閃の軌跡Ⅲ ―偽りの仮面―   作:アルカンシェル

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105話 帝都ヘイムダルⅢ

 

 帝都ヘイムダル駅は都市の南側に位置している。

 そこから真っ直ぐに帝都を二つに分断する大通り、ヴァンクール大通りが駅からドライケルス広場、バルフレイム宮へと引かれている。

 その大通りの歩道には多くの人が詰めかけて、《緋の騎神》テスタ=ロッサを先頭にしたパレードが始まっていた。

 

「帝国に皆さん! 夏至祭を楽しみましょう!」

 

 膝を着いた《緋》を荷台に載せた導力トレーラーが鈍足で進む。

 セドリックは《緋》の足元で集まった人たちに笑顔で手を振る。

 そして《緋》を先頭に本校の機甲兵を載せた導力トレーラーが続き――

 

「きゃあああああ! ティータこっち向いてっ!」

 

 エリカ・ラッセルは群衆に交じって娘の晴れ舞台に導力カメラを激写するのだった。

 

 

 

 

「ふふっ、ここが《聖アストライア女学院》ですね」

 

 導力車から降りたミュゼは坂の上にある学院を見上げる。

 

「うわああっ! すごくステキな建物ね」

 

 貴族の子女や皇族が通う学院なだけあり、トールズとは違った清廉な建物にユウナは感動する。

 

「ここにエリゼさんや皇女様が通ってるのかぁ……ちょっと憧れるかも」

 

「ミュゼさんが通っていたのは成程と納得できますが……

 ユウナさんがこちらに通うのは若干想像しにくいですね」

 

「それはどういう意味よ」

 

 アルティナの冷静な指摘にユウナは頬を膨らませる。

 そんな会話を他所に、導力車から降りたリィンは運転席から降りたクレアに声を掛ける。

 

「わざわざありがとうございます」

 

「いえ、私もこちらの事件の調査に来る予定でしたから」

 

 感謝の言葉にクレアは気にしないで欲しいと首を振る。

 

「てっきりアルフィン殿下についてパレードの護衛をするのだと思っていたんですが」

 

「そちらはミハイル教官に任せるので大丈夫でしょう……

 私の能力はこちらの調査に向いているとレクターさんに指示されましたから……

 というか、鉄道憲兵隊の中ではすっかり私がオリビエ担当に……」

 

「心中お察しします」

 

 遠い目をするクレアにリィンは思わず同情する。

 

「意外ね」

 

 そんな二人の会話にイソラが口を挟んだ。

 

「イソラさん? 意外って何の事だ?」

 

「私はそのオリビエって人に会った事がないから分からないのだけど……

 軽薄なナンパ男というだけで貴方たちがそこまで嫌悪を露にするのかしら?」

 

「それは……」

 

「帝国人……人間との距離感を測りかねているリィン君から見てもそのオリビエさんは最低な人間なのかしら?」

 

「…………それはエリゼ姉さんをナンパしたから……」

 

「本当にそれだけ?」

 

「…………」

 

 イソラの追及にリィンは黙り込み――

 

「クク、世間知らずのお嬢様の園ねぇ……

 誰かさんの姉も含めてコマしがいがありそうじゃねえか」

 

「ってそこ!」

 

「こんな場所で滅多ことは――」

 

 アッシュが不埒な事を呟き、ユウナとクルトが聞き咎める。

 

「ここはエリゼ姉さんのような貞淑な貴族子女が通う学院だ……

 アッシュのような粗暴な男に声を掛けられて喜ぶ生徒はいないだろ」

 

「……人でもねえバケモンに人の機微なんて語られなくねえな」

 

「何だと?」

 

「やんのか、おら!」

 

 リィンとアッシュは次の瞬間、互いの得物に触れる。

 

「はいはい、喧嘩しない」

 

 そんな二人の間にユウナが割って入って仲裁する。

 

