閃の軌跡Ⅲ ―偽りの仮面―   作:アルカンシェル

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15話 サザーランド州Ⅵ

 

 

 

 

 

 対戦車砲を受けて倒れた《機甲兵》の首が飛ぶ。

 

「どうしたの!? 逃げるばかりじゃつまらないよっ!」

 

 エンジンが唸る轟音を響かせ、高速で回転するチェーンソー刃がリィンが躱した背後の《機甲兵》の首を切り落とす。

 

「くっ……」

 

「ほらぁ! 少しは反撃してみなよ」

 

 後ろに跳び距離を取ろうとするリィンにシャーリィは《機甲兵》の生首をボールのように蹴り飛ばす。

 

「四の型《紅葉斬り》」

 

 迫る人の身長大の《機甲兵》の首をリィンは斬り開いて窮地を凌ぐが、その首の後ろに隠れ追従したシャーリィは躊躇いなくチェーンソーを振り下ろした。

 

「お――?」

 

 振り下ろした一撃はリィンを捕らえ、手応えなく両断して地面に突き立つ。

 両断されたリィンは煙となって消え、シャーリィを取り囲むように現れた。

 

「幻惑の――分け身の戦技か……ふふ、そう来なくちゃ♪」

 

 一斉に襲い掛かって来るリィン達にシャーリィは楽しそうに笑い“テスタ=ロッサ”を横薙ぎに振るう、

 チェーンソーの刃の固定が外れ、蛇腹の刃は鞭のように伸びて八方から襲い掛かって来るリィン達を薙ぎ払い消し飛ばす。

 

「そこっ!」

 

 刃が引き戻される隙を突き、分け身を目くらましにしたリィンはシャーリィに肉薄し、太刀を振る。

 完璧なタイミング。

 リィンの峰を返した一撃がシャーリィの腕を強打し――受け止められた。

 

「ダメダメ。そんなんじゃシャーリィには通用しないよ」

 

 峰とはいえ、太刀で腕を強打したにも関わらず何の痛痒も感じさせないシャーリィはリィンに駄目出しをする。

 

「実戦は初めて? そんな半端な一撃でシャーリィをどうにかしようなんて甘過ぎっ!」

 

 太刀を受け止めた左手を振って、刃を外すとシャーリィはその手でリィンの胸倉を掴む。

 

「うぐっ!」

 

「どうして痛くないか不思議って不思議な顔だね……

 《金剛》っていう技でね。シャーリィには一瞬しか使えないけど、こういう武器を使ってるから結構便利なんだよ――ねっ!」

 

 太刀を受け止めたカラクリを解説しながらシャーリィはリィンを振り回して《デアフリンガー号》の壁面にリィンの顔面を叩きつけた。

 

「君が“リィン”を名乗るなら、シャーリィにこれをしてくれないと認められないかな」

 

 胸倉から後頭部にリィンを持ち直したシャーリィはもう一度リィンを《デアフリンガー号》に叩きつける。

 

「ほらほらどうしたのリィンッ!」

 

 哄笑を上げてシャーリィはリィンを何度も叩きつけ――何度目かになる叩きつけをリィンは手を割り込ませて止める。

 

「八の型《落葉》」

 

「へ……?」

 

 リィンの反撃を警戒していたシャーリィは警戒していたはずなのに気付けば回転させられていた。

 化勁でシャーリィの重心を崩し、体を入れ替えるとそれまでの意趣返しと言わんばかりにシャーリィの顔を掴んで、二人分の力と体重を乗せて彼女の頭を大地に叩き込んだ。

 

「ぐっ……ぷはぁっ!」

 

 地面にめり込んだシャーリィから体を離してリィンは痛みに喘ぎ悪態を吐く。

 

「くそっ……好き放題して……それよりみんなは――がっ!?」

 

 ずきずきと痛み血を流す額を押さえながらリィンは立ち上がり――立ち上がろうとして“テスタ=ロッサ”に背中から薙ぎ払われた。

 

「ダメだよリィン。この程度で油断しちゃ!」

 

 デタラメに振った“テスタ=ロッサ”の手応えを感じながら、地面に埋まった頭を引き抜き土を払う。

 

「あれを喰らって…………化物か……」

 

 確かな手応えの感触があった投げ技なのにピンピンしているシャーリィにリィンは信じられないと呻く。

 

「う~ん……確かにリィンっぽいんだけどなぁ……」

 

 今一つ熱くなれない戦闘にシャーリィは不満を零す。

 

「やっぱり《鬼の力》を使わせるのが手っ取り早いんだろうけど……ねえリィン」

 

 苦し気に立ち上がるリィンを見据え、シャーリィは逆鱗になりそうな言葉を投げかける。

 

「リィンを殺したら……次はアルティナを殺すよ」

 

 これはブラフである。

 今回の確認に当たり、二人の使徒からくれぐれもやり過ぎないようにとシャーリィは釘を刺されている。

 シャーリィとしても本物の戦場で相対したのなら躊躇なくアルティナを殺せるが、今はその時ではない。

 

 ――さあ、どんな反応をしてくれるかな?

