閃の軌跡Ⅲ ―偽りの仮面―   作:アルカンシェル

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106話 帝都ヘイムダルⅣ

 

 

 リィン・シュバルツァー改め、リン・シュバルツァーはアルティナから投げ渡された太刀を受け取って構える。

 

「零の型――《双影》」

 

 正面から突撃してくる導力車に対し、アストライア女学院の制服を着たリンは二人の分身と共にすれ違う。

 

「へ……?」

 

 次の瞬間、導力車は四つの車輪を断ち切られて胴体から地面に着地してその場に停止する。

 

「くそっ……こんなことをしてタダで済むと思うなよ」

 

 這う這うの体で壊れた導力車から降りた青年はリンを睨みつける。

 

「俺を誰だと思ってる!

 俺はダリオ・ジスカール。帝都銀行頭取の息子だぞ」

 

 軽蔑した眼差しを向けてくるリンに対してダリオは捲し立てる。

 

「政府にも太いパイプを持ち、皇族にすら影響を与えられる……

 お前たちの女学院に多大な寄付をしている人物の跡取りなんだ!

 親父に言って女学院から寄付金を引き上げさせても良いんだぞ!」

 

 聞いてもいない事をダリオは叫ぶが、リンは表情を一切変えることはない。

 

「っ……」

 

 むしろ太刀と少女というアンバランスな組み合わせにダリオは本能的な恐怖を覚えて、懐に手を伸ばし――

 

「そこまでにしたまえ」

 

 場にリュートの音色が響いた。

 

「君たちの狼藉はこの目でしかと見せてもらった」

 

 オリビエは悲し気に目を伏せ、髪をかき上げてダリオたちに向かって言葉を掛ける。

 

「禁断の乙女の園に焦がれる気持ちは男として理解できる……

 しかし嫌がる乙女を権力と暴力で手籠めにしようとするなど、帝国男児として見過ごすことはできない。恥を知りたまえ」

 

「いきなり出てきて偉そうに! お前たちやってしまえ!」

 

 ダリオが取り巻きに向かって叫ぶ。

 

「へっ……お前が悪いんだぞ。俺たちにこいつを抜かせたんだからな」

 

 取り巻きの一人が導力銃を懐から取り出して威嚇するように見せびらかす。

 

「くくく、剣が銃に勝てるわけないんだよ。ごめんなさいって謝るなら今の内だぞ」

 

 もう一人の取り巻きはリンに向けて銃口を突き付ける。

 

「…………」

 

 しかしリンは自分を狙う銃口に動じた様子はなく、その泰然とした佇まいに取り巻き達は焦る。

 

「に、偽物じゃないぞ!」

 

「撃たれたら怪我じゃすまないんだぞ!」

 

「やれやれ、反省する気はないか……

 クレア君、シェラ君、やってくれたまえ」

 

 次の瞬間、一発の弾丸と鋭い鞭の一撃が二人の取り巻きの導力銃を撃ち落とした。

 

「なあっ!?」

 

「じゅ、銃が!」

 

「何をしているお前たちっ!」

 

 導力銃を落とした取り巻きにダリオがヒステリックに叫ぶ。

 

「静まりなさい!」

 

 混乱し狼狽えるダリオ達に向けてミュゼが高らかに声を上げる。

 

「ここにおわすお方を心得えますか!

 エレボニア皇帝ユーゲントが一子、オリヴァルト・ライゼ・アルノールであらせられます!」

 

「ひかえおろー」

 

 ノリノリに口上を述べるミュゼに対して、淡々とアルティナは魔導杖の銃口をダリオたちに突き付ける。

 

「オ、オリヴァルト殿下だと……今はパレードの最中なのに……どうして……?

