閃の軌跡Ⅲ ―偽りの仮面―   作:アルカンシェル

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109話 帝都ヘイムダルⅦ

 

 マーテル公園の片隅にある休憩所。

 そこにある隠し通路からリィンとセドリック達は地下道へ降りる。

 

「こちらです」

 

 ギデオンが先導して通路の途中の壁に手を触れて、レンガ造りの一つを押し込む。

 すると壁が動き出し、新たな通路が現れた。

 

「これはもしかして二年前に貴方達が利用した通路かい?」

 

 セドリックが尋ねるとギデオンは頷く。

 

「ええ、帝都の地下にはこういった遺構が網の目のように広がっています」

 

 ギデオンは肯定する。

 

「帝都の地下に点在する地下墓地には《暗黒竜》の遺骨が分けるように封印されていました……

 この先にあった地下墓地もその一つです」

 

「その帝都の地下に散らばっていた《暗黒竜》の遺骨を集めて復活させたのか」

 

「へへ、あの頃は俺も若かったな」

 

「申し訳ありません」

 

 クロウはセドリックの指摘を笑って誤魔化し、ギデオンは恐縮し切った様子で頭を下げる。

 

「今言っても仕方がない。とにかく進もう」

 

 セドリックはため息を吐いて気持ちを切り替えて、一同を促した。

 

「それにしてもすごい熱気ね……」

 

 制服の襟元を緩め、袖を捲り上げながらユウナが愚痴る。

 

「ああ、今が夏だからと言っても、こういった地下道は涼しいものになるはずなんだが」

 

 クルトは頷き、見えない空気を睨みつける。

 湿気を帯びた熱い空気が通路の奥から外に向かって吹き抜けていく。

 

「まさか本当に帝都の地下で温泉を作ってるのか?」

 

「何を考えているんだ《結社》の教授って奴は」

 

 エイダとフリッツは直前のやり取りを思い出して理解に苦しむ。

 

「そこのところはどうなんだいシャーリィ?」

 

「うーん、そうだね……結構いい温泉だったよ」

 

 既に堪能した後だったのか、悪びれた様子もなくシャーリィは温泉の感想を口にする。

 

「そういうことじゃなくてだね……」

 

「そもそもよく分からない実験ばっかりしてるから聞かれても困るんだけど」

 

「それでも少しくらい答えの取っ掛かりが欲しいんだけどね。今だと推論も挙げられないくらいに情報が足りないからね」

 

「うーん……

 “霧の魔獣”は帝都民の中にある“モノ”を取り出すために“気”と“肉体”の接続を一度切って仮死状態にしないといけないとか」

 

「仮死状態!? じゃあ昏睡事件じゃなくて殺人事件だったって事かい!?」

 

「人聞きの悪い事言わないでよ。誰も死んだりしてないでしょ?

 あとは“ちんでん”とか“えんせき”とかで帝都の大地にしみ込んだ“モノ”を回収するとか言ってたかな?」

 

「はあ……不穏な事ばかり言ってくれるな」

 

 シャーリィの曖昧な言葉にレクターもセドリックと同じように頭を抱えてため息を吐く。

 

「はっ! お前がまさかついて来るとは思わなかったぜアランドール」

 

「俺も皇宮でのんびり報告を待っていたかったんだけどな」

 

 アッシュの皮肉にレクターは肩を竦める。

 

「そうも言ってられねえ事情があるんだよ」

 

 ワイスマンが何を企んでいるのか。

 残っている《ハーキュリーズ》の救出とリィンにどう誤魔化すのか。

 直接その場にいなければできないこともある。

 

「…………エリアサーチ起動します」

 

 おもむろにアルティナが魔導杖を立て、エイオンシステムを作動させる。

 

「アルティナさん……?」

 

 うさぎの耳飾りが明滅すること数秒。

 サーチを終えたアルティナは顔をしかめて魔導杖の砲口を通路の先に構えた。

 

