閃の軌跡Ⅲ ―偽りの仮面―   作:アルカンシェル

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14話 サザーランド州Ⅴ

 

 

 

 消灯時間が迫る中、三号車の食堂では黙々と三人の生徒がレポート用紙にペンを走らせていた。

 

「クロウ先輩は流石と言うべきか……」

 

 ここにはいない既に書き直したレポートを参考にしろと置いて行った《Ⅶ組》のリーダーであるクロウの事を思いリィンは呟く。

 

「ああ……流石は学年が下がっただけあるな……レポートを書き慣れているんだろう」

 

 リィンの呟きにクルトは頷く。

 

「レポートもそうですが、始末書や反省文も多そうな印象があります」

 

「それは……」

 

 アルティナの指摘にリィンとクルトは容易にその情景を思い浮かべてしまい苦笑する。

 

「ところで……ユウナさんを一人にして良かったのでしょうか?」

 

 アルティナは四号車の方へと視線を送る。

 《デアフリンガー号》にはシャワー室が二つある。

 二号車は男性用、四号車は女性用と分けられており、学生寮のような浴場はないものの一日の疲れと汚れを落として気力と体力を回復させる重要な施設である。

 とはいえ、列車内設備でもあるので一度に入れるのは二人だけ。

 今は男性用にクロウが、女性用にはユウナが入っており、《Ⅶ組》以外の生徒達は既にそれも済ませて消灯までの自由時間を思い思いに使っていた。

 

「まあシャワーくらいは一人で大丈夫だろ」

 

 今回の特別演習だけでユウナにはいろいろあった。

 いや入学した時からクロスベルだけの価値観を押し通そうとするユウナは帝国の価値観との差異に打ちのめされていた。

 一人にする不安はあったものの、流石にシャワーまで男子である自分達が同行するわけにもいかなければアルティナもそこまでユウナに気を遣うつもりはない様子だった。

 

「実際の所、クロスベルが帝国に掛けられた不利益ってどういうものなんだ?」

 

 リィンはクルトに向かって尋ねる。

 

「それは難しい質問だな」

 

「そうか……じゃあそもそもクロスベルってどういう土地なんだ?

 俺は帝国の内戦が始まる少し前にゼムリア大陸全土に向けて独立宣言をして、帝国に負けた敗戦国くらいの事しか知らないんだけど」

 

 記憶喪失であるリィンは基礎的な知識こそ知っているが、未だにクロスベルがどういう自治州だったのか計りきれずにいる。

 

「そうだな……」

 

 リィンの質問にクルトはレポートの手を止めて考え込む。

 

「クロスベルはエレボニア帝国とカルバード共和国の二大国に挟まれた緩衝地でありながら経済交流の名所とも言える自治州だった」

 

 クルトは自分が帝国を離れてクロスベルの特務支援課で過ごしていた日々の事を思い出しながら語り始める。

 

「帝国と共和国の両方からミラや技術が流れてくるおかげで様々なものが大きく発展し、そこに住まう人々はその恩恵を受けて豊かな生活を送ることが出来ていた……

 その反面、緩衝地だという事でクロスベル議会はほぼ親帝国派と親共和国派に分かれて、半ば帝国と共和国の代理戦争の場と化していた……

 それ故に一歩裏に回れば帝国と共和国のスパイが暗躍し、国外から流入した犯罪者組織やマフィアが抗争を行っていて、ここでも帝国と共和国の代理戦争が行われていたんだ」

 

「表でも裏でも代理戦争って……」

 

「あくまでもどちらも目立たない形でという話だ……

 ただ犯罪を犯した者も帝国と共和国の関係者ならば警察すら強く出られず、無罪放免にしてしまう事が多々あるくらいに治安は悪かった……

 警察なんて役立たずだ……市民にそう陰口を囁かれるくらいだったよ」

 

「魔都……そんな風に呼ばれているんだったな?」

 

「ああ……それだけクロスベルは帝国に虐げられていたんだ……

 ユウナがああなってしまったのは、元を糾せば僕達帝国人のせいでもあるんだ」

 

「それは聞き捨てなりません」

 

 顔を伏せて自虐するクルトにアルティナが異を唱える。

 

「クロスベル内での代理戦争は帝国と共和国だけではなく、クロイス家が両者を煽っていた事実もあります……

 それに賄賂を受け取り渡して私腹を肥やしていたのはクロスベルの人間ではないのですか?」

 

「…………手厳しいな」

 

 アルティナの指摘にクルトは肩を竦める。

 そんなクルトにリィンは質問を投げかけた。

 

「……なあクルト。君もユウナと同じで帝国なんて滅んでしまった方が良いと思っているのか?」

 

「リィン……」

 

「だってそうだろ?