 そ、それにそっちは血も涙もない鉄道憲兵隊の《氷の乙女》? どうして……?」

 

 アストライア女学院の生徒に悪質なナンパを行おうとしていたダリオ・ジスカールは腰を抜かしてその場にへたり込むのだった。

 

 

 

 

「ふう……どうやら別の相手が釣れてしまったみたいですね」

 

 ダリオ一派を鉄道憲兵隊に引き渡したリン・シュバルツァーはため息を吐いて結果に嘆く。

 

「まあそう悲観する必要はないさ…… 

 女学院に迫っていた魔の手の一つを摘み取ることができた。これは紛れもなく誇っていい結果だよリン君」

 

「ええ、リィンさんが……リンちゃんが体を張ってくれたおかげです」

 

「とりあえず今はリンと呼ぶのはやめてくれ」

 

 オリビエとミュゼがここぞとばかりにその名前を強調する呼び方にリィンは複雑な気持ちになる。

 

「しかしアレイスターという輩の事をボクは買い被っていたようだね……

 リィン君のこの姿! ボクならば罠と分かっていても飛び込まずにはいられないだろうね」

 

「少しも嬉しくないですね」

 

「ふふ、アルティナちゃんも似合ってますよ」

 

「はあ……」

 

 リィンと同じようにアストライア女学院の制服を着たアルティナはミュゼに褒められたものの、特に嬉しさも不満もない言葉を返す。

 

「それにしても、少しは嫌がると思っていたんだけど」

 

 シェラザードは改めてリィンの姿を見て呟く。

 アストライア女学院の制服を着て、付け髪で髪を伸ばし、リィンはどこからどう見ても清楚華憐な女子と化していた。

 

「エリゼ姉さんのためになるなら女装の一つや二つ、問題ありません」

 

「うーん、流石リィン君。姉愛に溢れた言葉だ」

 

 オリビエはリィンのその答えにしみじみと頷いた。

 

「お待たせしました」

 

 そうしている間に鉄道憲兵隊へダリオ達を引き渡したクレアが戻ってきた。

 

「お疲れ様ですクレアさん。それで彼らはこの後、どうなりますか?」

 

「彼の父に連絡を取りました……

 存分にお灸を据えてやって欲しいとの事でしたので、憲兵隊の隊舎でしっかりと取り調べをさせていただきます」

 

 その報告にリィンは虚を突かれたように目を丸くする。

 

「意外ですね。あんな男の親だからてっきり……」

 

「この帝都が誰のお膝元だと思っているんですか?

 あのような事をする者ならば、貴族であろうと平民であろうとオズボーン閣下が見過ごすはずがありません

 子が馬鹿なことをしたからと言って、親がそうであると決めつけるのは良くないですよ」

 

「う……そうですね。早計でした」

 

 クレアの指摘にリィンは謝る。

 

「しかし、今日はここまででしょうか?」

 

「クレアさん?」

 

「一連の騒動で目立ち過ぎましたし、今は憲兵隊の巡回も増やしました……

 この状態で囮捜査を続けたとしても、アレイスターが現れる可能性は極めて低いでしょう」

 

「たしかにそうですね……」

 

 クレアの推測にアルティナが頷く。

 

「気を落とす必要はないわよ……

 とりあえずB班の成果を聞いてみたらどう?」

 

「そうですね……」

 

 シェラザードに促されてリィンは《ARCUS》を取り出して回線を開く。

 

「こちらA班。そちらの状況はどうなってる?」

 

『あら、随分かわいらしい恰好をしているのねリィン君?』

 

 通信に出たイソラからの言葉にリィンは付け髪を外した。

 

「あああっ!」

 

 ミュゼの悲鳴を無視してリィンは続ける。

 

「こっちはアレイスターを見つけることはできずに別件のナンパ男を確保した……

 B班はどうなっている?」

 

『そうね……こちらには進展があったわ』

 

「っ……聞かせてくれ」

 

 リィンは他のみんなに聞こえるようにしながらイソラを促す。

 

『階段下の用務室で“転移陣”を見つけたわ……

 私は退路の確保とA班への連絡係として残ったけど、30分程前にクルト君たちが突入、そこから連絡はないわ』

 

「30分……」

 

 それを長いと考えるか、短いと考えるかリィンは悩む。

 

「大丈夫ではないでしょうか?

