閃Ⅲを見返していると、ほとんどのイベントが新キャラや元クラスメイト達との顔見せイベントなので書く部分の取捨選択が凄く難しいと感じますね。
「意外だったわね」
ハイアームズ邸から出て来たユウナは緊張していた息を吐き呟いた。
「ああ、意外だったな」
それに珍しくクロウは同意する。
「二人とも何が意外だったんだ?」
そんな二人にリィンが尋ねる。
「帝国貴族を前にしてこいつが大人しくできていたのが意外だったって話だ」
「そうですね。ユウナさんにしては随分と大人しかったですね。想定外でした」
クロウの言葉にアルティナが頷く。
「二人とも……私だって場を弁えることくらいできるわよ」
「は……」
「…………それは冗談の類でしょうか?」
ユウナの言葉をクロウが鼻で笑い、アルティナは純粋な眼差しで首を傾げる。
「あんたたちは……」
「まあまあ落ち着いて……ユウナの方は何が意外だったんだ?」
拳を握り込むユウナを宥めてリィンは改めて尋ねる。
「大したことじゃないわよ……
帝国の貴族はもっと偉そうにしている人だと思っていただけよ」
「確かにハイアームズ侯爵は穏やかな人だったな」
ユウナの意見にリィンは頷く。
「それでもテロリストに加担していたって聞くし、本当は何考えているんでしょうね……
そこの所、どうなんですかクロウ先輩」
「ユウナ」
外に出た事で抑え込んでいた不満を漏らし始めるユウナをクルトが注意する。
いくら本人の前ではなくなったとは言え、衛兵がいる門前でしていい話ではない。
話を向けられたクロウは特に何も言わず肩を竦めるだけだった。
「そ、それはともかくハイアームズ侯爵が用意してくれた任務を確認しよう」
場の空気が悪くなったのを見兼ねてリィンはもう一度話題を逸らす。
「重要調査項目としてサザーランド州において複数確認された“謎の魔獣”の目撃情報についてですが、どうする?」
「どうするって……聞き込みとか目撃情報があった場所を調べれば良いんじゃないの?」
リィンの言葉にユウナは素直に答える。
「サザーランド州は広い。徒歩で目撃情報があった場所に全部に向かうなんていったいどれだけ時間が掛かるか」
「むむむ……」
「とは言え、探す当てもないんだ。まずは現場に行ってみるのが良いんじゃないか?」
「できる事なら街での情報収集と街道の調査で二手に分かれるくらいはしてえが……ま、良いだろう」
クルトとクロウの言葉で行動の方針が決まる。
「フッ……それでは早速、出かけてみるとしようか」
最後にオリビエが音頭を取って《Ⅶ組》と一人は歩き出し――
「って、何で貴方がいるんですか!?」
自然と混ざっていたオリビエにリィンが突っ込む。
「ハッハッハッ。つれない事を言うもんじゃないよ。旅は道連れとも言うし、ボクも魔獣探しを手伝って上げようと思ってね」
「大きなお世話だ。テメエみたいな胡散臭い奴はお呼びじゃねえんだよ」
「クロウ先輩……?」
オリビエの同行を拒絶する気持ちはリィンも同じだが、異様に攻撃的なクロウの物言いにリィンは違和感を覚える。
「そうよ。アンタみたいなふざけた帝国人の手なんて誰が借りるもんですか!」
「そう言う事だ。お引き取り願おう」
そしてクロウに便乗してユウナとクルトもオリビエを睨む。
「二人とも……そんな言い方をしなくても……」
確かにふざけた青年だがそこまできつい言い方をしなくても良いのではないかとリィンは戸惑う。
「ふ……どうやらお呼びではないようだね……
では一つだけ、北サザーランド街道でボクは日の出の頃に奇妙な“魔獣”に追い駆けられてね……
まずはそこから調べてみるのが良いんじゃないかな?」
「それは……情報提供ありがとうございます」
「いやいやこれくらい……それと気をつける事だね」
「え……?」
「君達が気をつけるべき“魔獣”はそれだけじゃないと言う事だよ」
