閃の軌跡Ⅲ ―偽りの仮面―   作:アルカンシェル

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とりあえず安い中古のPCを買って、壊れたPCからSSDを取り出してデータは取り出せました
半分くらいは書き直すことになりましたが、とりあえず投稿できる状態は整えましたがまだ不安定になると思います

とりあえず途中まで書いたものを完成させて投下させていただきます


また今回の話では《超帝国人》についての設定を盛りに盛っているので御注意ください




100話 マッドティーパーティ

 

 タンタンタン。

 規則正しい音がカレル離宮の広間に響く。

 シャリシャリシャリ。

 持参した果物を淀みない手付きで切り分けて、《太刀使い》は皮を剥いて食べやすいように加工していく。

 

「ん……」

 

 一方で、これまた彼らが持参した箱からデッシャーを使ってアイスをすくって皿に盛りつけていく。

 それはよくある日常の光景であり、格式の高い離宮でも珍しい光景ではない。

 ただし彼らの姿が仮面と頭まで覆い隠したフードがなければの話。

 

「…………」

 

 起動者たち一同はその光景を何とも言えない空気で見守る。

 

「ワイスマン君。これはいったい何をしているのかね?

 君は話をしに来たはずでは?」

 

「ふふ、先程も言いましたよね。タダで席に座ろうだなんて考えてないと……

 なのでこうして氷菓子とお茶を用意してきたので、それを食べながら気楽に話しましょう」

 

「……大した気遣いだが、できれば遠慮したいね」

 

 オリヴァルトはその場の空気を読み取って一同の意志を代弁する。

 晩餐会の空気は決して悪いものではなかった。

 多少の蟠りを感じる場面はあったものの、互いの立場を尊重し会話し、情報交換を行えた。

 しかしワイスマンが現れてから、その空気は一変した。

 

 ――ボクにもこんな感情があったなんてね……

 

 オリヴァルトは自分の知らなかった一面を他人事のように受け止める。

 吐き気を催す嫌悪感。

 オリヴァルトがワイスマンと直接相対した事はこれが始めただが、彼がエステルやヨシュアに行った悪行を思えばその感情は当然だと納得する。

 

「まあ、そう言わずに……

 たしかに君たちが先程まで食べていた宮廷料理と比べれば大したものではないし、用意した茶葉も安物ですけどね……

 ただ私としては高いものよりもこちらの方が好みなんですが」

 

「あなたの好みなんてどうだって良いのだけど」

 

 思わずヴィータが愚痴を漏らす。

 そうしていると彼らが持ち込んだ導力ポットの湯が沸騰し始めた。

 

「…………」

 

 《太刀使い》が果物ナイフを置いて沸いた湯を別のポットへと入れ替える。

 

「なるほど……」

 

 紅茶を淹れるその手付きを警戒するように監視していたメイド長はどこか軽んじるように頷いた。

 

「ふむ……何か気付いたのかねクルーガー?」

 

「ええ……」

 

 オズボーンに対してメイド長は頷き、告げる。

 

「彼はシルバードロップの認定を受けたものですね」

 

「そうかシルバー…………んん?」

 

 自信満々に告げられた言葉に理解が及ばなかったオズボーンは――他の者たちも揃って首を傾げる。

 

「クルーガー、シルバードロップとは何だね?」

 

「シルバードロップ……

 つまりは紅茶を淹れるための資格の事です……

 わたしくは当然ゴールドドロップの認定を受けたものです……

 皆さんに分かりやすく言い換えると……わたくしは《皆伝》。彼は《中伝》と言った所でしょう……

 つまり恐るるに足りません」

 

「ちなみに私はブロンズドロップの認定を受けています」

 

 メイドRが口を挟むのだが、それがどうしたという空気が流れる。

 

「そ、そうか……」

 

 メイド長の評価にオズボーンは困惑しながらも頷く。

 

「しかもあれは帝国式ではなくリベール式ですね」

 

