閃の軌跡Ⅲ ―偽りの仮面―   作:アルカンシェル

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107話 帝都ヘイムダルⅤ

 

「ここは……」

 

 転移陣から出たリィンが見たのは薄暗い建築物の通路だった。 

 

「どこかの聖堂だね」

 

 オリビエは周囲を見回しながら呟く。

 

「女学院の地下にこんな空間があったなんて……」

 

 クレアもまた信じられないと言葉を失っていた。

 

「転移術によるものですから、必ずしも女学院の地下に移動したかは分からないですけど……

 とりあえずクルト達とは別の場所に飛ばされたという事はなさそうですね」

 

 リィンは地面に真新しい足跡を見つけ、おもむろに手を前に突き出して目を閉じる。

 

「リィン君?」

 

 その唐突な動作にオリビエは首を傾げ――

 

「エイオンシステム起動……」

 

 アルティナが魔導杖を地面に立てると、それに連動して寝かせるように折り畳まれていた機械仕掛けのウサミミが立ち上がり明滅する。

 

「音の反響……風の流れ……どうやら基本的に一本道のようですが……」

 

「途中に昇降機らしきものが複数確認できました……

 それにここから七階層下で戦闘の痕跡を感知……至宝の《焔》と《幻》からクルトさんとユウナさんだと思われます」

 

 そう結論付けると、アルティナはシステムを止めて魔導杖を持ち直す。

 

「はあ……とんでもないわね」

 

 リィンとアルティナの索敵にシェラザードは感心する。

 

「ふふ、流石リィンさんとアルティナちゃんですね……

 ですが、御二人が至宝の力を使うほどの相手なら、急いだ方が良いかもしれませんね」

 

「ああ……」

 

 ミュゼの言葉にリィンは頷く。

 

「ミュゼの言う通りだ。急ごう」

 

 一同を促して、リィンは転移陣のある祭壇から通路へと踏み出し、一同がそれに続く。

 その瞬間、それは起きた。

 

「――え?」

 

 それは誰がもらした言葉だったのか。

 一同が感じたのは唐突に足元の地面が消えた感覚と浮遊感。

 

「落とし穴っ!?」

 

 驚いている間にも彼らの落下は始まっていた。

 

「ウィッチブルームッ!」

 

 格納したばかりの魔導杖をアルティナは再び展開して、浮遊する魔導杖に捕まりリィンに――

 

「俺は良いっ! それよりミュゼやオリビエさんを――」

 

 アルティナの手を拒み、リィンは奈落の闇へと落ちていく。

 

「っ……ミュゼさん」

 

 アルティナはミュゼに手を伸ばすと同時に三つの追加装甲を飛ばしていた。

 浮遊する三つの盾をそれぞれクレアとオリビエ、シェラザードの前へと導き、掴まらせる。

 

「このまま低速で下降していきます」

 

 自分を含め五人の体を支えたアルティナは急な斜面になっている縦穴をゆっくりと降りていく。

 一方、リィンは滑り台のように傾いた縦穴を滑り落ちていた。

 既に落下の動揺は治まり、その気になれば太刀を壁に突き立てて止めることもできた。

 

「このまま落ちるなら好都合か?」

 

 近付いて行く二つの気配。

 澱んだ空気の中に感じず目立つ至宝の二つの神気。

 本来なら七つの階層を踏破しなければならない道を偶然にもショートカットできていることにリィンは流れに身を任せ――

 

「っ――」

 

 リィンは落とし穴と同じように、唐突に空中に投げ出された。

 広い空間の縦穴。

 天井の穴から投げ出されたリィンは逡巡する。

 

「呼ぶか?」

 

 まだ見えない地面の底にリィンは《騎神》を呼ぶか悩み――

 暗闇の中に二つの光を見つける。

 

「その必要はない……か……」

 

 リィンは空中で態勢を整え、重力に引かれるままに落下を受け入れ――

 

「六の型《緋空斬》」

 

 

 

 

 