 帝国が罪深いと帝国人のクルトが言うのなら……いやクロウ先輩だって今は口にしていないだけでそう思ってテロをしていたんだ……

 それ程の多くの人が帝国が間違っていると言うなら……っ……」

 

 そこでリィンは口を噤む。

 脳裏に浮かぶのは記憶喪失の自分を優しく受け入れてくれたユミルの人達と家族として迎え入れてくれた養父母と姉。

 そして自分に剣を教えてくれた二人の貴族。

 彼らを思えば、ユウナの蔑みを容認することはできない。

 

「リィン……ユウナは口ではああ言っているが、決して――」

 

 次の瞬間、クルトの言葉を遮り轟音と共に《デアフリンガー号》は大きく揺れた。

 

「何だ!?」

 

 隣に座っていたアルティナが跳ね飛ぶのを咄嗟に受け止めながらリィンは叫ぶ。

 

「対戦車砲だっ!」

 

 その答えは隣の車両からドアを隔てても聞こえて来るランディの声だった。

 

「……どうやら襲撃されているようですね。それよりリィンさん、受け止めてくれたことには感謝しますが放していただけますか?」

 

「あ……ああ」

 

 腕の中のアルティナの文句にリィンは抱き締めていた腕を解き――

 

「今のは何っ!?」

 

 後方の車両の扉が開くとバスタオルを巻いてガンブレイカーを装備したユウナが飛び込んで来た。

 

「ユ、ユウナッ!?」

 

 狼狽えるクルトに遅れて、リィンは背後のユウナに振り返り――アルティナが手を伸ばしてリィンの目を塞いだ。

 

「ちょっ!? アルティナ!?」

 

「リィンさんは見てはいけません」

 

「ユウナッ! 服を着てくれ!」

 

 暗闇の中、クルトの叫びがリィンの耳に響く。

 

「ふく……? え……? あ……きゃああっ!」

 

「ぐふっ!」

 

 ユウナの悲鳴とクルトの悲鳴が順に聞こえて、床にはユウナが投げたガンブレイカーの落ちる音がけたたましく響き渡る。

 

「クルト君のばかっ!」

 

 理不尽な叫びを残してユウナが去って行く気配をリィンは背中越しに見送った。

 

「えっと……アルティナ?」

 

「ん……」

 

 安全だと判断したアルティナはリィンの顔から手を放す。

 そしてリィンが見たのは無残に倒れたクルトの姿だった。

 

「惨い……」

 

「クルトさん……やはりこの人も不埒な人だったようですね」

 

「いや、今回の事は完全に不可抗力だから――」

 

「くそっ! こんな夜中にどこのどいつだ」

 

 リィンの言葉を遮って、ユウナが出て戻って行った車両とは逆の扉が開いて髪や体を水で滴らせたクロウが現れる。

 

「っ――」

 

「あ……」

 

 振り返ろうとしたアルティナをリィンは抱き寄せると、その目を手で覆い隠す。

 

「クロウ先輩、何て恰好で出て来てるんですか!?」

 

「あん? 別に下のズボンは履いてるから別に良いだろ?」

 

 文句を言って来るリィンにクロウはそんな事を言っている場合かと呆れる。

 ユウナのようにタオル一枚ではなくズボンは履いているもの、上着は手で抱えていて上半身は裸。

 極めてアルティナの目の毒だと言わんばかりのリィンの非難の眼差しにクロウは呆れる。

 

「それよりもすぐに戦闘の準備をしろ」

 

 体の水滴を拭わず、クロウは上着を着直しながらリィン達を促す。

 

「戦闘の準備……?」

 

 リィンはクロウが制服を着たことを確かめてからアルティナを解放する。

 

「…………」

 

 無言のジト目でアルティナはリィンを睨むが、それを無視してリィンは続ける。

 

「ランドルフ教官が叫んだ通り“対戦車砲”を撃ち込まれたのかもしれないけど……いったい誰が?」

 

「そんなもん外に出れば分かるだろう……もっともこの場合で襲って来る奴等なんて一つしかねえと思うがな」

 

「それはいったい……?」

 