 アッシュさんは別として、今のクルトさんとユウナさんが並みの相手に後れを取るとは思えません」

 

「アルティナ君、その評価はアッシュ君に対して少しひどいのではないかな?」

 

 アルティナの辛辣な言葉にオリビエは顔を引きつらせてフォローする。

 

「……いえ、アッシュさんがどうこうという話ではなく、今の二人には――」

 

「とりあえずイソラと合流しましょう」

 

 アルティナの言葉を遮って、リィンは提案する。

 

「どちらにしても、ここではもうこれ以上の成果は望めない……

 行くにしても待つにしても、イソラと意見を交換してからで良いんじゃないか?

 それと着替えもしたいし」

 

「えっ!?」

 

「そんなっ!?」

 

 リィンの言葉にミュゼとオリビエは絶望したと悲鳴を上げた。

 

 

 

 

 

「どこかの聖堂か?」

 

 転移陣によって女学院にいたはずのクルトは薄暗い壁を見回して呟く。

 

「造りは暗黒時代のもののようだな」

 

 ガイウスは淀んだ空気に顔をしかめる。

 

「どことなく《煌魔城》に雰囲気が似ている気がするな」

 

「《煌魔城》……ですか?」

 

 マキアスの呟きをユウナは聞き返す。

 

「帝都の連中が全員、幻覚でも見たかってアレか?」

 

「そんな事があったらしいな。僕はその時、帝都にいなかったから見ていないが」

 

 アッシュが訝しんだ言葉にクルトは自分は知らないと首を振る。

 

「いや、本当にあった話だよ……

 詳しい話が聞きたければ後でセドリック皇子やクロウに聞くと良い。さて……」

 

 アンゼリカは会話を切り上げる。

 

「ガイウス君、どうだね?」

 

「そうですね……」

 

 アンゼリカに促されガイウスは目を閉じてその場の風を感じ取る。

 

「音の反響……風の流れ……

 どうやら複数に枝分かれしている通路のようだが、一つに纏まって奥へ、下の階層へと続いているようだ……

 それから風を乱している何かがあるな」

 

「マジかよ」

 

「ノルドの民の力……いや七耀教会の守護騎士の力でしょうか?」

 

 ガイウスが読み取った情報にアッシュとクルトは驚く。

 

「さて、どうする君たち?

 外にいるリィン君たちを呼ぶために一度戻るかい?」

 

「はん! 何であいつが必要なんだよ?」

 

 アンゼリカの提案をアッシュは鼻で笑い、不気味な聖堂の通路に踏み出す。

 

「俺はシュバルツァーのおまけじゃねえって教えてやるよ」

 

「おいアッシュ」

 

 クルトが呼び止めるが、そんな言葉でアッシュの歩みが止まることはなかった。

 

「大変だな君たちも……やはりリィンと比べられたりするのかい?」

 

「いえ、そんな事はないんですが……」

 

「起動者の人たちが集まった晩餐会の日から何かおかしいんですよね」

 

「……まあアッシュ君の気持ちは少しは分かるな」

 

 マキアスはアッシュの背中に思わず呟く。

 

「クラスメイトとの埋めようのない力の差……

 だけど、自分の中の凝り固まったプライドが負けを認めたくなくて意固地になってしまう……

 そんな経験は僕にもあるよ」

 

「ならマキアスさんはどうやってそれを克服したんですか?」

 

「僕は……」

 

 クルトの質問にマキアスは思わず唸る。

 それは自分の黒歴史を話すことでもあり、年下後輩たちにそれを語るのをマキアスは躊躇する。

 

「おい! いつまでも駄弁ってねえで行くぞ!」

 

 アッシュはついてこない一同を振り返って促す。

 

「この話はまた今度にしよう。アッシュ君を一人にするわけにはいかない。僕たちも行こう」

 