「つまり彼はリベール人という事か」

 

 オズボーンはワイスマンに繋がりそうなリベール人を考えるが、思い当たる人間を一人思い浮かべる。

 

「いや……あり得ないな」

 

 オズボーンは考えた可能性を否定する。

 しかし、それでは仮面の二人は何者なのか。

 それを考えている間にお茶の準備が整う。だが――

 

「この人数の場合は先にティーカップを配り、そこからポットを持って回るのが最善……

 段取りの悪さ、やはりシルバードロップにはお客様をおもてなしするには十年早い」

 

 総勢二十一人の給仕をたった二人で行う上での段取りがなってないとメイド長は辛辣な評価をする。

 

「ん――」

 

 どうしようかと迷うように立ち尽くす《太刀使い》に《人形遣い》が動く。

 短い言葉を合図に、七つの《戦術殻》が現れるとアイスと紅茶を乗せたトレイをそれぞれが手に取って配膳を行う。

 

「っ……考えましたね……

 飛んでいる戦術殻ならば極めて平行な移動ができる。それと数による一斉行動ならば――」

 

「馬鹿なあり得ないっ!」

 

 メイド長の言葉を遮ってアルベリヒがテーブルを叩いて立ち上がる。

 

「戦術殻の七体同時操作だと!? そんなものできるわけないっ!?」

 

「どういうことだねアルベリヒ?」

 

 捲し立てるアルベリヒにオズボーンは尋ねる。

 

「戦術殻の並列操作は二体までが限界だと《OZ-74》で実証されている……

 それ以上の接続は人間の器の方が壊れる! それなのに七体も!? しかも精密操作!?

 そんなことできるわけないっ!?」

 

 頭を抱えるアルベリヒをひとまず置いておき、オズボーンはワイスマンへと視線を向ける。

 

「先日、黒の工房の第八支部から《クラウ=ソラス》を始めとする兵器群が全て消えた事件があった……

 こんなことできるのは《怪盗B》くらいだと思っていたのだが、どうやら犯人は君たちだったか」

 

「ふふふ……」

 

 オズボーンの指摘にワイスマンは不敵な笑みを浮かべて――

 

「え……? 全部ですか? アルファ君、戦術殻だけじゃなくて本当に工房内の兵器を全部取り込んできたんですか?」

 

「んっ」

 

 狼狽えるワイスマンが《人形遣い》に尋ねると、彼女は胸を張って自慢げに頷いた。

 

「えっと……それは流石に私も予想外だったと申しますか……」

 

 冷や汗を流すワイスマンに白々しいものを感じながら、オズボーンは聞き覚えのある名を指摘する。

 

「アルファ君というのか……

 つまり君は《OZα》か……全てのオライオンの始まりにして、全てのオライオンの記憶が帰る存在……

 そして《人形遣い》が《α》だとするならば、そちらの《太刀使い》は《OZΩ》か」

 

「《OZΩ》……?」

 

「ふ……読めたぞ《白面》。しかしそれは的外れだ」

 

「おや?」

 

「《OZΩ》は失敗作だ……

 魂を持たない人形。それはどれだけ条件を揃えても《鬼の力》を発現させることはできなかった」

 

「はは、別に私は《鬼の力》のために彼を使おうと思っているわけではないですよ」

 

 オズボーンの指摘をワイスマンは笑いつつ、行き渡った氷菓子と紅茶を確認して促す。

 

「さあ、どうぞ……

 アイスが溶けない内に、召し上がると良い」

 

「…………いただきます」

 

 場の最悪な空気にいたたまれず、リィンは促されるままスプーンを取り、目の前に置かれた小皿を見下ろす。

 オーソドックスなバニラとチョコレートの二種類のアイスにフルールが添えられているシンプルな氷菓子。

 

「えっと……」

 

「皆さん、どうしましたか?」

 

 しかしスプーンを取ったのはリィンとアルティナだけで他の者たちは動こうとすらしなかった。

 

「レンの真似事は結構です……

 それよりもさっさと本題に入りなさい」

 

 アリアンロードは珍しく声に苛立ちを乗せてワイスマンを睨む。

 

「ふむ……もしかして毒を気にしているかな?

