ってことはハイアームズ侯爵か……

 一応聞いておくが、俺達だけで行くんだよな? 教官はついて来ないんだよな?」

 

 念入りにクロウは確認する。

 Ⅶ組が第Ⅱ分校の代表として周辺を回る事に特に異議はない。

 問題なのは担当教官がそこについて来るのかどうか。

 既に慣れたリーヴスはともかく、みっしぃがついて来るならば現地貢献の意味合いが違って来る。

 

「うん……残念だけどボクはここでお留守番だヨ~。今日の夕飯はボク特性のみっしぃカレーだから楽しみにしててね~」

 

「…………料理までできるんですか?」

 

「つくづく意味不明ですね」

 

 みっしぃがついて来ないことに安堵しながらリィンとアルティナは新たに判明したみっしぃの特技に呆れる。

 

「それで三つ目の活動は何ですか?」

 

 ユウナが説明の先を促す。

 

「三つ目はずばり『仲良し大作戦』だよ!」

 

「な、仲良し大作戦っ!」

 

 明らかに前二つとは異なる演習にユウナは声を上げる。

 それをスルーしてみっしぃは説明を続ける。

 

「シュミット博士からの申し出でね……

 君達の《戦術リンク》のレベルがこの一ヶ月で全く上がらないから、それを改善して欲しいって言われてるんだよ」

 

「そんなこと言われてもな……」

 

 合体機構を研究したがっているシュミット博士らしい要求だが、クロウはため息を吐く。

 リィンにも言われたが関係改善と言われても、互いに嫌っているという点で歩み寄りは望めない。

 そもそもクロウとしては律儀にシュミット博士に付き合う理由もない。

 それはユウナもクルトも同じである。

 

「ダメだよみんなでエンジョイするためにもいつまでもそんなんじゃ……

 だからボクがみんなが仲良くなれるための課題を作っておいたよ」

 

「課題ですか?」

 

 嫌な予感を感じながらリィンは聞き返す。

 

「うん、セントアークまでみんなで腕を組んでみっしぃステップを――」

 

「みっしぃ教官、悪ふざけはこの場では必要ありません」

 

 みっしぃの提案は最後まで言い切る事なくクレアの一言で切り捨てられた。

 

「悪ふざけじゃないのに……」

 

 しょぼんと肩を落とすみっしぃをユウナは慰めたくなるが、みっしぃステップをセントアークまでやらされることを思いぐっと堪える。

 

「三つ目の課題は一先ず置いておくとして、《Ⅶ組》の皆さんにはこれからセントアーク市に向かって頂き、ハイアームズ侯爵と面会して頂きます」

 

 みっしぃに代わってクレアが話を引き継ぐ。

 

「それにしても良いのか?

 手紙の配達とは言え、こういうのは本来なら教官がするもんだろ?」

 

 偉い人への挨拶回り。

 やる前から気がそがれることにクロウはせめてもの抵抗に難癖をつける。

 

「ええ、本来なら分校長が《Ⅶ組》を引率する形で伺う予定でしたがその分校長がいらっしゃいませんし、《Ⅶ組》の担当教官がみっしぃでは道中どんなトラブルが起きるか分かりません……

 箔と言う意味でなら生徒であっても《蒼の騎士》なら十分でしょう。貴方もハイアームズ侯爵とは面識はあるでしょうから」

 

「…………ま、理屈は分かったが……」

 

 クレアの意見にクロウは反対意見を呑み込み、隣に視線を向けた。

 それに釣られてリィン達もユウナに視線を集中させる。

 

「な、何よ……?」

 

 集まった視線にユウナは思わず怯む。

 

「お偉いさんへの挨拶に行くのにこいつを連れて行くのはまずいんじゃねえか?」

 

「ちょっとそれどういう意味よっ!」

 

 クロウの言葉にユウナはすぐさま反応して席を立つ。

 

「これについては俺もクロウと同意見です」

 

「ハイアームズ侯爵に失礼な態度を取るでしょう」

 