 心当たりがあると言わんばかりのクロウにリィンは聞き返す。

 

「お前なあ……」

 

 そんなに察しが悪い奴だったかとクロウは呆れて告げる。

 

「街道で人形兵器と戦った時に話しただろ。結社……《身喰らう蛇》だ」

 

 

 

 

 

 

 《デアフリンガー号》に直撃した砲弾に続いて、外に待機させてあった《機甲兵》に同じ砲弾が降り注ぐ。

 操縦者を乗せてない《機甲兵》は無防備に砲撃を受けて黒煙を立ち昇らせて倒れて行く。

 生徒達の悲鳴が木霊する中で、いち早く《デアフリンガー号》から出て来たランドルフは叫ぶ。

 

「何処だシャーリィッ!」

 

「あははっ! ランディ兄、久しぶりだね♪」

 

 演習地を一望できる崖上からランドルフの声に応えたのは赤毛の女だった。

 

「シャーリィ、てめえっ!」

 

「ダメだよランディ兄、こんな絶好の襲撃ポイントを放置するなんてさ。これじゃあ襲ってくれって言ってるようなものじゃん」

 

 いきり立つランドルフに赤毛の女は嘲笑を投げかける。

 

「結社……いや《赤い星座》の猟兵か……内戦の時はセドリック殿下を守っていた貴様が何故私達を襲うっ!」

 

 その姿に見覚えがあったミハイルは叫んで問い質す。

 

「何言ってるのかな? 護衛の仕事はとっくに終わってるんだから何処で何をしていてもシャーリィの勝手でしょ?

 それに今は《赤い星座》じゃなくて《結社》で間違ってないよ」

 

「何!?」

 

「執行者No.ⅩⅦ《紅の戦鬼》シャーリィ・オルランド」

 

 担いだ対戦車砲を脇に捨て、巨大な導力器の塊のような武器に持ち替えて赤毛の女は名乗る。

 

「よろしくね、トールズ第Ⅱのみんな♥」

 

 シャーリィは演習地を見回して、未だに出て来ないターゲットに少し失望する。

 

「結社に入ったとは聞いていたが《執行者》になっていたとはな……まさか叔父貴も来てんのか!?」

 

「ふふっ……こんな楽しい仕事、パパに任せるわけないじゃん……

 今のランディ兄に言っても分かんないと思うけど、“リィン・シュバルツァー”はシャーリィの獲物だよ」

 

「何……?」

 

 シャーリィが一人の生徒を気にしている。

 その事実にランドルフは驚く。

 リィンの事は当然ランドルフも把握しているが、シャーリィの目に適う程の実力の持ち主ではない。

 

「どういうつもりだシャーリィ!?」

 

「だから今のランディ兄に言っても意味はないんだって……それよりもそんなに悠長にしていて良いのかな?」

 

 シャーリィが巨大な導力器の武器、《テスタ=ロッサ》を掲げると彼女の周囲に無数の人形兵器が転移で現れ、更には街道に続く道からも型番の違う人形兵器がなだれ込んで来る。

 

「あはは! それじゃあ“リィン”が出て来るまでちょっと遊ぼうか!」

 

 その声は演習地に響き渡るが、生徒達は迫り来る人形兵器の群れに悲鳴を上げる。

 

「うわああああああっ!」

 

「――狼狽えるな!」

 

 そんな彼らにランドルフは振り返りながら叫ぶ。

 

「Ⅷ組戦術科は――」

 

「遅い」

 

 生徒達への指示の途中、ランドルフは咄嗟にスタンハルバードを構え――背後からのブレードライフルの斬撃を受け止め吹き飛ばされた。

 

「がっ!?」

 

 人形兵器の群れの中に吹き飛ばされたランドルフだったが、彼を無視して人形兵器は生徒達へと向かって行き、その流れに逆らうように一人の男がランドルフの前に進み出る。

 

「無様だなランドルフ隊長」

 

「……くっ……ザックス……」

 

 見下ろす元部下を見上げ、ランディは苦し気な息を吐く。

 

「クロスベルで刃を交えた時よりなお酷い……何処まで堕ちるつもりですか?」

 

 淡々と失望を言葉にするザックスに睨まれながらランドルフは彼の背後の生徒達に目を向ける。

 彼に邪魔をされて具体的な指示を出せなかった。

 更にはランドルフが分断されたことで狼狽えていた生徒達は迫り来る人形兵器たちに対してバラバラの動きをしてしまう。

 

「どけっ!」

 

 スタンハルバードでランドルフは目の前の男に殴りかかる。

 涼しい顔でその一撃をブレードライフルで受け止めたザックスは鍔迫り合いをしながら叫ぶ。

 

「違う……お前じゃない」

 

「っ……何のことだ!?」

 

「俺が倒したかったのは、超えたかったのはお前じゃない!」

 

 ザックスはブレードライフルを振り抜いてランドルフを突き放して叫ぶ。

 

「俺達が憧れた貴方は“俺が最強なんだよ”っと顔に書いている自信に満ちた貴方だ!