 それに関しては大丈夫ですよ。その証拠に……ほら、問題ないですよ」

 

 安全だと証明するためにワイスマンは自分でアイスを一口食べて見せる。

 

「それが何の証拠になるのかしら?

 《破戒》なら無味無臭の毒物も遅効性の効果も自由自在……聖女様の言う通り、さっさと茶会を始めなさい」

 

「やれやれ……」

 

 ワイスマンは肩を竦めて、仕方がないとぼやき――空気が変わった。

 

「それでは私の二年間に及ぶ調査報告をさせてもらうとしよう」

 

 ただ背を伸ばして声音が変えるだけで、気弱な男から底知れない男へと変貌する。

 

「内戦が終わり、私はクロスベル留置場には戻らずガイウス君の教育がてら帝国全土を歩き回らせてもらった……

 そこで得た様々な知見を基に辿り着いた真なる超帝国人の秘密に関する仮説……

 これを証明する最後のピースとしてギリアス・オズボーン……貴方に問いたい」

 

「ふむ、大した自信だな……

 良かろう、どのような問いにも答えてやろう」

 

 ワイスマンの視線と言葉を真正面から受け止めて、オズボーンは質問を促す。

 

「では……

 ギリアス・オズボーン。君は何者かね?」

 

「…………?」

 

 続く言葉はなく、たったそれだけの質問にリィンは――一同は首を傾げる。

 そして問いかけられた本人は侮蔑するように失笑した。

 

「何を聞きたいのかと思えば、そんな質問か……

 私はギリアス・オズボーン。それ以上でもそれ以下でもない」

 

 はっきりとオズボーンは言い切る。

 対してワイスマンは予定通りだと口元に笑みを作って続ける。

 

「ああ、質問の仕方を変えよう……

 ギリアス・オズボーン。貴方は“地精の眷属”かね?」

 

「…………何……?」

 

 その問いは予想外だったのか、オズボーンは目を剥いて聞き返す。

 

「オズボーン閣下が“地精の眷属”?」

 

 セドリックはその言葉を反芻してオズボーンの顔を見る。

 

「ふむ……ワイスマン殿、君がオズボーン閣下の事を“地精の眷属”だと疑った根拠を教えてくれるかな?」

 

「それは簡単な事だよルーファス卿……

 《黒の騎神》は眷属たちに呪われ、それぞれの眷属だけを起動者に選ぶように設定されてしまっている……

 つまり《黒の起動者》であることは、“地精”か“魔女”かのどちらかとなるのだよ」

 

「《黒》が呪われてるじゃと? そんな馬鹿な……」

 

「いえ、でも筋は通っています。《黒》を狂わせた眷属たちの縛りが残っているのなら、確かに彼の言う通りです」

 

 ローゼリアとダーナはその可能性に思い至り、オズボーンへと視線を向ける。

 

「なるほど……それが知りたかった事か……」

 

「答えてくれるかな? もしも御自身で把握されていなかったのであれば、ここにはローゼリア殿もいればアルベリヒもいる……

 貴方が“地精”の血を持っているかどうかは診断できるでしょう」

 

「その必要はない」

 

 ワイスマンの提案を蹴って、オズボーンは目を伏せると己の内面と向き合うように瞑想を始めた。

 一分、二分……

 ワイスマンはその暇にアイスと紅茶を堪能しているが、他の者たちはじっとオズボーンの答えを待つ。

 やがてゆっくりとオズボーンは目を開き、答える。

 

「ゲオルグ・ワイスマン。其方が言う通り、どうやら私は“地精の眷属”だったようだ」

 

「っ……」

 

 その言葉に一同に緊張が走る。

 

「そうだろうね。そして私の見立てでは貴方の“血”はアルベリヒが利用している男よりも濃い」

 

「世迷言をっ!