 リィンとアルティナはクロウの指摘に賛同する。

 学院でも何かと帝国人に対して反発心が強いユウナを連れて行って何か大変な失礼をするのではないかと考えてしまう。

 

「二人ともユウナもそこまで考えたらずじゃない……

 それにハイアームズ侯爵は貴族の中でも温厚な方だ。もし何かあっても僕がフォローするから安心してくれ」

 

「クルトがそう言うなら」

 

「……元々任務ですので私が口を挟むことではありません」

 

 クルトのフォローにリィンとアルティナは不安を呑み込む。

 そのフォローもフォローしているのか怪しい言葉でユウナは抗議しようと口を開き――

 

「そんじゃま装備を整えて出発するとするか」

 

 有無を言わせずクロウが音頭を取って《Ⅶ組》はセントアークに出発するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 セントアークに辿り着いたⅦ組を出迎えたのは早朝だと言うのに街には喧騒が満ちていた。

 

「何かあったのかしら?」

 

 白亜の街並みに見惚れながらユウナは首を傾げる。

 

「これは……申し訳ありません。ハイアームズ邸へ案内する前に状況を確かめさせてください」

 

 クレアは一言断って前を歩き出す。

 向かった先は先程《デアフリンガー号》で通過した駅舎。

 そこには人だかりができており、その向こうから拡声器を通した声が響いて来た。

 

「我々はハイアームズに抗議するっ!」

 

 セントアーク駅を占領した者達の抗議の声が響き渡る。

 

「これはいったい……?」

 

 散漫的に聞こえて来る銃声と人々の悲鳴にクルトは息を飲む。

 

「通してください!」

 

 帽子を脱いで人混みを掻き分けたクレアにリィン達は続く。

 そうして辿り着いたのはセントアークの駅舎。

 早朝から仕事に行くために駅に来た者達は駅の扉の前で駅員を人質にした男たちを遠巻きにしていた。

 

「我々の要求は一つっ! 不当に逮捕された同志たちの解放だっ!」

 

 リーダー格の男は駅員に導力銃を突き付けながら叫ぶ。

 

「な、何よあれ?」

 

「いわゆる貴族くずれです」

 

 駅を占拠している立てこもり犯たちに思わず叫ぶユウナにクレアが答える。

 

「一年前の内戦で多くの貴族達がその特権と資産を没収され、市井に帰属することになりました……

 ですがその生活に適応できなかった者達が集まって、抗議活動や犯罪に走るケースが多く発生しています」

 

 クレアは通信で鉄道憲兵隊の本隊へ連絡しながら簡潔に彼らの事情を説明する。

 

「見たところ彼らはサザーランド州の元子爵の跡取りになるはずだった青年達ですね……

 貴族連合に参加して得られるはずだったものを得られず敗走して全てを失った」

 

「だから自棄を起こして人質を取って駅を占領したってか?」

 

 おどけて見せるクロウにクレアは冷めた眼差しを向ける。

 

「貴方が以前ザクソン鉄鉱山で行った事と同じですね」

 

「ちっ……いちいち蒸し返すなよ」

 

「彼らの裏にいるのはおそらく……いえ、今は良いでしょう」

 

 言いかけた言葉を遮り、クレアはリィン達に向き直る。

 

「申し訳ありませんが、Ⅶ組の皆さんには彼らの捕縛を手伝って頂きます」

 

「おいおい少佐さんよ。それを学生活動にするには無理があるだろ。何より自慢の鉄道憲兵隊はどうした?」

 

 クレアの申し出にクロウは難色を示す。

 

「隊は後三十分で到着します」

 

「だったらあんたらで対処しろよ」

 

「……ええ、本来ならそれが正解なのですが……」

 

 何か嫌な予感があるのかクレアは言い辛そうに顔をしかめる。

 

「ちょっとクロウ先輩! それは本気で言ってるんですか!」

 

 乗り気にならないクロウにユウナが喰ってかかる。

 