「アルティナ?」

 

「報告は後に……

 前方から不審な反応が四つ近付いています」

 

 その言葉に一同は一斉に武器を構える。

 

「あああ……」

 

「うー」

 

 呻き声をこぼしながら、夢遊病者のようなフラフラとした足取りで橙色の戦闘服を着た何者かが歩いて来る。

 

「こいつらは……」

 

「共和国の観光客だな」

 

 訝しむリィンの言葉に被せるようにレクターが断言する。

 

「いや、明らかに――」

 

「観光客だ……おい! お前ら、ここは立ち入り禁止だぞ」

 

 リィンの反論を押しのけて、レクターは四人の《ハーキュリーズ》に呼びかける。

 

「あー」

 

「ううううう」

 

「お……おい……」

 

 全く意思を感じない《ハーキュリーズ》にレクターの“勘”が警鐘を鳴らす。

 

「おいおい……ヤバくねぇか?」

 

「ええ……まるで夢遊病みたいな」

 

 アッシュとミュゼはその異様な《ハーキュリーズ》の雰囲気に気押される。

 そして次の瞬間、《ハーキュリーズ》の背後に四つの戦術殻が現れる。

 

「えっ!? がーちゃんの同系機!?」

 

 突然現れた四つの戦術殻にミリアムが驚く。

 その間に現れた戦術殻は一体ずつ《ハーキュリーズ》の背後に回ると眩い光を発した。

 

「これはアルカディスギアの光?」

 

「いや、これは……」

 

 光が収まるとそこには四肢を持った戦術殻たちがいた。

 

「――――――」

 

「――――――」

 

「――――――」

 

「――――――」

 

 ある戦術殻は軍刀を抜き、ある戦術殻はスタンハルバードを取り出し、ある戦術殻は魔導杖を掲げ、ある戦術殻は導力ライフルを構える。

 

「来るぞ! 総員、迎撃用意!」

 

 リィンがいち早く号令の声を上げた。

 

 

 

 

 

「くっ……」

 

 人間を中に取り込んだ戦術殻の拳をロイドは受け止め、衝撃を受け流すようにたたらを踏む。

 

「ロイドッ!」

 

「大丈夫だ! それよりも凄い力だ。人の筋力と速度じゃない」

 

 鋼の拳をトンファーで受けてなお痺れた腕にロイドは注意を促す。

 

「了解っと……それにしてもこの流れ、《太陽の神殿》を思い出すな」

 

「そうだな……ここにクルトとエリィもいれば特務支援課だったのにな」

 

 ランディの言葉にロイドは同意して悔やむ。

 

「クルトはⅦ組だが、お嬢は流石に帝国には来れねえだろ……

 なんでもルーファス総督の秘書やってるみたいだが、あいつが帝都に来ている間クロスベルの政務を丸投げされているって聞いたぜ」

 

「君たち、雑談は後でしたまえ」」

 

 敵を警戒しながらもつい雑談してしまったロイドとランディを《C》が諫めると同時に、彼は導力銃を抜くと同時に撃ち放つ。

 跳び掛かろうとした戦術殻の機先をそれで止めて、遅延させる。

 

「やるじゃねえか」

 

「エリィに匹敵する銃の腕前だな。これなら安心して背中は任せられる」

 

 ランディとロイドは《C》の銃技に感心して、前に出る。

 

「…………あの二人は時々とてつもなく鈍くなりますね」

 

 そんな男二人の背中にティオは半眼になってため息を吐く。

 

「あはは……ロイドもランディも事件にはちゃんと鋭くなると思うよ?」

 

 キーアは呆れるティオに精いっぱいのフォローする。

 

「キーアを放って前に出過ぎです。良いですかキーア、前に出てはいけませんよ」

 

「ティオ心配し過ぎだよ。キーアはもう守られるだけの弱いキーアじゃないよ」

 

 過保護に心配するティオにキーアはそう言うと太刀を抜き放つ。

 