「行くわよ! これでとどめっ!」

 

 銀の光を身に纏い、ユウナは渾身の一撃を叩き込むためにトンファーを大きく振りかぶる。

 

「待てユウナ!」

 

 クルトはそれに気付き、ユウナの必殺技を制止する。

 

「へ……?」

 

 思わずユウナは悪魔の目の前で急停止して――それは降ってきた。

 

「六の型《緋空斬》」

 

 巨大な風の刃が頭上から振り下ろされて悪魔は両断される。

 そのまま風の刃は地面に叩きつけられて爆発して荒れ狂う風を生み出し、その風を受けて減速したリィンがユウナ達の前に着地する。

 

「リリリリ、リィンッ!」

 

 悪魔にとどめを刺すように突然現れたリィンにユウナは驚愕する。

 

「随分な登場だな……」

 

 クルトは肩を竦め、光の粒子になって消えていく悪魔を確認して双剣と共に神気を治めた。

 

「俺だってこんな登場の仕方はしたくなかったよ」

 

 リィンはため息を吐き、無事に着地できたことを安堵する。

 

「こんなって……どこから落ちて来たのよ」

 

 ユウナは天井が見えない暗闇を見上げて首を捻る。

 

「最初の階層からだ……

 昇降機の目の前で突然落とし穴が発動して、ここまで落とされたんだ」

 

「落とし穴!? そんなショートカットがあったの!?」

 

「ユウナ。今のリィンの登場の仕方から見れば、僕たちが同じ道を通ったら死ぬぞ」

 

「人を怪物みたいに言うな……

 それより他のみんなは?」

 

リィンは周囲を見回してアッシュ達がいない事を尋ねる。

 

「そうだな……どこから話すか……」

 

 クルトは状況を思い出しながら、説明をしようと口を開き――

 

「いや、今はその必要はない。アルティナ達も遅れて到着するだろうから説明はその時に……

 俺は今、何をすればいい?」

 

 リィンは二度手間を避けて、クルトに指示を仰ぐ。

 

「今回の騒動の犯人をアッシュ達が追っている。すぐに僕たちも――」

 

「その必要はないよ」

 

 クルトの言葉がアンゼリカの声によって遮られた。

 振り返れば横穴の一つからアンゼリカを先頭に、マキアスとガイウス、そしてアッシュが戻ってきた。

 

「無事でしたか、でもその様子では……」

 

「ああ、申し訳ない。彼らにはついては取り逃がしてしまったよ」

 

「それは良いんですが……何かありましたか?」

 

 初見の二人はいたものの、《c》とメカみっしぃは以前の相対から一筋縄ではいかない相手だと分かっている。

 取り逃がしたことについては不思議ではないが、不貞腐れて静かなアッシュをクルトは訝しむ。

 

「何もないよ。それより」

 

 アンゼリカは念を押して、視線と共に話題を強引に変える。

 

「これらはいったい何なんだろうね?」

 

 アンゼリカは地面に打ち付けられた杭のオーブメントと壁の扉を順に見て呟く。

 

「いったいどこに繋がっているでしょうね」

 

 リィンは扉に手を当てて力を入れて押す。

 しかし扉はびくともせず、開く気配はなかった。

 

「杭の方は……」

 

「お待たせしました」

 

 一同の視線が杭のオーブメントに向いたところで、魔導杖に乗り、四人を乗せて上から降りて来たアルティナが静かに着地した。

 

「うーん、なかなかにスリリングな空の旅だったね……

 そして流石リィン君。あの高さで無事とは感服するよ」

 

「それは……まあ慣れていますから」

 

 オリビエにそう答えながらリィンはクルトに向き直る。

 

「それじゃあ改めて、何があったのか教えてくれるか?」

 

「ああ」

 

 クルトはその言葉に頷いて、自分たちが見たものを語り出した。

 

 

 

 

 

「《銃使い》と《拳使い》……」

 

「それにメカみっしぃと《c》ですか……」

 