「何をやってるんだ君たちは?」

 

 正門の前から坂を下りて来たマキアスが呆れながら声を掛けて来た。

 

「ふふ、まるで昔のマキアスとユーシスだな。仲が良さそうで何よりだ」

 

「ガ、ガイウス!?」

 

 リィンとアッシュの掛け合いを微笑ましそうにガイウスが笑い、マキアスが狼狽える。

 

「ちっ……てめえの目は腐ってんのか!?」

 

「ふん……ガイウスさんはどうしてここに?」

 

 反発するアッシュを横に予定になかった人物がそこにいたことにリィンは驚く。

 

「実はワイスマン殿がこの周辺で目撃された情報があってその調査をしていたらマキアスと出くわしてな」

 

「互いに情報交換をしていたというわけだ」

 

「なるほど幽霊騒動の本命はそちらかもしれませんね」

 

 マキアスたちの言葉にミュゼが頷く。

 

「…………それで何から始める?

 女学院で聞き込みをするか、それとも周辺の見回りか、それとも――」

 

 リィンが早速、次の行動を決めようと提案した所で、リュートが奏でる音色が響いた。

 

「お困りのようだね」

 

 金髪に白い旅装服の青年がリュートを奏でながらリィン達に近づいて来る。

 

「貴方は――」

 

 その顔を見た瞬間、クレアは驚きに目を見開き――

 

「久しぶりだねクレア君。そうボクは《漂泊の詩人》にして《愛の狩人》。オリビエ・レ――」

 

「破甲拳っ!」

 

 リィンは一切の躊躇をせずに青年の懐に踏み込み、握り締めた拳がオリビエの腹を重く叩いた。

 

「ぐふっ!?」

 

 オリビエの体がくの字に折れ曲がり、リィンはすかさずオリビエを地面に引きずり倒す。

 

「確保っ!」

 

「ん……」

 

 アルティナはオリビエの両手に手錠を掛け――

 

「何をしているんだ君たちはっ!?」

 

 クルトは思わず叫び、リィンを羽交い絞めにしてオリビエから引き剝がした。

 

「クルト邪魔をするな! こいつがエリゼ姉さんをナンパした」

 

「よく見て下さいリィンさん。確かに登場の仕方はそっくりでしたが、目の前のオリビエさんは金髪……

 私たちが知っているオリビエさんは白髪だったはずです」

 

「む……」

 

 ミュゼに指摘されてオリビエを改めて見たリィンはオリビエ・B・アレイスターとは別人だという事に気付く。

 

「あ…………すいません……」

 

 クルトの拘束を解かれたリィンは慌てて頭を下げる。

 

「ふふ、謝ることはないよ。リィン君……

 この拳の手応え……ああ、記憶は忘れてしまってもボクの魂と体は確かに覚えている……君はたしかにリィン君だ」

 

「ええ……オリビエさんが二人目……」

 

 悦に入るオリビエにリィンは思わず後ずさる。

 

「変態という意味ではどちらも差はないと思うのですが……

 クレア少佐、逮捕しておくべきでは?」

 

 アルティナはクレアに向き直って提案する。

 

「そうしたいのは山々なのですが……」

 

「はあ……だから普通に声を掛けなさいって言ったのよ」

 

 ため息とともに新しい声がそこに響く。

 額に手を当て嘆く銀髪に褐色の肌にエキゾチックな服の女性。

 

「貴女は……」

 

「初めまして、あたしはシェラザード・ハーヴェイよ……

 アガットの同僚で特別な許可をもらって遊撃活動をさせてもらっている遊撃士よ」

 

 シェラザードが名乗っていると、オリビエは立ち上がり佇まいを直す。

 

「…………ねえ、この人もしかして……」

 

 その姿を改めて正面から見たユウナはある可能性に気付く。

 

「もしかしてオリヴァルト皇子?」

 

「ぴんぽーん!」

 