「――え!?」

 

 その一閃は背後から忍び寄っていた透明な何かを弾く。

 空を打った音にティオと《C》が驚き振り返れば、何もなかった空間から緑の戦術殻が現れる。

 

「これはっ!」

 

 ティオはすぐに導力杖を構える。

 しかし緑の戦術殻は奇襲が失敗したと判断するとすぐに踵を返して徹底した。

 

「…………逃げたか」

 

「うん、カルバードの人たちみたいにキーアたちの誰かを取り込もうとしてみたいだね」

 

 《C》の呟きにキーアは頷く。

 

「他の人たちは大丈夫かな?」

 

 キーアは天井を仰いでぽつりと呟いた。

 

 

 

 

 

「ふん」

 

 天井からの奇襲をデュバリィはその場から消えて躱す。

 

「――――――」

 

「遅いっ!」

 

 鋼の拳で床を叩いた戦術殻はキョロキョロとデュバリィを探し――次の瞬間、背後を取った彼女の一閃が戦術殻を吹き飛ばす。

 

「なんや助太刀はいらんかったか?」

 

 ゼノは構えた導力ライフルを下して周囲の警戒をする。

 

「当然ですわ」

 

 軽い口を交わしながら二人は油断なく制圧した戦術殻たちを警戒する。

 

「―――――――」

 

 不利を悟ったのか、戦術殻たちは中身の《ハーキュリーズ》をその場に解放するとその場から逃げ出した。

 

「所詮は人形遊びのようですわね」

 

「いやいや、お嬢ちゃんの速さがえげつないだけで、あの人数とこの狭い通路で弾幕を張られたらもっと手こずっとたで」

 

 デュバリィの言葉にゼノは突っ込む。

 たった一人で通路の奥で横隊を組み機関銃で待ち構えていた相手を簡単に蹴散らせたのはデュバリィの速さがあってこそ。

 その後の不可視の奇襲も躱した事も含めて、ゼノは鉄機隊の実力を実感する。

 

「…………体に外傷はなし、霊的な消耗もないわね」

 

「放っておいても問題はなさそうだな」

 

 戦術殻から解放された《ハーキュリーズ》の容体をエンネアとレオニダスは確認する。

 

「では憲兵隊に連絡を取り、確保してもらうとしよう」

 

 ルーファスは《ARCUS》で外との連絡を取る。

 その光景にユーシスは立ち尽くしていた。

 

「これが本気の結社と猟兵の力か……」

 

 トールズを卒業してから二年。

 領地の運営をしながら鍛錬を欠かした日はないが、彼らとの間にあった力の差は埋まった気がしない。

 

「何を呆けている?」

 

「っ……」

 

 悩んでいるとアイネスに注意される。

 

「探索は始まったばかり、足を引っ張るのなら置いて行くぞ」

 

「分かっている」

 

 ユーシスは気を取り直して集中する。

 周りにいるのは自分に歩調を合わせてくれる仲間ではないと改めて認識する。

 

「そこまで脅す必要はありませんでしょ……

 たしかに《ハーキュリーズ》を人形にして襲ってきたのは少々面をくらいましたが、戦闘力はそこまで……

 と、懲りずにまた来ましたわね」

 

 デュバリィは戦術殻たちが逃げ帰った通路から現れた姿に剣を構え直す。

 

「なんや一人か?」

 

「何人来たところで同じですわっ!」

 

 デュバリィは神速の踏み込みをもって、悠々と歩いてくる戦術殻を纏った人間に斬りかかる。

 

「くらいなさいっ!」

 

 神速の一太刀をデュバリィが放つ。

 

「…………」

 

「なっ!?」

 

 必殺の自信を持って振り抜いた一撃が左手に握られた剣に受け止められてデュバリィは目を剝く。

 

「っ…………少しはやるようですわね」

 