意味深なことを言い残してオリビエは邪険に拒絶された事などどこ吹く風にリュートを掻き鳴らしながら去って行った。
「…………三人共、今のは流石に失礼過ぎだったんじゃないのか?」
去って行くオリビエの背中を睨みつける三人をリィンは宥める。
三人は揃って息を吐き出した。
「俺はむしろお前が普通に受け入れている事の方が驚きだぜ」
「え……?」
クロウの指摘にリィンは首を傾げる。
「そうだな……あまり先入観で人を判断するつもりはないが、彼には人間的に嫌悪感しか湧かない」
「あ、クルト君も?」
クルトの評価にユウナが同意する。
「そこまで言うか?」
確かに第一印象は最悪だった。
いたずらに立てこもり犯を挑発して人質を危険にさらした。
しかし、人質も立てこもり犯も誰一人傷付くことなく事件を治められたのは彼のおかげだったのではないかとリィンは思う。
「それは考え過ぎよ」
「そうかな……?」
ユウナの指摘にリィンは悩む。
確かに評価し過ぎかもしれないが、だからと言って三人の様に“無条件”の嫌悪する程の感情は湧いてこない。
「アルティナはあの人の事をどう感じた?」
自分の中では答えが出せないと、先程から黙っているアルティナにリィンは話しかける。
「…………アルティナ?」
返事をしないアルティナをリィンはもう一度呼ぶ。
「っ――はい……な、何でしょうか?」
我に返ったアルティナはオリビエが消えた街道から視線を外してリィン達に向き直る。
彼女らしくない動揺にリィン達は首を傾げる。
「あの人の事がアルティナも気になるのか?」
「…………ええ、まあ……警戒が必要だと思います……」
警戒心を募らせているようにも見える彼女の態度に自分だけがおかしいのかとリィンは戸惑うのだった。
*
「どうして《結社》の兵器がこんな場所にいるのよ!?」
北サザーランド街道の外れ、旧都から50セルジュの草むらにユウナの声が響く。
その足元には倒したばかりの機械仕掛けの魔獣が散乱していた。
「《結社》?」
首を傾げるリィンにクルトが答える。
「帝国の内戦で暗躍したという謎の犯罪組織のことだ……
もっとも暗躍していたのは帝国だけではなくクロスベルでもなんだけどな」
クルトはそう言いながらクロウを睨みつける。
「まさかこの地で再び彼らが動き始めているという事ですか?」
「さあな……何で俺に聞くんだよ?」
「惚けないでください。内戦で貴族連合として関わっていた貴方が知らないはずないだろ」
「それは昔の話だ。今奴等がどうしているかなんて俺は知らねえっての」
「そんな言い訳が通用すると思ってるの!?」
いきり立つユウナに対してクロウは肩を竦めるだけでそれ以上答えようとしない。
「彼の言葉に嘘はありません」
そんなクロウをフォローしたのはアルティナだった。
「内戦から今日に至るまで、クロウ・アームブラストは《結社》との接触は確認されていません……
人形兵器にしても闇マーケットに流れているという噂もありますし、以前の内戦で放たれたものが今も稼働している報告もあります」
「っ……」
淡々としたアルティナの言葉。
それはまるでハイアームズ侯爵から事の説明を受けていた時から分かっていたと言わんばかりの態度。
そんなアルティナとクロウの態度にユウナは不満を残しながらも憤りを呑み込み、戦闘の熱を吐き出すように息を吐いた。
「はあ……だからクレア教官もシリアスな顔をしていたわけね」
「えっと……」
すっかり蚊帳の外になってしまったリィンは周囲の気配を探る。
「どうやら他には人形兵器はないみたいだ。この周辺の安全は確保できて、“謎の魔獣”の正体についてはこれで一先ず完了として良いんですか?」
「ああ、そうだな。目撃情報はパルムの方にもあったわけだ。そっちも確認して今日はキャンプに帰るぞ」
「他にあった“要請”についてはどうしますか?」
「ああ、そう言えばもうすぐお昼だ」