 クルトの報告を聞いてリィンとアルティナは顔をしかめる。

 

「それに杭のオーブメントとそれに吸い込まれた《霧の魔獣》か……シェラ君」

 

 オリビエは静かになっている杭のオーブメントに近付いてシェラザードを呼ぶ。

 

「どう思う?」

 

「そうね……ツァイスの山の中で見たものと、一か所を除いてそっくりね」

 

「ツァイス、リベールの地名の一つでしたね……

 ですが一か所違うというのはどういうことでしょう?」

 

 クレアはシェラザードの呟きに聞き返す。

 

「この辺りだったかしらね……あの時のこのオーブメントにはゴスペルっていう《黒のオーブメント》が取り付けられていたのよ」

 

「今回はそれがない……

 リベールの時とは違う、《リベル=アーク》がないのだから当然なのだけど、この違いはいったい何なんだろうね」

 

 オリビエは以前と現在の違いは何なのか考え込む。

 

「あの……オリヴァルト殿下?

 何故、貴方がリベールでこのオーブメントを見た事があるのですか?」

 

「おおっと! マキアス君、それは聞かないお約束だよ」

 

 マキアスの疑問をオリビエは笑って誤魔化す。

 

「詳しいことは持ち帰ってシュミット博士に調べてもらうしかないでしょう」

 

「そうですね。幸い機能は停止しているようですから、抜いて問題はないと思います」

 

 リィンの提案にアルティナが頷く。

 

「問題はこの巨大な杭をどうやって抜いて、運ぶかだけど」

 

「それなら問題ありません」

 

 リィンはそう言うと、ベルトを操作して強化スーツの出力を上げる。

 

「っ……」

 

 杭のオーブメントにリィンが手を掛けて力を込めて、引き抜けばあっさりと杭は地面から抜ける。

 

「おおっ!」

 

「杭は俺が運びます……それと……」

 

 リィンは杭を担ぎながら振り返り、巨大な扉を見上げた。

 

「この扉についてはどうしましょう?」

 

「開かないのなら今は気にしても仕方がないでしょう……

 《ARCUS》で写真を撮って、エマ先生やイソラちゃんに尋ねるくらいしかできることはないと思います」

 

 ミュゼはそう言いながら、《ARCUS》を取り出すと扉や周辺の景色を記録していく。

 

「ここでできることはもうなさそうね……

 それじゃあ外に戻りましょう」

 

 ユウナに促されて一同は動き始める。

 

「…………」

 

 リィンはその流れに反して扉を見上げ続けていた。

 

「リィン?」

 

 アルティナが振り返り、その姿をいぶかしむ。

 

「…………何でもない」

 

 リィンは頭を振って、アルティナの声に応える。

 根拠はなく、やけに後ろ髪を引かれる。

 だが、それを言葉にして説明することはできず、かと言って開かない扉をどうすることもできない。

 

「……行こう」

 

 リィンは扉への未練を断ち切るように踵を返して――

 

 ――ドクン――

 

 胸の鼓動が強く鳴った。

 

「――――!?」

 

 杭を手放すと同時にリィンはその場から跳び退いて、咄嗟に太刀に手を掛ける。

 しかし扉は依然として微動だにせず、開く気配はなかった。

 

「……気のせい、か?

 いや、それにしたって……」

 

 リィンは目を瞑って扉の先の気配を探るが、やはり何も分からない。

 

「リィン、どうかしましたか?」

 

「分からない……とりあえず今は地上に戻ろう」

 

 リィンは落とした杭を担ぎ直すと今度こそ、歩き出した。

 

 

 

 

 帰路にトラブルが起きることなく、一同は転移陣がある第一層に戻ることができた。

 

「あ……」

 

「どうかしましたかリィン?」

 

 不意に足を止めたリィンをアルティナが振り返る。

 

「今度は何よ?」

 

 訝しむユウナにリィンは応えず、目を瞑って集中して――

 

「みんな、揺れるぞ。警戒をっ!」

 