 仕切り直すように距離を取るデュバリィだが、戦術殻は無言を貫く。

 その様子にデュバリィは顔をしかめ――

 

「ならば、これを見切ってみなさいな」

 

 次の瞬間、分身によって三人となったデュバリィは一人の戦術殻を取り囲む。

 

「――斬っ!」

 

 三方から神速の踏み込みでデュバリィは襲い掛かり――

 

「鬼炎斬」

 

「はあっ!?」

 

 炎を纏った一回転の薙ぎ払いに二体の分身は両断され、本体は炎の剣撃に剣と体ごと吹き飛ばされる。

 

「なっ!?」

 

「デュバリィ!?」

 

 その結果に猟兵と鉄機隊が驚愕し――次の瞬間、戦術殻は一同の間を一太刀浴びせながら駆け抜けていた。

 

「がっ!?」

 

「うおっ!?」

 

「なっ!?」

 

「ぐっ!?」

 

 猟兵も鉄機隊も、ルーファスもユーシスも等しく一撃をくらい壁に叩きつけられていた。

 

「反応すら……できなかっただと……」

 

 無言で佇む戦術殻は先程と同じ姿にも関わらず、その中身の戦闘力は比べものにならないくらいに圧倒的だった。

 しかしそこにいるのは一流の戦士たち。

 奇襲じみた重い一撃をくらいながら、痛む体を誤魔化しながら戦術殻の追撃に油断なく身構える。

 

「………………」

 

 戦術殻は一同を一瞥すると、追撃することなく去って行った。

 

「…………何だったんだ?」

 

 所在をなくした剣を揺らしながらユーシスは戦術殻の行動に首を傾げる。

 

「分からん。だが、あの戦術殻はこの中の誰よりも強い……

 おそらく団長クラスの実力者が中身なのだろう」

 

「カルバードの兵隊にも規格外が――」

 

「あああああああああっ!」 

 

 西風の感想をかき消すようにデュバリィの悲鳴が地下道に響き渡る。

 

「デュバリィ!?」

 

 その声に尋常ではない何かが起きているとエンネアが振り返って見たのは、頭を戦術殻に包まれてもがき苦しむデュバリィの姿だった。

 

「くっ……デュバリィを乗っ取るつもりか!」

 

 アイネスがすぐに駆け出し、ハルバートを振りかぶる。

 

「デュバリィ! 多少のダメージは覚悟しろ!」

 

 その叫びにデュバリィは応える余裕はなく、彼女の手から剣と盾が零れ落ちて――

 

「ガランシャール」

 

 戦術殻の一部が身の丈を超える大剣となってデュバリィの手に握られた。

 

「っ!?」

 

 洸刃が大剣に宿り、アイネスの剛撃を受け止め――弾き返す。

 

「あれはアルゼイドの宝剣?」

 

「いや、戦術殻によるレプリカだろう」

 

 ユーシスの呟きをルーファスが否定する。

 

「しかし、なるほど……

 これは少しリルティナ君を過小評価していてかもしれないな」

 

 頭だけが戦術殻に覆われたデュバリィは細腕にも関わらず大剣を軽々と持ち上げ――その重さを感じさせない神速でアイネスに踏み込んでいた。

 

「うぐ!?」

 

 ハルバードの柄で大剣の一撃を受け止めるも、その衝撃を受け止めきれずアイネスはそのまま吹き飛ばされて壁に叩きつけられる。

 

「デュバリィ!? アイネス!?」

 

 突然の同士討ちにエンネアが悲鳴を上げる。

 

「無駄や! おそらく《ハーキュリーズ》と同じや」

 

 ゼノはブレードライフルを構えると同時に撃つ。

 しかし、デュバリィは軽やかな跳躍で距離を取り――助走をつけてゼノに突撃する。

 その姿は神速の矢の如し。

 洸刃による剛撃がゼノに突き立て――

 

「聖なる盾よ。守護せよ!」

 

 ユーシスの戦技によって作られた光の壁がその一撃を弾く。

 