 

 内心のワクワクを隠し切れない笑みを浮かべてシャーリィは俯いたリィンの反応を待つ。

 

「………………今……何って言った?」

 

「アルティナを殺すって言ったんだよ。聞こえなかった?」

 

 静かに聞き返してくるリィンにシャーリィは背中が粟立つの感じて身構える。

 当のリィンは胸を手で押さえ、湧き上がる“闘争”の衝動のままに咆える。

 

「ッ…………オオオオオオオオオッ!」

 

 リィンに変化が起きる。

 黒い髪は白に、アメジストの瞳は焔の灼眼に染まり、体中に黄金の紋様が浮かび上がる。

 

「あは……やっぱりリィンはその姿が一番良いよ」

 

 変化するリィンにシャーリィは今日一番の笑みを浮かべて“テスタ=ロッサ”を構え直した。

 

 

 

 

 

 

「いつまでそうしているつもりですか?」

 

 幾度となく剣と竹刀を交わらせてデュバリィは解せないと顔をしかめた。

 単純な速さで勝っているものの、みっしぃにはその差を埋める技量の巧さがある。

 それだけに解せない。

 

「そんなぬいぐるみを脱げばわたくしより速いはず。どうして頑なに脱ごうとしないのですか?」

 

「…………」

 

 デュバリィの質問にみっしぃは沈黙を返す。

 いつものお気楽さはなりを潜め、みっしぃ特有の気の抜けた顔の奥に感じる気配は真剣そのもの。

 

「だんまりですか……そうして雛鳥たちが狩られるのを黙って見ているつもりですか?」

 

「っ……」

 

 デュバリィの指摘にみっしぃは呻く。

 剣を交えてデュバリィは気付いた。

 みっしぃの中には人間がいる。

 外部から人形師が戦技で操っているわけではない確かな質量と技量がそこにある。

 

「意地と雛鳥の命を天秤に掛けるのはあまり良いとは思いませんが……」

 

 どうしてみっしぃが頑なにぬいぐるみを脱ごうとしないのか。

 それはデュバリィには分からない。

 だからこそデュバリィはおもむろに剣を鞘に納めた。

 

「みしし? 何のつもり?」

 

「もう十分ですわ」

 

 首を傾げるみっしぃにデュバリィは興味が失せたと言わんばかりに吐き捨てる。

 

「わたくしの目的は貴方の正体を見極める事。もうその目的は達成しましたわ」

 

「っ……」

 

「どうして貴方がそんなぬいぐるみを着ているのか、向こうにいる“彼”は何者なのか……

 疑問はありますが、わたくし達には関係ない事……

 第Ⅱの実力も把握できましたし、ここでの目的の八割は達成しましたわ」

 

 崖の上から戦場を見下ろしてデュバリィは嘆息する。

 新たに設立されたトールズ士官学院第Ⅱ分校の生徒達。

 結社の人形兵器に狼狽えながらも立ち向かっているが、どの生徒達の動きは固く、戦場を飛び回る《黒兎》と援護に掛け合わる《蒼の騎士》がいなければとっくに全滅していると思える程に弱かった。

 

「さて……」

 

「アハハハハハッ!」

 

「ガアアアアアッ!」

 

 戦場に《戦鬼》の愉しそうな哄笑と獣のような《鬼》の咆哮が響き渡る。

 不完全燃焼なデュバリィとは違い、充実した顔で戦いを楽しむシャーリィにデュバリィはため息を吐く。

 

「《鬼の力》を引き出しましたか……とりあえずあちらが本物の“リィン・シュバルツァー”と考えて良さそうですわね」

 

「本物のリィン君?」

 

 デュバリィの呟きの意味が分からずみっしぃは首を傾げる。

 その反応に改めて違うと確信を深めたデュバリィは改めて二人の《鬼》を見下ろして考え込む。

 

「どうやって止めますかね……それともこのまま戦わせて“起動条件”が満たせるか試してみるか……」

 

 際限な高まって行く“闘争の想念”を肌で感じながらも、デュバリィはそれに水を差している第Ⅱの及び腰から生まれる“想念”に顔をしかめる。

 戦場を暴れ回る二人の鬼。

 それに慄き、委縮してしまっている子供達にデュバリィはため息を吐く。

 