 何が、と問い返す前にリィンが言った通り地面が揺れた。

 

「じ、地震っ!?」

 

 咄嗟に一同は身を屈め、揺れる大地に踏ん張り――程なくして揺れは治まった。

 

「おい! そのオーブメントが地震を起こしてたんじゃねえのかよ?」

 

 安全を確認したアッシュはリィンが担ぐ杭を指して文句を言う。

 

「リベールではそうだったのだけどね……

 この杭は違うのか、それとも他にも同じ杭が地下にあるのか……ふむ」

 

 オリビエは考え込む。

 

「とりあえずここで話すより先に外に出ませんか?

 ここで話すのはまた地震があったりしたら怖いですから」

 

 ユウナの指摘にアッシュは舌打ちをして、それ以上の追及をやめた。

 

「それじゃあさっさと外に出ましょう」

 

 ユウナは一同を促して最後の第一階層を歩き出す。

 そんな彼女の後ろに続きながら、マキアスは呟いた。

 

「懐かしいな。僕たちも昔はこうだったな」

 

「ああ、そうだな……旧校舎でサラ教官に落とされた事が始まりだったな」

 

 マキアスの呟きにガイウスは同意する。

 

「ふむ、最初のマキアス君は凄かったと聞くね」

 

「うぐ……それは聞かないでください」

 

 アンゼリカの指摘にマキアスは黒歴史を思い出して呻く。

 

「聞けば、旧Ⅶ組の先輩方もユウナさんたちと同じようなオリエンテーリングをなさったと聞きますね……

 いったいどんなトラブルがあったのか気になりますね」

 

「ふふふ、知りたいかいミュゼ君。実はね――」

 

「オリヴァルト殿下!? 何で貴方が話そうとしているんですか!?」

 

 語り出そうとするオリビエを慌ててマキアスが止める。

 

「気を抜き過ぎではないでしょうか?」

 

 そんな光景にアルティナが眉を顰める。

 

「まあ、良いんじゃないか? もう転移陣は目の前に――っ!? みんな止まれっ!」

 

「リィン?」

 

 担いだ杭を下して、太刀をいつでも抜けるように構えるリィンに一同は訝しむ。

 

「あんな像が来た時にあったか?」

 

 リィンに促されて視線を向けた先は転移陣の祭壇の上。

 そこには石造りの怪物が祀られていた。

 

「あれはまさか……」

 

「旧校舎にいた石の守護者!? 何故ここに!?」

 

 見覚えのある石像にマキアスとガイウスが慄く。

 

「御二人は何に驚いているのですか?」

 

「見た感じ普通の石像よね?」

 

 驚く二人にミュゼとユウナが訝しむと――

 

「え……?」

 

 二人の見ている中で動くはずがない石像が動き出した。

 

「石像が動いたっ!?」

 

 ユウナが驚きの声を上げると、石像はまるで生き物であるかのように体を動かし、咆哮を上げる。

 

「石の守護者。暗黒時代の魔導の産物を聞いたことがあります」

 

 ミュゼは魔導ライフルを構え、知っていることを叫ぶ。

 一方――

 

「はは、まさかこんな時にあの時の魔獣とまた会うことになるとはな」

 

 翼を広げ、威嚇するように唸る二本角の魔獣にマキアスは戦意を募らせながら、懐かしむ。

 

「そうだな。あの時は倒しきれなかった。だが今の俺たちなら」

 

 その言葉にガイウスは同意して十字槍を構える。

 マキアスとガイウスはこれ以上ないくらいに戦意を燃やし、他の者たちも戦闘態勢を取る。

 

「こいつを何とかしない限り地上には戻れない。ここは――え!?」

 

 号令を上げようとしたリィンだが、気付けば音もなく石の守護者――ガーゴイルの顔が目の前にあった。

 

「っ!?」

 

 咄嗟にリィンは太刀を盾に構え、次の瞬間凶悪な爪をもつ腕がリィンを殴り飛ばした。

 