「っ――!?」

 

「おおおおっ!」

 

 怯むデュバリィにすかさずレオニダスがマシンガントレットを振り下ろす。

 しかし鋼の爪は空を切って、石床を砕く。

 余裕をもって後退したデュバリィは通路に立ち塞がるように《ガランシャール》を構えた。

 

「敵を取り込み、同士討ちをさせる。これが《人形遣い》の本領と言うわけか」

 

「そんな単純なものとちゃうで……

 どうやら戦術殻を纏わせることで身体能力も上がっとる……

 《神速》の速さで、あないな大剣を片手剣と同じように振り回すなんて冗談きついで」

 

 ルーファスの呟きにゼノが応える。

 

「流石、教授だな」

 

「ええ、人が嫌がることをさせたら右に出る者はいないと言っていたマスターの御言葉が良く分かります」

 

 アイネスとエンネアは吐き捨てるようにしてデュバリィと向き合う。

 

「…………何か、彼女を救い出す方法はないのか?」

 

「それは先程の《ハーキュリーズ》と同じ対応で良いだろう」

 

 ユーシスの呟きにルーファスは答える。

 

「ある程度戦術殻にダメージを与えれば、支配を維持することはできないのだろう……

 ひとまずそれを試してみよう」

 

「了解や……動きを止める罠を作るから前衛は頼んだで二人とも」

 

「了解」

 

「承った」

 

 ゼノの言葉にレオニダスとアイネスが応える。

 

「ユーシス。お前はいつでも防御術を展開できるように身構えておきたまえ」

 

「それは俺が役に立たないと言うつもりか?」

 

「違う。彼女の速度に対応するためには、攻防のどちらかに徹する必要があるだけの話だ」

 

「っ……分かりました」

 

 ルーファスの言い分に一理を感じたユーシスは剣と《ARCUS》をいつでも使えるように身構える。

 

「うう…………ああああ……」

 

 そうしている間にも頭だけだった戦術殻はデュバリィの体へと広がり、包み込んでいく。

 全身を覆い尽くされたデュバリィの口すら塞がれ、垂れ流されていた苦悶の声は途切れる。

 そして戦術殻は目を光らせて《ガランシャール》を素振りして、担ぐように構える。

 

「来るぞっ!」

 

 《神速》の戦術殻《ガランシャール》がルーファス達に襲い掛かる。

 

 

 

 

「へえ……これがクロスベルの鐘か……」

 

 ヴァン・アークライドは帝國博物館の一角に飾られた巨大な鐘を前に唸る。

 その鐘は元々はエレボニアのものではなく、クロスベルのもの。

 二年前の独立戦争の原因の一端であり、数ヶ月前のクロスベル解放戦線が起こしたテロリストにも利用されたもの。

 古代文明に繋がる価値はあるものの、再度テロリストに利用されないためにクロスベルから押収された。

 本格的な封印と研究の準備が整うまで、クロスベルの罪の象徴として帝國博物館で展示されることとなった・

 

「こんな鐘がな……」

 

 そんな説明書きを流し読みしながら、ヴァンは鼻を鳴らす。

 ヴァン以外の客は何の力も感じない鐘に物珍しさを感じても、警戒心を強める事無く素通りしていく。

 

「たしかに匂うが、これは違う匂いだな」

 

 じっと鐘を見つめて嗅ぎ分け、ヴァンはそう判断した。

 今朝から急に濃くなった異臭。

 特殊な嗅覚を持っているヴァンにしか分からない“それ”が気になり、楽しみにしていたスイーツ巡りの合間にヴァンはその出所を探っていた。

 

「…………流石に判断材料がなさすぎるか」

 

 ヴァンは肩を竦めて徒労を嘆く。

 街を歩き一番強く匂いを感じた帝國博物館へとわざわざ入ってみたが、そこにあったのは似て非なる匂いを持つ鐘しかなかった。

 