リィンに促されて三人はセントアークへの帰路に着き始める。
その事に異はないのだが、リィンは安全を確認した周囲をもう一度見回す。
「どうしましたかリィンさん?」
「いや……オリビエさんが言っていた別の“魔獣”って言うのが気になってな」
しかしいくら警戒しても森は静かなものだった。
「…………あれはついて来たいがための、でまかせだったのではないでしょうか?」
「……そうかもしれないな」
アルティナの言葉にリィンは頷きながら、三人の後を追い駆けるように歩き出し、アルティナもそれに続いた。
*
「ふむ……」
「むむ……」
北の門から戻って来る一団を物陰から覗く二つの人影があった。
一人は地面につくのではないかと思える程に長く薄い金髪の幼子。
一人は活動的な服装に薄桃色のショートヘアの幼子。
二人は目元をサングラスで隠し、顔を並べて話し込んでいる学生たちを盗み見る。
「どう思う?」
金髪の幼子が薄桃色の髪の幼子に尋ねる。
「う~ん……リィンっぽいけど、そうじゃないような?」
「ええい、どっちなのだそれは?」
「そう言うそっちはどう思うの?」
「ううむ……」
薄桃色の髪の少女に聞き返されて金髪の少女は唸る。
「リィンのような、そうでないような……?」
「そっちも似たようなもんじゃない」
曖昧な答えに薄桃色の髪の少女は呆れる。
「ここで見ているだけじゃ何も分かりそうにないから声を掛けてみる?」
「うむ……いや待つのだ。まだその時ではない」
「その時ではないって……そんなこと言ってるからいつまで経っても後手に回るんじゃないのかな?」
金髪の少女の煮え切らない態度に薄桃色の髪の少女はため息を吐く。
「またエマに怒られるよ」
「うむ…………ううう」
それを想像したのか、金髪の少女は顔色を悪くして唸る。
「じゃあロゼはそこで見ててよ。このイオちゃんが――」
「おっと、それはちょっと待ってもらえるかな」
「っ……」
「くっ……」
突然掛けられた言葉に二人の少女は素早くその場から飛び退いて、その男から距離を取っていた。
「貴様は……何者だ?」
金髪の少女は油断なく青年を見定める。
それは白い青年だった。
白い髪に白いコート。瞳はその白さに際立つ灼眼。
容姿は珍しいが、どこにでもいる青年のように見える。
だが今の自分達は術によって他人から認識されなくなっている。
それにも関わらず、声を掛けて来た青年の異常さは対峙して二人は理解する。
一目見た瞬間に感じる嫌悪感。そこにいるだけで人の神経を逆撫でするような不快感に二人は顔を歪める。
「まさか……君は《黒》?」
「ふふふ……」
薄桃色の髪の少女の質問に青年は答えず意味深な笑みを浮かべる。
否定も肯定もしない青年に二人は苛立ちを募らせる。
「答えよ。貴様が《黒》ならばここで滅してやる!」
金髪の少女はその手に長大な杖を現出させ、身構える。
濃密な殺気をぶつけられているというのに青年は涼し気な態度を崩さない。
「その問いにボクは答えることはできない」
「名乗るつもりがないなら何の用かな?」
敵意を隠しもせず薄桃色の髪の少女は軽薄な態度の青年に聞き返す。
「ボクの要求は二つ。“リィン・シュバルツァー”の邪魔をするな。余計なものを背負わせないであげたまえ……
《焔》と《大地》の聖獣殿達に求めることはそれだけだよ」
「っ……」
「っ……」
二人は反射的に動いていた。
《緋》が魔術の剣を撃ち出し、《大地》が足を払う水面蹴りを繰り出す。
だがその二つは空しく空を切る。
「むっ――」
「なっ!?」
目の前から忽然と姿を消した青年だが、その気配を追って《緋》は空を見上げる。
そこには家屋の屋根に佇む青年がいた。
「転移術か……いや……」
自分が知り得る移動法のどれとも違う術に《緋》は唸る。
「フフ……ちょっとした隠し芸のようなものさ」