 “地精”の血はもうラインフォルトとノームにしか残っていない……

 閣下の両親、祖父母には“地精”はいないはずだ」

 

 アルベリヒはそんな事はあり得ないと否定する。

 

「ふふ……自分の地位が脅かされると思ったのかな?

 だが安心したまえアルベリヒ……

 オズボーン閣下の“血”は《黒》が因果律を操り、先祖返りを意図的に起こした故の産物なのだろうからね」

 

「随分とイシュメルガの事を知っているようだな?」

 

 オズボーンの言葉にワイスマンは笑って返す。

 

「私も《影の国》とはいえ、彼の存在の起動者となりましたからね……

 あの存在が現代の血が薄まった“眷属”たちを起動者にする事を良しとするとは思えない……

 だからこそ因果律を操り、己に相応しい“純血の血族”を蘇らせた……

 それが貴方だ。ギリアス・オズボーン」

 

 ワイスマンの結論に広間が静まり返る。

 

「オズボーン宰相が“地精”……」

 

「しかも太古の昔の“純血”の力……」

 

 その事実が改めて他の起動者たちに《壁》を大きく感じさせた。

 

「なるほど……“純血の地精”……それがオズボーン宰相の正体で……」

 

「その息子だった“彼”にはその力の一端が備わっていた……つまり《超帝国人》の力とは“地精”の力だったと言う事ですか」

 

 ヴィータとアリアンロードはワイスマンが言っていた《超帝国人》の正体に納得する。

 しかし――

 

「ところで……」

 

 ワイスマンは否定も肯定もせず、呑気な声で続けた。

 

「私は先日、カーシャ・オズボーンの墓を検め、その遺骨を調べさせてもらいました」

 

「………………は……?」

 

 突然のワイスマンの告白に一同は耳を疑い固まる。

 

「墓を検めたって、正気か!?」

 

「女神を恐れない蛮行……まさかそこまでやるとはな。俺が言うのも何だが、狂ってるぜ」

 

 ケビンとルトガーはワイスマンの正気を疑う。

 

「いやー、気になったら調べないと気が済まない性分でしてね」

 

 気楽な言葉はその場にいる者たちの神経を逆なでるような不快さがあった。

 

「…………」

 

 アリアンロードは元同僚を咎めるよりも先に、オズボーンを案じるように見つめ――

 

「それで……カーシャの墓を調べて何が分かった?」

 

 妻の墓を荒らされた夫は極めて冷静に問い返す。

 

「おや……私が言うのもなんですが、冷静ですね」

 

「この身は数々の悪行を重ねて来た《鉄血》……

 私が外道をやり返されたとして、それに文句を言うのは筋違いというものだろう」

 

「はは、流石と言っておきましょう……

 そして貴方の胆力に免じて、私もはぐらかさずに単刀直入に結論を述べましょう」

 

 ワイスマンは一つ、息を継いで、それを答えた。

 

「カーシャ・オズボーンは“魔女”だった」

 

 その言葉は静かに広間に響き……消えた。

 

「…………カーシャが……魔女……だと?」

 

 オズボーンはその答えに信じられないという面持ちで繰り返す。

 

「ロゼ?」

 

「知らぬ。カーシャという娘など、エリンはもちろん外の血縁の中にもおらなんだな」

 

 アリアンロードに問われたローゼリアは心当たりはないと首を横に振る。

 

「婆様が把握していない魔女の血族……まるで突然生まれたみたいな…………え……?」

 

 ヴィータはそれを口にして固まった。

 

「血族の外から突然“眷属”が生まれる……それはもしかしてオズボーン宰相と同じなんじゃないか?」

 

「…………」

 

 ロイドの指摘に一同は言葉を失う。

 