「何かあれば、転移陣を維持しているイソラがリィン君達を呼ぶだろう……

 私たちは私たちができる範囲でここに何があるのか調べるとしよう」

 

「そうですね……」

 

 アンゼリカの言葉にユウナは頷き、歩き出した。

 

 

 

 

 

 

「あれは……」

 

 奥へ奥へと進み、階層をさらに下る昇降機からさらに下へとアッシュ達は進んでいく。

 そうして辿り着いた終着点には壁一面を覆い尽くした巨大な門があった。

 

「大きいわね……いったいどこに繋がっているのかしら?」

 

「さて、結構歩いたからね。転移陣の事もあるとはいえここは帝都のどの辺りなんだろうか?」

 

 アンゼリカは歩数から女学院との距離を考えてみるが、無駄だと即座にやめる。

 

「みんな、静かに。誰かいます」

 

 クルトはそんな雑談を止め、広間に出ないように一同を引き留める。

 

「はっ、ようやく幽霊に辿り着いたか」

 

 小声でアッシュは呟き、広間をこっそりと覗き込む。

 巨大な扉を前に大きな円形の広間。

 自分たちの通ってきた通路の他にも横穴があり、他のルートがあった事が伺える。

 そしてその広間の中央には二人の人影と地面に突き刺さった杭のオーブメントがあった。

 

「…………二人だけか……でも《太刀使い》でも《人形遣い》でもない?」

 

 遠目に二人の姿を見たクルトは訝しむ。

 人影は怪しげなフードマントを被り、佇んでいる。

 顔は見えないがおそらく、あの二人と同じように仮面を付けているだろう。

 しかし、あの時の二人とは明確に違うのはその身長。

 少年と幼女だった二人に対して、この二人に身長差はなくどちらも成人した男性ほどの背丈があった。

 

「何か喋ってるみたいだけど、ここからじゃ流石に聞こえないわね」

 

「しかし武装は見えるね……一人は導力銃を、もう一人は手甲……

 さしずめ《銃使い》と《拳使い》と言ったところかな?」

 

「どうする、突入するかい?」

 

「いや、待てマキアス」

 

 提案したマキアスをガイウスが止める。

 

「どうしたんですか?」

 

 そんなガイウスをクルトは訝しむ。

 ガイウスは静かにと一同を促して耳を澄ませると、それは聞こえて来た。

 

「…………MISHI♪ MISHISHI♪ MISHISHIー♪」

 

 程なくして聞こえてくるのはリズムに乗った鼻歌。

 クルト達が隠れている通路とは別の横穴から駆け足で広間に入ってきたのは黄金のボディのメカみっしぃだった。

 

「メカみっしぃ!? そんなメカみっしぃは《ゾア・ギルスティン》との戦いの時に戦死したはずなのに」

 

「待て。メカみっしぃだけじゃない」

 

 ユウナが驚く一方で、クルトはメカみっしぃが一列に引き連れてきた《魔獣》とその最後尾から歩いてきた小柄な仮面とマントの少年を見つける。

 

「《c》……まさかあいつがメカみっしぃ達といるなんて」

 

「あの魔獣たちはいったい何だろうね?

 《霧》の塊のような……《雲》のようなガスが寄り集まった魔獣かな?」

 

「流石に数が多すぎますね」

 

 姿を潜ませながら、できる限りの情報を収集しようとする。

 最初の二人やメカみっしぃと《c》の四人ならばまだ突入も考えられたが、十数体を超える《霧の魔獣》の大群にクルトは撤退を考える。

 

「MISHISHI――さあみんなも一緒に――ラブ&ピース! ラブ・イズ・メカみっしぃ!」

 

 広い空間にメカみっしぃのハイテンションな声が響き渡り、行進を止める。

 それに合わせて霧の魔獣たちもぴたりと行進を止める。

 しかし先にいた二人はもちろん《c》も《霧の魔獣》たちも、誰一人メカみっしぃの号令に合わせる者はおらず、その声は虚しく地下道を木霊した。

 