 ユウナの疑問にオリビエは楽し気に答えた。

 

「な、な、何でオリヴァルト皇子がこんなところにっ!?」

 

「それについては海よりも深い理由があるんだよ」

 

 そう前置きをしてオリビエは語り出す。

 

「そもそもオリビエ・レンハイムというのはボクが世を忍ぶ仮の名前なんだ……

 しかし近頃、ボクとは違うオリビエを名乗る変質者が帝国各地に出没して、罪のない人々に多大な迷惑を掛けているみたいじゃないか」

 

「そう……ですね……」

 

 クルトは特別実習で偶然出会ったオリビエ・B・アレイスタ―の事を思い出して頷く。

 

「その度にボクは謂れのないお説教をミュラーから受けているんだ……

 そしてボクの偽物が帝都に現れたのなら、それは雌雄を決する時が言う事!

 ボクのこの手でオリビエ・B・アレイスタ―なる男を捕まえて、この身の潔白を証明しなくてはいけないんだ!」

 

「…………クレアさん、これは良いんですか?」

 

 リィンは自分で判断できる領域は超えていると判断してクレアに丸投げする。

 

「私に聞かれても困るのですが……

 オリヴァルト殿下、今日は王国や共和国からの賓客を迎えるはずだったのではないでしょうか?」

 

「いやー、セドリックもアルフィンも頑張っているからね……

 ボクみたいな皇位継承権のない庶子が大きな顔で帝国の代表として賓客を迎えるのはどうかと思ってね」

 

「…………はあ……」

 

 クレアは大きなため息を吐くと《ARCUS》を取り出して――

 

「まあまあクレア君」

 

 アンゼリカがその《ARCUS》に手を重ねて止める。

 

「わざわざ私たちに声を掛けてきたという事は、何か有力な手掛かりを掴んだのではないかね?」

 

「ふ……流石だねアンゼリカ君」

 

 オリビエは不敵な笑みを浮かべて続ける。

 

「ボクの調べではオリビエ・B・アレイスターは黒髪と銀髪の髪の少女をメインターゲットにナンパを行っているようだ」

 

「黒髪……銀髪……」

 

 オリビエから齎された新しい情報に、一同の視線はその色の髪を持っているリィンとアルティナを見る。

 

「なるほど……オリビエ・B・アレイスターは髪フェチと……しかしそれは許せないな」

 

「アンゼリカさん?」

 

 何が許せないのだろうかとリィンは首を傾げる。

 

「数多いる女学院の女の子から髪で選り好みをするなんて、帝国男児として恥ずべき所業」

 

「おお! 分かってくれるかいアンゼリカ君」

 

 オリビエとアンゼリカはがっしりと握手を交わす。

 

「お言葉ですが……」

 

 そんな二人にマキアスはため息交じりに口を挟む。

 

「ん? 何だいマキアス君?」

 

「貴方達が来る前に学院の聞き込みをしたところ、幽霊騒動は学院の中でも起きているそうです」

 

「学院の中で?」

 

 マキアスの情報にリィンは眉を顰める。

 

「ああ……この一ヶ月の間に見覚えのない不審者が校内で複数人、見かけられているらしい……

 しかし注意しようとその後を追い駆けたが、不審者は袋小路の行き止まりで忽然と姿を消してしまったみたいなんだ」

 

「それはまた不可思議な現象ですね……

 複数の不審者の容姿は分かっているんですか?」

 

 クルトはマキアスに尋ねる。

 

「ああ、不審者は全部で三人……

 一人目は白髪の学者風の男性とフードで全身を隠した怪しい二人らしいですね」

 

 そう言ってマキアスは報告を締めくくる。

 

「その二人はおそらくリルティナと《OZΩ》でしょう。そして学者風の男というのは」

 

「おそらく《白面》のワイスマンでしょう」

 

 アルティナの言葉にクレアが続く。

 