「え!?」

 

「リィン!?」

 

 いつの間にか自分たちの目の前に踏み込まれ、誰も反応できずにリィンが殴り飛ばされた事実に一同は戦慄する。

 

「オオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 リィンを殴り飛ばしたガーゴイルは一同の目の前で衝撃波を伴う雄叫びを上げて、同時に鋭く重い石の塊の尾がガイウスを薙ぎ払う。

 

「くっ――」

 

 石の尾の一撃を十字槍で受けつつ、衝撃波に飛ばされたガイウスはガーゴイルから距離を取る。

 

「食らえっ!」

 

 衝撃波に転がるように突き飛ばされたマキアスは立ち上がるとともに横へと走り、射線を取ってショットガンを撃ち込む。

 

「続きます」

 

「まさか旧校舎の魔獣とこんなところで戦うことになるとはね」

 

 その銃撃にクレアとオリビエが続いて銃撃を連射し――

 

「蒼き翼を――シュートッ!」

 

 ミュゼの鳥を象った蒼い弾丸がガーゴイルの額を捉える。

 

「グルルルッ!」

 

「そんな……」

 

 四人の銃弾を浴びながらガーゴイルは何の痛痒も感じた素振りを見せずに首を巡らせる。

 

「アナライズ完了……え……?」

 

 魔導杖でガーゴイルの性質を確認したアルティナは読み取った情報に驚く。

 

「どうしたのアルティナ!? 何が分かったの!?」

 

 振り回される尾をガンブレイカーで防ぎながらユウナは叫ぶ。

 

「下がってください皆さん!」

 

「ちょっとそれどういうことっ!?」

 

 アルティナの言葉にユウナが意味が分からないと声を上げ――

 

「はあああっ!」

 

 クルトがガーゴイルの懐に入り込むと、双剣の剣舞を浴びせる。

 

「っ――」

 

 一撃、二撃、三撃と斬りつけて、クルトはその手応えに顔をしかめてガーゴイルから距離を取る。

 

「なるほど……この魔獣は異常なまでに……硬い」

 

「アナライズの結果、この魔獣を構成している材質は全てゼムリアストーンだという事が分かりました」

 

 クルトの手応えを肯定するようにアルティナが補足する。

 

「はあ! ゼムリアストーン製のガーゴイルだと! 何だそのチートは!?」

 

 予備の武器を手に護身に徹していたアッシュはその理不尽な性能に文句を言う。

 

「それだけじゃない……」

 

 殴り飛ばされ、壁に叩きつけられたリィンがさらに付け加える。

 

「速度もパワーも信じられないくらいに強い……

 S級の手配魔獣のつもりで対処した方がいい」

 

 苦し気な息を整えながらリィンは戦線に復帰する。

 

「ダイヤモンド・ノヴァ!」

 

 シェラザードが水の上位導力魔法を駆動して放つ。

 無数の氷の雨がガーゴイルに降り注ぎ、その体を氷が圧し潰していき――

 

「ガウッ!」

 

 ガーゴイルの身じろぎがその凍結をあっさりと砕く。

 

「ちょっと導力魔法も効かないの?」

 

「女学院の地下にこれ程の魔獣が存在していたなんてね」

 

 その様にオリビエは冷や汗を掻きながら苦笑いを浮かべる。

 

「この場はどうにかやり過ごして、装備を整えてから討伐した方が良いでしょう」

 

 クレアはこの状況では分が悪いと判断して、撤退を提案する。

 

「やり過ごすと言われても……あいつをどうにかしないと転移陣は使えないですよ」

 

「ならば俺がなんとかしよう」

 

 マキアスの弱音をガイウスが遮る。

 

「殿は俺が務める。その間にクレア少佐たちは援軍を呼んで来てくれ」

 

 そう意気込みながらガイウスは金色の光を纏い――

 

「我が深淵に――」

 

「その必要はありません」

 