 そんな貴方を超える事に意味があるんだ! なのに貴方はどこまでも腑抜けて!」

 

「はっ! そいつは悪かったな」

 

 減らず口を叩きながらランドルフはもう一度スタンハルバードを振るう。

 ザックスはその一撃を無造作に払ってランドルフに間合いを詰めると素手で彼の首を掴み、大地に押し倒す。

 

「思い出せランドルフ隊長! あの殺意を、あの闘争を!」

 

 ザックスはランドルフの上にのしかかって抑え込み、彼に戦場を見せつける。

 

「やめろザックス!」

 

「貴方のせいだ隊長。貴方が本気で彼らに“闘争”を教えなかったから彼らはあんな無様を晒している」

 

「やめろザックスぶっ殺すぞ!」

 

「ああ、そうだ。俺を憎め……殺意を滾らせろ」

 

 迸る赤い闘気を纏うランドルフを平然とした顔で抑え込みながらザックスは彼の耳元で囁く。

 

「何人殺せば“赤い死神”に戻ってくれますか、ランドルフ隊長?」

 

「ザックス……てめえ……」

 

 どれだけ力を込めてもビクともしない。

 ランドルフは何もできずただ見ている事しかできなかった。

 

 

 

 

 

「わ、私がランドルフ教官に代わって指示を出します!」

 

 浮足立っている生徒にトワの声が響く。

 

「《機甲兵》には乗らないで対戦車砲で狙われるから! Ⅷ組の生徒は三人一組になって――あ……」

 

 毅然とした態度で指示を出す幼いトワの姿に生徒達がようやく落ち着きを取り戻しかけたその瞬間、トワは何かに横殴りにされたように倒れた。

 

「え……?」

 

「狙撃だ! 物陰に隠れろ!」

 

 遅れて響いた銃声にミハイルが反応して声を上げる。

 

「隠れろって言われても何処に隠れろって言うんだよ!」

 

 そこは遮蔽物のない広い演習地。

 絶好の狙撃ポイントになる崖上を抑えられている以上、自分達はただの的でしかない。

 

「くっ……」

 

 詰んだ状況にミハイルが歯噛みしながら倒れたトワを脇に抱える。

 

「か、隠れるなら《デアフリンガー号》の中に!」

 

 誰かが叫ぶ。

 

「ダメです!」

 

 咄嗟にミュゼがその考えに反論の声を上げる。しかし遅かった。

 冷静さを欠いた生徒達は我先にと《デアフリンガー号》の出入口に殺到してしまう。

 

「いかん! 後ろだ!」

 

 ミハイルが声を上げるがもう遅い。

 街道からなだれ込んで来た人形兵器たちは足を止めて背中を向ける生徒達に銃口を向け――

 

「みしし……二の型《疾風》」

 

 次の瞬間、無数の人形兵器が空を舞った。

 そして《デアフリンガー号》の側面に斬線が走ったかと思うとその中からリィンを先頭に《Ⅶ組》が戦場に飛び出した。

 

「よっと――」

 

 クロウは《デアフリンガー号》の屋根に上がると戦場を見回して叫ぶ。

 

「Ⅷ組戦術科はチームを組んで前に出ろ! 

 まずは倒そうと思うな! 一当てして態勢を整えろ! そんでもって冷静に訓練を思い出して戦え、敵の人形兵器はお前達でも十分に戦える程弱い!」

 

 二丁の銃を乱射して人形兵器たちを怯ませるクロウは唐突に身を翻して狙撃を躱しながら弾幕の雨を降らせる。

 

「一の型《螺旋撃》」

 

「クラウ=ソラス――《ブリューナク》」

 

 リィンの強撃が生徒に襲い掛かろうとした人形兵器を突き飛ばし、《クラウ=ソラス》の光線が射貫く。

 

「あ……」

 