「ハッ! もらったぜ!」

 

 背後からの叫びにデュバリィは見向きもせず体を横にずらす。

 奇襲したアッシュのハルバードは空しく空を斬り、デュバリィは視線もくれずに彼の胸倉を掴むと崖の下に投げた。

 

「なっ!?」

 

「――参るっ!」

 

「このっ!」

 

 落ちるアッシュと代わってクルトとユウナが同時に未だに背を向けたままのデュバリィに襲い掛かる。

 光剣とガンブレイカーを左右からアッシュを突き落としたデュバリィを捉え――空を切った。

 

「残像っ!」

 

 クルトが消えるデュバリィの影に驚くと、二人は背中を押された。

 

「奇襲の前に声を掛けるなど三流がすることですわよ」

 

 冷めた目で空中にクルトとユウナを押し出したデュバリィは改めてため息を吐く。

 

「トールズ第Ⅱ分校……聞いていた以上にレベルが低いようですわね」

 

「くっ……生徒達をよくも」

 

「この程度の高さから落ちても死にはしませんわよ。それよりも口調が戻っていますわよみっしぃ」

 

 デュバリィの指摘にみっしぃは思わず口元を押さえる。

 

「…………はぁ……どうやらここで“起動条件”を満たすのは無理なようですわね」

 

 人形兵器に防戦一方の生徒達を見回しデュバリィは撤退の合図を出そうと手を掲げ――一体の人形兵器が突然爆ぜた。

 

「オオオオオオオオオオオオッ!」

 

 二人の鬼に負けず劣らずの咆哮を上げて、その女は戦場に乱入する。

 

「うわああっ!?」

 

「何だっ!?」

 

 目の前の人形兵器に突然ランスが生えて持ち上げられるのを目の当たりにした生徒は思わず目を疑う。

 

「もう大丈夫だ」

 

 そんな彼らにその女は人形兵器を突き刺した巨大なランスを左手に持ち上げたまま、右手の大剣を振る。

 無造作に振られた大剣は隣の人形兵器を紙を引き裂くような軽さで両断し、女は左手のランスを振って射貫いた人形兵器を別の人形兵器に向けて投げ飛ばす。

 

「ハアアアアアアッ!」

 

 そのまま人形兵器の群れの中に左のランスを構えて女は突撃する。

 横隊を組んだ人形兵器たちの弾幕や導力魔法による迎撃をその身に受けながらも女は怯むことなく前進して人形兵器を貫き、轢き壊す。

 そして群れの真ん中に到着するとランスを手放し、大剣を両手に握って乱舞する。

 

「すげえ……」

 

「あれは……ラウラ・S・アルゼイドか?」

 

 生徒達が死に物狂いで戦っていた人形兵器を大剣の一振り、ランスの一突きで悉くスクラップにしていく様に思わず目を奪われる。

 

「ふん……まあまあですわね」

 

 そんな女――ラウラの活躍をどこかまんざらでもないような顔でデュバリィは笑い――盾を構えた。

 直後、銃弾が盾に命中した。

 

「貴女も来ていたのですね。《旧Ⅶ組》の元猟兵」

 

「……今のを受けるんだ」

 

 盾で受け止められた奇襲を無念そうにしながら現れたのは銀の少女だった。

 

「フィー・クラウゼルでしたわね。こちらに来るとは意外ですね」

 

「貴女を押さえるならわたしの方が適任だから」

 

 言葉少なにフィーはデュバリィと対峙し、無手を構える。

 デュバリィは彼女の腰の二つの銃を確認しながら、あえて無手で拳法の構えを取るフィーに油断なく剣を抜く。

 

「わたくしに速さで挑むと言うのら受けて立ちますが、良いんですか?

 そんな事をしている間に“シュバルツァー”はシャーリィに潰されてしまいますわよ」

 

「問題ない」

 

 デュバリィの問いにフィーは拳を握り込み答える。

 

「正直リィンがあんな風になっているのは意外だけど、“呪い”を鎮める方法はちゃんとある」

 

 そう言った所で音が流れる。

 

「っ……これは……」

 

「そう“魔女の里”で“闘争”を鎮める魔術を……あれ?」

 

 聞こえて来た音色にフィーは首を傾げる。

 バイオリンの音色が聞こえて来るはずなのに、戦場に響く場違いな音色はバイオリンではなくリュートのそれ。

 そして軽やかな演奏と共に喧騒に溢れる戦場に男の声が響き渡る。

 

「フ……悲しい事だね」

 

 《デアフリンガー号》の先頭車両の上に立った青年は目の前の凄惨な戦場に嘆きながらリュートを鳴らす。

 