 アルティナが魔導杖を長大な導力砲へと変形させ、その引き金を引く。

 

「エーテルバスターッ!!」

 

 野太い光線が放たれる。

 前衛の陰から不意打ちで撃たれた砲撃は避ける間もなく着弾して、爆発する。

 

「やったか!?」

 

「…………いえ、まだです!」

 

 アンゼリカの疑問にミュゼが叫ぶ。

 爆煙をかき分けて、ガーゴイルが砲撃姿勢のままのアルティナに向かって飛翔、突撃する。

 アルティナはその突進に反応する間はなく、しかしそれでも動揺は見せずに――

 

「四の型《紅葉斬り》」

 

 突進するガーゴイルの翼を横からリィンが一閃する。

 

「っ――」

 

 一閃した刃は斬断することは敵わなかったが、飛翔が揺らぎ、崩れる。

 

「光よ! 滅せよ!」

 

 失速するガーゴイルにクルトが光の覇気を纏った双剣が顎を打ち上げる。

 

「これで決めるっ!」

 

 仰け反ったガーゴイルの頭にユウナが跳びつく勢いのままに、ガンブレイカーの銃口をガーゴイルの口の中に叩き込む。

 

「エクセル――」

 

 全身に銀の光を灯し、ガンブレイカーに集約させてユウナは引き金を引く。

 

「――ブレイカーッ!!」

 

 次の瞬間、ガーゴイル――イグルートガルムZは膨れ上がり、銀の光を弾けさせて爆散した。

 

 

 

 

「はあ……やっと外だあ!」

 

 転移陣から戻ったユウナはまだ薄暗い用務室にも関わらず、歓声を上げた。

 

「お疲れ様、どうやらいろいろあったみたいね」

 

 続々と戻ってきた一同の姿やリィンが担いでいる杭のオーブメントからイソラは地下で進展があったことを察する。

 

「とりあえず実習地に戻りますか?」

 

 リィンは一同に提案する。

 

「そうですね。杭をシュミット博士に診てもらう必要がありますし、もうすぐ正午になりますから」

 

「キーアの方でメカみっしぃ達に遭遇していたとしたら情報交換しておいた方が良いだろう」

 

 ミュゼとクルトがその意見に同意する。

 

「何でもいいからちょっと休みたいわ……

 神気ってあんなに疲れるのね……」

 

 ユウナが疲れたため息を漏らすと、唐突に彼女の《ARCUS》が鳴った。

 

「着信? 誰からだ?」

 

「えっと……」

 

 みんなの視線が集中する中で、ユウナは《ARCUS》を取り出してそこに表示された番号を確認する。

 

「この番号は……お母さんの番号だ」

 

 表示された番号にユウナは目を見開いて驚く。

 士官学院の性質上、普段の連絡は緊急時以外では受け取れないと母には伝えてある。

 

「あ……でも、今は……」

 

 ユウナは迷う。

 今は士官学生としての実習中。

 家族との私用の連絡を取っていい状況ではない。

 

「出ないのか?」

 

「……だって今は実習中で……」

 

 リィンに促されるが、ユウナは躊躇う。

 

「ユウナの事情は知っている……

 その上で、ユウナのお母さんは緊急だから連絡を取ろうとしているんじゃないのか?」

 

「あ……」

 

「それに……」

 

「それに?」

 

 リィンの言葉の先をユウナに代わってミュゼが促す。

 

「ユウナのお母さんが今いる場所はユミルだ……

 ユウナのお母さんが緊急事態ならユミルだって無関係じゃない」

 

「…………それはそうかもしれないけどさあ……」

 

 リィンへの感謝を複雑なものにしながらユウナは苦笑交じりに鳴り続ける《ARCUS》に視線を落とす。

 

「それじゃあ、ちょっと待ってて」

 

「ごゆっくりどうぞ! 私たちはその内に先程の事をトワ教官に報告しますので」

 

 一言断るユウナをミュゼが見送る。

 ユウナは少し一同から距離を取り、背中を向けて《ARCUS》の通信回線を開く。

 