「MISHISHI……みんなノリが悪いなあ」

 

 メカみっしぃは肩を竦ませる。

 

「うるせえよ。それよりもライカ地区はそれで全部か?」

 

「MISHISHI! もう少しでキーアとロイドに捕まるところだったよ★」

 

 粗暴な仮面の男――《拳使い》の言葉にメカみっしぃが頷く。

 

「オスト地区の回収はほぼ終了した……西の方はどうだ?」

 

「こちらの回収は滞りなく進んでいるよ……

 後はヴェスタ通り周辺の街区を残すのみだ」

 

 《c》の言葉に仮面の男――《銃使い》が軽薄な言葉で応える。

 

「では、さっさと処置を済ませるとしよう」

 

 《c》が指を鳴らすと、整列した《霧の魔獣》の姿が一斉に崩れる。

 形を失った靄は杭のオーブメントに吸い込まれると、広い空間に駆動音が響き渡る。

 

「何とか間に合いそうだが、本当にこんなことに意味があるのか?」

 

「さあな……だが少しでも可能性があるならば、やるしかないんじゃねえか?」

 

 《c》の言葉に《拳使い》は肩を竦める。

 

「…………あまり気は進まないがな」

 

「確かにね。もう必要ないとはいえ回収するためには一度“昏睡”させなくてはいけないのだからね」

 

 《c》の言葉に《銃使い》は苦笑交じりに頷く。

 

「何を話しているんだ?」

 

「霧の魔獣って、要請にあった別の事件の事よね……それに“昏睡”も……」

 

「黒で決まりだな。さっさと突入しようぜ」

 

 血気盛んにアッシュが提案する。

 

「そうだな。彼らを捕まえて詳しいことを――」

 

「覚悟は決まったか?」

 

「っ……」

 

 ふいに投げ掛けられた言葉に一同は息を呑む。

 

「用があるならさっさと出てこい」

 

 《拳使い》はクルト達が潜む横穴に視線を向けて話しかける。

 

「どうする?」

 

「ここで逃げるのはなしだろ」

 

「あっ! アッシュッ!?」

 

 話し合う間も、止める間もなくアッシュは広間に踏み入った。

 

「仕方がない」

 

 クルトは観念してその後に続き、ユウナ達も続く。

 

「俺たちはトールズ士官学院第Ⅱ分校のもんだ……

 帝国政府の“要請”を受けてお前たちを逮捕しにきたぜ」

 

「ほう……」

 

 アッシュの口上に《銃使い》が三人と一匹を代表して前に出る。

 

「逮捕と……ならば教えて欲しいのだが罪状は何かな?」

 

「女学院への不法侵入を始め、各地区で目撃されている魔獣に昏睡事件……

 それに後ろにある杭のオーブメント……

 君たちが潔白だというのなら、それらが何なのか説明してもらいたいものだね」

 

 白々しい《銃使い》の言葉にアンゼリカは全てが怪しいと返す。

 

「なるほど……しかし君たちに構っているほど僕たちは暇ではない」

 

「は、逃げられると思ってるのかよ!」

 

 アッシュは武器を構えて威嚇する。

 

「ふふ……君たちの相手は“これ”に任せるとしよう」

 

 《銃使い》が指を鳴らすと、彼の足元に暗い魔法陣が広がる。

 

「何っ!?」

 

 思わず距離を取り、一同は武器を取って身構える。

 そして魔法陣から現れたのは魔獣ではない異形の存在。

 その姿にガイウスが目を見張る。

 

「これはまさか――」

 

「知っているのかねガイウス君!?」

 

「黄泉の渡し守。死せる魂を導く霊櫃……

 聖典に記された七十七の悪魔の一匹《嘆きの柩》ベヌウ……なのか?」

 

「悪魔!?」

 

「オカルト過ぎるだろ!」

 

 ガイウスの言葉にユウナとアッシュが声を上げる。

 

「はは、では僕たちは失礼させてもらうよ」

 