「あそこに悪い奴がいて! 沢山の人が困ってる! 私達にできることがあるんだったらクレアさんに協力するべきでしょ!」

 

「はっ……生憎と俺はそんな殊勝じゃねえんだよ。正式な帝国政府からの要請がない限り、こいつらに協力する気はねえんだよ!」

 

「なっ!?」

 

 クロウのあまりの物言いにユウナは絶句する。

 そんな彼女を畳み掛けるようにクロウはそれを指摘する。

 

「それは本気で言っているんですか? やっぱり貴方は最低ですね」

 

「お前こそ本気で言っているのか?」

 

「え……?」

 

 逆に言葉を返されて意味が分からないとユウナは訝しむ。

 そんな彼女にクロウは彼らを親指で指して告げた。

 

「あそこにいるのはお前のお仲間だろ?」

 

「は……?」

 

「今の帝国が気に入らない。そう、いつも言ってるお前にそっくりじゃねえか」

 

「なっ!?」

 

 罪のない人を人質に取り、勝手な主張を叫ぶ貴族くずれに目を向けてユウナは言葉を失う。

 

「――ち、違う! 私は――」

 

「何が違うんだよ!? 奴等は貴族としての地位と領地を奪われた。クロスベルと同じ仲間じゃねえか」

 

「違う! 私は――私たちは!」

 

「ちょっと二人とも落ち着いて!」

 

 熱くなるクロウとユウナの間にリィンが割って入る。

 

「ちっ――」

 

「きっ――」

 

 舌打ちをしてそっぽを向くクロウとそんな彼を親の仇と言わんばかりに睨みつけるユウナ。

 とてもではないがクレアに協力して立てこもり犯の捕縛に協力できるような空気ではない。

 

「クレアさん、流石に俺達には荷が重い――」

 

 そうリィンが進言しようとしたところで――――リュートの音色がそこに響いた。

 

「フッ……哀しいことだね」

 

 喧騒の中、その声は異様に響き渡った。

 リィン達がクロウとユウナの言い合いに気を取られている間に人垣から進み出た貴族然とした青年はリュートを鳴らして憂いに満ちた顔で嘆く。

 

「争いは何も生み出さない……ただ不毛な荒野を広げるのみさ」

 

 陶酔した語り口に立てこもり犯と野次馬たちは静まり返り、そこには彼が鳴らすリュートの音色が響き渡る。

 

「くっ……どうして彼が……いくら何でも早過ぎます」

 

 クレアはそんな彼の登場に顔をしかめる。

 

「そんな君たちに、歌を贈ろう。心の荒野を潤して美しい花を咲かせられるような、そんな優しくも切ない歌を」

 

「い……いったい何が始まると言うんだ?」

 

 無防備に駅に向かって歩き出す青年を止めることも忘れてクルトは狼狽える。

 

「何だお前は! 来るんじゃねえ!」

 

 立てこもり犯の一人が青年に向けて導力銃を撃つ。

 威嚇の銃弾は青年の足下を穿ち、土煙を作る。

 だが、青年はそれを意に介さずに一歩更に近付いてリュートを本格的に演奏し始める。

 

「陽の光 映す 虹の橋 掛け渡り 君の元へ……♪」

 

 立てこもり犯と野次馬達を観客にして青年は本当に歌い出す。

 

「求めれば 空に 溶け消えて 寂しいと 風が舞う……♪」

 

 青年はまさに白い青年だった。

 真っ白なコートに真っ白な髪。

 踊る様に演奏して振り返った目は赤い灼眼の瞳が特徴的であり、リィンは思わず見入ってしまう。

 

「届くことなどない はかない願いなら せめてひとつ 傷を残そう……♪」

 

「う、撃てっ!」

 

 リーダーの指示に立てこもり犯たちは演奏しながら近付いて来る青年に一斉に導力銃を向けて引き金を引く。

 

「はじめての約束 守らない約束 君の吐息 琥珀にして 永遠の夢 閉じ込めよう……♪」

 