「まあいいか……俺がどうこうしなくちゃならない話でもないしな」

 

 ヘイムダルに漂う怪しげな匂いを警戒しながら街を回っていた際に、普通よりも多くいた憲兵の姿を思い出してヴァンは楽天的に考える。

 “異変”の気配は帝国も感じているかもしれない。

 所詮は自分はカルバード共和国の観光客の一人でしかない。

 直接的に被害が起きているのならともかく、怪しい匂いを根拠に深入りするには状況が曖昧過ぎた。

 

「とりあえずやれることはやった……

 さっさとスイーツ巡りに戻ると――」

 

「サラ教官、こちらです」

 

「ありがとうドロテ。でもあたしはもう教官じゃないわよ」

 

「ん?」

 

 その声にヴァンは何気なく振り返る。

 

「こんな所に地下への入り口が本当にあるのかしら?」

 

「レクターさんからの情報だから間違いはないですよエレインさん」

 

「うげっ!?」

 

 聞こえて来た声、遠目に確認できた姿にヴァンは悲鳴を上げそうになった口を手で塞いだ。

 

「エレイン……それにルネも? あいつら何で帝国に……ってやべえこっちに来る」

 

 疚しいことはないはずなのに顔見知りとの不意の再会にヴァンは狼狽え、展示物の裏に隠れる。

 

「《地下墓所》は帝都に下に幾つも存在しているみたいです。ここもその一つということでしょう」

 

「帝都は歴史の長い都市だったわね。こんな高台にも地下道は繋がっているのね……」

 

 エレインはルネではない眼鏡の青年と親し気に話しながら、ヴァンがいる方へと歩いてきて――気付くことなく素通りした。

 

「………………ん?」

 

 しかしルネは立ち止まり、振り返る。

 

「どうかしたのルネ?」

 

「…………いや何でもない」

 

 エレインに呼びかけられたルネは感じた懐かしい気配を勘違いと判断して、歩き出した。

 

「…………ふう……行ってくれたか」

 

 休憩スペースの奥の扉へ入って行った一同を確認してヴァンは安堵の息を吐く。

 

「しかし何であの二人が帝国にいるんだよ?」

 

 ヴァンはその場で考え込むが、何も知らないヴァンが答えに辿り着くことはできるはずなかった。

 そして――

 

「そこで何をしているのかね?」

 

 ヴァンの不審な動きを咎める男がいた。

 

「いや、これはその……」

 

 咄嗟に言い訳を考えるがヴァンは幼馴染との遭遇の動揺からかうまい言い訳を思いつかない。

 狼狽えていると、男からの不審者を見る目はどんどん険しくなっていく。

 

「先程の人たちは遊撃士であり、警察官でもある……

 そんな人たちから隠れているとなると」

 

「待って! 待ってくれ! 俺は怪しいもんじゃないんだ!」

 

 ようやく弁明を言葉にできたが、男の目の警戒は消えない。

 

「…………詳しい話は事務所の方で聞きましょう。良いですね」

 

「…………はい」

 

 ヴァンはがっくりと肩を落として、その提案を受け入れた。

 そうしなければ憲兵隊を、もしくはエレインたちを呼ぶという脅しもあったが、それだけは何としてもヴァンは避けたかった。

 強引に逃げることもできたが、ヴァンは案内されるがままに男の後に続いて、事務所に入る。

 

「さて……とりあえず君でも良いか」

 

「は…………?」

 

 男はヴァンに背中を向けたまま呟く。

 その言葉の意味に首を傾げたヴァンの背後で――蒼黎い戦術殻が音もなく現れた。

 

 

 

 

 

 







ルーファス√で戦術殻を装備したレーなんとかさん。
社長への義理立てがあるので大っぴらに協力できないので、顔を隠し一当てして誰かに戦術殻を装備させることまで協力して撤退。
デュバリィだったのは、その中身を察した動揺が他の者たちよりも大きかったから。



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