「あれは……オリビエ・B・アレイスター!?」

 

 クロウは唐突に現れた青年に顔をしかめる。

 

「まさか……ここで昼間のあれをやるつもりなのか!?」

 

「うそでしょ!?」

 

 昼間のセントアークであったことを思い出してクルトとユウナは戦慄する。

 そんな彼らの動揺を他所にオリビエはその場にいる全員に語り掛ける。

 

「争いは何も生み出さない。虚しい亀裂を生み出すだけさ……

 そんな君たちに、歌を贈ろう。心の断絶を乗り越えてお互いに手を取り合えるようなそんな優しくも切ない歌を……」

 

 そうしてオリビエはリュートを掻き鳴らして歌い始めた。

 

「流れ行く 星の軌跡は 道しるべ 君へ続く……♪」

 

 第Ⅱの生徒達は突然流れた歌に困惑する。

 

「焦がれれば 想い 胸を裂き 苦しさを 月が笑う……♪」

 

 人形兵器たちも何故か動きが止まる。

 

「叶うことなどない はかない望みなら せめてひとつ 傷を残そう……♪」

 

 狙撃の銃声が響くものの、歌うだけに留まらず踊り出したオリビエは軽やかにそれを躱して歌い続ける。

 

「はじめての接吻 さよならの接吻 君の涙を 琥珀にして……♪」

 

 そしてリィンとシャーリィもまた刃を交えることを忘れて立ち尽くした。

 

「永遠の愛 閉じ込めよう……♪」」

 

 オリビエが歌い終わる頃には“闘争”に満ちていた戦場は静寂に包まれていた。

 その様子に満足そうにオリビエは頷き、きざったらしく前髪をかき上げた。

 

「フッ……みんな判ってくれたようだね。何より大切なもの……

 それは愛と平和だということを、今風に言えばラブ&ピース!」

 

 その言葉に誰も口を開かず、時間だけが過ぎ去っていく。

 

「あ……」

 

 そんな静寂の中、リィンがもらした声は意外な程大きく響き――

 

「あんたって人はっ!」

 

 全身に金の光を纏いリィンは瞬間移動したのではないかと思える程の速度でオリビエに詰め寄り、空を翔けた勢いをそのままに拳を振り抜いた。

 

「あ~れ~」

 

 《デアフリンガー号》の屋根からオリビエは夜の森へと殴り飛ばされるのだった。

 

「ナイスパンチ」

 

 静寂の中、シャーリィの拍手が戦場だった場所に響き渡る。

 

「はあ……興が削がれましたわね」

 

 デュバリィは剣を鞘に納め、懐から導力器を取り出してその数値を確かめる。

 

「どうやらここで“条件”を満たすことは不可能のようですわ。見極めを済んだことですから、退きますわよ」

 

「はあ……そうだね。さっきのお兄さんのせいですっかり冷めちゃったよ」

 

 デュバリィの提案に気分を害されたとシャーリィは唇を尖らせながら応じる。

 二人は示し合わせたように最初に登場した崖上に戻り、改めて第Ⅱの生徒達を見下ろす。

 

「トールズ第Ⅱ分校……それに《Ⅶ組》……思っていた以上にレベルが低かったね」

 

「ええ、これならば特に釘を刺す必要もないでしょう」

 

 シャーリィの評価にデュバリィは頷く。

 

「あはは、それじゃあまたね“リィン”!」

 

 シャーリィは笑ってリィンに告げると、その目をラウラとフィーにも向ける。

 

「ラウラとフィーも今度会ったら存分にやり合おうね!」

 

 そう言い残してデュバリィとシャーリィは去って行く。

 呆然と彼女たちがいなくなった崖上をリィン達は睨み――

 

「くそっ!」

 

 悪態を吐いて地面を叩くランドルフの声に振り返る。

 

「ザックス……」

 

 二人が消えたタイミングに合わせて拘束を解いたザックスは既にいなくなっていた。

 しかし取り残されたランドルフは生徒達が傷付いていくことを見ている事しかできなかった屈辱に震えていた。

 

「…………はあ……」

 

 リィンは大きく息を吐いて空を見上げてランドルフとは違う意味での屈辱を噛み締める。

 

 ――完全に遊ばれていた……

 

 “闘争”の本能に身を委ねて全力を超えた力で戦ったのに、シャーリィに手傷らしい手傷を負わせることはできなかった。

 その無力にリィンは嘆くのだった。

 

 

 

 

 

 










使用楽曲

「 琥珀の愛 / 空を見上げて~英雄伝説 空の軌跡 ボーカルバージョン~ / Copyright © Nihon Falcom Corporation 」




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