「もしもしお母さん? 何かあったの?」

 

 そんな声を背後に聞きながらリィン達は今後の方針に意見を交換しようと口を開き――

 

「本当!? お母さんっ!」

 

 ユウナの喜悦を含んだ声が響き渡った。

 

「うん……うん……あたしの事は良いから……うん……そう、分かった…………」

 

 その声から悲報ではないことを察する。

 

「…………え゛……?」

 

 しかしそんな朗報に水を差されたかのようにユウナは顔をしかめる。

 

「ううん、何でもない。それじゃあ時間ができたらあたしの方から連絡するから……またねお母さん」

 

 短い時間でユウナは通信を終わらせて、一同に振り返った。

 

「その様子だと良い事があったみたいだね」

 

 オリビエはユウナの様子からそう指摘する。

 

「はい……ユミルで療養していた弟と妹が、一昨日目を覚ましたって」

 

「それは良い事だ。でも一昨日?」

 

 そこにある空白の時間にマキアスは首を傾げる。

 

「えっと……ケンとナナだけじゃなくて、入院していた人は全員目を覚ましたみたいです……

 だけど、報告はちゃんと検査を受けてからの方が良いって事で遅らせたみたいです……それは良いんですけど」

 

 ユウナはそこで一度言葉を切って、言い辛そうに言葉を濁す。

 

「どうしたんだユウナ?」

 

「そのね……お母さんが言うには一昨日のその日……

 アレイスター男爵って名乗る人がユミルに来て、最新の心霊医術だって言って導力魔法を使ってクロスベルの人たちが目を覚ましたんだって話みたい」

 

「それは……」

 

 胡散臭い話にリィン達は思わず顔をしかめる。

 これまで自然回復を待つしかなかった“グノーシス汚染”。

 それが突然治癒術で全快したと聞けば怪しむし、何より“アレイスター”男爵。

 リィン達が捕縛しようとしていた“オリビエ・B・アレイスター”と無関係だとは思えない。

 

「でも、検査してくれたお医者さんは経過観察は必要だけど、もう大丈夫って言ってくれたし……」

 

「そうだな……喜ばしい事なんだが……」

 

 歯切れが悪くなるユウナの言葉にクルトは頷きながら、顔を歪める。

 喜ぶべき朗報なのに、アレイスターと言う名前がそれを不審なものに変える。

 

「ふ、ここは素直に喜ぶべきことだよ」

 

 そんな空気を払拭させるようにオリビエはリュートを鳴らした。

 

「ユウナ君の弟妹やクロスベルの人たちが目を覚ましたのは朗報に違いない……

 そしてボク達も帝都の地下で蠢く陰謀に一歩近付けた、前向きに考えようじゃないか」

 

「…………そうですね」

 

 オリビエの言葉にリィンは頷いた。

 

「とりあえずこの杭をさっさと車に運びましょう」

 

 そしてリィンはうんざりした様子で重い杭のオーブメントを指しておどけて見せた。

 

 

 

 







以下、ネタバレを含む解説










女学院の不思議なダンジョン
それは本来ならルーファス総督がクロスベルの地で行った儀式
しかし既に席が埋まっているため、この儀式には何の意味もない
何十、幾百を繰り返したところで“試し”は起こらない
この儀式に意味ができるとすれば、七つの席に空きができるか、それとも……


本来なら一ヶ月と言うスパンを周辺に影響を与えないように変異をするのだが、
最奥へ辿り着くと即変異するという設定に改造されている。地震の半分はこれのせい。
余談だがクリア毎に階層が変異してダンジョンは深くなっている。


ガーゴイル《イグルートガルムZ(ゼムリア)》の強さ
リィン達新Ⅶ組+αが反映されたのではなく、

主《OZΩ》
準《人形遣い》《白面》《剣帝》《怪盗紳士》《痩せ狼》《紅の戦鬼》

の七人に反映された“石の守護者”になります


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