「例の晩餐会に乱入した三人ね。その三人が女学院で何をやろうって言うのかしらね?」

 

「それは彼らに直接問い質せばいいだろ……では――」

 

「おい……」

 

 オリビエがこれからの行動を提案しようとすると、アッシュがその言葉を遮った。

 

「勝手に首突っ込んできて仕切ってんじゃねえよ」

 

 オリビエ――相手が皇族であるにも関わらず、知った事かとアッシュが噛みつく。

 

「ちょっと相手は本当に危険な奴なのよ」

 

「はっ、だったらすっこんでろよ」

 

 シェラザードの言葉に怯まずにアッシュは言い返す。

 

「こっちは今まで《結社》の奴らには好き勝手やられていたんだ。ここらで一発やり返せしてえって思ってたんだ」

 

「ちょっとアッシュ」

 

「皇族か遊撃士か知らねえが、俺たちはあんたらに守ってもらおうなんて思ってないんだよ……

 こっちの要請の邪魔をするなら失せろよ」

 

「アッシュ! 言い過ぎだ! すみませんオリヴァルト殿下」

 

「いや、君の言う通りだ。アッシュ君」

 

 アッシュを窘めて代わりに謝るクルトにオリビエは謝罪は必要ないと首を横に振る。

 

「確かにこれは君たちに与えられた“要請”……

 ボクたちはそれに便乗しようとしていた部外者に過ぎない……

 どうやら思っていた以上に気が逸っていたようだ、すまない」

 

「はっ、分かれば良いんだよ」

 

「アッシュ……時々あんたのその太々しさが凄いと思うわ」

 

 皇族に頭を下げさせているアッシュにユウナは呆れる。

 

「シェラ君も、ここは学生たちの指示に従うという事で良いかな?」

 

「……ええ、そうね」

 

 オリビエの提案にシェラザードは頷く。

 

「遊撃士は一般人の保護が最優先だけど、士官学生はまだ学生だけどその適応外と言っても良いでしょ……

 それにこの年頃は突っ張りたい年頃よね」

 

 シェラザードはアッシュの態度を懐かしむように浸る。

 

「で、アッシュはどうしたいわけ?」

 

 ユウナはため息を吐いてアッシュに尋ねる。

 

「それは――」

 

「とりあえず幽霊騒動の本命は学院内の結社かもしれないが、オリビエの……アレイスタ―を捕まえることは必要だと思うのだけど」

 

 アッシュが言いかけたところで、空気を読まずにリィンが提案する。

 

「はっ、シスコンが」

 

「喧嘩を売っているなら買うぞアッシュ」

 

 嘲笑してくるアッシュにリィンは眦を上げる。

 

「だからいちいち喧嘩しようとしないでよ!」

 

 すぐに火花を散らせるアッシュとリィンにユウナが疲れたように二人を引き離す。

 

「とりあえず調査は二班に分けましょう……

 リィンさんは外でアレイスターを探しつつ、ワイスマンたちの痕跡を探す……

 アッシュさんは学院内でワイスマンたちが潜んでいる場所を探す。これでどうでしょう?」

 

 晩餐会の夜から険悪になった二人の仲を考えて、ミュゼが提案する。

 

「それが良いな。今のアッシュとリィンは一緒に行動させない方が良いだろ」

 

 その提案にクルトが同意する。

 

「俺は構わない」

 

「俺も別に良いぜ」

 

 そしてその提案に問題のリィンとアッシュも不満を言わずに同意するのだった。

 

「うぐぐ……」

 

 その二人の姿にマキアスは己の黒歴史を思い出し、腹をを抱えて唸るのだった。

 

 

 

 








A班 女学院外でアレイスター捜索班
 リィン アルティナ ミュゼ オリビエ シェラザード クレア


B班 女学院内部でワイスマンたちの捜索
 アッシュ クルト ユウナ イソラ マキアス ガイウス アンゼリカ

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