「因果律とは不思議なものでね……

 何かを成したいと意図的に操作すれば、必ずその揺り戻しが起きる」

 

 一同の驚愕を他所にワイスマンは再び語り始める。

 

「“純血の地精”を現代に誕生させるために因果を操ったのならば、その揺り戻しには“純血の魔女”が生まれる事が妥当だろう……

 現に私の調べではカーシャ殿の資質はそこにいるエマ君と深淵殿に勝るとも劣らない“焔”の因子を確認することができた」

 

 ワイスマンの報告に先程まで墓荒らしを憤っていた一同は何も言葉が出てこなかった。

 

「オズボーン宰相、もう一つ質問をよろしいかね?」

 

「……何だね?」

 

 辛うじて声を絞り出し、オズボーンは質問の許可を出す。

 

「“純血の地精”である貴方の子供はいったい何になるのかね?」

 

「そんなもの……っ!?」

 

 その可能性に思考が辿り着き、オズボーンは今度こそ完全に言葉を失う。

 

「“地精”の子は“地精”……

 “魔女”の子は“魔女”……

 ならば“大地の王”と“焔の女王”の間に生まれた子は果たしてどちらの“眷属”になるのだろうか?」

 

 ワイスマンの問いかけに答えられる者はいない。

 ローゼリアも、アルベリヒも、イオも、ダーナも、ケビンも。

 至宝と眷属について知る彼らにとって、それは考えもしなかった未知。

 

「つまり《超帝国人》というのは……」

 

 オリヴァルトがもらした言葉にワイスマンは頷く。

 

「1200年前、表向きな和解しかしなかった二つの眷属では生まれる事がなかった純血の混血という矛盾」

 

 熱を帯びたワイスマンの言葉にリィン達は圧倒される。

 

「それが1200年の時間の中で、奇蹟のような縁で現代で生まれた世界でたった一人の《鋼の眷属》……

 そしてそれは“大地”と“焔”の和平を証明する何よりの証拠……

 それが《超帝国人》の正体だったのだよ」

 

 その結論にもはや反論できる者はいなかった。

 話半分で聞こうと思っていた態度はいつの間にか前のめりに聞き入ってしまい、筋が通った理論は否定を困難にしていた。

 

「ふむ……すっかりお茶が冷めてしまったね……

 アイスも溶けてしまった。どうかねお代わりは?」

 

 ワイスマンは結局誰も手を付けなかった氷菓子と紅茶を改めて勧める。

 

「…………そんなことよりも、貴様は《鋼》の呪いを解く方法を見つけたと言っていたな」

 

 オズボーンは強引に話題を進める。

 

「そちらの方は《鋼》の呪いを解く方法は簡単だよ……

 そもそも眷属たちの新たな命令に従わなかった原因はおそらく“地精”の言葉を“焔”の至宝の部分が拒絶し、“魔女”の言葉は“大地”の至宝の部分が拒絶してしまうことが原因だろう」

 

「何だよ……そんな簡単な事で良いのかよ?」

 

「一見は簡単そうに感じるかもしれないが、とても難しい事だよクロウ君……

 例えば君が《眷属》だったと仮定して、オズボーン宰相と手を取り合って《鋼》に和解の誓いを捧げたとしよう……

 その時に腹の底で敵意を感じてはいけない……

 オズボーン宰相への蟠りを捨て、彼と同じ気持ち、同じ声量、言葉すら一字一句違わず、病める時も健やかな時も共に生きていくことを誓えるかな?」

 

「おぞましい例え話にしてんじゃねえよっ!」

 

 ワイスマンの例えにクロウは寒気を感じながら激昂する。

 

「つまり、二つの眷属が心を一つにして願わなければいけなかったという事かい?」

 

 オリヴァルトの考えをワイスマンは肯定する。

 

「それに加えて人数、彼らが眷属としての力の総量についても天秤を合わせる必要があるでしょう……

 しかしヴィータ君、君ならば知っているでしょう?