 しかし無数の銃弾は当たらない。

 悦に入ったように歌い、右にステップを踏んで左に跳んで、踊りながら歌う男は銃弾の雨を気にも留めずに歌い切り、立てこもり犯たちの前に立った。

 

「な、何なんだお前は?」

 

「僕はしがない旅の演奏家にして平和主義者さ」

 

 目前で銃口を向けられながら青年は動じずに気取った笑みを浮かべる。

 

「フッ……どうやら判ってくれたようだね……それは愛と平和だという事を。今風に言えば、ラブ&ピース」

 

 決まったと言わんばかりに青年は立てこもり犯たちに向かって手を差し伸べる。

 

「さあ、その銃を下ろして、手を取り共に歌おうじゃないか!」

 

 そんな青年の誘いに立てこもり犯たちは導力銃を下ろし、差し出された手を――無視して青年を殴った。

 

「ぎゃふんっ!」

 

「テメエふざけんなっ!」

 

「邪魔しやがって! テメエみたいなふざけた貴族がいてどうして俺達が!」

 

 殴られて倒れた青年に立てこもり犯たちは群がって足蹴にする。

 

「…………はぁ……やはりこうなってしまいましたか……」

 

 嘆くようにクレアは一連の光景に額を押さえて項垂れる。

 

「クレア少佐……これは……いや彼はいったい?」

 

 リンチされている彼を助けに行くのを忘れてリィンは尋ねる。

 

「彼は……」

 

 クレアはとても言い辛そうに口を開く。

 

「半年ほど前から帝国の各地で目撃されるようになった変人です」

 

「変人……それは言われなくても分かります」

 

「今回の様な貴族くずれが起こした事件や猟兵くずれの犯罪、他にも数々の騒動に勝手に首を突っ込んできて滅茶苦茶に被害を広げていく傍迷惑な変人です」

 

 どれだけ彼に振り回されて来たのか、語るクレアの口調には哀愁が滲んでいた。

 

「……それより皆さん、彼らの捕縛の準備を」

 

「おい! だから――」

 

「もう簡単な後始末ですよ」

 

 クロウの抗議を遮り、クレアは肩を竦めて説明をする。

 

「彼らはもう弾を撃ち尽くしています。弾倉を換えることを忘れている今がチャンスです」

 

 そのクレアの言葉にクロウ達は顔を見合わせる。

 そして彼女が言う通り、青年を蹴る事に夢中になっていた立てこもり犯たちはあっさりと捕縛されるのだった。

 

 

 

 

 

「やあ、クレア君。今日も美しいね」

 

 遅れてやって来た鉄道憲兵隊に立てこもり犯たちを引き渡すとリィン達はその青年に向き直った。

 

「それはどうもありがとうございます」

 

 青年の開口一番の口説きの言葉に冷たい目を返してクレアは淡々と告げる。

 

「私は何度も言ったはずですよね? 民間人の貴方が事件に出しゃばるなと」

 

「ふっ……クレア君との約束を破る事は心苦しいのだが、目の前の人の命が危険にさらされると思うとつい歌い出したくなってしまってね……

 ところでクレア君、彼らは何者だい? 鉄道憲兵隊の新人かな?」

 

 青年は怒っているクレアに気付いていないのか、それとも怒られることから逃げるためかリィン達に興味を示す。

 

「いえ……俺達は鉄道憲兵隊ではなくてトールズ第Ⅱ分校の生徒です」

 

 テンションの高い青年に気押されるながらリィンは反射的に答えていた。

 

「ほう……君達が噂の……」

 

 青年はしたりと頷くときざったらしい仕草で前髪をかき上げて名乗った。

 

「僕の名前はオリビエ・B・アレイスター……しがない旅の演奏家で平和を求める夢追い人さ」

 

 

 

 

 




使用楽曲

「 琥珀の愛 / 空を見上げて~英雄伝説 空の軌跡 ボーカルバージョン~ / Copyright © Nihon Falcom Corporation 」


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