 同じ生徒の手で撃破された人形兵器を見てようやく生徒達に落ち着きが戻って来る。

 

「みっしぃ教官っ!」

 

 自由に戦うクロウとリィン、アルティナを他所にユウナとクルトは人形兵器への壁になるようにたたずむみっしぃに駆け寄った。

 

「みしし、ユウナちゃんとクルト君は無事だったんだね」

 

「僕たちは何をすればよろしいでしょうか?」

 

 クロウはあえて目立ち狙撃の囮になりながら屋根の上から援護し、リィンとアルティナは《戦術リンク》以上の連携をして人形兵器の群れの中に飛び込んでいく。

 とても彼らの真似はできないが、壁になっているみっしぃの手助けをしなければとユウナとクルトは意気込む。

 

「あと……三分持ちこたえるヨ。それだけあれば生徒達も態勢が整うはずだから」

 

 戦闘のプロであるランドルフが分断され、次いでトワも狙撃されて無力化された。

 クロウの号令でおかげで完全崩壊することは免れたが、ミハイルが鼓舞しているが一度折れた士気を取り戻すにはまだ時間が必要だとみっしぃは判断する。

 

「君達はボクと一緒に――」

 

「残念ですが、それはまかり通りませんわ」

 

 ユウナとクルトに指示を出すみっしぃの言葉を遮って女の声が響く。

 取り囲んでいた人形兵器が一斉に左右に道を開け、騎士鎧を纏った女が静かな足取りで進み出る。

 

「ミシュラムのみっしぃ……報告は聞いていましたがまさか本当にいるとは……」

 

 場違いなみっしぃの存在に頭を痛めながら、女は剣を抜く。

 

「わたくしは《身喰らう蛇》の第七柱直属、《鉄機隊》筆頭隊士のデュバリィです」

 

 名乗り、そして目的を告げる。

 

「わたくしたちの目的は“リィン・シュバルツァー”と“みっしぃ”」

 

「ボ、ボク……?」

 

 尋常ではない実力者に向けられた敵意にみっしぃはストラップが付いた竹刀を構える。

 

「ええ、《結社》は……わたくしのマスターは貴方のその着ぐるみの下の素顔に興味がありますの」

 

「す、素顔って……中に人なんていないヨ☆」

 

「そうよ! ミシュラムのみっしぃには愛とエンジョイが詰まってるのよ!」

 

「そういうのは結構ですわ」

 

 言い返すみっしぃとユウナの言葉をデュバリィは真面目な顔で一蹴する。

 

「まあ“リィン・シュバルツァー”なら着ぐるみ程度遠隔で動かす程度の芸当なんてできてもおかしくありませんので、中身がなかったとしても驚きませんけど」

 

「何でそこでリィンの名前が出て来るんだ?」

 

 何故かみっしぃの正体の可能性に“リィン”を候補に挙げるのか理解できずにクルトは首を傾げる。

 

「問答をするつもりはありませんわ。答えはわたくし自身の剣で――」

 

 次の瞬間、ユウナとクルトの目の前からデュバリィは消えて剣と竹刀が激突する快音がそこに響き渡った。

 

「――その正体を暴かせてもらいますわ」

 

 声はすぐ近くから聞こえて来た。

 

「え……?」

 

「っ――速い」

 

 呆けるユウナと戦慄するクルトの視線の先にはデュバリィとみっしぃが剣と竹刀を交差させて鍔迫り合いをしていた。

 

「受け止めましたか……それに先程の《疾風》……やはり貴方は《八葉一刀流》の使い手ですわね」

 

「み……みしし……」

 

 間近に迫るデュバリィの覇気にみっしぃはたじろぎながらも、鍔迫り合いを弾き竹刀を一閃――しかしそれは空しく空を斬った。

 

「どうやら速度はわたくしの方が少しだけ速いようですわね」

 

 瞬きをする間で先程話していた位置に戻ったデュバリィはみっしぃとの実力差を確認する。

 

「さて……わたくしを相手に足手纏い二人とその動き辛そうな着ぐるみで何処までやれるか試させて頂きますわよ」

 

 剣と盾を構え、《神速》のデュバリィは三人に襲い掛かる。

 

 

 

 

 

「やあ」

 

 右翼から人形兵器を蹴散らしていたリィンとアルティナの前に赤毛の女、シャーリィ・オルランドが気安い声を掛けて現れた。

 

「君が“リィン・シュバルツァー”だよね? ハジメマシテ……

 そっちの《黒兎》は久しぶりだねぇ。少しは成長した?」

 