 二つの眷属の因子は既に民族希釈という形でゼムリア大陸全てに広がっていることを」

 

「それは……」

 

「つまり《鋼》への命令を更新するためにはゼムリア大陸全ての人間の意志を統一しなければならないというのが、私の見解です」

 

「そんな……全てのゼムリア大陸の人々を間引いて、意思統一するなんて……」

 

「そんな事、帝国の中だけで考えても不可能でしょう」

 

 オリヴァルトとセドリックはその途方もない条件に絶句する。

 

「可能性を上げるならキーア君の《叡智》ですかね?

 グノーシスを利用した意思の接続で人々に《叡智》として授ければ可能かもしれません」

 

「キーアが……? そんなの無理だよ……」

 

「おや、それはどうして? 独立戦争の時にはそうやって《神機》にクロスベルの想念を集めていたと聞きましたが?」

 

「それはクロスベルだけだったからできた事だよ……

 独立したいという想念と帝国と共和国への恨みや憤りっていう共通の感情があったからまとめられただけ……

 だからクロスベル人と帝国人の意識をまとめる事なんて《叡智》を使ってもできないと思う」

 

「ふむ……貴重な意見をありがとう……

 キーア君が言ったように全ての人間の意識を統一する難しさは理解してもらえただろう……

 しかし《超帝国人》はそういった問題を無視できる」

 

 ワイスマンは興奮した様子で続ける。

 

「《超帝国人》の言葉は“大地”の言葉であり、“焔”の言葉でもある!

 この世界で《彼》だけが《鋼》に拒絶されることなく言葉を響かせることができる!

 《彼》だけが《鋼》を変えられることができる!

 その実例は君たちの目の前にある」

 

 ワイスマンは視線をリィンに向けて言い切る。

 

「っ……」

 

 その言葉と集まる視線にリィンは息を呑む。

 

「《鋼》が二つの眷属の“憎しみ”から生まれた存在であるのならば……

 そう……《彼》は二つの眷属の“愛”から生まれた存在と言えるでしょう」

 

「…………理屈は分かった」

 

 オリヴァルトはワイスマンの演説を苦し気に認めた。

 しかし――

 

「だけど君に“愛”を説かれるのは甚だ不本意だ」

 

「はは、これは手厳しい」

 

 言い返されたワイスマンは特に気を悪くした様子もなく笑う。

 

「茶番だな」

 

 そんな彼に苛立ちを含んだ声が上がる。

 

「だからなんだと言うのだ!?」

 

 アルベリヒは気を高ぶらせながら捲し立てる。

 

「《超帝国人》が“大地”と“焔”の混血だから何だと言うのだ!?

 既に《彼》はイシュメルガ様に敗北してこの世から弾き出され、消えた!

 もう《超帝国人》などという世迷言など――っ!?」

 

 感情のまま叫び散らしていたアルベリヒはワイスマンの背後に控える《太刀使い》の姿を見て言葉を止めた。

 

「まさか……まさかそのための《OZΩ》かっ!?」

 

「ふふ……《鬼の力》という上辺しか見てなかった君にこの子の価値は分からなかったのだろう」

 

 アルベリヒが狼狽する顔にワイスマンは満足そうにしながら席を立つ。

 

「それでは皆さん、長々とお付き合いいただきありがとうございました」

 

「待ちなさい!」

 

 語り尽くしたと満足そうにするワイスマンをヴィータが呼び止める。

 

「教授、貴方は何を企んでいるの《OZΩ》……その子を使って何をするつもり!?」

 

「まさか《幻焔計画》を邪魔するつもりではありませんでしょうね」

 

「いえいえ、そんな私は《幻焔計画》の邪魔も《黄昏》の邪魔もするつもりはありませんよ」

 

「だったら、その子は――」

 

「ただ私は貴方達とは関係なく研究の実験を行っているに過ぎません……

 その成果については……ふふ、夏至祭が終わる頃には貴方達に見せることはできるでしょう」

 