そう言う青年は、自分達も含めてかなり目立っているはずなのに行き交う人々は彼らを含めて注目する者は誰もいない。
その異常を感じながら《緋》と《大地》はより警戒を強める。
「とにかく君達はまだあの“リィン・シュバルツァー”に関わるには早い……
君達にその気がなくとも、君達との邂逅は彼の未来を狭めるものとなってしまうだろう」
「随分と過保護じゃの……貴様は“リィン・シュバルツァー”の何なのじゃ?」
「ふむ……それはまた哲学的な質問だね」
《緋》の質問に青年は考え込む。
そんな仕草がまるで馬鹿にしているように感じて二人は更に苛立つ。
「っ……君の言いたい事も分かるけど……こっちにも引き下がれない事情があるんだよっ!」
《大地》は一足で屋根の上まで跳び上がり、青年を一蹴する――が捉えたと思ったはずの一撃は空を切った。
「幻惑の戦技!?」
「フフ、惜しかったね」
青年は驚く《大地》の背後に現れて、彼女の額を少し小突く。
「くっ……」
屋根に着地できなかった《大地》は空に投げ出されるも、危なげなく着地する。
屋根の上から青年は二人を見下ろして話を続ける。
「今、あの子達は拙いながらも進むことを選び、一歩を踏み出した……
ならばボクたち、年長者がするべき事はあの子達の成長を見守る事だと思わないかい?」
「意味の分からない事を抜かすな」
《緋》が青年の言葉は意味不明なはぐらかしているものだと断じる。
そんな彼女たちの反応に青年は悲し気に目を細める。
「っ……」
「あ……」
掻き立てられていた敵愾心がその表情に感じる罪悪感に上書きされる。
何か致命的なものを間違えてしまったのではないのか、二人の聖獣はそんな焦りを感じる。
「そうか……貴女達ならばボクの言葉も届くのではないかと思ったのだけど……」
諦観した微笑みを浮かべると青年の周りに花びらが舞う。
「この辺で失礼させてもらうよ。くれぐれも“リィン君”には余計なことをしないでくれたまえ」
それが長距離の転移の術だと《緋》は察する。
「待てっ! あ――名前くらい名乗らんか!」
続く制止の言葉はうまく紡げず、せめて術式への介入の時間稼ぎに《緋》は問いかける。
「…………ボクの名はオリビエ・B・アレイスター……漂泊の詩人にして愛と平和の使者……
そして帝国に吹く新しい風……さしずめ《焔消しの風》とでも名乗らせてもらおうかな」
「オリビエ……《焔消しの風》……」
「そう遠くない内に君達は嫌でも“リィン・シュバルツァー”に関わる事になるさ……
その時まで英気を養っておくといい、《緋のローゼリア》、《大地のイオ》――では、これにて――バサッ!」
青年は白いコートを翻し、転移術を起動してその場から消え去った。
演出に使われた薔薇の花びらが二人の元に降って来る。
「ねえロゼ……オリビエってたしか……」
「うむ、オリヴァルト皇子の偽名じゃったな……単なる同名の者か、それとも分かっていてそれを偽名にしているのだとしたら……」
無駄に終わった転移術の妨害の術を消しながら《緋》は唸る。
「もしかすれば《黄昏》というのは我らが思っている以上に厄介なものなのかもしれぬな」
《緋》は自分達が監視していた学生たちがいた場所を振り返る。
既に出発したのだろう、彼らはもうそこにはいなかった。
「ねえロゼ……」
「言うなイオ……」
結局何一つ分からなかった。むしろ分からない事が増えた。
そしてローゼリアとイオの胸中には後味の悪い罪悪感だけが残り続けるのだった。
今回のローゼリア達のやり取りで“リィン”が何者かは分かったと思います。
ようするに“あの子”と”その子”がフージョンみたいなことして“リィン”を作り、その陰に隠れているわけですね。
そして彼にはキーアとは真逆の呪いが掛けられています。
この呪いは個人につけられているものではなく、世界の法則・因果に組み込まれた自動的なものになっています。