「おかげさまであの頃から一リジュ程大きくなっています」

 

 無表情ながらもどこか得意気に、自慢するように身長が伸びたとアルティナは答える。

 

「へえ……一リジュも……それは確認する必要がありそうかな」

 

 対するシャーリィはアルティナの頭より下を見て舌なめずりをする。

 

「…………何だか良く分からないが……」

 

 邪な気配を感じてリィンはアルティナを庇う様に前に出る。

 

「リィン?」

 

「彼女はアルティナの友達なのか?」

 

「いえ、友達ではありません」

 

「即答はひどくない?」

 

 アルティナのすげない答えにシャーリィは唇を尖らせる。

 その顔はとても殺し合いに来たとは思えない程、親しげだった。

 

「まあ良いか。それはともかく《黒兎》は下がっていてよ」

 

 シャーリィは巨大な導力武器《テスタ=ロッサ》を構えてまるで野獣の様な笑みを浮かべる。

 

「っ……」

 

「何って言う殺気だ……」

 

 向けられた殺意が迸る黒い闘気にリィンは息を呑む。

 同い年くらいに見える女だが、血の匂いを感じさせる獣をリィンは連想する。

 

「《クラウ=ソラス》」

 

 シャーリィの忠告を無視するようにアルティナは背後の黒い戦術殻に拳を握らせる。

 

「…………ふーん……それでシャーリィとやり合おうって言うんだ。ま、別に良いけどさ」

 

 それ以上は言わずにシャーリィは《テスタ=ロッサ》を握る手に力を込めて――

 

「いや、アルティナは下がっていてくれ」

 

「リィンさん!? この《人喰い虎》と一人で戦うつもりですか? 危険すぎます」

 

「分かってる……でも、状況はこんなところで足止めされているわけにはいかないんだ」

 

 未だ浮足立っている生徒達。

 アルティナと共にかなりの人形兵器を破壊したものの、まだまだそれは残っている。

 

「アルティナはみんなのフォローに回ってくれ」

 

「ですが……」

 

「頼む」

 

 アルティナに背を向けたままリィンは懇願する。

 列車の中で聞こえて来たシャーリィとランドルフ教官の言葉を信じるのなら、この襲撃は自分を狙ったもの。

 もしそこで死者が出れば、“お前”のせいだと罵られるのではないかと想像してしまう。

 

「頼む……俺なんかのせいでみんなが死んだりしたら……」

 

「…………分かりました」

 

 リィンの苦悩を感じ取り、それ以上の問答こそ時間の無駄だと判断したアルティナは《クラウ=ソラス》の腕に乗る。

 

「皆さんの態勢が整い次第加勢します。それまでくれぐれも無茶だけはしないでください」

 

 そう言い残して飛び立つアルティナと《クラウ=ソラス》を見送って、リィンは改めてシャーリィに向き直った。

 

「わざわざ待っていてくれたんだな」

 

「ま、一騎打ちをさせてくれるならシャーリィも歓迎だからね……

 それに《Ⅶ組》としてはシャーリィが先輩だから少しくらいは甘やかしてあげるよ」

 

 シャーリィの言葉の中にある“先輩”と言う言葉にリィンは少なからず驚く。

 《旧Ⅶ組》。

 帝国の内戦の際に学生の身分でありながら、各地で矢面に立ち貴族の暴走を止めるために奮闘したトールズ本校にあった伝説のクラス。

 その一員だった彼女がどうして《結社》なんかに。

 そう考えたところでリィンは無駄な思考を振り払う。

 

「例え先輩だったとしても、みんなを助けるために俺は全力で戦わせてもらう」

 

「上等っ! 遠慮なんてしたらその瞬間容赦なくぶった切って上げるから本気で来なよ」

 

 太刀を陽に構えるリィンと“テスタ=ロッサ”担ぐように構えるシャーリィはそれぞれ体に“洸”と“黒い闘気”を纏わせて――同時に踏み込み激突した。

 

 

 






原作だとシャーリィが本気でやれば五分で壊滅させられていたと言っていたのでちょっと本気でやっています。


原作の気になったシーン

ユウナのシャワーシーン。
その後の対戦車砲。
シャーリィとデュバリィとの問答が終わるまで出て来なかった《新Ⅶ組》。
つまり列車の中では今回書いたようなトラブルが発生していた可能性があったのではないだろうか?




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