「夏至祭の終わり……」

 

「勘弁してくれよ。これ以上何があるって言うんだ?」

 

 セドリックは緊張に唾を飲み、クロウはもう理解の限界だと音を上げる。

 

「ふふ……それでは失礼するよ。結果を楽しみに待っていてください」

 

「一つ問おう」

 

 背中を向けたワイスマンにオズボーンが言葉を投げかける。

 

「ゲオルグ・ワイスマン……

 貴様が進めている計画の名は、何と言う?」

 

「ほう……」

 

 オズボーンの問いにワイスマンは口元を楽し気に歪めて向き直る。

 

「そうですね……あえて名をつけるのなら第一計画“原点回帰”でしょうか?」

 

「第一計画……」

 

「つまり第二、第三計画もあるということかな?」

 

「ふふ、それについては第一計画の成否次第としか今は言えませんよ」

 

 少しでも情報を得ようとしたルーファスの問いに、ワイスマンははぐらかして答える。

 

「では、今度こそ失礼するよ」

 

 ワイスマンは踵を返して歩き出す。

 それに従うように《太刀使い》と《人形遣い》も続く。

 

「…………待てっ!」

 

「アルベリヒ?」

 

「待て《OZΩ》! 戻って来いっ!」

 

 離れていく背中に向かってアルベリヒは叫ぶ。

 しかし《太刀使い》はその呼び掛けに応える事もなければ、歩みを遅らせることもない。

 

「聞こえないのか!? 私は“地精の長”だぞ! お前たちの創造主、黒き終焉のアルベリヒだぞっ! 戻れと言っているのだ!」

 

 アルベリヒの叫びは虚しく広間に木霊して消え、ワイスマン達はメイドBが開いた扉から悠々と出て行き、扉は閉じられた。

 

「…………っ」

 

 残されたアルベリヒは屈辱に顔を歪めていた。

 

「…………しまったわね」

 

 その姿を横目にしながらヴィータは《人形遣い》の一派ならば、聞くべきことがあった事を思い出す。

 

 ――カチャリ――

 

 それぞれがワイスマンがもたらした情報を吞み込もうとしていると、閉じたはずの扉が開いた。

 

「っ……」

 

 《人形遣い》は全員の注目を浴びながら、堂々と広間に戻りアルベリヒに――

 

「そうだそれで――」

 

 満足そうに笑うアルベリヒの横を《人形遣い》は素通りする。

 固まるアルベリヒを他所に、《人形遣い》はアルティナの前までやってくる。

 

「…………あなたはやはり……」

 

 ワイスマンがアルファと呼んでいた事から察していたアルティナは自分の前に立った《人形遣い》を警戒しながら言葉を掛ける。

 

「ん……」

 

 《人形遣い》は短く頷きながら仮面を取る。

 そこには数日前に見たアルティナによく似た顔があった。

 

「名前……あなたはわたしをどう呼ぶのおかあさん?」

 

「それは……」

 

 《人形遣い》の言葉にアルティナは怯む。

 覚悟はしていたが、不意打ちに近い状態での相対にアルティナはどうしようかとリィンの方へと視線を彷徨わせる。

 

「おかあさんだと!?」

 

「お母さんですって!?」

 

 オズボーンがくわっと目を見開いて声をもらした。

 アリアンロードが口元を両手で隠して目を丸くした。

 

「アルティナのその反応……まさかリィン……そういうことなのか!?」

 

「い、いけません。二人ともそういうことは結婚してからすべきです」

 

「落ち着かんか馬鹿者ども」

 

 冷静さを欠いたオズボーンとアリアンロードをローゼリアが慣れた様子で窘める。

 

「ちゃんと決めたんじゃないのか?」

 

「それは……はい……」

 

 リィンの言葉にアルティナは頷き《人形遣い》を見る。

 

「ん……」

 