 悪魔を矢面に出して、《銃使い》たちは踵を返す。

 

「ちっ……逃がすかよっ!」

 

 アッシュは苦し紛れに鎌を飛ばす。

 

「MISHISHI」

 

 《銃使い》を狙った刃はメカみっしぃが庇い、その鋼のボディによって弾かれる。

 

「みっしぃ☆ばーん!」

 

 次の瞬間、メカみっしぃは全身から光を放つ。

 

「くっ!?」

 

 眩い閃光が広間を一瞬照らし、次の瞬間には《銃使い》たちはその場から消え失せ、《悪魔》だけが残っていた。

 

「仕方がない。まずはこいつを倒すことに集中しよう!」

 

 見失った三人と一匹をへの意識を切り替えてマキアスが号令を発する。

 

「いえ、ここは僕とユウナに任せてください」

 

 マキアスの提案にクルトとユウナは視線を交わして頷き合う。

 

「しかしクルト君、ユウナ君。これは尋常ならざる相手だ二人だけでは」

 

「ええ、ですから僕たちだけなら全力を使えます」

 

 そう言ってクルトは強化スーツの出力を上げる。

 

「アルカディスギア……リミットオフ……神気解放っ!」

 

 クルトが纏う強化スーツに導力の光が走り、その出力が目に見えて上昇し、全身に焔を纏う。

 

「アルカディスギア……リミットオフ……神気解放っ!」

 

 続いてユウナも強化スーツの出力を上げて、全身に銀の光を纏う。

 

「これは《鬼の力》!?」

 

「いや、違う……禍々しさはない。むしろ神々しさを感じるこれはいったい……?」

 

 慄くマキアスに冷静にそれを見極めようとガイウスは感覚を尖らせる。

 二人の機甲兵に与えられた《至宝》の武具。

 元々アルカディスギアは“匣”に収められた機甲兵の導力と繋がっている。

 すなわち、強化スーツを介せば二人は一時的に《至宝》の力の一欠片を利用することができる。

 

「それじゃあ――行くわよっ!」

 

 ユウナは全身に漲る力に万能感を感じながら、悪魔の懐に一息で踏み込む。

 

「クロスブレイクッ!」

 

 二つのトンファーから繰り出された双撃が巨大な悪魔を吹き飛ばす。

 

「よしっ!」

 

「は! ならここは任せたぜ」

 

 確かな手応えに喜ぶユウナに悪魔の相手を任せ、アッシュは勘に任せて横穴に駆け込んだ。

 

「待てアッシュ君! 一人で先行するのは無謀だ!」

 

 マキアスが制止するが、アッシュが立ち止まり戻って来る気配はない。

 

「ユウナ君、クルト君。本当にここは任せて大丈夫なんだね?」

 

 アンゼリカは二人に確認する。

 

「ええ、アッシュの事を頼みます」

 

 クルトは短く頷き、立ち上がる悪魔に斬りかかる。

 

「…………頼もしい後輩たちだ……

 マキアス君、ガイウス君。私たちはアッシュ君を追うぞ」

 

「はいっ!」

 

「俺が先導します」

 

 アンゼリカの言葉にマキアスとガイウスは頷き、アッシュが消えた横穴へと駆け込んだ。

 

 

 

 

 

「く……そが……」

 

 愛用のヴァリアントサイズが見るも無残に砕け散り、アッシュは《拳使い》に片手で首を掴まれ、軽々と吊り上げられる。

 

「次は相手をよく見て喧嘩を売るんだな」

 

 《拳使い》はそう言って、右の拳を固め――

 

「破甲拳」

 

 その拳はアッシュの無防備な腹に打ち込まれた。

 

 

 

 

 

 






 クルトとユウナ
 機甲兵用の武具である《焔の剣》と《幻の盾》の霊力を強化スーツに流した神気解放
 リィンの《鬼の力》に相当して、これくらいやれば肩を並べて戦える、邪魔にならない最低限の戦力になったと思います






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