 無表情ながら期待に満ちた目を向けてくる幼い目にアルティナは気押される。

 せめてもの時間稼ぎと周囲に視線を巡らせれば、誰もが興味津々といった様子でアルティナの反応を窺っている。

 

「~~~~~~っ」

 

 いまだかつてこんな風に注目された事がないアルティナは羞恥を感じながら、その名を口にした。

 

「リ……リルティナ……」

 

 その声はアルティナが思った以上に大きく広間に響き渡った。

 

「リルティナ……」

 

 《人形遣い》はその名を繰り返すように呟き、アルティナの隣のリィンを見る。

 

「…………ん……」

 

 そして《人形遣い》は頷いた。

 

「あの……」

 

 気に入ってくれたのか、気に入らなかったのか、アルティナは狼狽えながら《人形遣い》の感想を求める。

 

「気に入らないようなら、別の名前を……」

 

「んん」

 

 アルティナがやり直しを尋ねるが《人形遣い》は首を横に振った。

 

「おかあさんがそう呼びたいなら、それでいい」

 

 受け入れてくれたことにアルティナはほっと息を吐く。

 

「決まりだね。リーちゃん。ボクのことはミリアムお姉ちゃんって呼んでね」

 

 待ち構えていたミリアムはすかさず渾名で呼び、お姉ちゃんアピールをする。

 

「それじゃあ……またねおかあさん」

 

 しかしリルティナはミリアムを一瞥もせずに踵を返すと、固まったままのアルベリヒの横を再び素通りして、メイドBが開けた扉から出て行った。

 

「…………よかったなアルティナ」

 

 リィンは固まったミリアムを見ない振りして、数日の苦労が報われたアルティナを労う。

 

「…………本当にあの名前で良かったのでしょうか?」

 

「少なくても俺には嫌がっているようには見えなかったよ」

 

「……そうだと良いです」

 

 アルティナは彼女が出て行った扉へ視線を向けて願望を口にした。

 その姿にワイスマンの話で緊張し続けていた一同は肩から力を抜いて微笑み――

 

「――嘘やろ」

 

 ケビンは今見たものが信じられないと絶句していた。

 

「ケビン神父?」

 

 そんなケビンにリィンは首を傾げる。

 

「オリヴァルト殿下っ!」

 

 ケビンが確かめるようにオリヴァルトへと視線を飛ばせば、彼もまた同じように言葉を失っていた。

 それはあの日の夜、アネラスとティータが浮かべていた表情とよく似ていた。

 

「いや……まさか……」

 

 言葉を失い顔を青ざめるオリヴァルトに一同は首を傾げる。

 

「どうなさりましたかオリヴァルト殿下」

 

「何か今のやり取りでおかしなところがありましたか兄上?」

 

「リィン君、アルティナ君…………いや何でもない」

 

 オリヴァルトは困惑を呑み込み、取り繕うように笑う。

 

「さて……」

 

 佇まいを直してオリヴァルトはまとめる。

 

「ワイスマンの予期しない参加はあったけど、なかなか有意義な話し合いができたと思う……

 思うのだけど、《結社》の諸君はワイスマンの手綱をしっかりと握っていてもらいたいとボクは思うのだけど」

 

「無理ね」

 

「申し訳ありません」

 

 オリヴァルトのお願いを使徒二人は即答する。

 その答えにオリヴァルトはため息を吐く。

 

「ともかく君たちの戦いの後に帝国の未来が残っていることを、表側の代表として女神に祈らせてもらうよ」

 

 こうして起動者たちの晩餐会は一抹の不安を残して終わるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ――声が聞こえる――

 

 それはこの場で背景の一部だった者に囁かれた言葉。

 

「一番、悪いのは……誰?」

 

 

 

 







 ネット上でよく見かけるカーシャさんの面影や雰囲気がエマに似ているから魔女ではないかという意見をちらほら見かけたので、ならオズボーンは地精だなっと思いました

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